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7・聖女を殺せと送り込まれた暗殺者だけど、改心させられそうです。【全3話】

02人間。

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「貴様はなんだ」

「聖女です」

 考える間もなく、答えられる。
 間髪かんはつ入れずに続けて問う。 

「僕はなんだ」

「人間です」

 これも考える間もなく、答える。

 この日、聖女との時間にしておよそ二分のやり取りで。

 

 すぐに僕は教会で聖女につかえる、修道士しゅうどうしとなった。 

 なんと聖女は僕をらえて突き出すどころか、神官たちに働きかけて教会で神の教えを学べるようにしたのだった。

 自分を殺しに来た人間をそばに置いておくなど理解に苦しんだが、やはり人間ではなく聖女の考えることは人間の僕にはわからないのだろう。

 それに神の加護で死なないのであれば、殺しに来られたって問題もないのだろう。

 武器ではなく、教典きょうてんとロザリオを持ち。

 殺し方ではなく、救い方を学んだ。
 その都度つど聖女にも話を聞きに行った。

 そして、そんな暮らしが三ヶ月ほど過ぎた。

 今日はこの国の式典で、聖女が珍しく民の前に姿を現す日だ。
 三ヶ月教会で暮らして得た知識であれば、聖女が祈る姿を見れるだけでも救いを得られる人間もいる。
 ゆえに、こういった式典も聖女の大事な役目だ。

 修道女しゅうどうじょたちによる賛美歌さんびか
 神官たちによる、神の教えの話。
 貴族たちによる、教会への感謝の弁など。

 式典はとどこおりなく進行していく。  

 僕は神の教えに対して、大勢おおぜいの人間が秩序ちつじょだって一つの物事を成しげて行く姿を初めて目の当たりにして、少し感動すら覚えつつあった。

 三ヶ月前まででは考えられないような変化だ。

 僕は人間になった。
 これが神のみちびきでなくてなんだといえるんだ。

 そして、式典はいよいよ聖女の出番となった。
 正装に着飾った聖女が壇上だんじょうに上がる。

 僕はその姿をしっかり視界にとらえるために、おのずと壇上だんじょうの方へ身体を進めてしまう。

 僕の他にもそういった人は居るみたいで、民たちを押し退けてまで前に出ようとする人を数人見つける。

 やがて人混みから抜けて一直線に、聖女へと向かう。

 

 あれらは聖女暗殺の為に送り込まれた、僕の次の刺客しきゃくだ。

 もはやこれだけ衆目しゅうもくさらされて暗殺もなにもないが、聖女が人間に殺された事実を一瞬で周知させるには絶好の機会だ。

 抜かった、油断していた。

 僕はとりあえず体術のみで一人、叩き伏せる。
 続けてもう一人の首をじる。

 さらにもう一人は肋骨あばらぼねをへし折りそのまま肺に突き刺す。

 最後の一人は階段から引きづり降ろしてそのまま頭から床に叩きつけた。

 辺りを見回して他の刺客しきゃくを探すが、脅威きょうい排除はいじょできたようだ。

 遅れて城から配備はいびされた兵士たちが刺客しきゃくたちの拘束こうそくと聖女の保護を行う為に壇上だんじょうに上がってくる。

 僕も聖女の警備の為に聖女のそばに寄ろうとしたが、ふと思う。

 
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