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無実の罪で断罪され幽霊になった令嬢、エクソシストになつかれる
第1話「断罪された令嬢」
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私、シャーロット・ロードウェルは死んでいる。 それもとても不本意な形で。
「シャーロット・ロードウェル、貴女を国家反逆罪によりここに断罪する」
あれは一ヶ月前のこと。華やかな宮廷での婚約破棄の場面から処刑台での最期まで、まるで悪夢のような出来事だった。
私の婚約者だったはずのエドガー王太子は幼なじみのマリアベルと腕を組みながら、私を指さして言い放った。「貴女のような腹黒い女とはこれ以上関わりたくない」
確かに私は宮廷では冷たい態度を装っていた。けれどそれは家柄に恥じない振る舞いを心がけていただけ。決して噂されているような悪事を働いてはいなかったのに。
毒を盛られたヒルダ夫人、放火された孤児院、何一つとして私がした事ではなかった。でも証拠は全て私に向けられ、弁明の機会すら与えられないまま処刑が決まった。
そうして私は死んだ。でも成仏できなかった。いえむしろ成仏する気なんてこれっぽっちもない。
「このままじゃ終われない」
私は幽霊となって王城を彷徨っている。生前は決して見せなかった感情をあらわにして、怒りに任せて廊下を往来する毎日。誰にも見えない触れない存在として。
そんなある日のこと。
「ふむ、かなり強い怨念を感じますね」
突然、私の正面に現れた青年。黒い法衣に身を包み、首から十字架を下げている。そして驚くべきことに─
「あなた、私が見えるの!?」
「ええ、もちろん」青年は穏やかな微笑みを浮かべながら答えた。
「私はエクソシストのシルビオ。貴女の成仏のお手伝いに参りました」
「成仏!?」思わず声が裏返る。
「冗談じゃないわ。私にはまだやることがある。名誉を回復して、真犯人を暴かなければいけないの」
「しかし、それは」シルビオは困ったように眉をひそめた。
「もう過ぎたことです。執着は貴女の魂を汚してしまう」
「汚れているのは私を陥れた連中の心よ!」
私は怒りに任せて廊下の装飾品を念力で吹き飛ばした。花瓶が壁に激突して砕け散る。
「おや、かなりの力をお持ちですね」シルビオは冷静に観察している。「ですが、そんな力の使い方は」
「うるさいわね。私のことは放っておいて!」
私は彼の言葉を遮り、壁をすり抜けて逃げ出した。
それから数日、シルビオは根気強く私を追いかけ回している。朝な夕なに現れては、「成仏しましょう」と説得してくる。
「もう、しつこいわね!」
「これも私の仕事です」彼はにこやかに答える。
「それに、貴女のような方が成仏できないまま留まっているのは、あまりに惜しい」
「…どういう意味?」
「貴女の目に宿る強い意志。それは憎しみだけではない。きっと、守りたいものがあったから、そうなさっているのでしょう?」
その言葉に私は言葉を失った。 そうよ。私は確かに守りたいものがあった。
孤児院の子供たち、心優しいヒルダ夫人、そして─ 婚約者として、この国の未来を。
でも今の私には何もできない。 幽霊なんだから。
「…私を成仏させたいなら」私は静かに言った。「協力してくれない?」
「協力、ですか?」
「ええ。私の無実を証明するの。そうしたら成仏することを考えてもいい」
シルビオは少し考え込んでからゆっくりと頷いた。
「分かりました。ですが暴力的な行為は控えめに」
「当然よ。私だって元は上品な令嬢だったのだから」
こうして私はエクソシストと奇妙な協力関係を結ぶことになった。 これが新しい物語の始まりだった。
…そして今になって思う。 あの時の決断が私の<死後>を大きく変えることになるなんて。
「シャーロット・ロードウェル、貴女を国家反逆罪によりここに断罪する」
あれは一ヶ月前のこと。華やかな宮廷での婚約破棄の場面から処刑台での最期まで、まるで悪夢のような出来事だった。
私の婚約者だったはずのエドガー王太子は幼なじみのマリアベルと腕を組みながら、私を指さして言い放った。「貴女のような腹黒い女とはこれ以上関わりたくない」
確かに私は宮廷では冷たい態度を装っていた。けれどそれは家柄に恥じない振る舞いを心がけていただけ。決して噂されているような悪事を働いてはいなかったのに。
毒を盛られたヒルダ夫人、放火された孤児院、何一つとして私がした事ではなかった。でも証拠は全て私に向けられ、弁明の機会すら与えられないまま処刑が決まった。
そうして私は死んだ。でも成仏できなかった。いえむしろ成仏する気なんてこれっぽっちもない。
「このままじゃ終われない」
私は幽霊となって王城を彷徨っている。生前は決して見せなかった感情をあらわにして、怒りに任せて廊下を往来する毎日。誰にも見えない触れない存在として。
そんなある日のこと。
「ふむ、かなり強い怨念を感じますね」
突然、私の正面に現れた青年。黒い法衣に身を包み、首から十字架を下げている。そして驚くべきことに─
「あなた、私が見えるの!?」
「ええ、もちろん」青年は穏やかな微笑みを浮かべながら答えた。
「私はエクソシストのシルビオ。貴女の成仏のお手伝いに参りました」
「成仏!?」思わず声が裏返る。
「冗談じゃないわ。私にはまだやることがある。名誉を回復して、真犯人を暴かなければいけないの」
「しかし、それは」シルビオは困ったように眉をひそめた。
「もう過ぎたことです。執着は貴女の魂を汚してしまう」
「汚れているのは私を陥れた連中の心よ!」
私は怒りに任せて廊下の装飾品を念力で吹き飛ばした。花瓶が壁に激突して砕け散る。
「おや、かなりの力をお持ちですね」シルビオは冷静に観察している。「ですが、そんな力の使い方は」
「うるさいわね。私のことは放っておいて!」
私は彼の言葉を遮り、壁をすり抜けて逃げ出した。
それから数日、シルビオは根気強く私を追いかけ回している。朝な夕なに現れては、「成仏しましょう」と説得してくる。
「もう、しつこいわね!」
「これも私の仕事です」彼はにこやかに答える。
「それに、貴女のような方が成仏できないまま留まっているのは、あまりに惜しい」
「…どういう意味?」
「貴女の目に宿る強い意志。それは憎しみだけではない。きっと、守りたいものがあったから、そうなさっているのでしょう?」
その言葉に私は言葉を失った。 そうよ。私は確かに守りたいものがあった。
孤児院の子供たち、心優しいヒルダ夫人、そして─ 婚約者として、この国の未来を。
でも今の私には何もできない。 幽霊なんだから。
「…私を成仏させたいなら」私は静かに言った。「協力してくれない?」
「協力、ですか?」
「ええ。私の無実を証明するの。そうしたら成仏することを考えてもいい」
シルビオは少し考え込んでからゆっくりと頷いた。
「分かりました。ですが暴力的な行為は控えめに」
「当然よ。私だって元は上品な令嬢だったのだから」
こうして私はエクソシストと奇妙な協力関係を結ぶことになった。 これが新しい物語の始まりだった。
…そして今になって思う。 あの時の決断が私の<死後>を大きく変えることになるなんて。
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