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23・学園を追放され僻地に追いやられたので、この世界を滅ぼします。【全4話】

01愚か者にもほどがある。

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 俺、ウォール・バルカードはバルカード侯爵家の嫡男ちゃくなんにして、この国を守る騎士を目指す学生だった。

 そう、、過去形である。

 今や侯爵のくらいげず騎士見習いでもなく、学生ですらない。
 俺はただの僻地へきち勤務きんむの一般兵士。
 学園を追放され、家にも見放された馬鹿の成れの果てが、俺だ。

 数年前、まだ学生だった頃俺は第一王子のいわゆるの一人だった。

 バルカード侯爵家は昔から代々騎士の家系であった。
 王族にくし、国を守り、脅威きょういがあれば技を持ってそれをせいす。騎士道精神を強く持ちそれをほこりとする家だ。

 そんな家に育ち学園にて本物の王族と共に生活し、俺は浮かれていたのだ。

 次期国王となる第一王子の側に立ち、守ることが騎士道だと錯覚さっかくしてしまう程度ていどには若くおろかだった。

 第一王子には婚約者が居た。
 公爵家令嬢、キャロライン・エンデスヘルツ。
 この女は才色兼備さいしょくけんび容姿端麗ようしたんれい文武両道ぶんぶりょうどう、そして冷酷無比れいこくむひ

 令嬢としてこれ以上ないほど完璧なのに、なんというか人間味のない女だった。

 そんな中に一人の平民の女生徒、リーサ・フライアが現れた。

 彼女は平民の生まれながら勤勉きんべん健気けなげで努力をしまず、何より優しさと思いやりにあふれていた人間味のある娘だった。

 第一王子はあっという間に心をうばわれた。
 それは俺も同じであった。

 だから、俺たちは、リーサのいうキャロライン・エンデスヘルツが

 まあこれは
 馬鹿で若い俺は見事にそれに踊らされて、悪役令嬢としてキャロライン嬢をおとしいれた。

 ほら、冤罪裁判でよくある、悪役令嬢が取り乱した時に押さえつけるやつがいるだろう。

 あれが俺だ。

 恋心と正義感と無知と無謀むぼうとエゴと承認欲求しょうにんよっきゅうと集団心理を自分の騎士道と勘違いした、気持ちの悪いほど稚拙ちせつな愚か者だ。

 

 その冤罪裁判に腹立てたキャロライン嬢は、八極拳とかいう異国の武術をもってその場にいる全員を叩き伏せたのだ。

 一番近くにいた俺は、いの一番に吹き飛ばされた。

 言葉は時に力にはなるだろうが、圧倒的な暴力の前には何の役にも立たない。
 恐怖を植え付けられた俺たちは、あっという間に捏造ねつぞうを暴かれた。

 公爵家をおとしいれようとしたのだ、かなりとがめられた。

 そうして俺は学園の卒業は取り消しとなり退学、騎士道を違えたゆえに家からも放り出され、一般の兵士として兵舎へと入れられた。

 しかし侯爵家の嫡男ちゃくなんが新人として入っても、扱いづらかったようで。

 見渡す限り草原、遠くにちらほら農家がある。

 この国で最も僻地へきちである場所での駐屯ちゅうとん勤務きんむを言い渡されたのだった。

「あー……平和だなぁ……」

 駐屯地ちゅうとんち併設へいせつされた監視塔かんしとうというにはあまりに低い、物見やぐらの上で俺は一人で呟く。

 平和と言うより、何も無いので何も起こりえないというのがより正確だ。

「………………、ん?」

 監視塔かんしとうから何も無い土地をながめていると、遠くにぽつんと原っぱに何か落ちているのを見つける。

 なんだ?
 鳥……にしては大きい。
 あんなところに岩はなかった。
 あんな動物も居ないはずだ。

「……まさか、おいおいなんか大変じゃないのか」

 俺は

 監視塔かんしとうから飛び降りて一直線にその場所に向かうと。

 五、六歳くらいだろうか。
 一人の女児が衣服も何も身につけず、原っぱの真ん中に倒れていた。

 すぐに息があることを確認して、上着にくるんで駐屯地ちゅうとんちれて帰る。

 事件性が高すぎる、なんだこれ事案が過ぎるだろう。

 この辺には診療所などもない、かなり離れたところに農家がぽつんとあるだけで何も無い。

 一応この国の兵士である俺は多少の応急処置など心得もあるし、それなりのそなえもある。

 外傷が無いかを確認して、俺のシャツとパンツを着せてとりあえずベッドに寝かせる。

 熱などもない、ただ寝ているだけのようだ。

 いやしかし、なんなんだこの子は?

 近隣きんりんの農家にはこんな小さな子は居なかったはずだ、親戚の子が遊びに来たとかか?

 だとしても、何故あんなところに、それに真っ裸で倒れていたんだ? 川も反対側だぞ。

 なんというか街ならとんでもなく犯罪の香りのする状況だが、

 どちらかといえば、怪奇現象かいきげんしょうである。
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