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30・聖女は教会に入った泥棒に、盗まれてみることにしました。【全4話】

03なんてこった。

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「…………なるほど、それゆえにあの子供は自分と違う私をあのように言ったのですね」

 十人十色での子供だましは成功したようで、彼女の納得を得られる。さあもうすっきりしたろ、寝てくれ。

 しかし。

「……それなら、貴方の言うとはどういうものなのでしょうか? 各々に各々の生き方があるなら、普通や一般的という基準点きじゅんてんとなるのはどのようなものなんでしょうか、是非ぜひ教えてください」

 やっちまった。
 十人十色最強理論ここにやぶれちまった。

 まあ人間においての普通、ニュートラルな基準きじゅんというのは個人ではなくそうによって生まれるものだ。

 この国の国民全員をそうに分けた時、貧富ひんぷであったり教養きょうようであったりで分けるなら大きな権利を持たず労働による対価で暮らし大きな贅沢ぜいたくがあまり出来ない平民そうをニュートラルとするなら、貴族や貧民ひんみんそうなどは普通ではないだろう。無論むろん、聖女もである。

 さらにそのそうごとにもニュートラルがある、貴族層そうは貴族の普通が、不届ふとどき者には不届ふとどき者の、全ては相対的なものにすぎない。

「普通や一般的ってのは様々な人々をそうごとに分けて、その中で相対的に平均あたりを普通としているだけだよ。俺は俺のそうの中で、相対的に普通の位置にあるだけだ。他のそうから見たら俺は異常かもしれないが、俺をカテゴライズしているそうでは一般的な男だよ」

 適当に聖女へそう答えると。

「……そうですか、つまりあの子供は他のそうにいる私のことを異常ととらえたということですか……、それでは私はどのそうにカテゴライズされて誰と相対的に比較ひかくすれば良いのでしょうか」

 確かに、この国には聖女は一人しかいない。
 市民とは全く違うし、王族や貴族などの富裕層ふゆうそうとはまた違う、ましてや断じて不届ふとどき者などでもない。

「聖女は聖女でいいんじゃないか、歴代の聖女と比較ひかくして自分がニュートラルに寄ってるかどうかを考えればいい、そして寝るといい」

 俺は再び適当に返して就寝しゅうしんうながす。

 いやマジさっさと寝てくんねぇかな。

「過去の聖女との比較ひかく…………、

 そう言って、続けて衝撃的な告白を俺に向ける。

「だって私は、歴代聖女と違って一度たりとも神の啓示けいじを受け取れたことがないのですから、私は神と通じたことが一度もありません」

 いやはや、そーりゃ確かに聖女としては大分イレギュラーだ。

 俺は神なんか信じたことは一度もない。
 信じてたら教会に盗みに入るなんて罰当たりなことするわけがない。
 神はいない、居るなら俺のような悪党とっくに罰が当たってしかるべきだ。
 でも俺はずっと泥棒として生きてきたし、良いやつがすぐ死んだのも見てきたし、もっと悪いやつが長生きしているのも知っている。

 神なんかいない、それが俺の結論ではあるが。

 

 その存在を信じ込み、教えにじゅんじることで

 それをそれっぽく、もっともらしく、教えとして説いて祈りを続ける。

 それが聖女である。
 しかし、彼女にはそれがない。

「私はずっと聖女として生きてきましたが、先代や先々代、そのずっと前からいる聖女とは違って神の声を聞くことが出来ません。それは私が神に対する祈りが足らないからだと、というのに依然として私は神の声を聞くことができませんので――」

 俺はそれを聞き終わる前に聖女を押し倒し胸元むなもとを開く。

「……なんてこった」

「どうしたのですか?」

 押し倒されてもなお、危機感の感じない彼女の胸元むなもとに静かに触れる。

 彼女の胸元むなもとは一度十字に切りかれ、その中にロザリオを埋め込み、あらって焼いてふさがれていた。
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