15 / 66
第15話 失踪宣告?
しおりを挟む
2026年11月に米国留学中の娘さんが消息を絶った一件について、当該事件を調べて娘の行方を捜してほしいとの依頼が2028年の1月中旬にあった。
依頼人は、河合由香さん47歳で、主にJICAベースの国際協力事業に関連する事案を請け負う会社の理事をしている。
2026年の9月からUCLAに留学中の河合奈美恵さん(当時19歳)が、11月に突然消息不明となり、現地警察等の捜査にも関わらず杳としてその行方が分からない状態なのだ。
そうして、この1月に入って別居している由香さんの夫が娘の失踪宣告を家裁に申請したらしい。
そのことが契機となったのか、娘の生存を信じたい母親の由香さんは何とか娘を探し出してほしいと俺に依頼を出してきたわけだ。
別に失踪宣告を受けても、本人が生きていれば、後で復権はできるんだが、どうも別居中の旦那がそれを期に離婚訴訟を起こす気配なので、由香さんはその点を危惧している様だ。
娘の放任が消息不明の原因だとして離婚の理由をこじつけ、多額の慰謝料を請求するつもりのようだと見ているらしい。
由香さんも旦那との離婚には同意するが、無駄な慰謝料なんぞ一銭でも旦那に支払うつもりはないらしい。
元々旦那と別居している理由も、彼の金遣いの荒さゆえのことであったらしい。
因みに別居中でも娘の養育費は由香さんと旦那さんが折半して出していたようだが、UCLAの留学費用はカリフォルニア州民の場合は1万5千$程度なんだが、州民ではない奈美恵さんの場合はその三倍ほどの4万1千ドル強(約620万円)ほども高くなる。
おまけに留学中の滞在費もかかるので、日本の私立大学あたりと比べてもかなり高額の費用がかかっていたのだ。
一応、現時点では休学扱いとなっているのでその間の授業料は免除となっているから、現状は支出がほとんど無いのだが、由香さん曰く、娘さんの留学費用というのが旦那にとってはかなりの負担ではあったようだ。
何となく離婚理由に娘の失踪を理由とするというのも理屈に合わないし、こいつも男女の愛憎が絡む事件なので俺としては何となく腰が引けるんだが、事情が事情なので一応受けることにした。
調査にはやはり現地であるロサンゼルスに行かにゃならんのだが、その旅費も必要経費でみると依頼人が言っているからだ。
仕事はせにゃならんが、ロハで海外旅行ができるのはまぁまぁ良いことではある。
というわけで1月16日、俺は羽田空港からロサンゼルスに向かったよ。
こういう時、有効期間10年のパスポートは役に立つ。
米国については事前にESTA(電子渡航申請)という奴をせにゃならんのだが、左程難しいものではない。
今回の渡航目的は本当は仕事なんだが、「ビジネス」と言うと結構色々と根掘り葉掘り聞かれたりして、面倒な場合もあるので、仕事の依頼内容を伏せるためにも一応観光目的にしている。
別に現地で金もうけをするつもりはないからビザもいらない。
1月は、米国でも当然に冬なんだが、ロサンゼルスの場合は、1月の最高気温が20度前後、最低気温が10度前後とかなり温かいんだ。
東京の最高気温10度、最低が氷点下などと比べると段違いの温かさだ。
おまけに雨が少なく、晴天が多いのもカリフォルニアの特徴だな。
河合奈美恵さんが住んでいたのは、比較的セキュリティのしっかりしたミッドベール通り沿いのアパートだ。
1年も前の失踪事件だが、ここでも家の精霊と並木の妖精が色んな情報を教えてくれたよ。
渡航前の写真や、UCLA留学中に送られてきたメールでの添付写真などから奈美恵さんのイメージ画像を念話で送ると、家の精霊はその顔を覚えていたが、ある時居なくなったという漠然とした情報しか覚えていなかった。
そのある時の時系列については必ずしも明確ではないが、家の精霊は奈美恵さんの最後の服装は覚えていた。
そのイメージ画像を頼りに街路樹を順次訪ねて行って、奈美恵さんが誘拐されるところを目撃した妖精を見つけた。
その証言から使用された車の車種やナンバーがわかり、例によってエレックに依頼して電子情報を探ってもらって持ち主を探し、ロサンゼルス界隈の汚れ仕事を請け負う闇の組織を見つけるに至った。
最終的に、ロサンゼルスの北側にあるトッパンガ州立公園の山中に奈美恵さんが埋められていることを妖精や霊たちの目撃情報だけで確認できたが、問題なのは当該組織に奈美恵さんの誘拐と殺人を依頼したのが、日本人の河合誠という男であり、奈美恵さんの実父であったことだ。
依頼の電話やメールは、闇組織の秘密拠点で電子データーとして暗号化されて保管されていたので、例によってエレックに頼んで俺のPCにコピーしてもらった。
ロサンゼルスに来て四日後、色々と下調べと事前工作を行ってから、俺は、国際電話をかけて警視庁の神山さんに連絡をした上で、ロサンゼルス警察署にやってきた。
米国における探偵の社会的地位ってのはかなり低い。
弁護士事務所と専属契約を結んでいる探偵事務所ならばともかく、フリーの探偵なんてのはその辺のごろつきと同等に見做されている。
実際に依頼者の秘密を握って恐喝などをするような悪辣な探偵もいるようだしな。
まして日本から来た探偵なんぞ単なるごみ同然だから、L.A.警察署での扱いはかなり悪かったな。
それでもオスカル・ベイリーって刑事が何とか話を聴いてくれ、俺の衛星電話を使って神山管理官とも英語で話をした上で、捜査を開始してくれた。
最初に動いたのは特命情報に基づく捜索差し押さえだな。
「ヴィヴォラ」という誘拐と殺人を請け負った闇組織のアジトを急襲、かなりの証拠を確保した上で、被疑者を指名手配した。
現地警察が押収した証拠資料の中に当然のことながら河合誠からの依頼などの情報も入っていた。
その情報を受けて、日本では河合誠が取り敢えず任意で取り調べを受けることになったようだ。
俺の仕事はここまでなのでロサンゼルスから引き揚げたが、捜索差し押さえを実施した二日後、誘拐・殺人の実行犯が逮捕され、その自供に基づき、トッパンガ州立公園の山中に埋められていた奈美恵さんの遺体が発見された。
このことにより、河合誠が申請していた失踪宣告の手続きは、奈美恵さんの死亡が別途確認されたことにより中断され、同時に河合誠は嘱託殺人の主犯として逮捕され、起訴されることになったよ。
事件関係については割合さらっと報告しているけれど、実は俺も色々と動いてはいたんだぜ。
ガサ入れまでに証拠が抹消されないようにすること、また、逮捕されたら素直に吐くことを関係者の脳裏に強制的にねじ込んでやった。
俺の力じゃないよ。
俺に半ば憑依して欧州からやってきた吸血鬼の霊魂のなせる業だ。
奴の場合、現世に居た際は血を吸うことにより対象者を従属させることができた。
だがその奴の肉体が、とある事情で滅びて霊魂となった際にその能力が変化し、血を吸わずとも人の意思をある程度操ることができるようになったらしいんだ。
今回の場合は、折角残っている証拠を抹消されると河合誠につながる線が消えるし、実行犯がゲロしないと、殺人の証拠である遺体が発見できないんだ。
因みに「ヴィヴォラ」という組織は、スペイン語系の人種からなる秘密結社のようなもので、ものすごく結束が固いんだ。
普通なら拷問にあっても仲間内の不利になるようなことは絶対に吐かない。
それは顧客の秘密に対しても当然になされるのが、奴らの原理原則でもある。
だから、そいつを弄っておかないと、収拾がつかないことになりかねない。
で、やむを得ないから元吸血鬼である「カーミラ」を使ってやった。
こいつの代償は、面倒な話だが、俺の精気を吸うことだ。
一度に全部吸われたら俺が死ぬかもしれんから分割払いでお願いしている。
カーミラを出現させてから7日間、俺は、夜な夜なカーミラに精気を吸われているぜ。
どこから精気を吸われているって?
内緒だ。
人には言えん。
7日間も連続でやられると干せ乾びるんじゃないかと心配したが、意外と俺はタフだったな。
ステータスは見られないんだが、あるいは精力絶倫とかついているかも???
何れにしろ、俺は何とか耐えきったが、カーミラは本当に怖い女だぞ。
何でこんなのが俺に付きまとうのかよくわからんが、とにかくカーミラを含めて欧州からかなりの霊魂や精霊がついてきているな。
普段は俺の持っている蔵みたいなところに入っていて呼び出すと出て来て、俺が頼むとなんとか助けてくれる存在ではある。
但し、呼び出して何事かを依頼した場合、困るのは代償を求められることだな。
代償が求めるものよりも高くつくような場合は、呼び出しは勿論厳禁だな。
その逆に呼び出さずとも半分自主的に動いてくれる奴もいる。
別の事件ではそいつに助けられたな。
ギリシャからついてきた「ダイモーン」と言うのがそいつの名前だ。
そいつについては、そのうちにいずれ話せることもあるだろう。
◇◇◇◇
とあるところでの電話でのやり取り・・・・。
「珍しいねぇ。ミスター・ビリングトン。
ロサンゼルス支局のお偉方がしがない刑事のところに電話をかけて来るなんて。」
「あはは、しがないということはないだろう。
FBI支局でも有名だぜ。
おかげさんでヴィヴォラが絡んでいた未解決の事件がウチにも廻って来たぜ。」
「あぁ、そう言えば市警じゃ扱えないネタもあったんだな。
そちらに行ったわけだ。」
「まぁね、ウチの支局員が忙しい思いをしているよ。
何れにしろ、君のお陰だ。
ただ、何であの情報が取れたんだ?
お前さんのところではちょいと扱いにくいネタだったろうが・・・。
これまでヴィヴォラの家探しでめぼしい証拠が出てきた試しが無い筈だが?」
「ああ、その辺は俺も不思議だがね。
可能性があるとすれば、俺のところにネタを持ち込んだ日本の探偵かもしれん。
ロサンゼルスに観光の名目で来て、一年以上も前の失踪事件に関わる犯人を特定しやがったんだ。
ウチでも一応の捜査はしたんだが、何の証拠も掴めず単なる失踪者としてファイルされただけの事件だったがな。
その行方不明者がUCLAに留学中の日本娘で、親御さんから一年過ぎてから捜索依頼があって調べたらしい。
ネタ元は明かしてくれなかったが市内で歩き回って情報を取ったらしい。
最初はそんな日本から来た探偵ごときの世迷いごとを信じるわけもなく、動くつもりもなかったんだが、日本の警視庁のお偉方から電話が来てね。
そいつが、その探偵の身元と能力を保証するから、その男の情報を信じて捜査してくれと言う依頼が非公式にあったんだよ。
で、その探偵の情報をもとにガサ入れを掛けたら例の証拠書類が出てきたってぇ訳だ。
こっちで関係者を取り調べたら、証拠の情報はボタン一つで消去できるシステムを持っていやがった。
しかも二か所以上にあるから、どこかで押されたらデーターが消されて証拠が無くなるってやつだ、
今回はそのボタンを押そうとして押せなかったと言っている、
もう一つ言えば、あいつら仲間を売らないことで有名な組織だが、今回は簡単に吐いた。
気味が悪いほどペラペラと喋るものだから、嘘じゃないかと思って、裏トリを重複させたほどだ。
何かよく知らんが、今回だけは奴らも正直に吐くようになったらしい。
一応は、それで事件も解決したよ。」
「なるほどネタ元は日本から来た探偵か・・・。
その情報、どのくらいでつかんだ情報なんだ?」
「さぁてね、日本でどのくらいの情報を仕入れていたのかはわからない。
だがその探偵がロサンゼルスに滞在していたのは足掛け六日だけだったし、俺のところに秘匿情報を持ってきたのは四日目だったな。」
「ほう、四日目で?
で、その探偵の住所と名前を教えてくれるかい。」
「あぁ、後でメールを送っとく。
何だ、現地の駒で使うつもりか?」
「まだわからんな。
中央に上げて、気が向けば日本支局に流すだろう。」
「へ、ご苦労なこった。
じゃぁ、一個貸ができたな。
困ったら情報提供をお願いするかもしれん。」
「あぁ、提供するにしてもできる範囲の話だな。
じゃ、また。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
11月25日、一部の字句修正を行いました。
By サクラ近衛将監
依頼人は、河合由香さん47歳で、主にJICAベースの国際協力事業に関連する事案を請け負う会社の理事をしている。
2026年の9月からUCLAに留学中の河合奈美恵さん(当時19歳)が、11月に突然消息不明となり、現地警察等の捜査にも関わらず杳としてその行方が分からない状態なのだ。
そうして、この1月に入って別居している由香さんの夫が娘の失踪宣告を家裁に申請したらしい。
そのことが契機となったのか、娘の生存を信じたい母親の由香さんは何とか娘を探し出してほしいと俺に依頼を出してきたわけだ。
別に失踪宣告を受けても、本人が生きていれば、後で復権はできるんだが、どうも別居中の旦那がそれを期に離婚訴訟を起こす気配なので、由香さんはその点を危惧している様だ。
娘の放任が消息不明の原因だとして離婚の理由をこじつけ、多額の慰謝料を請求するつもりのようだと見ているらしい。
由香さんも旦那との離婚には同意するが、無駄な慰謝料なんぞ一銭でも旦那に支払うつもりはないらしい。
元々旦那と別居している理由も、彼の金遣いの荒さゆえのことであったらしい。
因みに別居中でも娘の養育費は由香さんと旦那さんが折半して出していたようだが、UCLAの留学費用はカリフォルニア州民の場合は1万5千$程度なんだが、州民ではない奈美恵さんの場合はその三倍ほどの4万1千ドル強(約620万円)ほども高くなる。
おまけに留学中の滞在費もかかるので、日本の私立大学あたりと比べてもかなり高額の費用がかかっていたのだ。
一応、現時点では休学扱いとなっているのでその間の授業料は免除となっているから、現状は支出がほとんど無いのだが、由香さん曰く、娘さんの留学費用というのが旦那にとってはかなりの負担ではあったようだ。
何となく離婚理由に娘の失踪を理由とするというのも理屈に合わないし、こいつも男女の愛憎が絡む事件なので俺としては何となく腰が引けるんだが、事情が事情なので一応受けることにした。
調査にはやはり現地であるロサンゼルスに行かにゃならんのだが、その旅費も必要経費でみると依頼人が言っているからだ。
仕事はせにゃならんが、ロハで海外旅行ができるのはまぁまぁ良いことではある。
というわけで1月16日、俺は羽田空港からロサンゼルスに向かったよ。
こういう時、有効期間10年のパスポートは役に立つ。
米国については事前にESTA(電子渡航申請)という奴をせにゃならんのだが、左程難しいものではない。
今回の渡航目的は本当は仕事なんだが、「ビジネス」と言うと結構色々と根掘り葉掘り聞かれたりして、面倒な場合もあるので、仕事の依頼内容を伏せるためにも一応観光目的にしている。
別に現地で金もうけをするつもりはないからビザもいらない。
1月は、米国でも当然に冬なんだが、ロサンゼルスの場合は、1月の最高気温が20度前後、最低気温が10度前後とかなり温かいんだ。
東京の最高気温10度、最低が氷点下などと比べると段違いの温かさだ。
おまけに雨が少なく、晴天が多いのもカリフォルニアの特徴だな。
河合奈美恵さんが住んでいたのは、比較的セキュリティのしっかりしたミッドベール通り沿いのアパートだ。
1年も前の失踪事件だが、ここでも家の精霊と並木の妖精が色んな情報を教えてくれたよ。
渡航前の写真や、UCLA留学中に送られてきたメールでの添付写真などから奈美恵さんのイメージ画像を念話で送ると、家の精霊はその顔を覚えていたが、ある時居なくなったという漠然とした情報しか覚えていなかった。
そのある時の時系列については必ずしも明確ではないが、家の精霊は奈美恵さんの最後の服装は覚えていた。
そのイメージ画像を頼りに街路樹を順次訪ねて行って、奈美恵さんが誘拐されるところを目撃した妖精を見つけた。
その証言から使用された車の車種やナンバーがわかり、例によってエレックに依頼して電子情報を探ってもらって持ち主を探し、ロサンゼルス界隈の汚れ仕事を請け負う闇の組織を見つけるに至った。
最終的に、ロサンゼルスの北側にあるトッパンガ州立公園の山中に奈美恵さんが埋められていることを妖精や霊たちの目撃情報だけで確認できたが、問題なのは当該組織に奈美恵さんの誘拐と殺人を依頼したのが、日本人の河合誠という男であり、奈美恵さんの実父であったことだ。
依頼の電話やメールは、闇組織の秘密拠点で電子データーとして暗号化されて保管されていたので、例によってエレックに頼んで俺のPCにコピーしてもらった。
ロサンゼルスに来て四日後、色々と下調べと事前工作を行ってから、俺は、国際電話をかけて警視庁の神山さんに連絡をした上で、ロサンゼルス警察署にやってきた。
米国における探偵の社会的地位ってのはかなり低い。
弁護士事務所と専属契約を結んでいる探偵事務所ならばともかく、フリーの探偵なんてのはその辺のごろつきと同等に見做されている。
実際に依頼者の秘密を握って恐喝などをするような悪辣な探偵もいるようだしな。
まして日本から来た探偵なんぞ単なるごみ同然だから、L.A.警察署での扱いはかなり悪かったな。
それでもオスカル・ベイリーって刑事が何とか話を聴いてくれ、俺の衛星電話を使って神山管理官とも英語で話をした上で、捜査を開始してくれた。
最初に動いたのは特命情報に基づく捜索差し押さえだな。
「ヴィヴォラ」という誘拐と殺人を請け負った闇組織のアジトを急襲、かなりの証拠を確保した上で、被疑者を指名手配した。
現地警察が押収した証拠資料の中に当然のことながら河合誠からの依頼などの情報も入っていた。
その情報を受けて、日本では河合誠が取り敢えず任意で取り調べを受けることになったようだ。
俺の仕事はここまでなのでロサンゼルスから引き揚げたが、捜索差し押さえを実施した二日後、誘拐・殺人の実行犯が逮捕され、その自供に基づき、トッパンガ州立公園の山中に埋められていた奈美恵さんの遺体が発見された。
このことにより、河合誠が申請していた失踪宣告の手続きは、奈美恵さんの死亡が別途確認されたことにより中断され、同時に河合誠は嘱託殺人の主犯として逮捕され、起訴されることになったよ。
事件関係については割合さらっと報告しているけれど、実は俺も色々と動いてはいたんだぜ。
ガサ入れまでに証拠が抹消されないようにすること、また、逮捕されたら素直に吐くことを関係者の脳裏に強制的にねじ込んでやった。
俺の力じゃないよ。
俺に半ば憑依して欧州からやってきた吸血鬼の霊魂のなせる業だ。
奴の場合、現世に居た際は血を吸うことにより対象者を従属させることができた。
だがその奴の肉体が、とある事情で滅びて霊魂となった際にその能力が変化し、血を吸わずとも人の意思をある程度操ることができるようになったらしいんだ。
今回の場合は、折角残っている証拠を抹消されると河合誠につながる線が消えるし、実行犯がゲロしないと、殺人の証拠である遺体が発見できないんだ。
因みに「ヴィヴォラ」という組織は、スペイン語系の人種からなる秘密結社のようなもので、ものすごく結束が固いんだ。
普通なら拷問にあっても仲間内の不利になるようなことは絶対に吐かない。
それは顧客の秘密に対しても当然になされるのが、奴らの原理原則でもある。
だから、そいつを弄っておかないと、収拾がつかないことになりかねない。
で、やむを得ないから元吸血鬼である「カーミラ」を使ってやった。
こいつの代償は、面倒な話だが、俺の精気を吸うことだ。
一度に全部吸われたら俺が死ぬかもしれんから分割払いでお願いしている。
カーミラを出現させてから7日間、俺は、夜な夜なカーミラに精気を吸われているぜ。
どこから精気を吸われているって?
内緒だ。
人には言えん。
7日間も連続でやられると干せ乾びるんじゃないかと心配したが、意外と俺はタフだったな。
ステータスは見られないんだが、あるいは精力絶倫とかついているかも???
何れにしろ、俺は何とか耐えきったが、カーミラは本当に怖い女だぞ。
何でこんなのが俺に付きまとうのかよくわからんが、とにかくカーミラを含めて欧州からかなりの霊魂や精霊がついてきているな。
普段は俺の持っている蔵みたいなところに入っていて呼び出すと出て来て、俺が頼むとなんとか助けてくれる存在ではある。
但し、呼び出して何事かを依頼した場合、困るのは代償を求められることだな。
代償が求めるものよりも高くつくような場合は、呼び出しは勿論厳禁だな。
その逆に呼び出さずとも半分自主的に動いてくれる奴もいる。
別の事件ではそいつに助けられたな。
ギリシャからついてきた「ダイモーン」と言うのがそいつの名前だ。
そいつについては、そのうちにいずれ話せることもあるだろう。
◇◇◇◇
とあるところでの電話でのやり取り・・・・。
「珍しいねぇ。ミスター・ビリングトン。
ロサンゼルス支局のお偉方がしがない刑事のところに電話をかけて来るなんて。」
「あはは、しがないということはないだろう。
FBI支局でも有名だぜ。
おかげさんでヴィヴォラが絡んでいた未解決の事件がウチにも廻って来たぜ。」
「あぁ、そう言えば市警じゃ扱えないネタもあったんだな。
そちらに行ったわけだ。」
「まぁね、ウチの支局員が忙しい思いをしているよ。
何れにしろ、君のお陰だ。
ただ、何であの情報が取れたんだ?
お前さんのところではちょいと扱いにくいネタだったろうが・・・。
これまでヴィヴォラの家探しでめぼしい証拠が出てきた試しが無い筈だが?」
「ああ、その辺は俺も不思議だがね。
可能性があるとすれば、俺のところにネタを持ち込んだ日本の探偵かもしれん。
ロサンゼルスに観光の名目で来て、一年以上も前の失踪事件に関わる犯人を特定しやがったんだ。
ウチでも一応の捜査はしたんだが、何の証拠も掴めず単なる失踪者としてファイルされただけの事件だったがな。
その行方不明者がUCLAに留学中の日本娘で、親御さんから一年過ぎてから捜索依頼があって調べたらしい。
ネタ元は明かしてくれなかったが市内で歩き回って情報を取ったらしい。
最初はそんな日本から来た探偵ごときの世迷いごとを信じるわけもなく、動くつもりもなかったんだが、日本の警視庁のお偉方から電話が来てね。
そいつが、その探偵の身元と能力を保証するから、その男の情報を信じて捜査してくれと言う依頼が非公式にあったんだよ。
で、その探偵の情報をもとにガサ入れを掛けたら例の証拠書類が出てきたってぇ訳だ。
こっちで関係者を取り調べたら、証拠の情報はボタン一つで消去できるシステムを持っていやがった。
しかも二か所以上にあるから、どこかで押されたらデーターが消されて証拠が無くなるってやつだ、
今回はそのボタンを押そうとして押せなかったと言っている、
もう一つ言えば、あいつら仲間を売らないことで有名な組織だが、今回は簡単に吐いた。
気味が悪いほどペラペラと喋るものだから、嘘じゃないかと思って、裏トリを重複させたほどだ。
何かよく知らんが、今回だけは奴らも正直に吐くようになったらしい。
一応は、それで事件も解決したよ。」
「なるほどネタ元は日本から来た探偵か・・・。
その情報、どのくらいでつかんだ情報なんだ?」
「さぁてね、日本でどのくらいの情報を仕入れていたのかはわからない。
だがその探偵がロサンゼルスに滞在していたのは足掛け六日だけだったし、俺のところに秘匿情報を持ってきたのは四日目だったな。」
「ほう、四日目で?
で、その探偵の住所と名前を教えてくれるかい。」
「あぁ、後でメールを送っとく。
何だ、現地の駒で使うつもりか?」
「まだわからんな。
中央に上げて、気が向けば日本支局に流すだろう。」
「へ、ご苦労なこった。
じゃぁ、一個貸ができたな。
困ったら情報提供をお願いするかもしれん。」
「あぁ、提供するにしてもできる範囲の話だな。
じゃ、また。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
11月25日、一部の字句修正を行いました。
By サクラ近衛将監
1
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか
サクラ近衛将監
ファンタジー
レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。
昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。
記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。
二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。
男はその未来を変えるべく立ち上がる。
この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。
この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。
投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。
二つのR ~ 守護霊にResistanceとReactionを与えられた
サクラ近衛将監
ファンタジー
ごく普通の男子高校生が、虐めまがいの暴力に遭い、その際にご先祖様で仙人だった守護霊に特殊な能力を与えられて、色々とやらかしはじめる物語。
メインの能力は「Resistance」と「Reaction」なのだが、そこから派生して種々の能力が使えるようになる。
その検証過程でどのような能力なのか確認しながら物語は進んでゆく。
毎週火曜日午後8時に投稿予定です。
一話あたり三千~四千字を目標にします。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
わがまま令嬢の末路
遺灰
ファンタジー
清く正しく美しく、頑張って生きた先に待っていたのは断頭台でした。
悪役令嬢として死んだ私は、今度は自分勝手に我がままに生きると決めた。我慢なんてしないし、欲しいものは必ず手に入れてみせる。
あの薄暗い牢獄で夢見た未来も、あの子も必ずこの手にーーー。
***
これは悪役令嬢が人生をやり直すチャンスを手に入れ、自由を目指して生きる物語。彼女が辿り着くのは、地獄か天国か。例えどんな結末を迎えようとも、それを決めるのは彼女自身だ。
(※内容は小説家になろうに投稿されているものと同一)
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで
一本橋
恋愛
ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。
その犯人は俺だったらしい。
見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。
罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。
噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。
その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。
慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる