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12・魔女、異変に気づく。

03興味。

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 そう、私はこの国がどうなろうか知ったこっちゃない。

 大事なのは彼と、彼との暮らしだけなのだ。

「わかった、なんなら郵便局員の給与も上げてやろう。リングストンの街には指一本触れはしない」

 魔王は真摯しんしに、

「……はあ、まあいいわ。今はだまされてあげるけど、それを本当に嘘にしたら、私はこの大陸ごと消し飛ばす。私は嘘をつかないから」

 そう言って、魔王のアジトから退室しようとするところで思い出す。

 嘘をつかないついでに、教えておいておこう。

「あ、そうだ。あなたを封じた研究者シェリー・ラスゴーランだけど、あんたが万が一復活した時の為に分身を残してる。スペアシェリーと名乗った彼女は研究者と同等の力をゆうしてるわ」

 魔王は表情を変えずに聞く。

「もしスペアシェリーを壊したりしても私はあんたを消すわよ。それと、もしスペアシェリーに協力を求められたら、私は全力で協力してあんたをふうじるから」

 私は最後に。

「じゃ、せいぜい頑張りなさいね」

 そう言って、去ろうとしたその時。

「おい、待てよ姉ちゃん」

 私は魔王に呼び止められる。

 それもそうか私は今、魔王に対して九割方敵に回ると宣言したようなものなのだ。

 さて、どうしたものか。

 喧嘩なんて野蛮やばんなこと二百五十年はしていない。以前の彼との出会いの際、牢獄に幽閉ゆうへいされてた彼を救い出した時にちょっとその国を滅ぼした時以来だ。

 相手はお師匠様たちが勇者との戦いで疲弊ひへいしきったところを漁夫ぎょふふうじた魔王だ。
 私に被害を出さずにふうじることができるだろうか。

 少し構えて魔王に向き直す。

「……ウォールを治していけ、邪魔すぎる」

「あ、ごめんなさいね」

 私は指を一度鳴らして、ウォールという青年の時を戻してから家へと跳んだ。

 家に戻って、そろそろ仕事から帰ってくる彼の為に晩御飯を作り始めながら考える。

 魔王と竜の女王の復活。
 異世界からの転生者の増加。
 この国に、この世界に何が起ころうとしているのか。
 女神がなんかしらの思惑おもわくを持って介入かいにゅうしてきている可能性を。

 それらの異変が私と彼の暮らしにどう関わるかを考える。

「……………………うん、関係ないわね」

 そう、つぶやく。

 全くもって関係ないし興味が無い、異変には気づいたが別に自主的に関わることもないだろう。

 言うほど興味もない。

 すると家のドアが開く。

「ただいまー、お、今日の晩御飯はシチューだね」

「おかえりなさい、あなた」

 帰宅した彼を笑顔で私はむかえる。

 私にとっては彼と、彼との暮らしが全てだ。
 魔王だろうが転生者だろうが女神だろうが関係はない。

 しかして、その異変が徐々に具体性をびて大きな変革へんかくとしてこの国とこの世界を変えることになるのだが。

 この時はまだ知らないし、興味もないのだった。
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