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9・お嬢様、とある一日。

03晩。

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 放課後、家に帰った私とナインはまた別々に行動する。

 私は自室にて勉強を、ナインは家事を行う。

 この国の歴史や、文化、信仰についておかしな点をまとめていく。
 この辺りのことを他の転生者と客観的な意見を交換してみたい。

 例えば、まだ自動車は一般的ではないのにカメラがあったり。
 おとぎ話とされる勇者や魔王や女神などの、真偽についてなど。

 あまり考えても仕方ないことだが、もしこの世界に生まれ変わった理由や意味や目的のようなものを神様が用意していたとして。

 

 もし、これがゲームのようにクリアしたら終了してしまうようなものだとしたら私は絶対にその目的を達成してはならないのだ。

「晩飯が出来た」

「おっけ、すぐ行くわ」

 ちょうどこんめ始めていたタイミングで晩御飯ができたので、二人で食事をる。

 その際に私は今日学園であったことを、ナインに話す。
 ナインが意外と聞き上手で、楽しんでいるように見えるのが、また楽しい。

 夜、晩御飯を食べたらお風呂に入る。

 というか入れてもらう。

 一人でも入れないこともないのだけれど、こればっかりは高田まりえの頃他人に身体をいてもらう生活をしてきたのでどうにも慣れない。

 それにアビィは良く風呂でもおぼれさせられたり、熱かったり冷たかったりするシャワーをかけられたりで私の中にお風呂が怖いという記憶が色濃く残っている。

 ナインが居れば安心できるのだ。

 まあ私も一般的な普通のティーンエイジャーの女子なので、男性に裸を見られるのは恥ずかしいが。
 病院で散々医者や看護師に世話をされてきたので今更どうにも思わない。

 お風呂から上がった私は、再び自室にて今日までに得たこの世界の情報と疑問と仮説をノートにまとめていく。
 
 夜が深くなってきた頃、私はそろそろ布団に入る。

 もう少しこんめることもあるけど、今日は少し疲れた。

 すると部屋の入口からナインが様子を見に来ていた。夜食を出すかどうかの確認だろう。

「あ、もう寝るね。おやすみナイン。あんたも早く寝なさいよ」

「ああ了解、おやすみアビィ」

 ナインが部屋の灯りを消して、私は暖かい布団に溶けるように眠りに落ちていく。

 どんどん落ちて、やがて落ちている感覚すらなくなっていく。

 そんな中、様々な人々が私を踏み台に嬉々として登っていく。

 バセット伯爵、夫人、エミリー、侍女長、使用人たちがあざけるように、私を踏みにじって登る。

 やがて真っ暗な場所まで落ちて、手足の感覚も無く、何も見えない。
 怖くなって声を出そうにも口も動かない、声も出ない。

 ああ、この感覚は知っている。

 高田まりえが病院で確率通りの人生を終えた、あの時のものだ。

 待って、嘘。
 夢? いや、今までのが夢?

 グロリアやモーラやルーシィ、アーチさんと会えた、アビィの人生は夢だったの?

 嘘、嫌だよ。

 何より絶対に、ナインがいないなんて、嫌だ。
 幸せになりたいのに。

 私は動かない身体を、無理やり身体をじるように、のたうち回るように、それにあらがう。

「……あ、ああ……っ! 嫌あああ‼」

 私はようやく声を上げて、大粒の涙を流して取り乱した。

 その声ですぐに、ナインが駆けつける。

「……落ち着け、大丈夫だ。俺が居る、大丈夫だから」

 ナインはそう言って私の両肩に手を置いて、なだめた。

 夢……、夢だった。

 私はここが自分の部屋で、目の前にナインが居て、さっきまでの感覚が夢だったことに気づく。

「……ナイン…………っ」

 私は彼に抱きつくように、彼の胸に顔を埋める。

「もう大丈夫だ。俺が守ってやる、命じるのなら幸せにだってしてやる」

 彼はそう言いながら私の頭を抱くように、髪をでる。

 私は安心と彼の体温を感じながら、再びまどろみの中に溶けていった。

 ………………ん、私はふと目を覚まし、目を開ける。

 すると、ナインが私の頭を抱きながら眠っていた。

 彼の寝顔を初めて見た気がする。
 まつ毛が長い、綺麗な顔をしている。

 私は、好奇心と感謝とその美しさと、様々な思いが重なって。

 そのままナインのくちびるに、私のくちびるを重ねた。

 緊張と恥ずかしさが身体を駆け巡り、おへその下辺りがじわりと熱を持つ。

「…………

 私はそうつぶやいて、再び眠りについた。

「お嬢様、起きろ。朝だぞ」

 ナインの言葉に私は目を覚ます。

 朝食の準備が整ったようだ。

 こうして、私のとある一日はまた始まりをむかえる。
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