上 下
79 / 132
21・婚約破棄して別の人と生きる? どうぞ、後悔してください。【全4話】

02白紙に戻したい。

しおりを挟む
「ジュリアナ・ロックハート! 貴女と話したいことがあ……」

 ドアを開いた先の光景に、僕は言葉を途中で失う。

 そこには、床にクッションをき座布団代わりにしてちゃぶ台をはさみ、お茶とお菓子を広げて、友達とガールズトークと洒落しゃれこむ聖女の姿がそこにあった。

「……お話ししたいというのは良いのですが、貴方はどちら様でしょうか?」

「ちょ、ジュリアナ! ジャレッド王子だよ! 貴女の婚約者!」

 と、婚約者の顔も認識していない聖女を友人らしき娘が僕を紹介してくれる。

「……ど、どうもありがとう、僕が貴女の婚約者のジャレッド・メルバリアです」

 笑顔が引きる中、聖女の友人に感謝の意を示しつつ次期国王の僕は婚約者に自己紹介をした。

 そこから僕もちゃぶ台の席に付いた。

 床に座るなんて中々に久しぶりだなぁ……。
 何やってんだろ、僕。

「ジャレッド王子、私はステイモス侯爵家のアンジェラ・ステイモスでございます」

 遠い目をしていると、聖女の友人が僕に自己紹介をする。

「ステイモス家の……、ああ、思い出した。公爵家のシェーン・ゴールドマンの婚約者だね、一度王家のパーティーで一緒に挨拶に来てくれた」

婚約者ですよ。ジャレッド王子。アンジェラは学園にて冤罪裁判をかけられて婚約を破棄はきされました」

 僕の返しに聖女がすぐに訂正ていせいを入れる。

 えー、婚約破棄はきされちゃってんの? マジかよ、気まずすぎるだろう。僕も今からまさに婚約破棄はきの話を持ちかけなきゃいけないんだけど。

「じゅ、ジュリアナ? 別に気にしてないけど、人様に触れ回ることでもないんだからね」

「ですがアンジェラ……、未だにあんな男の婚約者をしていると思われるのは貴女も心外でしょう。新たに恋人も出来たというのに」

 まあ確かにそっか。と言いながらアンジェラはお茶をすする。

 僕は目の前で繰り広げられるガールズトークに面食らってしまう。

 なんなんだこれは。

 聖女とは、俗世ぞくせから隔離かくりされ世の中から徹底的てっていてきにズレている価値観を持ち、熱心に狂信と盲信もうしんを貫く、自らを人間あつかいすらせず、神に祈るための装置そうちだと自称じしょうするような感情のない人として壊れたシステムだったはずだ。

 

 面はくらったが、しかしてやることは同じだ。

 僕は小さな口でお菓子を食べる聖女に向き直す。

「……、ジュリアナ、話したいことがあるんだけど、いいかい?」

「……はい、聞きましょう」

 お菓子を飲み込み、僕にそう応える。

「ジュリアナ、君との婚約を白紙に戻したい。その話し合いをしに来たんだ」

「ええーっ⁉」

 と、僕の婚約破棄はき宣言に良いリアクションをしたのは聖女ではなく、友人のアンジェラだった。

「あ、ごめんなさい。続けて続けて」

 リアクションをとったアンジェラは僕らに話を続けるよう促す。

 いや、邪魔だなぁこの子……。
 まあ二人のガールズトーク空間に突然邪魔したのは僕の方だから我慢がまんしますけども……。

「婚約の白紙ですか……、何故そのようなお話になるのでしょうか」

 聖女ジュリアナは落ち着いた様子で僕に問う。

「何故って……、確かにずっと聖女は王族と結婚する習わしだけれども、そんな時代でもない。習わしどおりにするにしても流石に僕らの間に恋も愛も無さすぎる。完全に破綻はたんしているんだよこの婚約は」

 僕はわかりきった説明をする。 

「私は愛していますよ。王子を愛するのが聖女ですから」

「いや君、僕の顔すら忘れてただろう……」

 ジュリアナの白々しい返答についツッコミを入れてしまう。

「まあ君が仮に本当に愛していたとしても、今日初めてまともに話したくらいの関係だし、夫婦になってもそれが続くなら結婚する意味がないという話なんだ。結局僕は別の女性と子をもうけなくて行かなくてはならないんだぞ」

 僕らの婚姻がいかに破綻はたんしているかを語り、れてもらったお茶に口をつける。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

処理中です...