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19・冤罪裁判にも疲れたので、いよいよ結婚に踏み切りたいけど上手く行きません。【全7話】

05食い止める。

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 僕、アーチボルト・エドワードはクーロフォード伯爵家のグロリア嬢につかえる執事のようなものだ。

 基本的な業務ぎょうむは馬鹿令嬢であるグロリア嬢のお守りなわけだが、それ以外にもグロリア嬢に対しての陰謀いんぼうや策略を裏から未然みぜん阻止そしすることも行っている。

 そんなこというと知略ちりゃくをめぐらして阻止そししているようだが、具体的には「もうしません」と言えなくなるまで殴ることしかしていない。

 育ちが悪いのだ、学もなければ能もない。
 しかして本当にグロリア嬢は様々な貴族から狙われている。
 しょうもない噂話を流されるものから、実際に実害じつがいが生まれそうなものまで。

 その原因は主に婚約者の家柄にある。

 グロリア嬢の婚約者であるマーク・リングストンが、この国でかなり力を持つリングストン公爵家の嫡男ちゃくなんなのだ。

 まあ僕は貴族のパワーバランスとかそんなんはよく知らないが、リングストン公爵家が由緒ゆいしょ正しい大貴族様ってことくらいはわかる。

 僕がわかるってことは相当すごいことだ。

 まあそんな大物との婚約がゆえに障害も大きい。
 今回の話もそういうことがつながってきているのだろう。

 マーク・リングストンの父であるリングストン公爵の命が狙われているという。

 由緒ゆいしょ正しい大貴族様ならそんなこともままあることのように思えたが、案外この国では珍しい出来事だったみたいだ。

「アーチ君すまない、父の護衛を引き受けてくれないか」

 と、マーク・リングストンは僕にとんでもない厄介やっかい事を持ち込んでくる。

「マーク様、申し訳ございませんが、尚更なおさら僕はグロリア様から離れるわけにはなりません」

 僕は即座に断る。

 そりゃそうだ、そんなきな臭いことになっているならグロリア嬢にも火の粉が降りかかるかもしれない。

 脅威きょうい排除はいじょには万全をさなければならない。

 だが、正直なところをいうなら僕は

 マーク・リングストンは良い奴なのだ、グロリア嬢をなにより大切にしている。
 グロリア嬢が幸せになるのに、これ以上の相手はいないだろう。
 それにグロリア嬢もかなり世話になっている、グロリア嬢は馬鹿なので本当に迷惑ばかりかけている。

 うーん……。

「……、万難ばんなんはいしてとまでは言えませんが、行けそうなタイミングがあれば必ずご協力いたします」

「そうか! 助かるよ! ありがとう!」

 僕の返事にマーク・リングストンは僕の手を握り感謝をべる。
 僕なんかに頼むところを見るに、思った以上に困窮こんきゅうしているようだな。
 なんとかできねーかなあ……。
 でもグロリア嬢預けらんねえしな。

「な、な、な、なにをやってるんですの! まさか、私に隠れて、二人は……」

 と、手を取り合う僕とマーク・リングストンを見て、あらぬ誤解から驚愕きょうがくするグロリア嬢がそこにいた。

「「ち、違う違う違う‼」」

 二人で慌てて否定する。

 マジで人の気も知らないでこの馬鹿令嬢は本当に……。

 その日しばらくグロリア嬢は変な誤解からそわそわしていたが、アイスを食わせて一晩寝かせたら忘れてくれた。

 マーク・リングストンの救援要請ようせああから数日が経った頃、グロリア嬢が御学友であるモーラ・マーコヴィックとルーシィ・コーディの三人でパジャマパーティーなるお泊まり会をするとの話が出てきた。

 これはちょうどいい。

 流石にグロリア嬢だけではなく貴族のモーラ・マーコヴィックがいるところに悪さをするやつもいないだろう。

 万が一なんかあってもルーシィ・コーディがこれまたなかなかの使い手なので、大抵たいていのことならなんとかなるだろう。

 グロリア嬢の私室に集まり、呑気のんきにガールズトークを繰り広げている隙に、僕はリングストン公爵ていへと向かった。

 どっぷり深夜だが適当な見張りに声をかければ中に入れると思っていた。しかし見張りが見つからない。

 みょうだ。

 流石に主が暗殺されるかもしれないってのに見張りも立てないのはおかしい。

 

 と、思いをめぐらせたその時、屋敷の中からまるで何かが床を思い切り踏み抜いたかのような轟音ごうおんが響き渡る。

 事態じたいの異常性をさっした僕はすぐに塀を乗り越えて屋敷に走り出す。

 その間に、いつも脅威きょうい排除はいじょに着用している覆面ふくめんと手袋を付けて屋敷に飛び込む。

 すると、まさに丁度。
 ジャストタイミングでマーク・リングストンが暗殺者であろう女からナイフを振り下ろされようという瞬間だった。

 僕はすんでのところで、暗殺者をぶん殴って食い止める。

「……、あっぶねえだろうが、結構ギリだったぞ……」

 間に合って良かった。

 グロリア嬢の為に、マーク・リングストンを死なせるわけにはいかないのだ。

 だが、背中に刺傷さしきずを負って倒れているのはリングストン公爵か、こちらには間に合わなかったようだ。

「アーチ君!」

 マーク・リングストンは無事なようだが、あわてているようだ。せっかく正体隠してるんだから名前を呼ぶなよ。

「流石に潮時しおどきね……」

 と、僕の打撃を上手く流した暗殺者風の女がつぶやきながら窓へと近づく。

「逃がさねーよ……って、おまえ、名無しか?」

 暗殺者の姿を見て、つい聞いてしまう。
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