上 下
11 / 16
転生悪役令嬢、推し避けなのに推しに追いかけられて困ってます!

第3話「推しキャラへの想いVS予期せぬ恋心」

しおりを挟む
結局、ライオネル様の誘いを断れずに王都デートに来てしまった。

「ほら、あそこの店でお茶にしよう」

私の手を自然に取り、人気の紅茶専門店へと導くライオネル様。変装とはいえ銀髪を黒く染め、普段の軍服姿から平民の服装になった姿も素敵で……って、いけない! また萌え観察モードに入りそう。

「ライオネル様、なぜ私をお誘いになったのですか?」 意を決して尋ねてみる。

「君が本当の笑顔を見せてくれないからさ」

「え?」思わず固まる私にライオネル様は優しく微笑んだ。

「周りの目を気にして、いつも仮面を被っているだろう? たまには素直になっていいんだよ」

(バレてる!?)

「私は常に等身大の――」

「嘘だね。君は誰かの期待する役を演じている。まるで、誰かから与えられた脚本通りに動こうとしているみたいだ」

ズキンと胸が痛む。その通りなのだ。原作通りの悪役令嬢を演じようとしている私を、完全に見抜かれていた。

「でも、時々見せる素直な表情はとても愛らしくて」

「!!」突然の告白に顔が真っ赤になる。

「あ、あの!トイレに行ってきます!」

慌てて席を立ち、店の中へと逃げ込む。鏡に映る自分の顔は予想以上に上気していて、心臓は爆発しそうなほど激しく鼓動していた。

(どうしよう……私、ライオネル様のことを推しキャラじゃなくて、一人の男性として意識し始めてる)

現実の彼はゲームで見ていた以上に魅力的だった。優しさの中にある芯の強さ、時折見せる茶目っ気、そして何より、私のことを本気で見てくれている真摯な眼差し。

全てが想像以上で――愛おしい。

(でも、これじゃ原作と真逆の展開になっちゃう!)

悩みながら席に戻ると、ライオネル様が心配そうな顔で待っていた。

「大丈夫か?」

「は、はい。申し訳ありません」

「それより、これを見てほしい」

差し出されたのは一冊の物語の本。

「君が図書室でいつも読んでいる作家の新作だ。一緒に読まないか?」

(私の読書の趣味まで覚えていてくれたの!?)

嬉しさと戸惑いが入り混じる中、隣に座ったライオネル様と一緒に本を読み始める。 肩が触れ合う距離で、同じページを共有する時間。

気付けばすっかり日が傾いていた。

「楽しかったか?」

「はい……とても」思わず本音が漏れる。

「良かった。君の素直な笑顔が見られて、私も嬉しいよ」

その言葉に、もう抑えきれなくなった。

「どうして……私なんかに? 私は高慢で意地悪な婚約者のはずです。ライオネル様は、もっと相応しい方と……」

「誰が決めた基準だ?」真剣な眼差しで私の言葉を遮る。

「私が決めるのは私の気持ちだ。フロリア、君は本当は優しい心の持ち主だ。なのに、どうして自分を抑え込もうとする?」

「それは……」原作通りに、と言えるはずもない。

「私には分からない。君が何かに縛られているのは確かだ。でも、それは君の本当の想いじゃないはずだ」

帰り道、馬車の中で考え込む。 このまま原作を無視して、ライオネル様との恋を実らせていいのだろうか。

でも、推しキャラへの一方的な想いと、現実の彼との温かな時間。 その差はあまりにも大きすぎた。

「私の本当の想いは……」

心の奥で何かが音を立てて崩れていく。 積み上げてきた計画も、推しへの憧れも、全てが彼との出会いによって覆されていく。

こうして私は転生したことで得た"脚本"から、少しずつ逸れ始めていった――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!

奏音 美都
恋愛
 ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。  そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。  あぁ、なんてことでしょう……  こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!

【完結】帰れると聞いたのに……

ウミ
恋愛
 聖女の役割が終わり、いざ帰ろうとしていた主人公がまさかの聖獣にパクリと食べられて帰り損ねたお話し。 ※登場人物※ ・ゆかり:黒目黒髪の和風美人 ・ラグ:聖獣。ヒト化すると銀髪金眼の細マッチョ

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

処理中です...