上 下
96 / 132
26・婚約破棄とか冤罪裁判とかにはもう飽きたので、普通に恋しようと思います。【全4話】

01恋バナ。

しおりを挟む
 私、ジョイス・フォックスは貴族つどう学園に通う、平民出身のいわゆる平民枠の生徒の一人だ。

 この学園には王族から貴族の子息令嬢だけではなく平民の受験枠がもうけられており、努力と運次第では王族や貴族と同じカリキュラムで様々な学問を学ぶことが出来る。

 それだけではなく、貴族管轄かんかつ行政ぎょうせい施設しせつや国営事業への就職にもつながるのだ。

 この制度せいどはこの国の王妃であるところのヴァネッサ・メルバリア様が、今後おとずれる文明開化による民主化により格差かくさ社会が終わることを見越みこし、先んじて貴族と平民間の摩擦まさつを軽減させる為に取り入れた。

 

 王妃様は十年先のこの国のバランスを裏から調整する為に、貴族の子息令嬢があつかいやすく組みしやすいティーンエイジャーである内に

 平民枠の全員が王妃様の私兵や工作員と言うわけでもないが、平民枠の一割未満ではあるが毎年入れ替わりである程度ていどの人数が常に潜伏せんぷくしている。

 まあここまで語って隠すも何もないのだが、何を隠そう私もその工作員の一人だ。

 平民枠の生徒として学園生活を演じ、指令にしたがい貴族の派閥はばつ嫉妬しっと、正義感、恋心、顕示欲けんじよくなどを裏から上手くここだというポイントを的確にあお激化げきかさせる。

 時には弱い立場として冤罪を生み出し、貴族たちに捏造ねつぞうした証拠しょうこつかませる。

 そうして、あたかも貴族が自主的に別の貴族の追放や婚約破棄はき目論もくろんだように演出するのだ。

 。それが私の仕事だ。

 代表的な演出参加作は、近年でいえば二つ。

 一つはステイモス侯爵家令嬢の学園追放とゴールドマン公爵家次男との婚約破棄はき

 もう一つはパウンダー伯爵家令嬢の学園追放とアトキンス侯爵家嫡男ちゃくなんとの婚約破棄はき

 その他にも様々な貴族の学園追放や婚約破棄はきを演出してきた。

 なんてあたかも百戦錬磨れんまな風に、私自身を演出してみたがいくら無知で幼稚ようちなティーンエイジャー相手といえども人の流れを生み出すのは非常に難しく現在進行形で難航なんこうしているものもあれば、完全に失敗したものもある。

 ウェストレイク伯爵家の令嬢なんてのはまるで未来をしっていたかのように、華麗かれいに冤罪を証明し捏造ねつぞうされた証言や証拠しょうこを崩していった。

 さらにクーロフォード伯爵家の令嬢は、どれだけおとしめようと他の貴族たちが策をろうしても『暴力マスクの怪人』と呼ばれる謎の人物に、裏から徹底的てっていてき過剰かじょうが過ぎるほどの暴力で脅威きょうい排除はいじょされてしまう。もはや怪奇現象である、そんなものは私にはどうしようもない。お手上げである。

 潮時しおどきだろう。

 この学園に入り一年弱、もう十分に働いた。

 ある程度ていど功績こうせきは演出出来たし、後から入ってくるであろう他の工作員たち任せよう。

 正直に言う、飽きたのだ。
 婚約破棄はきとか冤罪裁判とか学園追放とか、もううんざりだ。

 別に私は貴族のティーンエイジャーたちを裏から操作して争わせるのが楽しいわけではない、仕事だからそうしているだけだ。

 まあ親や家柄がなにか重要な役割をになっているけど自身はまだ何者でもないのに何故か自信と慢心まんしんあふれているやつが手のひらの上で踊っているのは悪い気はしないのだが、別に何度もそれを求めたくなるほど良いものでもない。

 今まで散々人の恋路こいじ破綻はたんさせて来て、今まで散々人の恋路こいじ観察かんさつして来て。

 

 婚約破棄はきの際に大体の令嬢は恋人を失うことで取り乱し、絶望する。

 そこまで、心をれ動かす恋愛と言うものに私は大変興味があるのだ。

 他人の婚約破棄はきにもきたので、これからは私自身恋をしてみたい。

 なのでとりあえず、同じ平民枠の一般の生徒である学友、ルーシィ・コーディにいわゆる恋バナを振ってみることにした。

「え? 恋? してるよ私、好きな人いるよ」

「え、してるの! 恋人がいるの?」

 してないだろうと聞いた私は単純におどろいてしまう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

なんだろう、婚約破棄の件、対等な報復を受けてもらってもいいですか?

みかみかん
恋愛
父に呼び出されて行くと、妹と婚約者。互いの両親がいた。そして、告げられる。婚約破棄。

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

奪われたものは、もう返さなくていいです

gacchi
恋愛
幼い頃、母親が公爵の後妻となったことで公爵令嬢となったクラリス。正式な養女とはいえ、先妻の娘である義姉のジュディットとは立場が違うことは理解していた。そのため、言われるがままにジュディットのわがままを叶えていたが、学園に入学するようになって本当にこれが正しいのか悩み始めていた。そして、その頃、双子である第一王子アレクシスと第二王子ラファエルの妃選びが始まる。どちらが王太子になるかは、その妃次第と言われていたが……

処理中です...