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2・平民の私が聖女に選ばれたと思ったら、早速追放の危機なんて……。【全4話】
02聖人君子の正しい立派な人間。
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子供の頃に一度だけ荷馬車の隙間から海を見たことがある、その時にいつかあの大きな水溜まりに飛び込んでみたいと心に決めたのだ。
その時は鎖に繋がれていたので出来なかったが、今なら幼き日の私の決意を毎日だって叶えてやることができる。
それが私の密かな夢なのである。
なんて、初めて入る教会に圧倒されて幼き日からの夢まで思い返していると、一人の男が声をかけてきた。
「おや、貴女がシスタークレアですね。お会い出来ることを楽しみにしておりました」
スラリと長い脚で、歳は三十前後、優しい笑顔で現れたこの男が今回の標的であるこの教会の司祭だ。
「お初にお目にかかります司祭様。サウスメルバ教会から参りました、シスタークレアです。よろしくお願いします」
と、シナリオ通りの返答をしながら頭の中で、とりあえず今この場で出来る十三通りの方法で司祭を殺す。
十三通り中全ての方法がこの場では目撃者を生んでしまう為、実行は不可だった。
教会内には他のシスター達や、教会が運営している孤児院の子供たち、礼拝にくる市民達など人目はかなり多い。
安直だが実行するなら夜中、寝静まってからだろう。
文字通り寝首を搔く。
まあ寝首を搔くだけなら夜中に教会の外から司祭の部屋に忍び込めば良いと思う人もいるだろうが、内部の警備の情報も必要になるし外部への警戒と内部への不用心さというのは雲泥の差だ。
なんてことを考えて、司祭が自ら先導して教会を案内してくれているのを聞き流す。
というか、こいつは暇なのか? 自分から案内をするなんて。
しかしながらこの司祭人望はあるようだ。
案内中もシスターやら孤児院の子供たちやらに親しげに話しかけられ丁寧に返していた。
案内後の食事や祈りなどの時間も終わりおおよそのルールもわかった。
朝が早く寝るのも早い、祈りと掃除とその他諸々の雑務をして祈る。
予想通りだ。
ただ思った以上に消灯後の外出に関しては厳しく取りしまわれているようだ。
司祭の側近である数名の男性聖教者により交代で見回りもしているとのこと。
理由としては、孤児院の子供たちやシスターたちを不届き者から守る為とのことだ。
まあわからなくはないし立派な心がけだと思うが、不届き者の私としては迷惑千万な話である。
夜中に出回れないとなると見回りのルートや時間も調べられない。
とはいえ、今回の標的は司祭なのだ。
そのルールを設けている司祭本人が、私を部屋に招くようにし向ければ良いのだ。
司祭がどんなに聖人君子の正しい立派な人間だろうと、女は抱くだろう。
これも安直だがベターな手段ではある。少なくともこの手で十人の男は死んだ、というか殺せた。
司祭が私に被さった時に首をとってやればいい。
とりあえず初日から不審な行動は避けたいので消灯後はすぐに寝ることにした。
消灯後は寝るか祈るかしかない、なら私は寝るしかない。
次の日から私は司祭に対して露骨にアプローチを重ねた。
偶然を装い身体を触り、触らせて「真面目な人って素敵ですよね」的なことを言いつつ「真面目なだけじゃなくて大胆な人も好き」みたいな隙を出して、餌を撒いていた。
だが一向に司祭が乗ってくることはなかった。
助平野郎ならもうとっくに童貞野郎でも踏み切れる程度には誘惑しているが、なんなら注意や心配をされてしまう始末だった。
なんなんだこいつは? 本当に聖人君子などいるのか? 神とやらを信じることで人間はこんなにも欲を捨て去ることが出来るのか?
私はやや興味を惹かれつつあった。
もしも、この男がそこまで信じることが出来る神様なんてものが居たとして神様とやらは私がこの男を殺すことを黙って見逃すのだろうか。
まあ殺してみればわかることか。
殺せれば関係ない、神なんてものはやはりいないのだ。
しかし、もしも私がしくじるようなことがあれば、もしかすると神は本当にいるのかもしれないのだ。
そんなことを考えながら司祭と共に孤児院の子供たちと遊ぶ。
司祭は身寄りのない子供たちのことをとても大切にしている。
子供たちへの教養や職業訓練などの取り組みにも積極的で、大人になってからも困らないように生きられるように自立を促している。
そういった教育を幼き日から受けられるというのはかなり良いことだと育ちの悪い私は素直に思うし、羨ましく思えた。
そんな子供たちに司祭は、将来の夢について尋ねた。
子供たちは思い思いに、パン屋であったり、兵士であったり、歌手や絵描き、教師や医者、そして聖職者、と次々に夢を語った。
その流れの中で司祭は。
「シスタークレア、貴女の夢はなんですか?」
と、私に問う。
その時は鎖に繋がれていたので出来なかったが、今なら幼き日の私の決意を毎日だって叶えてやることができる。
それが私の密かな夢なのである。
なんて、初めて入る教会に圧倒されて幼き日からの夢まで思い返していると、一人の男が声をかけてきた。
「おや、貴女がシスタークレアですね。お会い出来ることを楽しみにしておりました」
スラリと長い脚で、歳は三十前後、優しい笑顔で現れたこの男が今回の標的であるこの教会の司祭だ。
「お初にお目にかかります司祭様。サウスメルバ教会から参りました、シスタークレアです。よろしくお願いします」
と、シナリオ通りの返答をしながら頭の中で、とりあえず今この場で出来る十三通りの方法で司祭を殺す。
十三通り中全ての方法がこの場では目撃者を生んでしまう為、実行は不可だった。
教会内には他のシスター達や、教会が運営している孤児院の子供たち、礼拝にくる市民達など人目はかなり多い。
安直だが実行するなら夜中、寝静まってからだろう。
文字通り寝首を搔く。
まあ寝首を搔くだけなら夜中に教会の外から司祭の部屋に忍び込めば良いと思う人もいるだろうが、内部の警備の情報も必要になるし外部への警戒と内部への不用心さというのは雲泥の差だ。
なんてことを考えて、司祭が自ら先導して教会を案内してくれているのを聞き流す。
というか、こいつは暇なのか? 自分から案内をするなんて。
しかしながらこの司祭人望はあるようだ。
案内中もシスターやら孤児院の子供たちやらに親しげに話しかけられ丁寧に返していた。
案内後の食事や祈りなどの時間も終わりおおよそのルールもわかった。
朝が早く寝るのも早い、祈りと掃除とその他諸々の雑務をして祈る。
予想通りだ。
ただ思った以上に消灯後の外出に関しては厳しく取りしまわれているようだ。
司祭の側近である数名の男性聖教者により交代で見回りもしているとのこと。
理由としては、孤児院の子供たちやシスターたちを不届き者から守る為とのことだ。
まあわからなくはないし立派な心がけだと思うが、不届き者の私としては迷惑千万な話である。
夜中に出回れないとなると見回りのルートや時間も調べられない。
とはいえ、今回の標的は司祭なのだ。
そのルールを設けている司祭本人が、私を部屋に招くようにし向ければ良いのだ。
司祭がどんなに聖人君子の正しい立派な人間だろうと、女は抱くだろう。
これも安直だがベターな手段ではある。少なくともこの手で十人の男は死んだ、というか殺せた。
司祭が私に被さった時に首をとってやればいい。
とりあえず初日から不審な行動は避けたいので消灯後はすぐに寝ることにした。
消灯後は寝るか祈るかしかない、なら私は寝るしかない。
次の日から私は司祭に対して露骨にアプローチを重ねた。
偶然を装い身体を触り、触らせて「真面目な人って素敵ですよね」的なことを言いつつ「真面目なだけじゃなくて大胆な人も好き」みたいな隙を出して、餌を撒いていた。
だが一向に司祭が乗ってくることはなかった。
助平野郎ならもうとっくに童貞野郎でも踏み切れる程度には誘惑しているが、なんなら注意や心配をされてしまう始末だった。
なんなんだこいつは? 本当に聖人君子などいるのか? 神とやらを信じることで人間はこんなにも欲を捨て去ることが出来るのか?
私はやや興味を惹かれつつあった。
もしも、この男がそこまで信じることが出来る神様なんてものが居たとして神様とやらは私がこの男を殺すことを黙って見逃すのだろうか。
まあ殺してみればわかることか。
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しかし、もしも私がしくじるようなことがあれば、もしかすると神は本当にいるのかもしれないのだ。
そんなことを考えながら司祭と共に孤児院の子供たちと遊ぶ。
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子供たちへの教養や職業訓練などの取り組みにも積極的で、大人になってからも困らないように生きられるように自立を促している。
そういった教育を幼き日から受けられるというのはかなり良いことだと育ちの悪い私は素直に思うし、羨ましく思えた。
そんな子供たちに司祭は、将来の夢について尋ねた。
子供たちは思い思いに、パン屋であったり、兵士であったり、歌手や絵描き、教師や医者、そして聖職者、と次々に夢を語った。
その流れの中で司祭は。
「シスタークレア、貴女の夢はなんですか?」
と、私に問う。
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