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第45話 面倒な奴?

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 中華国関連のテロに関連して、狙撃犯とそのアシストマン、更には防衛省に入り込んでいたスパイの摘発で、防衛省からの礼金が入ったよ。
 どうも、防衛省では狙撃犯の情報と省内に潜り込んでいたスパイの情報とは、取り扱いが別物だったようで各100万円ずつ小計200万円の礼金と日当等をいただいた。

 また、これとは別に警視庁公安部からも何故か謝礼金という形で百万円をもらっちゃったよ。
 連絡先ではあったモノの、別に警視庁の公安部からは依頼を受けてはいないのだけれどねぇ。

 公安部の長嶋参事官曰く、「今後ともよろしく」とのことで、どうも手付金の意味合いもあるようだ。
 まぁね、調査過程で見つかった北〇鮮の工作員リストをUSBファイルに入れといたから、それらの人物についてはきっと監視の目をつけているんだろうな。

 あるいは出入国管理法違反で検挙するかもしれないし、その他の非合法活動を見つけてから身柄を抑えるつもりかもしれない。
 その辺は警察が考えるだろう。

 取り敢えず国外の分もお仕置きは済んだし、一応防衛省がらみの一件はこれで終結だと思う。
 臨時収入を含めて300万円余を孝子嬢に預けたら、にっこり笑って言ったもんだ。

「お疲れ様でございました。」

 やっぱり赤字続きの会計事務処理をしている孝子嬢にとっては、もしかすると黒字に代わるかもしれない収入を見るのは嬉しいようだ。
 彼女もうちの事務所が金に困っているわけでは無いと知ってはいても、やはり心配のようだ。

 その意味では心配をかけているのかねぇ。
 彼女は我が家に同居しているわけで、まぁまぁ、俺との親密度は増しているんだけれどね。

 だから表情の変化とか体調の良し悪しなんぞが、俺にもアバウトわかるようになってきた。
 今は、彼女を採用した以後では、最も良い状況じゃないかと思っている。

 きっと精神的に安定したんだろうと思う。
 うちに面接に来た時にはかなり経済的にも精神的に追い詰められていたようだからな。

 それが解消されただけでもとても良いことだと思うし、匂い立つような内面的な美しさが醸成じょうせいされているような気がするよ。
 人間外見も大事ではあるんだが、中身が一番大事だよな。

 今の彼女は、俺の好みの女性と言えるだろう。
 時折、彼女と一緒に帰る時がつかの間のデートになるわけだが、彼女も俺を好ましく感じているようなので、どこかで踏ん切りをつけなくてはならないんだろうなと思っている。

 彼女もお肌の曲がり角を過ぎた年齢だから、あまり放置もできないだろうなとは思っているんだ。

 ◇◇◇◇

 今、俺の前にはすごく面倒そうな男がいる。
 一応、ウチの事務所に依頼に来た客らしいのだが、名刺をもらった瞬間に思ったのは、俺としては余り受けたくない奴の依頼ということだ。

 以前、俺のところに依頼に来た占い師の鳴海さんの紹介で来たという男なんだが、民自党の大物議員高田順三の私設秘書で近江おうみ幸雄ゆきおという人物だ。
 俺は、政治家という連中については正直なところ余り良い感情は持っていない。

 弁舌だけで生きている詐欺師みたいな連中が多いからだ。
 選挙期間中はぺこぺこして愛想も良いんだが、議員さんになった途端に豹変して高圧的な態度になるやからが多い。

 特に選挙演説での公約が有っても、個人では到底できないことを公然と約束しているんだが、あれは政党政治の弊害だろうね。
 最初に政党の方針が有って、それに則った公約しかしないんだ。

 おまけにそれが実現しなかったとしても、どこ吹く風で平然としているし、種々国会で追及された場合の逃げ口上が気に食わん。
 民自党の高田何某なにがしも、確か政党交付金の流用で一時騒がれた人物の一人だったはずだ。

 俺も探偵稼業で必ずしも明朗会計じゃないような多額の礼金なんぞをもらっていることが多いから、余り大きな顔はできんのだが、俺の場合はちゃんと使途を明確にしているし、収入に対しては所要の税金を支払っているぜ。
 少なくとも国民の税金から多額の報酬を貰《もら》っている国家公務員であれば、どんな収入で有れ、きちんとその使途については明朗にすべきだと思うぜ。

 それを、記憶にございませんとか、秘書がやったのでわかりませんとか言う奴はそもそも信用できないと思っているよ。
 で、目の目にいる近江何某なにがしも、すでに引退している元民自党議員の息子で有って、SNS上の噂では二世議員候補のようだ。

 年齢は25歳、大学を卒業して三年程度か?
 今現在は私設秘書をしているが、来年若しくは再来年ぐらいには、親父の地盤で衆院選挙に出るらしいと噂のある男だ。

 探偵事務所の客である以上、一応話は聞かにゃならん。
 話を聞くと、一年前まで高田議員の私設秘書だった貝原かいばら健司けんじが消息不明となっており、その行方を捜してほしいとの依頼だった。

 行方不明者の捜索ならば、取り敢えず受けるのが俺の流儀なんだが、今回は敢えて、踏み込んで聞くことにした。

「失礼ながら、依頼人はどなたになるのでしょうか?」

「あ、えーっと、依頼人に何か身分が必要なのでしょうか?」

「いいえ、特段無くても宜しいのですけれど、普通は身内の方とか行方不明者の関係者が多いですよね。
 先ほどのご説明では、貝原さんは一年前に秘書を辞めているとのお話ですし、半年前に私設秘書になられたあなたの場合は、職場の同僚ではないですよね?
 なのに、今になってその人物を探してほしいというところに少し引っ掛かっていまして・・・。
 失礼ながら、近江さんは貝原さんとお会いしたことが御座いますか?」

「いいえ、私とは入れ違いですので面識はありません。」

「なるほど、ではなぜ貝原さんを探そうと思われたのでしょうか?」

「いや、実は、高田先生のご希望で貝原氏を探すことになったのです。」

「その理由はご説明いただけないのでしょうか?」

「あ、いえ、何分先生の御事情については伺って居りませんからわかりません。」

「なるほど、・・・・。
 ではよくわからないけれど、知人が行方不明になっているから探せとそういうことでしょうか?」

「ええ、まぁ、・・・。」

「申し訳ございませんが、行方不明者の安否を気になさっているようにも思えませんがどうなのでしょう?
 もし、うちの事務所で捜索依頼を受けるとしたなら、貝原さんの身内の方からのご要望を一緒につけていただけませんでしょうか?
 さもなければ、受けられません。」

 近江君はさっと顔色を変えた。

「探偵事務所というのは、個人の秘密にまで踏み込むのかね?」

「はい、時と場合によっては・・・。
 おそらく今回の場合は違うでしょうけれど、例えばの話、どこやらの極道が所在をくらましたライバルの極道を探すような依頼をしてきた場合、私としては断らざるを得ません。
 場合によっては、人の命が脅かされる恐れがあるからです。
 今回はどのような事情があって元秘書さんを探して欲しいのか、是非その理由をお聞きしたいですね。
 そんなことを聞くような探偵には頼まないとおっしゃるのであれば、それはそれで私の方は一向に差し支えありません。」

「キミィ、そんなことを言ってよいのかね。
 高田先生の依頼なんだよ。
 断れば、君の商売に支障が出るかもしれないよ?」

「ほう、それはあなたの本音の話でしょうか?
 私はこう見えても弁護士資格を持っていますし、此処での会話については、一応、『言った』『言わない』等事後の無駄な論争を避けるために録音と録画をさせていただいてます。
 今の発言は、出るところに出れば、立派な脅迫ともとれる言動のようですけれど、まさか本音ではないですよね?」

 近江君は、冷や汗をかきながら言った。

「いや、チョット、かっとなって言い過ぎたが、決して脅迫をしたつもりはない。
 そう聞こえたのなら謝る。
 すまなかった。
 で、依頼の件は、貝原さんの身内の者の要望書を添えればよいのかね?」

「はい、もし高田先生が依頼人であるならば、そのようにお願いします。」

「いや、あの、高田先生のお名前は出さないでほしいんだが?」

「では、あなたのお名前でしょうか?」

「あぁ、それでお願いしたい。」

「まぁ、貝原さんの身内の方の要望書があれば、それでもかまいませんけれど。
 そもそも今回のような場合、当該身内の方が依頼人になるのが一番良いのですが?
 その辺はどうなのでしょう?」

「いや、身内の方は経済的に困っているようだから依頼料を払うのは難しいと思う。
 だから、私が依頼人としてお願いする。」

「はぁ、まぁ仕方がありませんけれど。
 先ほども申し上げたように、何故高田先生が貝原さんを探さねばならないのか、その理由も併せてご確認をお願いします。」

 近江君は渋面じゅうめんを見せながらもうなずいた。
 これは、まともな理由は帰って来ないなとそう思ったよ。

 仕方がないから、前回テロリストの監視で活躍してくれたカラスの霊二匹に、近江君の尾行と監視を頼んだ。
 二匹をつけたのは、近江君以外の関係者の追尾監視も必要となりそうな気がしたからだ。

 近江君は、そのまま赤坂にある衆議院議員宿舎に向かった。
 高田議員は、選挙区に戻る場合は別として、都内では衆議院議員宿舎に居を構えているのだった。

 そこで近江君と高田議員は、公設秘書も遠ざけて密談を交わし始めた。

「先生、鳴海先生のご紹介ではありますけれど、明石という探偵はちょっと信用できません。
 貝原を何故探そうとするのかその理由を教えてくれというのですよ。
 鳴海先生ならそんなことを言わずに、占ってくれたのに・・・・。
 それに、先生の名前を出しても恐れるどころか、逆に切り返してきました。
 明石という探偵は、弁護士資格を持っているそうです。
 もう一つ、依頼の話は録音録画をしているそうなので迂闊うかつな話はできません。
 探偵は一応守秘義務がありますけれど、警察には弱いですからね。
 どこから先生の名が漏れるかわかりません。」

「ふむ、まぁ鳴海先生は身体の具合が悪くて入院中だから止むを得んじゃろう。
 少なくとも捜索を頼むならここが良いと教えてくれただけでもめっけものだと思ったのじゃが、・・・。
 ならば、止むを得んから、貝原の女房の名前で君宛の要望書を造りなさい。
 明石なる探偵には、貝原の女房が儂にすがってきたので捜索を依頼するのだと説明すればええじゃろう。」

「しかし、須藤組の連中がもう少し手際よくやってくれていればこんな苦労はせずに済んだのですが・・・。」

「そもそもが貝原の奴があんな書類を残しておるとは思わなんだからのぉ。
 あれが万が一にでも世に出れば、儂の議員生命は終わる。
 何としても奴の口を封じ、書類の残りを消さねばならぬ。
 女房まで雲隠れしていては、人質にもならんでのぉ。」

 そんな会話を映画みたいに念話で見せられて、俺は思ったよ。
 やっぱりあくどい話が裏にあるようだな。
 
 しょうがないから、貝原さんを見つけたら警察に届け出るのかな。
 高田と近江はもちろんだが、ついでに事情を知っていそうな須藤組もチョットお仕置きしなければならないのかも?

 俺がそう思っていると、居候達がまたまたざわめき立っている。
 うーん、こいつらが出ると、すぐに大ごとになりかねないんだけれど・・・・。
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