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24・人を模されただけの自動人形が、愛している、と叫ぶまで。【全3話】

01少々壊れているようだ。

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 私、シェリー・ラスゴーランは……って、すまない私はシェリー・ラスゴーランではなかった。

 私は大昔に研究者であるシェリー・ラスゴーランに造られ記憶と知識をコピーして保存された、自動人形である。

 顔や髪、豊満ほうまんなバストをふく体躯たいく、声にいたるまで研究者シェリー・ラスゴーランと同じであり記憶まで同じである為に私自身もつい錯覚さっかくしてしまうが、私はシェリー・ラスゴーランではない。

 便宜上べんぎじょう、私は私をスペアシェリーと名付けよう。

 何故、研究者が自身とほとんど変わらない自動人形なんてものを作ったかといえば研究の一環いっかんとしかいえないのだが、後付けで役割は与えてある。

 研究者が大昔に封印した色々な世界をほろぼしうる脅威きょういの封印が、自身の死後も切れてしまわぬようにする為のバックアップのようなものだ。

 まあ研究者自身も不老長寿ふろうちょうじゅの身であったし、その不老長寿ふろうちょうじゅの研究者の死後ともなるとかなりの長期間私は待機状態で保管され、封印の解除を察知さっちしたら起動するってくらいで私自身が活動するのは何千年の間にほんの数ヶ月程度のものだ。

 しかし、今回初めて起動したわけだが。

 

 内蔵ないぞうされたセンサーで感知かんちをしても、一切封印の解除は認められなかった。

 研究者の記憶と知識をもちいて自身でトラブルシューティングを試みたが、どうも一部記憶が復元しきれていない。

 どうも私は少々壊れているようだ。

 少なくとも今回の起動は正常なものではないことがわかったので、待機状態に戻りみずから保管され直そうとしたがその方法がどうも思い出せない。

 二度寝したいのに寝れないような、いや目覚めちゃったよ、みたいな。

 まあしかし構造上、私は長期保存には向いているが長期稼働かどうには向いてない。

 そのうち、動力が切れて待機状態に戻るのはわかっているので、気長に待とうと思い横になる。

「………………いや、なにかしなきゃいけない気がするな」

 私の中にある研究狂いの研究者の記憶がそうさるのか、私はどうもじっとし続けることに向いていないようだ。

 おそらく研究者自身も予想していない私の欠陥けっかんだろう。

 とりあえず私は、研究者の記憶をたよりに過去の研究対象が今現在どうなっているのかを確認する為に旅に出た。

 私自身の残り活動時間は計算済みなので、その間はある程度ていど勝手に稼働かどうさせてもらおう。

 まず私が向かったのは、研究者が大昔に一緒に暮らしていたことがあった探求者マリク・ノアの元であった。

 私が起動している以上、オリジナルの研究者はすでにこの世を去っている。

 だが、探求者マリク・ノアも研究者と別の方法で不老長寿ふろうちょうじゅの身であった為、もしかするとまだ存命ぞんめいではないかと思ったのだ。

 探求者が存命であれば、私が抱えているエラーを解消できると言う目的もあったのだが、流石にすでにこの世を去っていたようだ。

 流石に私が製造されて千年近く経過けいかしているのだ、期待はしていなかった。

 いや……、探求者の最後を看取みとった気がしなくもないぞ。

 どうも、記憶が混濁こんだくしている。

 私が造られた際に保存した記憶は定着しているようなのだが、

 その二度目に保存した記憶が上手く定着していないようだ、エラーの原因もおそらくそこにある。

 一度目の定着から百年ほど後に二度目の記憶保存が行われた形跡けいせきがある。

 多分研究者が死ぬ前に私を思い出して保存し直したのだろう。

 だがそれがどうにも上手くいっていないようで、私は晩年ばんねんの研究者の記憶が曖昧あいまいだ。

 まあその辺も次に正常に起動される際には直るであろう、大体の機械のエラーは再起動で改善かいぜんされるというのが相場であることは記憶から読み取れた。

 探求者の生死を確認し、私が次に向かったのは大昔に研究者が錬金術れんきんじゅつの研究でいくつかの山を様々な金属物質を生み出す鉱脈を作り出した地へと向かった。

 当時は人が住んでない土地であった為、遠慮えんりょなくいくつもの山を適当に錬成れんせいしたのだが千年近くも前のことだったので今がどうなっているかを確認しておくことにしたのだ。

 案の定、千年も経てば文明も発展する。
 山の周りにも人が住んでいた。

 とはいえこの時代の文明レベルはまだまだつたない、研究者が予想していたよりもまだまだ発展はしていなかったようだ。
 まだせいぜい蒸気機関じょうききかんが生まれるか生まれないか、蒸気機関じょうききかんから更に電気工学や石油エネルギーを利用まで発展しないと研究者の予想した未来には続かないか。
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