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1・男はただ、誰かと話したかっただけなのに。

1.これには参った。

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 いーや困ったね。
 こいつは流石に参った。 

 俺――、いや名前なんかはどうでもいいか……。

 とにかく俺はこないだ異世界に飛ばされてきた、いわゆる異世界転生……転移? なんかそう言う奴だ。

 いーやマジに、公園で昼寝してて起きたら知らねえ場所で。

 最初はなんか変な輩に拉致られて海外に連れてかれたのかと思ったけど、わけのわからん生き物には襲われるし、なんというか昔の理不尽で怖いファンタジーじゃなくて昨今のライトなファンタジー世界っぽい感じが至る所に散りばめられている。

 化け物をぶっ飛ばすとちょいちょいポップアップウインドウみたいなんが出たり、化け物の手元とか何もねえところから火の玉だとかが飛んできたり、なんつーかゲームみたいな異世界っぽいんだけど。

 俺もこういう感じの話は何個か見たことある程度で詳しかねえ、なんか神様的なやつから説明をされたわけでもねえし目的もわからねえ。

 というか俺はいわゆる異世界転生モノを完結まで見たことがねえからなのかもしれんけど、こういうののベタな目的ってなんなんだ? 家に帰るとかなのか?

 ほら大秘宝みっけて海賊の王になるとか、忍者の長になるだとか、能動的な目的意識を持って始まる話じゃねえじゃん。

 かといって何をしたら帰れるよとかのヒントもなけりゃ、パートナーとなる愛らしくもかっこいい進化の時のBGMがやたら熱いデジタルな怪物もいねえ。

 まあここまでは百歩譲って、まだ良い。

 誰だって常になんかある。
 別に語るつもりもないし、堂々と語れるような美談はないけど俺の二十余年程度の人生ですらそれなりに劇的だった。

 愛すべき家族もいなけりゃ親しい友人もいねえし、無論可愛い恋人もいやしねえ。

 金もねえし、地位や名誉もねえ、強いていうなら読んでた漫画の続きが気になる程度だけど十年は終わらねえらしいからそれまで生きてられるかもわからねえ。

 特に悔いもない、別に俺は何処でも生きていける。

 だから目的不明で異世界だのわけのわからんもんに巻き込まれんのは、まあ良い。

 ただ、一つ。
 大問題が一つ。

「バーヌイザイラッマ、ラタナマザバリ!」

 目の前の門番風の男は何かを熱く、俺に訴えかける。

 いやこれ、マジに。

 いっっっっ個もわかんねえってえ!

 いやマジにどうにか動詞か名詞を特定出来りゃあ、その動詞を疑問文的な感じで聞き返してボディランゲージでなんとかするって言うのも試そうとしたけど無理だ。

 そもそも特定が出来ねえというか、結構何回も多分同じようなことを俺に言ってるんだと思うけど、毎回ニュアンスが違うように聞こえちまう。

 いーやそりゃそうよ。
 日本だって飛行機でたかだか数時間飛ぶだけで海外の言語は全然ちげえ。
 ましてや異世界、根本的な文化も違う世界で文法やらのルールが全く違って然りなのよ。

 やっとこさ状況を把握して、やっとこさ見つけた街っぽいところで、やっとこさ見つけた第一異世界住民に、まさかこんな形で心を折られると思わなかった。

 嫌な予感はしてたんだよ……、だってポップアップウインドウの文字も一つも読めなかったんだもの。

 道中暇つぶしに解読してみようと思ったけど無理だ。フォントの癖なのかなんなのかわからないけど全く同じはずの文字が、絶対違う意味で何個も連続して登場したりするので折れた。

 外国の方から見た『明日は日曜日』くらい、難解な文字列が存在するらしい。

 いーやこれには参った。

 かれこれ三十分くらい門番のおっさんは何やら訴え続けているが本当にわからん。

 最初はよそ者は入るな! 的なことだと思って仕方ないから去ろうとしたら、それはそれで怒鳴られ。
 じゃあ一旦中に入れてもらえるのかと思えばそうでもなく。

 頭に疑問符を浮かべてマヌケづらではあるが、そろそろおっさんに申し訳なくなって来た頃には、俺とおっさんの周りに人が集まってきて何やらちゃちゃを入れているがそれもよくわからん。

 だーみだこりゃ。

 途方に暮れそうなところに、何やらおっさんに声をかけて交代をする男。様子から見るに多分おっさんの上長だろうか。

「アヴァヒ! ハムラプバッティーラ!」
 
 交代したおっさんにもこれまた未知の言語で捲し立てられる。

 あ、これ疑問文の場合に語尾を上げがちになるみたいな文化から違うのかもしれん。

 なんて考えていたところで。

「ビラユゥーシ!」

 と、叫びながら俺の胸ぐらを掴み殴りかかってきた。
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