8 / 132
3・聖女の私が婚約破棄で追放? そんなこともあろうかと、爆弾を仕掛けておきましたわ。【全3話】
01私は知らないのです。
しおりを挟む
私、ジュリアナ・ロックハートは、この国の聖女であると同時に、この国の第二王子の婚約者です。
この国に安寧と幸福を与え。
夫となる、第二王子のジャレッド・メルバリアを愛して。
この国と夫に一生仕える為に生まれて、その為に育ち、その為に生きる。
それが私。
聖女であることを苦に思ったことは一度だって無い。
だって、私が祈れば民達が救われて笑顔になるのでしょう。
皆が幸福で豊かな国に導けるのでしょう。
それが私の幸せなのです。
そうやって教えられてきましたし、そうなのだろうとしか、殆ど教会から出たことが無く、たまの外出でも城にしか行ったことのない私は答えを持ちません。
知らないものの為に祈り、知らないものの為に生きる。
おかしいでしょうか?
それすら、私は知らないのです。
何も知らないですが、それでも良いと私は思っておりました。
だって何も知らないのですから、比較対象が無ければ知れることもないのです。
自分が無知だということすら知らないのですから、無知の知すら知らないほどの無知を、私は知らないのです。
彼が現れるまで、私は何も知らなかったのです。
彼、エリック・バーネットは若き聖職者でした。
今思えば、素行の悪い若者だったのでしょう。
彼は隠れて私に会いに来ては、会う度に様々な話をしてくれました。
天気のこと、食べ物のこと、街のこと、流行りの遊び、民の暮らし、天体、生活水準、一般的な家族構成、恋愛、婚姻制度、法律、教育制度、出生率、生殖行為、妊娠、出産、国の歴史、政治体制、貨幣相場、経済状況、物流、食料自給率、軍事、兵器、異国のこと、外交関係、輸出入のこと、教会の立ち位置、他宗派の教え、文明の発展度、科学技術、などなど。
何を聞いても答えてくれて、答えられないことも調べて答えを持ってきてくれました。
彼の答えは出来るだけ彼の主観性を排除して、客観的なものとして答えてくれました。
私は彼により、知識を獲ました。
それは私が彼に与えられたものの中で何より素晴らしく、何より甘く、何より優しいものだと思いました。
彼に何かお礼をしたかったのですが、私は祈ることしか知らないので何か具体的なお礼が出来ないか彼に直接問いました。
彼から獲た知識の中で私が彼に与えられるものといえば、この身体くらいだと思いましたが……婚約者がいるといっても私にそういった経験はないし、彼を喜ばせるほどの価値が私の身体にあるとも思えませんでした。
しかし彼が求めたのは、私の知識の外のものでした。
「俺は、君に頼られたい。何でもいい、俺に頼み事をしてくれ、君の為だけに君の願いを叶えたいんだ」
と、彼は言う。
彼の意図は知りませんが、そう言うのであればと。
「では、一つだけ――――」
と、私は彼に頼み事を言う。
きっと、この頼みが必要になる時が来るだろう。
私は彼から獲た知識で、少し予想を立てられるようになったのでした。
そして、一年と数ヶ月の後。
その予想は見事に的中し、私は今。
「ジュリアナ・ロックハート、貴方には聖女としての役目を退任し、同時に第二王子との婚約も白紙とし、自主と自立を目的として教会の外で人間らしい暮らしをしてもらう」
と、主要貴族と王族に囲まれる中で国王直々にそう言われたのであった。
やっぱり。
彼から獲た知識で予想した通りでした。
文明の発展度や、民の暮らし、経済状況、教会の立ち位置などのあらゆる角度から見ても。
どう考えても私は要らないのだ。
この国はもう、聖女を必要としていない。
既に神に祈り続けなくとも、自立して生きていける力を身につけている。
宗教的な理由でティーンエイジャーを教会に閉じ込めておくことは最早、倫理的な観点から国家においてマイナスに働きかねないところまでこの国は文化的な暮らしが出来るようになっているのです。
「私は棄てられる、ということなのでしょうか」
と、私は王に問う。
「……、そう捉えられても仕方がないことなのかもしれないが、これは――」
王の答えを待たず、私は言う。
「そんなこともあろうかと、あらかじめこの国に爆弾を仕掛けておきました」
と、高らかに宣ってみせる。
この国に安寧と幸福を与え。
夫となる、第二王子のジャレッド・メルバリアを愛して。
この国と夫に一生仕える為に生まれて、その為に育ち、その為に生きる。
それが私。
聖女であることを苦に思ったことは一度だって無い。
だって、私が祈れば民達が救われて笑顔になるのでしょう。
皆が幸福で豊かな国に導けるのでしょう。
それが私の幸せなのです。
そうやって教えられてきましたし、そうなのだろうとしか、殆ど教会から出たことが無く、たまの外出でも城にしか行ったことのない私は答えを持ちません。
知らないものの為に祈り、知らないものの為に生きる。
おかしいでしょうか?
それすら、私は知らないのです。
何も知らないですが、それでも良いと私は思っておりました。
だって何も知らないのですから、比較対象が無ければ知れることもないのです。
自分が無知だということすら知らないのですから、無知の知すら知らないほどの無知を、私は知らないのです。
彼が現れるまで、私は何も知らなかったのです。
彼、エリック・バーネットは若き聖職者でした。
今思えば、素行の悪い若者だったのでしょう。
彼は隠れて私に会いに来ては、会う度に様々な話をしてくれました。
天気のこと、食べ物のこと、街のこと、流行りの遊び、民の暮らし、天体、生活水準、一般的な家族構成、恋愛、婚姻制度、法律、教育制度、出生率、生殖行為、妊娠、出産、国の歴史、政治体制、貨幣相場、経済状況、物流、食料自給率、軍事、兵器、異国のこと、外交関係、輸出入のこと、教会の立ち位置、他宗派の教え、文明の発展度、科学技術、などなど。
何を聞いても答えてくれて、答えられないことも調べて答えを持ってきてくれました。
彼の答えは出来るだけ彼の主観性を排除して、客観的なものとして答えてくれました。
私は彼により、知識を獲ました。
それは私が彼に与えられたものの中で何より素晴らしく、何より甘く、何より優しいものだと思いました。
彼に何かお礼をしたかったのですが、私は祈ることしか知らないので何か具体的なお礼が出来ないか彼に直接問いました。
彼から獲た知識の中で私が彼に与えられるものといえば、この身体くらいだと思いましたが……婚約者がいるといっても私にそういった経験はないし、彼を喜ばせるほどの価値が私の身体にあるとも思えませんでした。
しかし彼が求めたのは、私の知識の外のものでした。
「俺は、君に頼られたい。何でもいい、俺に頼み事をしてくれ、君の為だけに君の願いを叶えたいんだ」
と、彼は言う。
彼の意図は知りませんが、そう言うのであればと。
「では、一つだけ――――」
と、私は彼に頼み事を言う。
きっと、この頼みが必要になる時が来るだろう。
私は彼から獲た知識で、少し予想を立てられるようになったのでした。
そして、一年と数ヶ月の後。
その予想は見事に的中し、私は今。
「ジュリアナ・ロックハート、貴方には聖女としての役目を退任し、同時に第二王子との婚約も白紙とし、自主と自立を目的として教会の外で人間らしい暮らしをしてもらう」
と、主要貴族と王族に囲まれる中で国王直々にそう言われたのであった。
やっぱり。
彼から獲た知識で予想した通りでした。
文明の発展度や、民の暮らし、経済状況、教会の立ち位置などのあらゆる角度から見ても。
どう考えても私は要らないのだ。
この国はもう、聖女を必要としていない。
既に神に祈り続けなくとも、自立して生きていける力を身につけている。
宗教的な理由でティーンエイジャーを教会に閉じ込めておくことは最早、倫理的な観点から国家においてマイナスに働きかねないところまでこの国は文化的な暮らしが出来るようになっているのです。
「私は棄てられる、ということなのでしょうか」
と、私は王に問う。
「……、そう捉えられても仕方がないことなのかもしれないが、これは――」
王の答えを待たず、私は言う。
「そんなこともあろうかと、あらかじめこの国に爆弾を仕掛けておきました」
と、高らかに宣ってみせる。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
【完結】私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか
あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。
「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」
突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。
すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。
オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……?
最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意!
「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」
さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は?
◆小説家になろう様でも掲載中◆
→短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?
曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」
エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。
最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。
(王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様)
しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……?
小説家になろう様でも更新中
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる