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第五章 新たなる門出
5-5 旅立ちのステージ
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5月以降、フォーリーブスとその仲間は、かなりのハードスケジュールをこなしながらも、海外公演も順調にこなしていた。
依然人気は根強く特に地方、海外のライブコンサートはこれまで以上に規模が大きくなっていた。
おそらくは生で聴けるのはこれが最後と言う思いの音楽好きが集まるからであり、徐々に野外でのライブコンサート活動が主になった。
一つは観客が収容しきれないからである。
かなり巨大なスタジアムでも20万もの聴衆を一挙に収容することは無理である。
止むを得ず、マイケル達の要望で野外公演を敢行したのだが、これが大当たりであった。
天気予報で雨が予想されていても、フォーリーブスの公演の間は絶対に雨が降らないのである。
特に、8月に行われたガレセット高原、月の神殿での野外コンサートでは、連邦各地からファンが集い、特設ステージを中心に半径2メフォルが実に百万規模の人波で埋まった記録的なコンサートとなった。
これは、1月から計画されていたものであり、その収益金は先住民族記念館創設費用の一部に当てられた。
多くの先住民族が参加して月の神殿周囲の整備を図り、芝デリアを植え込んだところが会場となった。
芝デリアは非常に丈夫であり、人が踏んでも滅多に枯れることが無い。
さほどの水分を必要としないことから、月の神殿周辺の荒廃した地域には適していたのである。
コンサートはテレビ中継がなされ、先住民族を代表する顔となったミアラが、財宝の発見場所の再捜索で新たに地下宮殿の建設址を発見したと報じた。
地下宮殿は、金箔を多用したものであるが、建設途上にあったものが何らかの事情で中止された形跡があった。
また、そこから実に60メフォルに及ぶ石畳の地下坑道が発見され、クタケ山頂の遺跡とつながっていることが新たに確認されていた。
途中数箇所が崩落していたが、マイケル達が試作した掘削機の投入で、その通路が啓開したのである。
既にこの報告を受けて考古学学会は調査団を送り込んできており、明日にも学術調査を開始することとしていた。
ミアラはこの月の神殿、地下宮殿、更にはクタケ山頂までの経路を順次整備し、公開する計画を発表した。
計画では、掘削装置を用いて、月の神殿から地下宮殿とクタケ山頂を結ぶトンネルを新たに建造、特別仕様の電気軌道車を走行させ、要所、要所で内部を見学できるようにするという遠大な計画である。
その地下宮殿の内部がホログラムにより立体的に浮き上がると観衆は総立ちになった。
遠目にも分かる金で彩られた宮殿は壮麗な美しさであったからである。
7月はバカンスを取ったが、10月のバカンスは返上して11月の公演予定を可能な限り早めた。
空いた11月末日に、ニューベリントンでの最終公演を行うことになったのである。
場所は、ニューベリントンのメッセ会場であり、聴衆は全国から応募のあったファンから抽選で選ばれることになった。
応募総数は500万人を越えたが、会場に収容できるのは僅かに5万人であった。
全てのテレビ局が実況中継を希望し、その放映権料だけで3000万ドレル近くになったのである。
フォーリーブスの解散は種々の憶測を呼んでいたが、事前の会見でマイケルが、最後の公演で今後の我々四人の計画を発表しますという一言で沈静化した。
11月末日、全国から抽選で選ばれた聴衆が集まった。
公演開始は6時であり、公演の終了は9時の予定である。
通常のフォーリーブスの公演に比べると1時間長いことも大きな話題となっていた。
公演開始の時間になって、会場の照明が一つずつ消されていった。
外はまだ明るいが、明かり取りには暗幕が張られているため会場内は次第に暗くなる。
全てが真っ暗になった瞬間。
サラの声が聞こえた。
「私達フォーリーブスの四人がこのニューベリントンで初めて出会ってから二年二ヶ月。
色々な出会いがあり、ファンの皆様や大勢のスタッフや関係者に支えられてきた二年間でした。」
ヘンリーの声が聞こえた。
「明日は12月1日、私達のデビュー曲が発売された記念すべき日。
それを目前に私達は解散します。
演奏活動は全てやめると言うわけではありません。
私達四人は今後もプライベートに演奏活動を行います。
でも、演奏活動を主とした生活には一応のピリオドを打ちます。」
あちらこちらで「やめないでぇ。」という悲痛なほどの叫びが上がった。
メリンダの声が聞こえた。
「私達はかけがえのない多くの友人と出会いました。
これからも多くの友人を得ることができる思いますが、そのかけがえの無い仲間と一緒に別の活動を行いたいと考えています。
それは、現在の演奏活動主体の生活では決して達成できないものであり、このままでは大きなリスクを負うことになるからです。」
会場全体がざわざわとする。
マイケルの声が聞こえた。
「皆さんに二つの報告をいたします。
一つは、私とサラ、ヘンリーとメリンダは昨日婚約しました。
いずれ私達は結婚します。」
ここで多くの者から悲鳴に近い叫びが上がったが、マイケルは構わず続けた。
「もう一つは、私達は私達の仲間と一緒に事業を立ち上げます。
その事業は主として電子関係の製品を作る事業になります。
このニューベリントンに拠点を置き、社会のために色々な製品を作って参りたいと思います。」
始まったばかりなのに衝撃的な知らせを聞いてしくしくと泣く女性が既に大半を占めている。
ステージにスポットライトが当てられ、四人の姿が浮かび上がった。
途端に、驚くほど大きな、大きな歓声が沸きあがった。
マイケルとヘンリーはタキシード姿、サラとメリンダは花嫁衣裳である。
サラが言った。
「私達の事業は社会に大きな変革をもたらし、当初は既存事業者に大きな影響を及ぼすかもしれません。」
ヘンリーが続ける。
「ですが、この世界が平和であり続けるために必要な変革と信じ、私達は事業を開始することにしました。」
メリンダが更に続ける。
「会社の創設には若干の時間がかかり、実際に生産を始めるまでには更に時間が必要です。
私達にはその時間が必要なんです。
ですから私達は我侭と知りながら、フォーリーブスの解散を決意しました。」
会場のざわめきは次第に治まっていた。
マイケルが最後を締めくくった。
「多くのファンの皆様に感謝の意を込めて、少し早いのですが皆さんに花婿、花嫁衣裳をお見せし、私達の新たな門出を祝っていただきたいと思いました。
解散、結婚、そうして新たな事業の立ち上げも私達の門出なのです。
どうか、どうか私達の我儘のお許しをいただき、また笑って見送っていただきたいと思います。」
この短い時間の中で観衆は、フォーリーブスの強い思いを感じ取っていた。
それゆえに静かになった。
ほとんど物音一つ無い中、四人は揃って礼をした。
それから異なる三方に向かって同様に三回礼をしたのである。
やがて、フォーリーブスの決断を許し、祝福を与えるために拍手が沸き起こり、やがて会場全体が拍手とエールを送った。
サラが言った。
「今夜は、私達の全てをお見せしたいと思います。」
ヘンリーが言った。
「最後までお楽しみいただければこれに勝る喜びはありません。」
メリンダが言った。
「いつものように今日もプログラムは用意してありませんが、幾つかの紹介で説明がある場合もあります。」
マイケルが言った。
「音楽は耳で聴くものではなく心で聴くものだと私達は思っています。
それでは、始めたいと思います。」
四人が一斉に動き出し、それぞれに楽器を手に持った。
その途端、四人の背後に8人のバンドがスポットライトに浮かび上がった。
客のほとんどがその8人を知っている。
さらにその背後に、四人のマネージャーが浮かび上がった。
客の半数がその顔ぶれを知っていた。
照明担当、音響効果担当、ホログラム担当、演出企画担当である。
12人の演奏で最後のステージが始まった。
いつもながらの素晴らしい演奏であり、心躍るような楽しげな音楽から始まった。
演奏が終わると、サラとマイケル、メリンダとヘンリーが手を取って軽く走り出すようにステージの奥の大きな箱に飛び込んだ。
不意にサラとマイケルの声が聞こえ、同時に残った8人が静かな曲を演奏し始めた。
「私達はこのステージで多くの衣装を御紹介しなければなりません。
その衣装のデザイナーを皆さんに御紹介します。
レイチェル・ブレクストンさん、どうぞお立ちください。」
観客席の前列の中に一人の夫人が立ち上がりスポットライトを浴びた。
レイチェルは周囲に軽く会釈し着席した。
同時にスポットライトが消え、メリンダとヘンリーの声が聞こえた。
「レイチェルさんは、私達の専属デザイナーをデビュー時から引き受けてくださいました。
そのレイチェルさんが今日の衣装全てを渡してくれた時に厳命しました。
貴方達4人は、この衣装全てをお客様に紹介しなければならない義務がありますと・・。」
四人の声が聞こえた。
「レイチェルさんに大いなる感謝を込めて、私達は30着の衣装全てを皆さんに順次御紹介します。」
そうして、四人が新たな衣装を身に着けて順次出てきた
いつもながら素早くしかも素敵な衣装であった。
四人は舞台の中央に進み出て、デビュー曲を歌い始めた。
歌が半ばまで進んだ時、更に別の衣装を身に着けたフォーリーブスが出てきた。
野性的な魅力が漂う豹柄模様の斬新なデザインである。
聴衆は面食らった。
ステージ上に衣装こそ違うが二組のフォーリーブスがいるのである。
新たに出てきた四人はちょっと変わった太鼓の楽器に取り付いたが演奏は始めない。
デビュー曲が終焉を向かえ、歌っていた四人は足早にステージの奥に去っていった。
サラの声が聞こえた。
太鼓に取り付いたサラが話しているのだが、間違いなくサラの声である。
背後で8人の演奏が行われている。
「私達の出会いの中で最も大きな音楽的な衝撃を覚えた曲。
それは、先住民族の伝承的な音楽でした。」
ヘンリーが続けた。
「皆様にも御紹介します。
グァハッシ族に伝わる音楽の継承者キャリアークの皆様です。」
スポットライトが20名の席に当たり、団体が立ち上がって挨拶をし、着席をした。
メリンダが口を開いた。
「キャリアークの音楽は私達の音楽に大きな影響を与えてくれました。」
マイケルが続ける。
「私達はその恩返しのためにもキャリアークとそのチームリーダーであるワヒシ・グロックさんに次の曲を贈ります。
グァハッシ族と同様に先住民族であるセブリア族に伝わる戦いの音楽です。」
バックミュージックが途絶え、8人の男女も各種の太鼓に取り付いた。
いきなり太鼓の響きが始まった。
雄々しく勇ましい戦士の出陣の音楽であった。
全く新しいリズムが会場に響き渡る。
忽然と顔に毒々しい赤い塗料を塗り、日焼けした肌と逞しい筋肉を持った裸同然の数十人の男達が出現した。
彼らは全員が槍と盾を手に持ち、空中に浮かんでいるのだが、やがて足を踏み鳴らし踊り始めた。
それが太鼓のリズムにぴったりと合っている。
時折、合唱のように時の声を上げ、雄々しく叫ぶ。
最後に大きな声で一斉に叫び、太鼓の音も途絶えた。
そうして、数十人の戦士とステージの上のフォーリーブスの姿がまるで空気に溶け込むように薄れ始め消えてゆく。
聴衆はそれがホログラムであったことに始めて気づいた。
バックミュージックの8人は元の席に戻り、前奏を奏で始めた。
そうしてまた衣装を変えたフォーリーブスがマイケルを先頭に一人ずつ登場し、歩きながら歌い始めた。
だが、四人だけではなく、更にマイケルが出てきてサラが続いた時聴衆にはどちらが本物のフォーリーブスなのか区別がつかなかった。
都合8人のフォーリーブスが8つの綺麗な和音で歌っているのである。
四人の声で奏でる和音は勿論素晴らしいのだが、8つの和音で奏でる曲は全く別のイメージを客に与え、その歌声が魂を揺さぶった。
ファラが、ジャクソンが、クライベルトの従兄弟達がと、次々に彼らフォーリーブスと親交のあった者達が紹介され、その人たちに合わせたような歌曲が或いは演奏が披露されてゆく。
その都度フォーリーブスは衣装を変えており、二組のフォーリーブスが現れ、一方が消えてゆく。
ステージは一度も空白の時間を置いていなかった。
聴衆はそのイリュージョンと音楽の極致に酔いしれた。
三時間のステージが終了した時、マイケルが前に進み出た。
「皆さん、最後までお聞きいただいてありがとうございました。
私達四人は、皆さんのお陰で成長し、励まされ、ここまでやって来れました。
本日のステージにアンコールはありません。
ですが、いつかまた別の機会にお会いしましょう。
明日から私達は新しい道を歩み始めます。
本当に、本当にありがとうございました。」
ステージにいた全員が一斉に礼をした。
そうして、聴衆の盛大な拍手の中、背後に居たマネージャーやバンドマン達がきちんと礼をして、一人、二人とステージから去っていった。
最後にフォーリーブスの四人がペアで手をつなぎながら手を振ってステージから去って行った時、聴衆には爽やかな感慨と希望が残っていた。
そうして、聴衆も素晴らしかったライブの想い出と昂奮の余韻を胸に、一人、二人と会場を後にした。
依然人気は根強く特に地方、海外のライブコンサートはこれまで以上に規模が大きくなっていた。
おそらくは生で聴けるのはこれが最後と言う思いの音楽好きが集まるからであり、徐々に野外でのライブコンサート活動が主になった。
一つは観客が収容しきれないからである。
かなり巨大なスタジアムでも20万もの聴衆を一挙に収容することは無理である。
止むを得ず、マイケル達の要望で野外公演を敢行したのだが、これが大当たりであった。
天気予報で雨が予想されていても、フォーリーブスの公演の間は絶対に雨が降らないのである。
特に、8月に行われたガレセット高原、月の神殿での野外コンサートでは、連邦各地からファンが集い、特設ステージを中心に半径2メフォルが実に百万規模の人波で埋まった記録的なコンサートとなった。
これは、1月から計画されていたものであり、その収益金は先住民族記念館創設費用の一部に当てられた。
多くの先住民族が参加して月の神殿周囲の整備を図り、芝デリアを植え込んだところが会場となった。
芝デリアは非常に丈夫であり、人が踏んでも滅多に枯れることが無い。
さほどの水分を必要としないことから、月の神殿周辺の荒廃した地域には適していたのである。
コンサートはテレビ中継がなされ、先住民族を代表する顔となったミアラが、財宝の発見場所の再捜索で新たに地下宮殿の建設址を発見したと報じた。
地下宮殿は、金箔を多用したものであるが、建設途上にあったものが何らかの事情で中止された形跡があった。
また、そこから実に60メフォルに及ぶ石畳の地下坑道が発見され、クタケ山頂の遺跡とつながっていることが新たに確認されていた。
途中数箇所が崩落していたが、マイケル達が試作した掘削機の投入で、その通路が啓開したのである。
既にこの報告を受けて考古学学会は調査団を送り込んできており、明日にも学術調査を開始することとしていた。
ミアラはこの月の神殿、地下宮殿、更にはクタケ山頂までの経路を順次整備し、公開する計画を発表した。
計画では、掘削装置を用いて、月の神殿から地下宮殿とクタケ山頂を結ぶトンネルを新たに建造、特別仕様の電気軌道車を走行させ、要所、要所で内部を見学できるようにするという遠大な計画である。
その地下宮殿の内部がホログラムにより立体的に浮き上がると観衆は総立ちになった。
遠目にも分かる金で彩られた宮殿は壮麗な美しさであったからである。
7月はバカンスを取ったが、10月のバカンスは返上して11月の公演予定を可能な限り早めた。
空いた11月末日に、ニューベリントンでの最終公演を行うことになったのである。
場所は、ニューベリントンのメッセ会場であり、聴衆は全国から応募のあったファンから抽選で選ばれることになった。
応募総数は500万人を越えたが、会場に収容できるのは僅かに5万人であった。
全てのテレビ局が実況中継を希望し、その放映権料だけで3000万ドレル近くになったのである。
フォーリーブスの解散は種々の憶測を呼んでいたが、事前の会見でマイケルが、最後の公演で今後の我々四人の計画を発表しますという一言で沈静化した。
11月末日、全国から抽選で選ばれた聴衆が集まった。
公演開始は6時であり、公演の終了は9時の予定である。
通常のフォーリーブスの公演に比べると1時間長いことも大きな話題となっていた。
公演開始の時間になって、会場の照明が一つずつ消されていった。
外はまだ明るいが、明かり取りには暗幕が張られているため会場内は次第に暗くなる。
全てが真っ暗になった瞬間。
サラの声が聞こえた。
「私達フォーリーブスの四人がこのニューベリントンで初めて出会ってから二年二ヶ月。
色々な出会いがあり、ファンの皆様や大勢のスタッフや関係者に支えられてきた二年間でした。」
ヘンリーの声が聞こえた。
「明日は12月1日、私達のデビュー曲が発売された記念すべき日。
それを目前に私達は解散します。
演奏活動は全てやめると言うわけではありません。
私達四人は今後もプライベートに演奏活動を行います。
でも、演奏活動を主とした生活には一応のピリオドを打ちます。」
あちらこちらで「やめないでぇ。」という悲痛なほどの叫びが上がった。
メリンダの声が聞こえた。
「私達はかけがえのない多くの友人と出会いました。
これからも多くの友人を得ることができる思いますが、そのかけがえの無い仲間と一緒に別の活動を行いたいと考えています。
それは、現在の演奏活動主体の生活では決して達成できないものであり、このままでは大きなリスクを負うことになるからです。」
会場全体がざわざわとする。
マイケルの声が聞こえた。
「皆さんに二つの報告をいたします。
一つは、私とサラ、ヘンリーとメリンダは昨日婚約しました。
いずれ私達は結婚します。」
ここで多くの者から悲鳴に近い叫びが上がったが、マイケルは構わず続けた。
「もう一つは、私達は私達の仲間と一緒に事業を立ち上げます。
その事業は主として電子関係の製品を作る事業になります。
このニューベリントンに拠点を置き、社会のために色々な製品を作って参りたいと思います。」
始まったばかりなのに衝撃的な知らせを聞いてしくしくと泣く女性が既に大半を占めている。
ステージにスポットライトが当てられ、四人の姿が浮かび上がった。
途端に、驚くほど大きな、大きな歓声が沸きあがった。
マイケルとヘンリーはタキシード姿、サラとメリンダは花嫁衣裳である。
サラが言った。
「私達の事業は社会に大きな変革をもたらし、当初は既存事業者に大きな影響を及ぼすかもしれません。」
ヘンリーが続ける。
「ですが、この世界が平和であり続けるために必要な変革と信じ、私達は事業を開始することにしました。」
メリンダが更に続ける。
「会社の創設には若干の時間がかかり、実際に生産を始めるまでには更に時間が必要です。
私達にはその時間が必要なんです。
ですから私達は我侭と知りながら、フォーリーブスの解散を決意しました。」
会場のざわめきは次第に治まっていた。
マイケルが最後を締めくくった。
「多くのファンの皆様に感謝の意を込めて、少し早いのですが皆さんに花婿、花嫁衣裳をお見せし、私達の新たな門出を祝っていただきたいと思いました。
解散、結婚、そうして新たな事業の立ち上げも私達の門出なのです。
どうか、どうか私達の我儘のお許しをいただき、また笑って見送っていただきたいと思います。」
この短い時間の中で観衆は、フォーリーブスの強い思いを感じ取っていた。
それゆえに静かになった。
ほとんど物音一つ無い中、四人は揃って礼をした。
それから異なる三方に向かって同様に三回礼をしたのである。
やがて、フォーリーブスの決断を許し、祝福を与えるために拍手が沸き起こり、やがて会場全体が拍手とエールを送った。
サラが言った。
「今夜は、私達の全てをお見せしたいと思います。」
ヘンリーが言った。
「最後までお楽しみいただければこれに勝る喜びはありません。」
メリンダが言った。
「いつものように今日もプログラムは用意してありませんが、幾つかの紹介で説明がある場合もあります。」
マイケルが言った。
「音楽は耳で聴くものではなく心で聴くものだと私達は思っています。
それでは、始めたいと思います。」
四人が一斉に動き出し、それぞれに楽器を手に持った。
その途端、四人の背後に8人のバンドがスポットライトに浮かび上がった。
客のほとんどがその8人を知っている。
さらにその背後に、四人のマネージャーが浮かび上がった。
客の半数がその顔ぶれを知っていた。
照明担当、音響効果担当、ホログラム担当、演出企画担当である。
12人の演奏で最後のステージが始まった。
いつもながらの素晴らしい演奏であり、心躍るような楽しげな音楽から始まった。
演奏が終わると、サラとマイケル、メリンダとヘンリーが手を取って軽く走り出すようにステージの奥の大きな箱に飛び込んだ。
不意にサラとマイケルの声が聞こえ、同時に残った8人が静かな曲を演奏し始めた。
「私達はこのステージで多くの衣装を御紹介しなければなりません。
その衣装のデザイナーを皆さんに御紹介します。
レイチェル・ブレクストンさん、どうぞお立ちください。」
観客席の前列の中に一人の夫人が立ち上がりスポットライトを浴びた。
レイチェルは周囲に軽く会釈し着席した。
同時にスポットライトが消え、メリンダとヘンリーの声が聞こえた。
「レイチェルさんは、私達の専属デザイナーをデビュー時から引き受けてくださいました。
そのレイチェルさんが今日の衣装全てを渡してくれた時に厳命しました。
貴方達4人は、この衣装全てをお客様に紹介しなければならない義務がありますと・・。」
四人の声が聞こえた。
「レイチェルさんに大いなる感謝を込めて、私達は30着の衣装全てを皆さんに順次御紹介します。」
そうして、四人が新たな衣装を身に着けて順次出てきた
いつもながら素早くしかも素敵な衣装であった。
四人は舞台の中央に進み出て、デビュー曲を歌い始めた。
歌が半ばまで進んだ時、更に別の衣装を身に着けたフォーリーブスが出てきた。
野性的な魅力が漂う豹柄模様の斬新なデザインである。
聴衆は面食らった。
ステージ上に衣装こそ違うが二組のフォーリーブスがいるのである。
新たに出てきた四人はちょっと変わった太鼓の楽器に取り付いたが演奏は始めない。
デビュー曲が終焉を向かえ、歌っていた四人は足早にステージの奥に去っていった。
サラの声が聞こえた。
太鼓に取り付いたサラが話しているのだが、間違いなくサラの声である。
背後で8人の演奏が行われている。
「私達の出会いの中で最も大きな音楽的な衝撃を覚えた曲。
それは、先住民族の伝承的な音楽でした。」
ヘンリーが続けた。
「皆様にも御紹介します。
グァハッシ族に伝わる音楽の継承者キャリアークの皆様です。」
スポットライトが20名の席に当たり、団体が立ち上がって挨拶をし、着席をした。
メリンダが口を開いた。
「キャリアークの音楽は私達の音楽に大きな影響を与えてくれました。」
マイケルが続ける。
「私達はその恩返しのためにもキャリアークとそのチームリーダーであるワヒシ・グロックさんに次の曲を贈ります。
グァハッシ族と同様に先住民族であるセブリア族に伝わる戦いの音楽です。」
バックミュージックが途絶え、8人の男女も各種の太鼓に取り付いた。
いきなり太鼓の響きが始まった。
雄々しく勇ましい戦士の出陣の音楽であった。
全く新しいリズムが会場に響き渡る。
忽然と顔に毒々しい赤い塗料を塗り、日焼けした肌と逞しい筋肉を持った裸同然の数十人の男達が出現した。
彼らは全員が槍と盾を手に持ち、空中に浮かんでいるのだが、やがて足を踏み鳴らし踊り始めた。
それが太鼓のリズムにぴったりと合っている。
時折、合唱のように時の声を上げ、雄々しく叫ぶ。
最後に大きな声で一斉に叫び、太鼓の音も途絶えた。
そうして、数十人の戦士とステージの上のフォーリーブスの姿がまるで空気に溶け込むように薄れ始め消えてゆく。
聴衆はそれがホログラムであったことに始めて気づいた。
バックミュージックの8人は元の席に戻り、前奏を奏で始めた。
そうしてまた衣装を変えたフォーリーブスがマイケルを先頭に一人ずつ登場し、歩きながら歌い始めた。
だが、四人だけではなく、更にマイケルが出てきてサラが続いた時聴衆にはどちらが本物のフォーリーブスなのか区別がつかなかった。
都合8人のフォーリーブスが8つの綺麗な和音で歌っているのである。
四人の声で奏でる和音は勿論素晴らしいのだが、8つの和音で奏でる曲は全く別のイメージを客に与え、その歌声が魂を揺さぶった。
ファラが、ジャクソンが、クライベルトの従兄弟達がと、次々に彼らフォーリーブスと親交のあった者達が紹介され、その人たちに合わせたような歌曲が或いは演奏が披露されてゆく。
その都度フォーリーブスは衣装を変えており、二組のフォーリーブスが現れ、一方が消えてゆく。
ステージは一度も空白の時間を置いていなかった。
聴衆はそのイリュージョンと音楽の極致に酔いしれた。
三時間のステージが終了した時、マイケルが前に進み出た。
「皆さん、最後までお聞きいただいてありがとうございました。
私達四人は、皆さんのお陰で成長し、励まされ、ここまでやって来れました。
本日のステージにアンコールはありません。
ですが、いつかまた別の機会にお会いしましょう。
明日から私達は新しい道を歩み始めます。
本当に、本当にありがとうございました。」
ステージにいた全員が一斉に礼をした。
そうして、聴衆の盛大な拍手の中、背後に居たマネージャーやバンドマン達がきちんと礼をして、一人、二人とステージから去っていった。
最後にフォーリーブスの四人がペアで手をつなぎながら手を振ってステージから去って行った時、聴衆には爽やかな感慨と希望が残っていた。
そうして、聴衆も素晴らしかったライブの想い出と昂奮の余韻を胸に、一人、二人と会場を後にした。
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王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
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