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第五章 新たなる門出

5-8 二組の恋人たち

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 マイケルとメリンダの両親に会いに行くのは、午後9時と決められた。
 ヘンリーとサラは、マイケルとサラの両親が何処にいるのかも知らないし、名前も聞いていなかった。

 だが、それぞれに伴侶となるべき人を信頼していたので特に心配はしていなかった。
 午後8時45分にマイケルの部屋に集合すると、最初にソファに座らされた。

 いつもどおりマイケルの傍にサラが、メリンダの傍にヘンリーが座った。
 マイケルが話し出した。

「両親のところへ行く前にすることがあってね。
 君達に最後の秘密を打ち明けなければならない。
 一つはカレック語では両親には通じないから、言葉を教えておく必要がある。」

 サラは驚いて言った。

「ちょっと待って。
 ご両親って、カレック連邦の人じゃないの。」

 メリンダが説明する。

「ごめんなさい。
 どうしても、それだけは嘘をつかねばならないことだったの。
 私達の両親はカレック連邦の人じゃないわ。」

「じゃぁ、あなた方も外国人なの?
 だって、あなた方の出生証明書にもパスポートにも出身はミットランド州って記載してあるのに。」

 マイケルが平然と答える。

「ああ、戸籍を変えてしまえば、全てそのようになってしまうからね。
 別に僕達がパスポートを偽造したわけじゃない。
 大元を変えたのでそうなっているだけだ。
 それともう一つ、僕達は外国人でもない。
 僕とメリンダはこの世界ではない別の世界から来た人間だ。
 サラ、君が始めて妖精や精霊を見たときのことを考えてみてほしい。
 それまで、サラは妖精や精霊がいることすら知らなかった。
 妖精や精霊はある意味で別の世界にいる。
 だから僕らの前から姿を隠すこともできる。
 僕達は妖精や精霊ではないけれど、別の世界で生まれ育った人間だ。
 サラやヘンリーと特段の違いは無い。
 今からそれを君達に知らせる。
 その性でもし君達が僕達を嫌いになっても仕方がないと思っている。
 でもそうなったにしても僕達は君達を愛しているよ。
 リンクする。」

 サラとヘンリーは突然四人がリンクしたことに気づいた。
 そうしてブレディ一族の軌跡に関する膨大な情報を受け取った。

 ウォーレン兄妹は、ただただ呆然とするだけであった。
 リンクが解かれ、マイケルがサラに向かって言った。

「サラ、数日前に同じように言った言葉だけれど、すこし違うのでもう一度いう。
 秘密を知った今でも僕を愛してくれるならば、僕と結婚して欲しい。」

「勿論、愛している。
 そうして私も貴方となら結婚できるし、貴方以外には結婚できない。」

「メリンダ、何も言う必要は無い。
 僕もサラと同じなんだ。
 君がいなければ生きている価値が無い。
 愛している。
 どんなことがあっても君を放さない。」

 二組のカップルはキスを交わした。
 その途端に別の場所に移動していた。

 ウォーレン兄妹にもそれがマイケルとメリンダの生まれ育った家だと分かった。

 ◇◇◇◇

 四人は午後10時前にはニューベリントンのブレディ邸に戻っていた。
 メリンダとヘンリーはじゃあねと言って部屋から手をつないで出て行った。

 サラは、そのままマイケルの部屋に残った。
 考えてみれば、この邸に来て以来、マイケルの部屋で二人きりになるのは初めてだった。

「ねぇ、マイケル・・・。
 これで婚約の儀式は終わった?」

「終わったよ。
 そうして二日前に言った約束は有効だけれど、・・・。
 どうする?」

「私は、貴方に、貴方の女として抱かれたいの。
 多分、貴方と出逢った時からの望みだと思う。
 貴方に惹かれ、導かれ、漸く辿り付けた。
 だから、もうこれ以上は待てない。」

「君を抱きたいのは僕も同じさ。
 僕の寝室でいいかい。」

 サラは潤んだ目で頷いた。
 マイケルが口付けをした。

 二人は唐突に寝室にいた。
 そうして、着ていた衣服は瞬時に足元に落ちていた。

「どうするシャワーを浴びるかい。」

「さっきも言ったわ。
 もう待てないの。
 シャワーなんかどうでもいい。
 それに食事の後で風呂に入ったもの。」

 サラは裸で抱き上げられ、ベッドに静かに寝かされた。
 マイケルも無論、裸である。

 その夜、正式な結婚をしていない二組の男女が睦み合い、結ばれた。

 ◇◇◇◇

 翌朝、マイケルとサラが、ヘンリーとメリンダが、それぞれ同棲することを同居者に告げた。
 同居する者は、全員笑顔でその事実を受け入れた。

 ヘンリーとメリンダは結婚式までにブレディ邸よりは少し小さめの新居を探し出し、新たな使用人も雇ったのである。
 マイケルとサラ、ヘンリーとメリンダの結婚式は翌年3月に同時に行われた。

 同時開催で多くの人々に余分な迷惑を掛けまいとする配慮でもあった。
 ウォーレン一族も親族は多いほうだったが、ブレディ一族は一度に200名を超える人が披露宴にやって来た。

 そうしてまた、フォーリーブスで活動中に知り合った多くの方達もお祝いに駆け付けていたので、披露宴はブレディ邸で行われたものの、広い庭でさえ多くの祝い客で溢れていた。
 サラの仲良しであるアンほか三人の友達は、サラの早すぎる結婚に驚きながらも出席していた。

 アンは大学に進学していた。
 ボーイフレンドもやっとできて、キスをしあう仲であると言う。

 二年前の心の痛手の痕跡は何処にも無かった。
 マイケルやサラ達四人とその仲間達が準備を重ねていた事業の開始は目前に迫っていた。
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