上 下
41 / 66

第41話 テロリスト(?)の捜索 その一

しおりを挟む
 あんまり防衛省からの依頼を受けたくはないんだが、放置すれば関係のない者が巻き込まれる恐れも大なので、止むを得ず受けることにした。
 但し、探索のための取っ掛かりが実は余りないんだな。

 ライフル銃による狙撃犯捜し、こいつはトカゲのしっぽ切になる可能性もあるし、ほかに別の実行犯が用意されていた場合、テロの再発を防ぐ方法が無い。
 まぁ、それでも、俺ならば現場を確認して、なにがしかの手掛かりを得ることはできるだろうと思っている。

 そうは言っても、仮に狙撃犯を捕捉できたとしても、その上の組織につながるとは限らんよな。
 四日かそこらの期間、完全黙秘を通されれば、警察や防衛省では何もできん。

 もう一つのか細い手がかりは、統合幕僚長の秘匿メルアドに届いたメールだな。
 防衛省と警視庁のIT班が総力を挙げても発信元を掴めなかった相手だが、そもそも発信元の機器を廃棄させるなどしていたら、最強のエレックですらも手繰れない可能性はある。

 俺はその方面に関しては門外漢ではあるモノの、外部から防衛省内のイントラネットに侵入されること自体が大問題だと思うけれどな。
 下手をすれば内部での秘密のやり取りが全て露見している可能性すらあるんだ。

 いずれにせよ、そっちの方の探索はエレック君に頼むしかない。
 可能であれば、発信元や踏み台等を精査してもらって、大本を手繰れるかどうかだな。

 俺は、取り敢えず、狙撃されたという新宿区大久保に出向いたよ。
 陸将の孫である原田隆司君は新宿区立大久保小学校の5年生、学校が終わって、友達と一緒に新宿7丁目にあるマンションに下校途中に狙撃されており、場所は片側三車線の広い道路が東西に走る北側の歩道なんだ。

 そこからかなりの広さの更地を経て北方向に住宅があるんだが、その一角にかなりの高さを有する廃工場がある。
 工場の屋根の高さは10mを超えるので、おそらくは三階もしくは四階相当の高さから射撃をしたものだろう。

 一応、狙撃された時に隆司君が居たとされる場所にも行ったのだが、そこでの手掛かりはほとんど無かったな。
 銃弾が残っていたという街路樹のケヤキも特定できたが、そこでの霊などから得られる情報は無かったので、次に当該廃工場に行ってみた。

 地図上で狙撃の距離を測ったら、210mほどもあったな。
 ライフルで200m先の標的を狙うのは、多分狙撃手なんかにとってはさほど難しくはないんだろうな。

 それでも、子供に当たらないように野球帽のつばを狙って吹き飛ばすのはかなりの難易度だと思うぜ。
 帰宅途中なんだから標的は当然に動いているしな。

 ま、俺が狙撃手の腕をどうこう言っても仕方がない。
 狙撃手の特定が可能かどうかが問題だ。

 新宿区大久保までは小回りの利く四駆の軽でやってきた。
 最寄りの駐車場に車を放り込んでから隆司君が狙撃された場所を確認、それから狙撃地点とされる廃工場まで歩いて行ったんだが、事務所を出てから1時間近くもかかってしまったよ。

 事務所を出る前にお願いしたエレック君からは、特段の連絡が無いんで、かなり苦労しているのかもしれん。
 なにか情報があれば俺の事務所の一角に人目につかないよう隠してあるノートパソコンもしくはスマホに連絡が入るはずなんだ。

 普通なら左程の時間もかからずに危ない連中を炙り出してくれるはずなんだ。
 まぁ、そっちはエレック君に頼るしかないから、俺の方はやれる範囲で狙撃の実行犯を探すしかないよな。

 廃工場に行ったものの、工場内は警察の「Off limit」の黄色いテープで縄張りがしてあるんで入れないんだが、工場外壁には触れることができたんで、そこから色々と情報を得てみた。
 工場に憑いている憑依霊みたいなものが不審な男を覚えていた。

 ゴルフバックのようなものを担いでいた男のようだが、カモフラージュの繊維を多用した衣装とバッグだったようで、よくわからないんだが普通の人の意識にはあまり残らないらしい。
 狙撃前日の夜間に男が現れ、工場屋根の排水管を伝って屋根に上ったようだ。

 男はそのまま屋根に潜み、翌日までは屋根と同じ色の布を広げて姿を隠していたようだ。
 最寄りにはあまり高い建物もなく、廃工場の屋根を注視するものなどいないはずなので、その存在が気づかれなかったようだ。

 そうして隆司君の下校時刻については決まっているものじゃないから、もしかするとそれを知らせる共犯者が居たのかもしれない。
 狙撃地点から歩道が見えるのは、歩道に面した建物から別の建物の間にある隙間だけで、距離にして精々15m程度なのであり、そこを移動中の隆司君を狙ったのだから、狙いをつけて発射するまでの時間は10秒以内だろう。

 普通は風の影響なんかもあって移動する人の狙撃は難しいらしいけれど、まぁ、どこにでも職人は居るもんだね。
 憑依霊の話では、狙撃手は耳にイヤホンをつけており、朝の登校時間帯に一度予行演習をしていたみたいだ。

 流石に会話の中身は聴き取れていないようだが、狙撃者は何か受け答えしていたようだから、間違いなくアシストする者か指示をする者が別にいたのだろう。
 その者が隆司君の特定をなし、狙撃手もスコープ越しに標的を確認したに違いない。

 因みに隆司君の被っていた野球帽は隆司君のお気に入りだったようで、いつも学校に行く際は被っていたようだ。
 その辺は、狙撃された地点のケヤキなどから俺も情報を得ている。
 
 工場の憑依霊の話では、狙撃手と思われる男は、浅黒い肌をした黒髪・黒い瞳のアジア系の男で身長はおよそ1m80㎝と大柄な男であるようだ。
 そいつの体形と顔は憑依霊が送ってくれた思念で確認したが、少なくとも俺の知っている男じゃない。

 まぁ、エレック君から連絡があったなら、当該映像からパスポートなどを確認してもらおうとは思っている。
 男は射撃をしてから一分ほどは動かなかったようだが、その後安全を確認してすぐにロープで地上に降りたようだ。

 その時の様子からみて俺は軍の経験者ではないかと判断している。
 屋根の排水管を伝って登ったり、カラビナを使って降下する技術は普通の者ではできないからな。

 まぁ、アルピニストや救急隊なんかもできるかもしれんが、長い銃を持っている時点で元兵士もしくは傭兵であろうと踏んでいるよ。
 で、こいつの足取りを追いかけた。

 こいつは途中で公衆トイレに入って着替えやがったぜ。
 公衆トイレの天井裏に着替えが置いてあったようだ。

 着替えた後、凶器の銃はゴルフバックごとその天井裏に隠している。
 トイレに居ついた霊によれば、その6時間後に、別の者が来て銃の入ったゴルフバック等を持ち出している。

 こいつの顔も思念で送られた映像で確認しているがやはり知らない男だ。
 霊によれば、犯行前日の夜に着替えの入った紙袋を持ってきて天井裏に隠した男だそうだ。

 そんな状況を踏まえると、こいつが共犯者であることはほぼ間違いがないだろうが、狙撃の際のアシスト役までもこなしたかどうかまでは不明だな。
 狙撃手を被疑者Aとして、この協力者を被疑者B、そうしてもし狙撃をアシストした者が居るならば被疑者Cになるのかな。

 今の段階ではどこのどいつかも特定はできていない。
 仮にこいつらを特定しても逮捕は難しいかもしれん。

 何せ証拠が非常に乏しい。
 裁判所に出られるような証人が居ないというのが一番の難点だな。

 トイレの居付き霊ですと紹介しても、目に見えず、人の耳に聞こえるような証言もできないものを裁判官や裁判員が認めてくれるはずがない。
 発射銃器の在り処ありかが現状では被疑者Aとは別々の可能性が大であり、もしかすると銃が処分されている可能性だってある。

 もう一つ心配なのは、こいつらが今日にでも出国していればいよいよ手に負えないだろうな。
 まぁ、地道に追って行くしかねぇだろうな。

 最初に証拠になりそうな銃の所在を追いかけるとしよう。
 結構手間暇がかかったけれど、日没過ぎには被疑者Bがゴルフバックを容れたロッカーが特定でき、その後に被疑者Bの居場所も特定できたよ。

 ロッカーは、東新宿駅のコインロッカーだ。
 入れてから三日以内に取りにくれば問題は起きないだろうし、期限前に一旦取り出して追加でコインを投入すればさらに延長が可能だな。

 被疑者Bのヤサは、豊島区南長崎のアパートであることを突き止めた。
 当該アパートの管理人の家に居る霊の情報では、コ・ソインスという〇ャンマー人のようだが、偽名の可能性もある。

 少なくとも大家が把握している者は、〇ャンマー人の男性であるようだ。
 その隣に住んでいる男が、同じく〇ャンマー人でリャイチーという男らしいのだが、スマホで話している音声を居付き霊が覚えていたので俺が確認すると中華国語だった。

 少しナマリはあるものの北京語で話をしているようだ。
 まぁ、〇ャンマーと中華国は国境を接しているから、〇ャンマー人が中華国語を話せてもおかしくはないんだが、実は念話で送られた画像を見る限り、この男が狙撃をしていた被疑者Aの大男なんだ。

 二人ともに部屋に居たので、闇魔術を使って人の意識を探ることのできるダイモンに頼んで、この二人の意識を探ってもらったよ。
 その結果、被疑者Aは、中華国人民解放軍総参謀部第二部所属で上尉のリン・ホァンロウ、被疑者Bは同じく第二部所属で二級軍士長のクァン・リャンスーと判明した。

 いずれも中華国人民解放軍の現役兵士であるが、〇ャンマー人を装って半年前に日本へ入り、表向き〇ャンマー系列の貿易商社に勤務していることになっている。
 いずれも中華国本国からの指示により日本国内で活動しているようだ。

 ダイモンの得た情報によれば、スマホにかなり重要な情報が入っていそうなんだが、ボタン一つでスマホの内部メモリーを物理的に焼毀しょうきする装置が付いているので、逮捕時には注意が必要だ。
 いずれにせよこの二人を逮捕すれば、中華国もしくは〇ャンマー国との外交面での衝突は避けられないだろうな。

 それにしてもこいつら、バレないと思っているから未だに日本へ居残っているんだろうな。
 確かに防衛省も警察もこいつらの存在には全く気付いていない現状ではある。

 あるいは,警察若しくは防衛省にスパイが紛れ込んでいるかな?
 少なくとも例の環境保護団体のテロ未遂事件の際は、爆弾を仕掛けた実行犯は速やかに全員が国外に脱出していたからね。

 安全を期すなら国外に出ているはずなんだが・・・。
 ふむ、この辺も何となく危ない感じではあるな。

 ダイモンにスパイがいるかどうかについても探れるかと聞いたが、生憎とこの二人に対する指令や情報は全て中華国本国から出されるようで、仮にこの事件の関連でほかのスパイが潜入していても直接の接触はないようだし、少なくともこの二人はそのような人物が居るかどうかについては知らされていないようだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監
ファンタジー
 レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。  昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。  記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。  二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。  男はその未来を変えるべく立ち上がる。  この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。  この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。    投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。

二つのR ~ 守護霊にResistanceとReactionを与えられた

サクラ近衛将監
ファンタジー
 ごく普通の男子高校生が、虐めまがいの暴力に遭い、その際にご先祖様で仙人だった守護霊に特殊な能力を与えられて、色々とやらかしはじめる物語。  メインの能力は「Resistance」と「Reaction」なのだが、そこから派生して種々の能力が使えるようになる。  その検証過程でどのような能力なのか確認しながら物語は進んでゆく。  毎週火曜日午後8時に投稿予定です。  一話あたり三千~四千字を目標にします。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

処理中です...