上 下
36 / 73

第36話 占い師 その二

しおりを挟む
 占い師のおばさんこと鳴海なるみ恭子きょうこさん、本当にめんどい人だった。
 失せ物探しはやってないからと種々お断りし、昼飯時(正午過ぎ)になったから、これ幸いと客(おばさん)を放り出して、最寄りの喫茶店へ昼飯に出かけたんだが、事務所に戻ってきたら、まだ居やがった。

 この日は小室さんと藤田さんの両方が居たんだが、なんとこのおばさんに買収されていたぜ。
 どうやら電話で寿司の出前を頼んだらしい。

 近所でも結構有名な寿司屋さんの特上寿司を三人前頼んで、小室さんと藤田さんもごちそうになったみたいだ。
 従業員が寿司でなびいていたんでは俺が困るんだが、そうなった以上は仕方がないよな。

 おまけにこれ以上の放置プレイも難しい。
 何しろ応接セットの一つを何となくケバい感じのおばさんが占拠しているんだから、ほかの客の方が戸惑っちゃうよね。

 午後の客が少し引けたところで再度の話し合いをしたんだが・・・。
 まぁ、ケバいおばさんの圧に負けたな。

 うちの従業員二人が昼飯で買収されていたしな。
 残念だが、失せ物探しを一応やってみることにした。

 ついでに、念話で陰陽師姿の背後霊か守護霊化に聞いてみた。

『お前さん、失せ物のありかを知っているんじゃないのかい?
 何で教えてやらないんだ?』

『おや、我とも話ができるのかい?
 これはまたびっくりだ。
 守護霊を見ることはできても会話をなすことができる者は極めて稀なんだけれど・・・。
 うーむ、ますます其方そなたに興味が湧いたなぁ。
 我は安倍朝臣あべのあそん嫡流ちゃくりゅう土御門つちみかど晴信はるのぶという。
 その昔、京で陰陽師をなしておったモノじゃ。
 其方の問いの答えなんじゃが、実はこの恭子殿、我の存在も知らぬし、もちろん会話もできぬ。
 じゃから、ここへ誘導するのにも物凄い手間暇がかかったのじゃ。
 本当に面倒な被庇護者だよ。
 で、今一つの問いへの答えなんじゃが、失せ物のありかは我にも何となくわかるが、我が近づけない場所でな。
 当然のことながら、この恭子殿に教えることもままならぬ状態なのじゃ。
 下手をすれば、この被庇護者の命が危ういかもしれぬ。
 ならば、霊力の高い者に頼むしかない。
 色々調べた挙句に見つけたのが其方なのじゃ。
 まことに相すまぬことじゃが、一つ骨を折ってはくれぬか。
 失せ物自体は、美術品としては非常に価値が高いものだから、探し出すことで大いに社会に貢献できると思うがのぅ。』

『正直なところ、俺は、美術業界に貢献しようとは思っていないんだぜ。
 報酬も本来は俺の仕事の目的じゃないんだ。
 そもそもが、失踪者とその身寄りの者が困っているのなら探し出してやろうというだけの話なんだ。
 だから、こういう仕事を持ち込んでもらっては非常に困るんだよ。
 特に、このおばさん、政財界に名を知られている占い師じゃないのか?
 少なくとも辻占いをやっている人じゃないと思うんだが・・・・。』

『うん、正解。
 政界筋の客が約七割、残り約三割が財界筋だね。
 だから、ここで恩を売っておくと、何か困った折には、政財界の大物の協力が得られるかもしれないぞよ。』

『俺はそういうのが嫌いなんだよ。
 特にそういった連中は、人を便利なコマとして利用しようとするからな。
 少なくとも俺は遠慮しておく。』

『なるほど、なるほど、・・・。
 古今、そういったコネがあれば使おうとする輩が多いのに、其方は近頃稀に見る奇特なお人のようじゃのぅ。
 でもまぁ、ここで知り合うたのも何かの縁じゃろうから、今後ともよろしく。
 できるだけ其方に迷惑はかけないようにするから。』

 恭子さんとの話は別にして、土御門何某という守護霊とそんな内緒話をして別れたのだった。
 それにしても、陰陽師の力を持つ守護霊が近づけず、なおかつ、俺への依頼人である鳴海恭子の命が危ないかもしれないとなると、かなり危険な仕事ということになるのかな?
 
 あの守護霊がどの程度の力量を持っているのかはわからないんだが,普通であれば悪霊の調伏ぐらいは陰陽師であればできそうなものだが・・・。
 あるいは、守護霊となったことでその力量が制限されているか?

 守護霊が大きな力を発揮すると、周囲の者に対しては被庇護者であるおばさんの力と勘違いされてしまうかもしれないしな。
 そもそも、今俺が住んでいる松濤の屋敷も、呪いの館騒ぎがあって手に入れたようなもんだが、その際にも感じたんだが、現代の祈祷師はかなり力量不足のような気がするよね。

 余り害を与えない霊を無理に調伏しようとして、反射的にその力が返されたことで呪いのようになって当の祈祷師が死んじゃったようだから・・・。
 その人がいわゆる祈祷師の第一人者であったとすれば、守護霊も簡単には古の力を発揮できないのかもしれない。

 それにしても、人に知られないように何とかする方法が無いわけじゃないだろうにと思う俺だった。
 いずれにしろ、取り敢えずは依頼人(おばさん)の依頼人(大本の依頼人)と会って、遺産として残された屋敷に行ってみるしかないな。

 場所は九品仏駅近くのお屋敷だ。
 お屋敷の敷地面積は、駐車場として使っている敷地も合わせると二千五百平米を超えるらしい。

 まぁ、この近辺じゃ間違いなく大地主になるんじゃないのかな。
 その敷地と、北に位置する古い屋敷が、遺産相続のお屋敷のようだ。

 相続人は三人で、土地と家屋を分散して相続することになったようだ。
 家の方は、かつては立派な邸宅だったのだろうが、築50年以上も経った木造建築ではおそらくほとんど価値が無い。

 むしろ、改築修理や取り壊しにかなりの費用が掛かりそうだ。
 その敷地の一角に土蔵が有って、その中に種々の古物が収納されていたようだが、件の相続人が何日もかけて探したのだが、掛け軸二幅は見つからなかったようだ。

 そもそも失せ物駄探しの依頼を受けた鳴海さんに同行して、本来の依頼人に挨拶し、屋敷の中を調べて歩くことを許可してもらったので、早速に敷地に入り、種々の精霊や霊との情報交換だ。
 屋敷の方には特段の問題は無かったな。

 曼荼羅の掛け軸二幅については、この古い屋敷内にはなさそうである。
 次いで母屋と少し離れた位置にある土蔵である。

 かなりの年代物で、厚い漆喰で覆われている土蔵はそれだけで歴史の重みを感じさせる。
 そこで土蔵の精霊に聞こうとして、できなかった。

 土蔵の霊もしくは精霊の存在は感じられるが、当該霊が何らかの拘束を受けているようなのだ。
 為に、俺との交信ができないようだ。

 生憎とジェスチャーで会話するようなことはできない。
 元々、念話という特殊な方法で会話しているのであって、身振り手振りで意思疎通ができるような相手じゃないんだ。

 そもそも感じ方も違う存在なわけで、俺のことがどう見えているかも正直なとこわからないんだ。
 そんな中で俺がジェスチャーをしても通じるわけがない。

 例えばそういったジェスチャーの定番で、目の前に見えない壁があるような身振りをしたとして、霊に対してその壁に触れているという身振り手振りが、どう理解されるかは全く別物なんだ。
 下手をすれば単に踊っているものと解釈されても不思議じゃない。

 従って、この念話が封じられると俺の仕事は非常にやりにくいことになる。
 止むを無いので俺の居候と守護霊に相談してみたよ。

『なんだか、念話が阻害されているみたいなんだけれど、これって何かの祟りのようなものなのか?』

 九尾の狐が答えた。

『いや、違うね。
 この場にある魔法陣のようなものが念話を阻害するために機能しているようだ。
 生憎と、古来日ノ本に伝わる陰陽術などとは違うような気がするんだが、ダイモンはわかる?』

『いや、儂も初めてみるが・・・。
 これは、もしやインドから伝わってきたヒンドゥー教の魔法陣、・・・。
 いや、曼荼羅の陣なのかもしれぬ。
 何故に曼荼羅が魔法陣のような働きを持っているのかはわからぬが、明確な認識疎外が生じているな。
 その疎外のための結界が機能しているがゆえに、そこに居る霊とも意思疎通ができぬのじゃと思う。』

『なんとも面妖なことになったけれど、コンちゃんかダイモンは、その曼荼羅か魔法陣を無効化することはできるかい?』

 コンちゃんというのは、九尾の狐のことだ。
 親しみを込めて俺はコンちゃんと呼んでいる。

 そのコンちゃんが言った。

『できなくもないが、無理をすれば曼荼羅ごと周囲が吹き飛ぶやもしれぬ。
 余り勧められぬな。』

 ダイモンも同じく言った。

『そもそも、道理の異なるものを扱うのはかなり無理が生じるのじゃ。
 似たようなものがあるからと言って、無理に当てはめると、そもそも理が歪むでのう。
 あまり無理はせぬ方が良かろう。』

『何と。手が無いと?』

『あ、いいや、そうではない。
 儂らではできぬというだけのことじゃ。
 あるいはおぬしがやれば何とかできるやもしれぬ。』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監
ファンタジー
 レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。  昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。  記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。  二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。  男はその未来を変えるべく立ち上がる。  この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。  この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。    投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

異世界帰りの最強勇者、久しぶりに会ったいじめっ子を泣かせる

水無土豆
ファンタジー
学校でイジメを受けて死んだ〝高橋誠〟は異世界〝カイゼルフィール〟にて転生を果たした。 艱難辛苦、七転八倒、鬼哭啾啾の日々を経てカイゼルフィールの危機を救った誠であったが、事件の元凶であった〝サターン〟が誠の元いた世界へと逃げ果せる。 誠はそれを追って元いた世界へと戻るのだが、そこで待っていたのは自身のトラウマと言うべき存在いじめっ子たちであった。

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...