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3・聖女の私が婚約破棄で追放? そんなこともあろうかと、爆弾を仕掛けておきましたわ。【全3話】

01私は知らないのです。

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 私、ジュリアナ・ロックハートは、この国の聖女であると同時に、この国の第二王子の婚約者です。

 この国に安寧あんねいと幸福をあたえ。
 夫となる、第二王子のジャレッド・メルバリアを愛して。
 この国と夫に一生つかえる為に生まれて、その為に育ち、その為に生きる。

 それが私。

 聖女であることを苦に思ったことは一度だって無い。

 だって、私が祈れば民達が救われて笑顔になるのでしょう。
 皆が幸福で豊かな国にみちびけるのでしょう。

 それが私の幸せなのです。

 そうやって教えられてきましたし、そうなのだろうとしか、ほとんど教会から出たことが無く、たまの外出でも城にしか行ったことのない私は答えを持ちません。

 知らないものの為に祈り、知らないものの為に生きる。

 おかしいでしょうか?
 それすら、私は知らないのです。

 何も知らないですが、それでも良いと私は思っておりました。

 だって何も知らないのですから、比較ひかく対象が無ければ知れることもないのです。

 自分が無知だということすら知らないのですから、無知の知すら知らないほどの無知を、私は知らないのです。

 

 彼、エリック・バーネットは若き聖職者でした。

 今思えば、素行そこうの悪い若者だったのでしょう。
 彼は隠れて私に会いに来ては、会う度に様々な話をしてくれました。

 天気のこと、食べ物のこと、街のこと、流行りの遊び、民の暮らし、天体、生活水準すいじゅん、一般的な家族構成、恋愛、婚姻制度、法律、教育制度、出生率、生殖行為、妊娠、出産、国の歴史、政治体制、貨幣相場、経済状況、物流、食料自給率、軍事、兵器、異国のこと、外交関係、輸出入のこと、教会の立ち位置、他宗派の教え、文明の発展度、科学技術、などなど。

 何を聞いても答えてくれて、答えられないことも調べて答えを持ってきてくれました。
 彼の答えは出来るだけ彼の主観性を排除はいじょして、客観的なものとして答えてくれました。

 私は彼により、知識をました。

 それは私が彼にあたえられたものの中で何より素晴らしく、何より甘く、何より優しいものだと思いました。

 彼に何かお礼をしたかったのですが、私は祈ることしか知らないので何か具体的なお礼が出来ないか彼に直接問いました。

 彼からた知識の中で私が彼にあたえられるものといえば、この身体くらいだと思いましたが……婚約者がいるといっても私にそういった経験はないし、彼を喜ばせるほどの価値が私の身体にあるとも思えませんでした。

 しかし彼が求めたのは、私の知識の外のものでした。

「俺は、君にたよられたい。何でもいい、俺にたのみ事をしてくれ、君の為だけに君の願いを叶えたいんだ」

 と、彼は言う。

 彼の意図いとは知りませんが、そう言うのであればと。

「では、一つだけ――――」

 と、私は彼にたのみ事を言う。

 きっと、このたのみが必要になる時が来るだろう。
 私は彼からた知識で、少し予想を立てられるようになったのでした。

 そして、一年と数ヶ月の後。

 その予想は見事に的中し、私は今。

「ジュリアナ・ロックハート、貴方きほうには聖女としての役目を退任たいにんし、同時に第二王子との婚約も白紙とし、自主と自立を目的として教会の外で人間らしい暮らしをしてもらう」

 と、主要貴族と王族に囲まれる中で国王直々にそう言われたのであった。

 やっぱり。

 彼からた知識で予想した通りでした。

 文明の発展度や、民の暮らし、経済状況、教会の立ち位置などのあらゆる角度から見ても。

 

 この国はもう、聖女を必要としていない。

 すでに神に祈り続けなくとも、自立して生きていける力を身につけている。

 宗教的な理由でティーンエイジャーを教会に閉じ込めておくことは最早もはや、倫理的な観点から国家においてマイナスに働きかねないところまでこの国は文化的な暮らしが出来るようになっているのです。

「私はてられる、ということなのでしょうか」

 と、私は王に問う。

「……、そうとらえられても仕方がないことなのかもしれないが、これは――」

 王の答えを待たず、私は言う。



 と、高らかにのたまってみせる。
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