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30・聖女は教会に入った泥棒に、盗まれてみることにしました。【全4話】

04こんな言葉に価値はない。

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 いびつに痛々しい傷跡きずあとが、不自然な直線で造られた十字の形に突き出している。

 狂っている。

 こんなもの埋め込んでも、痛いだけだろ。
 下手したら死んでしまう。

 ちょっと考えればわかるだろ、神なんかいやしないんだから。

 これは教会の人間が、使

 いや実際に信仰心しんこうしんからこれを行っている人間も居るんだろう。

 そうじてイカれている。

 ティーンエイジャーを徹底的に隔離かくりし、知識をあたえず常識じょうしきうざい、信仰心というくさで教会にしばり、無知な少女を生きた金庫にする。

 泥棒野郎が自分を棚に上げて、適当にぶっこいてた十人十色だとかそうだとか相対的だとかティーンエイジャーをけむに巻くだけの与太話よたばなしも全部無視して言わせてもらう。つーかあれは嘘だ、嘘つきは泥棒の始まりだからな。

「……そもそもここに普通なんか一個もねえ、この国の信仰心はゴミクズ以下だ」

「…………?」

 俺のつぶやきに、聖女は疑問符ぎもんふを浮かべる。

 がらにもなく、いきどおりをあらわにしてしまう。
 この国になんの関係もない泥棒風情ふぜいが、聖女に同情してしまう。

 いや関係ないからこそ思えたことなのかもしれない。

 しかして俺は革命家でもましてや正義の味方なんてものではない、ただの泥棒だ。

 俺が出来るのは侵入と盗みと逃亡、そして嘘をつくことだ。

 目の前に目的のお宝がある。
 やることはひとつだ。

「実は俺は神の使いだ。ホープ・ロックハート、おまえに神の啓示けいじを伝えに来た」

 ふてぶてしく、不敵ふてきに言い放つ。

「俺と来い。おまえの普通はこんなところにない」

 俺はこうして教会から、この国の信仰を盗み出すことに成功した。

 さて、俺が彼女を抱きこの国からさっさとトンズラこいたところで黄金のロザリオを盗んだ話とこの国から聖女が消えた話はおおよそおしまいである。

 その後のことをいて語るなら、俺は俺が知りうる最高の腕を持つ医者にホープから黄金のロザリオを取り出してもらうようにたのんだ。

 その医者は変わり者で、何年も旅をして魔女を自称じしょうしているようなやつだが、自称じしょうするだけあってまるで魔法のような腕前をもつ。

 旅をしているのでなかなかつかまらない上になかなか仕事をけ負わないのだがたまたま隣の国でばったり出くわし事情を話したら珍しく引き受けてくれた。

 流石の腕前であっという間にロザリオを取り出しただけではなく、傷跡きずあとまで綺麗に無くしてみせた。医学には全く精通せいつうしていないので神も仏も全く信じない俺だが魔法は信じたくなった。

 まあ馬鹿みたいな代金を請求せいきゅうされたが、丁度ロザリオをさばいたがくで相殺されたので良しとしておこう。

 マイナスにならないのならプラスだ。

 文字通り、胸のつっかえが取れたホープは今や普通のティーンエイジャーだ。

 普通。
 ここで言うところの普通は普通の泥棒としての普通だ。

「空っぽだった私は、ポールに盗まれて初めて心が生まれたんだよ。盗まれたことによった貴方が私に価値を付けた。ありがとうポール、愛してるよ」

 なんてことも笑顔で言うようになる。

 俺はその言葉に少し笑い。

「俺もだよホープ、愛してるよ」

 俺は泥棒だ、嘘つきから始まるあの泥棒だ。

 だからこんな言葉に価値はない。

 俺は信仰を盗んだだけであり、俺はホープに心をうばわれただけなのだ。
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