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8・執事、とある一日。

02昼。

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「よお、ウィーバー、暇そうだな」

「そう見えるんなら眼科に行け。医者にかかるの好きだろ、おまえ」

 執事や侍女用の待合室で観察をしていると、グロリア嬢のところの暴力マスクの怪人ことアーチボルト・エドワードが気安く話しかけてきたので軽口を返す。

 アーチボルト・エドワード。

 グロリア嬢に拾われたチンピラ上がりの執事だ。そのせいか喧嘩慣れしていて、グロリア嬢に降りかかる火の粉を秘密裏ひみつりに圧倒的な暴力で排除はいじょする。

 正体を隠す為に覆面をかぶって脅威を排除はいじょすることから、暴力マスクの怪人として恐れられている。実際かなり強い、卓越たくえつした技量があるわけではないが根性と気迫で徹底的に脅威を叩き伏せる。簡単に言えばヤバい奴だ。

「てめぇが、ブスブス下手くそに刺すから医者にぬいぐるみみてえにわれたんじゃねえか。僕はいつも病院送りが専門なんだよ。次はおかゆも食えなくしてやるぞマジに」

「そうか、その前に俺はおまえを十三回は殺せてるよ。良かったな死んだ回数分墓を掘らなくて良くて、おまえの墓だけで墓地が埋まってしまう」

 何て世間話をり広げ。

「はっはっは……」

「ははは……」

 と、かわいた愛想あいそ笑いをして同時に俺はアーチの首元に手刀を、アーチは俺の鼻っ柱に拳を突き出して寸前で止める。

「……やめとこう、馬鹿馬鹿しい」

「同感だ」

 アーチの言葉にお互い手を戻す。

 そう、俺たちは暇なのだ。

 昼前、アビィとの合流前に早めに昼飯をき込む。
 朝食と晩飯は一緒に食べるが昼食は学園内で食べるので、別々にる。言葉遣いと同じ理由だ。

 昼、アビィはグロリア嬢の一派と昼食をるので一派いっぱの集まるテラス席に向かう。

「ごきげんよう、グロリア、モーラ、ルーシィ。アーチさんも」

 アビィは既に集まっていた一派いっぱの面々に挨拶をする。

 彼女たちに置いても調べておいた。

「こんにちは、アビィ嬢。ごきげんようです」

 と、落ち着いた様子で応えるのは、モーラ・マーコヴィック。

 一応形式上中立派、マーコヴィック子爵家の令嬢でハージティ伯爵家のザックと婚約関係にある貴族令嬢だ。

 以前、学園でのパーティーで他所よその貴族令嬢におとしいれかけたのを歌ってパーティーを盛り上げるという奇行で乗り越えた、歌姫と呼ばれるヤバいやつだ。

 その際にグロリア嬢を巻き込んで仲良くなったらしい。

「こんちはアビィ! 早く食べようよ!」

 と、元気よく答えるのは、ルーシィ・コーディ。

 平民枠で入学した、ルチャリブレを使う一族出身のルチャドーラ、つまりプロレスラーだ。

 これに関しては本当に意味がわからん、何故なぜプロレスラー? アーチいわく、まあまあ使うそれなりに玄人くろうとだということだったが、何故なぜにプロレスラー……?

 グロリア嬢は怪人執事をしたがえて、更にこんなわけのわからん奴らまで引き込んでいるのか。

 それなら、なかなかのプッツンであるアビィお嬢様を友達としてむかえることにも納得出来る。

 とりあえずアーチとお嬢様方にお茶を出したりお菓子を出したりして、ガールズトークに花が咲くのをぼんやりと見ていた。
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