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2・平民の私が聖女に選ばれたと思ったら、早速追放の危機なんて……。【全4話】
01教会の中。
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初めに謝っておく、すまない。いや本当に。
これを見ている方々は、まるで私が突然聖女に選ばれて。
教会での修行が始まったのになんかしらの陰謀で追放されそうになるのを。
なんだかんだドタバタと、王子やら騎士やらとの、恋あり友情ありで乗り越えて。
最後は大逆転のハッピーエンドで大団円。
みたいなものを期待してここを開いたと思う。
すまない、あれは嘘だ。ごめんなさい。
私は聖女なんてものには選ばれもしないし、神を信じる機会に恵まれたこともないし、基本的に嘘吐きだ。
嘘をつくのが下手くそな嘘吐きという救いようもない愚か者であり、嘘がバレる前に謝ってしまうことがほとんどだ。
この国の人間ですらない私は平民という身分なのかすら怪しい。
王子なんて名前すら知らない。
まあまあ、しかし待ってくれ。
せっかく覗いていったんだ。
聖女も神も仏もないし友情もないが、私の仕事の話と私のちょっとした初恋の話を見ていってくれ。
ドタバタと、恋心と、できる限りのハッピーエンドをお見せしよう。
これも何かの縁だ、せいぜい面白がってもらいたい。
どうぞ、よしなに。
私は今、クレア・クレメンテと名乗っている。
名前は定期的に変えてしまうし、最初の名前も覚える前に変えてしまったので、私は本名というものを持ち合わせていないが、今はクレア・クレメンテとして生きている。
歳は十五の次から数えるのを止めてしまったが、恐らく二十代半ばといったところだろう。
ここまでの説明を見ていただけたのであれば、おおよその見当はついたと思うが。
私は生まれも育ちも控えめにいって劣悪であり、他所様から見たら破綻しているような生き方をしている女だ。
盗みも働いたし、集団で人も襲った。
身体を売っていたこともあるが、どうも私には客相手によがってみせる才能が無いらしい。
下手くそ相手に喜んでいる嘘すら、まともにつけないのだから、向いていない。
二人ほど客を取ったところで辞めてしまった。
しかして、下手くそな二人の客の二人目に私は今の仕事を紹介された。
身体を売るより簡単で、手っ取り早く、金になる仕事。
殺し、である。
どこどこの誰々をいついつに殺して、名前を変えればいくらいくらといった仕事だ。
どうやら私にはこちらの才能はあったようで、二人目の客の組織に拾われ、腕を磨いた。
こちらの仕事は順調に行き、十五の次からは人数を数えるのを止めたほどだ。
組織の中には私を暗殺者だとか呼ぶ奴らもいるが、私は暗殺者なんて大義のために技術を磨いて、時には刺し違える覚悟すら持つような崇高なものじゃあない。
盗んだ物を売るように、女であることを売るように、殺しを売って金にしているだけだ。
違法であることに目を瞑れば、概ねありふれた職業といえなくもない。
今回もそんな、少なくとも十五回目以降である私の仕事の話だ。
「…………、っふぅー……」
組織から受け取った今回の標的の身辺情報を燃やしながら私は煙草を吹かす。
この一本を吸い終わったらしばらく煙草はお預けだ。
吸い終わったら一度シャワーを浴びなくては。
煙草の匂いは消しておかなくてはならない。
今回の標的は、とある教会にいる司祭の……。やっべ名前なんだっけ身辺情報の書類燃やしちゃったよ。
まあいい、今回の仕事は私自身もその教会に住み込みでシスターとして潜り込み、ある程度の信頼を得てから寝首を掻くことだ。
何度でも名前を聞き出す機会はある。
写真で顔はしっかりと覚えた、ただ殺すだけならこの程度は支障ない。
教会でシスターとして生活する以上、煙草の匂いを纏わせていてはならないし、教会内は禁煙だ。
煙草も酒もしばらくはお預けである。
簡単な内容の仕事ではあるが、こういった点だけを切り取れば今回の仕事はやや辛い部類にはいるだろう。
今までも、娼婦やウエイトレス、清掃員や料理人、教師や医者なんてのに化けることもあった。
私は嘘をつくのが下手なので、何かに化ける際にはその時だけでも本当にその職業を全うするようにしている。
育ちの悪い私が様々な職業を体験出来るという点だけを切り取れば、そういった仕事は楽しくもある。
シスターになるのは初めてだったので、事前準備として聖書とやらを熟読しておいた。
とりあえず中身の架空の与太話は頭に叩きこんであるので、信仰心がまるで無いこと以外は問題ないだろう。
さて、シャワー浴びて髪を乾かし修道服に着替えた私は標的のいる教会へと到着した。
教会の中に入ることすら初めてだった私の率直な感想としては、思った以上に教会って儲かるんだな。と、思った。
凝った装飾の家具や、壁画や石像、手入れの行き届いたステンドグラス、他のシスターの修道服も清潔でしっかりと洗剤を使って洗われていることが見て取れた。
これだけの金が集まるなら、そりゃ命の一つや二つ狙われる。
私は金の為に人を殺す。
人を殺して一般的な仕事では得られないような大金を得ている。
しかして、私は金を煙草と少しの酒くらいにしか使わない。
理由は簡単、私がこの仕事を続けられるのはせいぜい長めに見積っても後十年程度だろう。
なので、この仕事を引退した後に余生を過ごすために蓄えている。
それなりに質素な暮らしであればもう余生を過ごせる程度の蓄えはあるのだろうが、私にはちょっとした夢がある。
気候の穏やかな国で海の見える丘に、家を建てたいのだ。
これを見ている方々は、まるで私が突然聖女に選ばれて。
教会での修行が始まったのになんかしらの陰謀で追放されそうになるのを。
なんだかんだドタバタと、王子やら騎士やらとの、恋あり友情ありで乗り越えて。
最後は大逆転のハッピーエンドで大団円。
みたいなものを期待してここを開いたと思う。
すまない、あれは嘘だ。ごめんなさい。
私は聖女なんてものには選ばれもしないし、神を信じる機会に恵まれたこともないし、基本的に嘘吐きだ。
嘘をつくのが下手くそな嘘吐きという救いようもない愚か者であり、嘘がバレる前に謝ってしまうことがほとんどだ。
この国の人間ですらない私は平民という身分なのかすら怪しい。
王子なんて名前すら知らない。
まあまあ、しかし待ってくれ。
せっかく覗いていったんだ。
聖女も神も仏もないし友情もないが、私の仕事の話と私のちょっとした初恋の話を見ていってくれ。
ドタバタと、恋心と、できる限りのハッピーエンドをお見せしよう。
これも何かの縁だ、せいぜい面白がってもらいたい。
どうぞ、よしなに。
私は今、クレア・クレメンテと名乗っている。
名前は定期的に変えてしまうし、最初の名前も覚える前に変えてしまったので、私は本名というものを持ち合わせていないが、今はクレア・クレメンテとして生きている。
歳は十五の次から数えるのを止めてしまったが、恐らく二十代半ばといったところだろう。
ここまでの説明を見ていただけたのであれば、おおよその見当はついたと思うが。
私は生まれも育ちも控えめにいって劣悪であり、他所様から見たら破綻しているような生き方をしている女だ。
盗みも働いたし、集団で人も襲った。
身体を売っていたこともあるが、どうも私には客相手によがってみせる才能が無いらしい。
下手くそ相手に喜んでいる嘘すら、まともにつけないのだから、向いていない。
二人ほど客を取ったところで辞めてしまった。
しかして、下手くそな二人の客の二人目に私は今の仕事を紹介された。
身体を売るより簡単で、手っ取り早く、金になる仕事。
殺し、である。
どこどこの誰々をいついつに殺して、名前を変えればいくらいくらといった仕事だ。
どうやら私にはこちらの才能はあったようで、二人目の客の組織に拾われ、腕を磨いた。
こちらの仕事は順調に行き、十五の次からは人数を数えるのを止めたほどだ。
組織の中には私を暗殺者だとか呼ぶ奴らもいるが、私は暗殺者なんて大義のために技術を磨いて、時には刺し違える覚悟すら持つような崇高なものじゃあない。
盗んだ物を売るように、女であることを売るように、殺しを売って金にしているだけだ。
違法であることに目を瞑れば、概ねありふれた職業といえなくもない。
今回もそんな、少なくとも十五回目以降である私の仕事の話だ。
「…………、っふぅー……」
組織から受け取った今回の標的の身辺情報を燃やしながら私は煙草を吹かす。
この一本を吸い終わったらしばらく煙草はお預けだ。
吸い終わったら一度シャワーを浴びなくては。
煙草の匂いは消しておかなくてはならない。
今回の標的は、とある教会にいる司祭の……。やっべ名前なんだっけ身辺情報の書類燃やしちゃったよ。
まあいい、今回の仕事は私自身もその教会に住み込みでシスターとして潜り込み、ある程度の信頼を得てから寝首を掻くことだ。
何度でも名前を聞き出す機会はある。
写真で顔はしっかりと覚えた、ただ殺すだけならこの程度は支障ない。
教会でシスターとして生活する以上、煙草の匂いを纏わせていてはならないし、教会内は禁煙だ。
煙草も酒もしばらくはお預けである。
簡単な内容の仕事ではあるが、こういった点だけを切り取れば今回の仕事はやや辛い部類にはいるだろう。
今までも、娼婦やウエイトレス、清掃員や料理人、教師や医者なんてのに化けることもあった。
私は嘘をつくのが下手なので、何かに化ける際にはその時だけでも本当にその職業を全うするようにしている。
育ちの悪い私が様々な職業を体験出来るという点だけを切り取れば、そういった仕事は楽しくもある。
シスターになるのは初めてだったので、事前準備として聖書とやらを熟読しておいた。
とりあえず中身の架空の与太話は頭に叩きこんであるので、信仰心がまるで無いこと以外は問題ないだろう。
さて、シャワー浴びて髪を乾かし修道服に着替えた私は標的のいる教会へと到着した。
教会の中に入ることすら初めてだった私の率直な感想としては、思った以上に教会って儲かるんだな。と、思った。
凝った装飾の家具や、壁画や石像、手入れの行き届いたステンドグラス、他のシスターの修道服も清潔でしっかりと洗剤を使って洗われていることが見て取れた。
これだけの金が集まるなら、そりゃ命の一つや二つ狙われる。
私は金の為に人を殺す。
人を殺して一般的な仕事では得られないような大金を得ている。
しかして、私は金を煙草と少しの酒くらいにしか使わない。
理由は簡単、私がこの仕事を続けられるのはせいぜい長めに見積っても後十年程度だろう。
なので、この仕事を引退した後に余生を過ごすために蓄えている。
それなりに質素な暮らしであればもう余生を過ごせる程度の蓄えはあるのだろうが、私にはちょっとした夢がある。
気候の穏やかな国で海の見える丘に、家を建てたいのだ。
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