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9・女神から聖女を育てるように言われたけど、なんか癪なので魔女として育てます。【全4話】

02プロポーズ。

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 なんて意気込みで魔女育成研究を初めて一ヶ月が経った。

 その一ヶ月で研究はほとん進展しんてんは見せていなかった。

 理由は単純明快たんじゅんめいかい、育児が想像を絶するほどに大変だったのだ。

 子育てを舐めていた。
 無論、私は新生児の育て方も知識として頭の中にそなえている。

 だが、実践じっせんするとなるとこれはまた別の話だった。

 三時間に一度程度ていど授乳じゅうにゅうし。
 一緒に飲み込んだ空気を吐かせて。
 授乳じゅにゅう間隔かんかくの間に汚したおしめを変えて。
 また授乳じゅにゅうして空気を吐かせ。
 それ以外でも泣き止まない時は腕の中で身体をらして。
 おしめを変えて、また授乳じゅにゅうする。

 ちなみに授乳じゅにゅうに関しては、私の豊満ほうまんなバストを持ってしても母乳は出ないので、栄養価を計算し調整して、新生児用の粉乳ふんにゅうを自作した。
 この程度ていどの作業なら造作ぞうさもなかったが、それ以外が大変だった。

 端的たんてきにいうなら、睡眠時間がほとんど無いのだ。

 三時間周期の授乳じゅにゅう間隔かんかくの間におしめの交換や不定期で癇癪かんしゃくのように泣き出すこともあり、長くて一時間程度ていど睡眠がとれれば良い方で、ひどい時には丸二日で三十分も寝れないことなど、ままある。

 今まで研究を行うのに三日三晩寝ずに行うなどざらではあったが、この多忙たぼうさにはお手上げだ。

 当初は余裕こいて、赤ん坊の泣き声のパターンを集計して言語化させて感情パターンを読み取ろうなどと計画していたが、そんな余裕はないし、もうすでに泣き声で何を求めているのかなんとなく体感でわかるようになってしまっている。

 非常にまずい。
 このままでは私の身が持たない。
 私の身が持たないどころか、赤ん坊の育児もむずかしくなってくる。

 このままでは魔女どころか普通に育てることも困難こんなんだ。

 が必要である。

「……、背に腹はかえられないか」

 私は決断すると、急ぎ荷物をまとめて赤ん坊を抱き、協力者の元へ飛んで行った。

 私に友人や家族といえる知人は居ない。
 居たかもしれないが、歳を重ねるのをやめてから二百年も経てば居なくなる。

 しかし一人、あの男も私と同じく百五十年ほど前に歳を重ねるのをやめて、知識の探究にじゅんじて生きているのだ。

「な、なななっ⁉ シェリー‼ まさか産んだのか⁉ 子供を‼」

 久方ぶりに再会した途端とたん血相けっそうを変えるこの男はマリク・ノア、この星最強の探求者だ。

「しー! 静かにしろ……、せっかく眠っているのだから起こすな」

 あわてふためくマリクをたしなめて、私は事情を説明する。

「なるほど……、ついに辿たどり着いたのか、神に……」

 と、マリクはコーヒーを飲みながら私の研究結果を噛みめるように思考しておのれの知識の中へ落とし込む。

「そういうことで、マリク」

 思考する様子をよそに私は本題に入る。

「私の夫となって、一緒にこの子を育てろ」

「ブゥ――――――――――――――ッ‼」

 私の言葉を聞いてマリクはコーヒーをいきおいよく吹き出す。

 いや我ながらとんでもない提案ていあんだと思うが、私は昔、こいつに結婚の申し出をされたことがあるのだ。

 その頃、私とマリクは一緒に暮らして共同研究に明け暮れていた。

 私は男をマリクで知ったし、私の知識体験としてはそれで十分なほどには一緒にいた。
 そんな暮らしの中でこいつは私に結婚申し出たわけだが、私はそれを断った。

 真理の追求だけが私の存在理由だったのだ、結婚なんてものは必要なかった。

 私の現状を理解出来て、私がたよれる唯一ゆいいつの者だが、昔プロポーズを断った相手にたよるというのは流石の私自身どうかしていると思うが。
 それほどまでに私は困窮こんきゅうしているし、限界なのだ。
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