上 下
56 / 66

第56話 家出少女 その二

しおりを挟む
 相変わらず下手な尾行者四人がついている。
 交代要員が居ないのかも知れないが、野木町に行くところからずっと張り付いているな。

 公安とか警察なら絶対交代要員を出しているはずなんだが、内閣官房なんてところはそんなに人を出せないのかも知れない。
 但し、各省庁をあごで使うほどの権勢は持っているはずだ。

 今回の場合、所謂いわゆる国の方針を決めるのに必要な占い師を探すという妙な仕事ゆえに、他省庁に依頼すること自体ができないのかも知れないな。
 まぁ、ご苦労さんと言うしかないな。

 俺の方は、本来は休むべき時間なんだろうが、何となく先行き不安なんだよね。
 放置しておくと十代の娘一人が、闇社会に落ちそうな気がするんだ。

 だから無理をしてでも早めに葵嬢の行く先を掴んでおきたいんだ。
 エレック君に頼んでいた片桐葵嬢の連絡先がようやく掴めたようだ。

 どうも本来の所有者と異なる人物が使っていたようで、ある意味回し飲みならぬ、使用の度に使用者が変わるような違法性の高いスマホのようだ。
 そもそもがプリペイド携帯などは、色々と問題が有って日本ではサービスが終了しているんだが、外国では未だに主流になっているところもある。

 プリペイド携帯を犯罪等に使われると追跡が困難になるという問題が有るんだ。
 日本でそうした物が無くなると、次は違法に開設した口座で他人名義のスマホ等を使う奴が出て来た。

 こういう奴らは犯罪等ヤバイ事案に使ったりするとすぐに手放すか捨てるかするんだ。
 中には公衆電話の様に共同で使用するという形態もあり得るわけだ。

 エレック君が追跡した電話番号はどうもこの共同使用のものらしく、都内千代田区神田にある某マンションに辿り着いたようだ。
 使用していたのは全部で五人ほどいたようだ。

 その内三人が東南アジア系の外国人で、二人が日本人のようだ。
 東南アジア系の女性三人はマンションの一室を三人でルームシェアしているようだ。

 マライ、ウェン、ジュンタの三人である。
 その友人でもある奥山おくやま美由みゆ置戸おけど沙織さおりに二人が、時折彼女たちの部屋にお邪魔して共有電話を使わせてもらっているようだ。

 このスマホ、闇ルートを使って入手しているスマホであるから、彼女らもヤバイものという事を承知で使っている。
 そのために2週間から3週間で電話自体が変わっているのである。

 その電話番号を何故葵嬢が知っていたのかは不明だが、奥山美由の素性を住民登録等で確認したところ、過去に野木町に住んでいたことが判明した。
 従って葵嬢とつながりが有るのはこの奥山美由嬢という事になりそうだ。

 深夜にこんなことを調べられるのはエレック君のおかげだけれどな。
 そんな作業を陰でやっているとは四人の尾行者も知らないでいるだろう。

 早速、俺は奥山美由嬢のマンションに出向いたが、生憎と彼女は不在だった。
 それでも居つきの霊から情報は得られるんで、いろいろ探ってみた。

 奥山美由嬢は20歳、秋葉原のメイドカフェで働いているらしいが、バックにどうも住吉会系のヤクザが絡んでいる店のようだ。
 居付きの霊の話では、このマンションに葵嬢が訪ねてきたことがあるようだ。

 二人の会話からして、奥山美由嬢と葵嬢は幼馴染のようだ。
 三つも年上だが、美由嬢が面倒見が良かったので「おねぇちゃん」と呼んで葵嬢が慕っていたようだ。

 但し、美由嬢が中学一年生の時に家の事情で東京に移転したようだ。
 合うつもりなど無かったのだが、葵嬢の家出の四日前に偶々たまたま古川市内の商店街で出会ってしまい、その際に連絡先として電話番号を聞いたようだ。

美由嬢も自分のスマホを持っているのだが、おそらく一週間ほどでまた別のスマホに変わるであろう電話番号を教えたのは彼女なりの配慮だったかもしれない。

 いずれにしろ、彼女が伝手になって、メイドカフェを紹介し、今はそこで働いているようだ。
 時刻は翌日の午前1時をまわろうとしているんだが・・・。

 メイドカフェってのは、そんなに遅くまでやってはいないはずだが、念のためタクシーで勤め先のメイドカフェに行ってみた。
 案の定、メイドカフェは閉まっていたし、メイドカフェのあるビル自体に入れなかったよ。

 さりながら、俺がビルの建物に手を当てて探ると、いろいろな霊から情報がもらえるんだ。
 で、それをやったら、一刻を争う緊急案件になってしまったよ。

 午後11時でメイドカフェは終了したんだが、今日は葵こと「のぞみ」ちゃんの歓迎会という事で、周辺の飲み屋で飲むことになっているらしい。
 おまけに、ヤクザがらみのお兄さんが、のぞみちゃんをお持ち帰りする計画を立てているようだ。

 俺が葵ちゃんの純潔を守ってやる義理は無いかもしれないが、知った以上は放置はでき ん。
 俺は、もう手遅れかと思いつつも、歓迎会の飲み屋に急いだのだ。

 ◇◇◇◇

 私は、奥山美由。
 とある事情から身を持ち崩した女だ。

 そんな私でもお姉ちゃんと慕ってくれる葵と久しぶりに古河で出会ってしまった。
 世間話のついでに東京で働いていると教え、おそらくはつながらないであろう電話番号も教えた。

 私と関わり会うと、あるいは怖いお兄さんが出て来る恐れが多分にある。
 だから、7日もすれば使われなくなるはずの電話番号を教えた。

 仮にかかって来ても、その時私がその近くに居なければ、電話を取れないし、その場合はこちらからかけなおすつもりもない。
 だから、お別れのつもりで教えた番号だったのに・・・。

 それでもこの子が私と関りを持とうとするなら、それも運命なんだろうなと漠然と思っていた。
 但し、私が関わるとしたなら、普通の暮らしは期待できないだろうことは自分が良く知っていた。

 だから、わずか7日かそこらの間に葵が美由を頼って来なければ、この縁はこれまでと切り捨てるつもりだったのだ。
 でも、生憎と葵から電話が来て、偶々そこに居た私と連絡がついてしまったのだ。

 葵が東京に出てくると言うので止むを得ずマンションの住所を教えた。
 マンションで話を聞くと、結局葵は家出をしてきていて、東京で自活したいと言う。

 未成年の家出娘がそうそう簡単に働けるほど世間は甘くは無い。
 でも頼られたとしては放置もできないので、伝手つてを頼って、偽のバイク免許証を入手してあげた。

 免許証には「高橋のぞみ、19歳」として、偽の住所で登録してある。
 この偽造免許証が有れば、住民票が無くてもメイドカフェに就職は可能だ。

 但し、ヤバイお兄さんに目を付けられると、少女を卒業しなければならなくなる。
 それが気がかりではあるけれど、私が取れる手立てはそれしか無かった。

 美由自身も東京に出て来てから両親が借金まみれになって自殺し、一人で生きて行かねばならなくなったので、18歳でメイドカフェに務めだしたのだ。
 彼女が変な道に入り込まないようにと思いながら、別のスマホの番号を教えたのに、そのスマホが有効な短い間に私に連絡してくるというのは、そうなっても仕方がない運命だったともう諦めるしかない。

 その中で彼女がどう生きるかは彼女自身が決める問題だ。
 そう思うことにした。

 そうして今日はのぞみ(葵)の歓迎会をするという。
 歓迎会とは名ばかりで、マスターたちは、葵を酔わせて身体を奪うことを考えているはず。

 恐れていたことが現実になりそうだが、私にできることは無い。
 葵が自分でその魔の手から逃れられなければ、私にはどうにもできない。

 嫌だなぁ。
 妹のような葵がけがされるのが分かっていて見過ごすしかできないなんて・・・。

 ◇◇◇◇

 俺は急いだが、既に飲み屋を出た後だった。
 行く先は不明だが、最寄りの霊たちにお願いしてとにかく後を追いかける。

 夜更けの繁華街の町は明るいものの人通りは少ない。
 俺はそこをダッシュで走ったぜ。

 尾行の連中もついては来ているが、多分途中でついてこれないだろうと思うぜ。
 何せ体育会系の奴が一人も居ないみたいだからな。

 百メートル弱を走っていたら、既に四人が四人とも遅れ始めている。
 左角を曲がって、50m先を右に曲がるとホテルの入り口だ。

 連れ込みホテルなんだろうな。
 フロントに人はいたが、無視して中に入る。

 後ろで何か言っているようだが、聞こえない。
 行く先は、3階の32号室。

 5階に止まっているエレベーターを待っていると時間がもったいないから非常階段を上る。
 階段を急いで登ると息が切れるところを見ると、俺も相当に運動不足だな。

 ドアはオートロックなんだが、コンちゃんが先回りして外したと教えてくれる。
 ドアを開けたら、まさしく修羅場だった。

 男が二人がかりで葵嬢の手足を押さえつけている。
 葵嬢の左頬が赤く腫れあがっているのは、多分抵抗して、殴られた跡だろう。

 これだけで傷害罪が成立するな。
 男の一人が怒鳴った。

「てめぇ、どこのどいつだ。
 鍵はかかっていただろうが。
 どうやって入って来た?」

 俺も大声で怒鳴り返した。

「その娘は17歳だぞ。
 それを手籠めにしたら間違いなく務所入りだが、それでもやるか?」

 男達が一瞬で白けたようだ。

「馬鹿な。免許証には19歳と・・・。」

「そんな偽物がいくらでも手に入ることは裏稼業のお前たちの方が良く知ってるだろう。
 免許証も、住所、氏名、年齢も偽物だ。
 さて、それを知った上で、なおかつ御乱行に及ぶなら、警察を呼ぶぜ。
 ちょうど俺の後を付けてきている役人が四人ほど居るからすぐに呼べるぜ。」

「くそっ、そこまで言われちゃ何もできん。
 今日は退いとく。
 だが次の機会があると思うな。」

 男達は、そう言って苛立ちながら引き上げて行った。
 遺されたのは、ブラジャーを引きちぎられて上半身がほぼ裸、下半身もパンツ一枚で、左頬を赤く腫れさせている女の子と俺だけだ。

 しかも、ここは連れ込みホテルだよな。
 こんなところを例の尾行者たちに見られたら何を言われるかわからない。

 早く、葵嬢を連れて出なけりゃならん。
 すぐに葵嬢に言って、散らかっている服を着させた。

 所々破れちゃいるが、何も着ていないよりはましだろう。
 俺の革ジャンを葵嬢に被せ、フロント前を通ったが、フロントに居た女性が俺達を見て何か言いかけたが、やめたようだ。

 破れた服の女の子の姿を見て、犯罪の匂いを嗅ぎつけたんだろうな。
 だから、何も咎められずに出ては来たんだが、後で警察に呼ばれるかもしれん。

 通りに出てすぐにタクシーを拾ったよ。
 この際、やむを得ないから自宅へ連れて帰ることにした。

 タクシーの中から家に電話をかけて、孝子に事情を話し、家へ連れて行く了解をもらった。
 まぁ、それでも最悪の結果は避けられたんじゃ無いかな。

 当然のことながら、葵嬢も今の勤め先には戻れないだろう。
 今夜襲ってきた連中とどうしてもお付き合いをしたいというなら別だがな。

 その辺は、明日の朝にでも話し合おう。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
 新作を投稿しています。
 ① 「二つのR ~ 守護霊にResistanceとReactionを与えられた』
  https://www.alphapolis.co.jp/novel/792488792/263902401
 
 ② 『仇討の娘』
  https://www.alphapolis.co.jp/novel/792488792/604902385

 よろしければご一読ください。

  By サクラ近衛将監
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

二つのR ~ 守護霊にResistanceとReactionを与えられた

サクラ近衛将監
ファンタジー
 ごく普通の男子高校生が、虐めまがいの暴力に遭い、その際にご先祖様で仙人だった守護霊に特殊な能力を与えられて、色々とやらかしはじめる物語。  メインの能力は「Resistance」と「Reaction」なのだが、そこから派生して種々の能力が使えるようになる。  その検証過程でどのような能力なのか確認しながら物語は進んでゆく。  毎週火曜日午後8時に投稿予定です。  一話あたり三千~四千字を目標にします。

仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監
ファンタジー
 レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。  昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。  記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。  二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。  男はその未来を変えるべく立ち上がる。  この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。  この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。    投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...