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14・お嬢様、試される。

03人の域を超えていますね。

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「……な、何者……、と申します、と……?」

 私は素直に質問の意図を聞き返すが、気づかないうちにのどかわいている事にここでようやく気づく。

「私はこれでも、これだけは誰にも負けないと言える程度ていどには八極拳士はっきょくけんしです。先程さきほどの立ち振る舞いから彼は暗殺者の類いの訓練を受けていると見受けられました。それもとびきり、卓越たくえつした暗殺者ですね。かなり人を殺している」

 さらりと私も知らないナインの強さについて語る。

 え、やっぱり暗殺者とかそういうのなのナインって、まあ別になんだっていいけども。

「そんな彼をしたがえてわざわざ中立派ではなくグロリアに近づくのは、ひかえめにいって怪しいといいますか……、まるで前リングストン公爵に続き、グロリアやマーク、もしくは私を暗殺する為に現れたとしか考えられないのですよ」

 さらにさらりと、前リングストン公爵が暗殺されたという国をゆるるがすビッグニュースを語る。

 って、え? 私がグロリアやマーク・リングストンの命を狙う? 何のために?

「目的を吐かせるなんて馬鹿な真似はいたしません、結果だけを求めます。グロリアから離れなさい」

 混乱する私に、一切の迷いも容赦ようしゃもなく、キャロライン嬢はぴしゃりと言い放った。

「…………い、嫌ですけど、友達なので」

 色々な疑問やショックや恐怖で混乱する中、私は唯一確信のある返事をする。

 グロリアとは友達だ、今日だって楽しみだったんだ、それは単純に嫌だ。

「そうですか……では、もう少し端的たんてきに申し上げましょう」

 そう、憂いの表情を見せてから。

「警告です。アビゲイル嬢、グロリアから離れなさい」

 私にもわかるくらいに、異様な雰囲気を放ちながら、私に警告をした。

 何がなんだかわからないけど、キャロライン嬢が本気ということはわかる。

「……離れなければ、私はどうなるの、でしょうか?」

「目が覚めたら病院のベッドでしょう。ついでにバセット家全員、壁に埋めて差し上げますよ」

 私の問いに、キャロライン嬢は表情一つ変えずに答える。

 いやはや、それは嫌だ。

 病院のベッドは文字通り死ぬほど味わっている、バセット家の人間が壁に埋まるのは喜ばしいことでしかないが病院のベッドは嫌だ。

 だけどキャロライン嬢は本気だ、具体的に何をどうして私を病院のベッドに寝かせるのかバセット家の人間をどやって壁に埋めるのかは不明だけど、絶対にそうする。

 だったら私はどうする。

 この場で嘘をついても意味は無い、私が助かる為の返事は「はい」か「イエス」か「かしこまりました」の三つだろう。

 せっかくグロリアやモーラやルーシィと友達なれたんだけどな。

 でも、幸せになるにはこれしかない。

 私はキャロライン嬢に向き直して、答える。

「ふざけんなよ、嫌に決まってんでしょ。舐めんな馬鹿」

 片足をソファにはさまれたローテーブルに乗せて、思い切りにらみつける。

 そう、舐めんな。

 私の幸せを、自由を、こんなわけのわからないやつにわけのわからない阻害そがいをされてたまるか。

 私は止まらない。自由の身で幸せになるために、例えこの国最強の八極令嬢はっきょくれいじょうキャロライン・エンデスヘルツでさえも。

 踏み台にして進まなくてはならないのよ。

「そうですか、なら吹き飛び――」

「ナインッ‼ ‼ やめなさい!」

 口を開いたキャロライン嬢をさえぎるように、気配を極限まで殺して完全にキャロライン嬢の首を狙っていたナインを制止する。

「かしこまりました。お嬢様」

「……! なるほど……」

 背後に回り込んでいたナインに、声を出したところでキャロライン嬢はようやく気づいて反応する。

「私の命はいつでも奪えるということですか……、想像以上に人のいきを超えていますね。今の動きは私やバンフィールド剣術のアンナをも超えているでしょう」

 キャロライン嬢はナインを見ずにそう言った。

 え、キャロライン嬢の他にまだそんな達人みたいな人がいるの? そしてナインはその二人を超えてるってホントに何者なのよ、この男は。

「だけど今のが千載一遇せんざいいちぐう、最後のチャンスでした。ほら、私は今構えました。構えた私を簡単に殺せると思わないで頂きたいですね。さあ構えましたよ、どうするんですか?」

 キャロライン嬢はゆっくりと立ち上がりながら話し、話しながら足を広めに開き、半身でこちらを向いて、両の手はやや低めに、柔らかくしかして頑強がんきょうじくが入ったかのごとく安定した形の構えをとった。

 私の目を真摯しんしに見つめる。

 その真摯しんしさに私は答える。
    
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