フォーリーブス ~ヴォーカル四人組の軌跡

サクラ近衛将監

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第五章 新たなる門出

5-3 諦めない男達 その一

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 パパラッチのゲーリーとファンダレルが死んだ翌日の午後、相次いで到着したパパラッチ仲間のビル・マッケイの二人組みとニール・ディクソンの二人組は、その情報を聞いて驚いた。
 ゲーリーとファンダレルの二人は空挺団に所属していたことがあるのを知っていたからである。

 互いにライバルであるから重要な情報は流したりはしないが、何も無い時は友人として付き合っている。
 あれほど慎重な二人が、何故パラシュートが開かないと言うような事故に遭遇したのかが信じられなかった。

 パラシュートが何らかの事情で開かずに墜死する事故は無いわけではない。
 だが、世界中でパラシュート降下を行っている確率からすればおそらくは10万回か100万回に一回あるかないかの事故である。

 だが、二人同時となるとこれはもう天文学的な数字の分数であり、先ず起こりえないことである。
 どうも、フォーリーブスの追っかけは割に合わないことが多い。

 中々動向が掴めない上に、尾行しても何故か撒かれてしまう。
 車での尾行は、ほとんど成功した験しがない。

 尾行を始めると割り込み、信号その他で必ず障害が起こる。
 それでも昨年4月には、ビルはマーベルで決定的チャンスに遭遇した。

 サラとマイケルのキスシーンを目撃したのである。
 かなり遠い距離であったがファインダーに捉えてシャッターを押した瞬間、目の前に子供が現れて視界を遮った。
怒声を上げて追い払ったが、二度目は無かった。

 二人が離れてしまったのである。
 慌てて保存されたデジタル画像を確認したが、ぼやけた子供の顔が視界の全体を覆い、二人の姿などどこにもない。

 証拠写真が無ければ、幾らキスシーンを目撃したと言っても不断の素行から絶対に信用されない。
 二人が手をつないで仲良く歩いている写真ならいくらでもあるが、逆にそんな写真は売れない。

 彼らは、交際が非常にオープンである。
 だから、パパラッチでなくともそんな写真ならたくさん撮れているのだ。

 交際していることを隠してもいないのだから記事になるはずが無い。
 だがキスシーンなら間違いなくスクープになる。

 これまで、誰も撮ったことの無い写真だからである。
 だが、運がないというのか、千載一遇のチャンスを逃がしてしまった。

 そうして今回の解散予告、解散までに何とかチャンスを掴まなければ、この仕事は諦めるしかないだろう。
 有名人を追いかける仕事は相手が名声を失えば意味は無い。

 普通人と違う者の私生活に迫るからこそ意味がある。
 普通の人を撮ったところで精々三流誌のゴシップ記事を賑わすことぐらいしかできないし、相手の顔が分かるような写真であれば訴訟沙汰にもなる。

 だが、有名人のゴシップならば特大の写真で誌面を飾ることができる上に、訴訟を起される心配も無い。
 彼ら有名人にはほとんどプライバシーが無いから、買い取った週刊誌などが身を張ってパパラッチの名を隠してくれる。

 1年半追いかけてほとんど成果の無いビルは、後半年という期限が明確になったことで多少焦りを感じていた。
 何らかのスクープ写真が取れる可能性が高いのは、今回と後もう二回。

 定例のバカンスであるはずの7月と10月だが、10月は可能性が少ないかもしれない。
 何せ、11月末には解散するのだから、詰まったスケジュールをやりくりするために休暇を返上する可能性もあるのだ。

 経験ではカレック国内ではかなり警戒心が強い相手も外国では開放感からいろいろとこちらに都合のいいことをしでかしてくれる場合が多い。
 昨年7月と10月は駄目だった。

 国内のバカンスであり、至る所パパラッチではない追っかけ娘が大量に張り込んでいて中々近づけなかった。
 特に7月は最悪であった。

 ホテル内は結構警戒が厳しく、敷地の中に踏み込めなかったのである。
 田舎のホテルと思っていたら、セキュリティ対策は大都市の高級ホテル以上であり、敷地のいたるところに防犯カメラや赤外線探知機が張り巡らしてありとても入り込めない。

 宿泊も会員でなければできなかった。
 漸く外へ姿を現したと思ったら、ヘリコプターに乗り込んでどこかへ行ってしまい。

 二日目はとうとうホテルにも戻ってこなかった。
 そのうちに大騒ぎになり、ホテルの周囲はごった返してしまった。

 財宝発見などと言うとんでもない騒ぎで、暫く逗留することになるのかと思いきや、警察に一回行ったきり、予定通りに帰ってしまったのである。
 10月は、セントパイロンへの国内旅行であったが、明らかに連邦警察ではないかと思われる私服警備員が遠巻きについており、迂闊には近づけなかった。

 どうも7月の騒ぎ以降、明らかに連邦政府自体がフォーリーブスを重要人物とみなして秘密裏に警護をつけさせている節があった。
 仮に昨年同様のパターンであれば国内旅行になってしまい、場合によっては、今回が最後になるかもしれないと思っていた。

 ビルのマーメラ到着から2日目、フォーリーブスの四人が動いた。
 無論、警察が周囲を見張っているので簡単には近づけない。

 ビルのチームも、ニールのチームも手配書が回っていることを予測して動いていた。
 変装をしているからそのままでは、先ず現地警察には気づかれないはずだが、安心はできないし、カメラを持った男が身分証明書の呈示を求められているのを見て、隠しカメラに切り替えた。

 その分どうしてもいい写真は取れないが、背に腹は代えられなかったのである。
 ビルは相棒とバイクに二人乗りで最後尾のパトカーからかなり離れて尾行した。

 ふと気づくとニールもどうやら同じ考えらしくバイクでビルの背後500フォルぐらいについている。
 ビルもニールもともに仲間内では凄腕の部類に入るが、その二組が苦労して追いかける相手である。

 何とか食らいつきたかった。
 既にパパラッチでは、フォーリーブスを追いかけているチームは、この2チームしかいない。

 無論、ど素人のような奴が追っているのを時折見かけるが、数日で諦めている。
 何しろ追いかけに金が掛かりすぎるのだ。

 海外公演についていった日には僅かに1週間ほどで世界を一回りしなければならないこともある。
 公演予定が分かっているのだから、どこか一箇所で待つしかない場合が多い。

 ロペンズ連合くらいならまだしも、新大陸や言葉の通じない国では先ず無理である。
 地の利も無いし、トラブルが発生しやすいからである。

 ここは観光地であり、カレック語が通じる数少ない場所である。
 カレック語は、元々ラングリッシュ語から派生した言葉であるが、ラングリッシュから独立したのが2300年ほど前である。

 そのために冷え切った両国は暫く国交が無く、漸く国交が復活したのは300年ほど前である。
 2千年の間、交流が途絶えるとこれほど違うのかと思えるほど、現在は表現法も単語も異なっている。

 また、今年1月のチュングルでのバカンスは、フォーリーブスの追っかけを完全に諦めざるを得なかった。
 チュングルは単一民族国家であり、外国人は非常に目立つし、言葉が先ず通じない。

 ホテルでもルーランド語やラングリッシュ語が通じるのは、ほんの僅かである。
 おまけに表音文字ではなく表意文字を使っているから文字を見たところで全く意味をなさないし、他の国のようにラングリッシュ語併記の看板などほとんど無いお国柄だ。

 フォーリーブスとその仲間は言語の天才だと思う。
 どの国の言語でも流暢に話している。

 貿易の仕事にでも就いているのならともかく、あれほど多言語に通じている若いタレントはまずいないだろうと思っている。
 20歳そこそこの人間がさほどの経験をしているとも思えないのだが、ニュース画面では向こうの言葉で話しているようだから、間違いなく知っているのだ。

 とにかく、何処に向かうのか分からないが、フォーリーブスは現在南方向に向かっている。
 このまま行くと空港である。

 まさか帰国するのか?
 ビルの頭に嫌な思いが過ぎった。

 やがて空港に入る道に入り、空港敷地に入ってゆく。
 だが、車列は国際線ではなく国内線の出発ゲート前で停まった。

 どうやら、別の島に渡るらしい。
 バイクを駐車場に取り敢えずは入れた。

 どの航空機に乗るか確かめなければならない。
 クメリア国内で比較的大きな島はこのマーメラのあるボルネ島、それにクエゼル島、ルースラム島の三つであり、その他の島は人口も少なく僻地に近い場所である。

 ボルネ島の北端にはクメリア第二の都市オルケラがあるので或いはそこかもしれない。
 出発ロビーに入ると、国際線に比べかなり混雑している。

 だが、一行の居場所はすぐに分かった。
 警察が周囲を取り巻いているのだからこれほど分かりやすい目標はない。

 彼らの頭上にはベラケロス航空と記載した看板がある。
 事前に調べた限り、そんな航空会社があるとは知らなかった。

 ボロいベンチに腰を降ろして見守っていると、やがて、警察官ともどもゲートを潜って出発ロビーに入ってしまった。
 出発ロビーの壁に表示されている出発予定便のスクリーンには、それらしき航空会社の記載はない。

 やむを得ず、ベラケロス航空のカウンターに向かった。
 中年の女性が一人でいるだけのカウンターである。

「ねぇねぇ、さっき来ていた人たち、ひょっとして、フォーリーブスの人たちかい?
 こんな場所で見かけるとは思っていなかったけれど。」

「えぇ、そうなんですよ。
 昨日電話があって、こっちはびっくりよ。
 名前を聞いてすぐにわかったわ。
 うちなんか小さな会社だからねぇ。
 あんなVIPが乗せてくれって言ってくるなんて思っても見なかった。」

「だって、空港の中に看板出してんだから結構大きい会社なんでしょう?」

「とんでもない。
 あなた。
 うちは、私の亭主の社長一人に従業員は私を含めて二人だけ。
 もう一人は整備士兼雑用係の息子だけどね。
 使える飛行機も一機だけだもの。」

「おやおや、それは大変だぁ。
 じゃぁ、あんまり大きい飛行機じゃないんだ。」

「そうですよぉ。
 バコック島とか、マネル島とか短い滑走路しかない場所へお客さんを運ぶだけ。
 定期じゃなくて、不定期なの。
 お客さんの希望に応じて飛ぶだけの会社。
 今日は、サボ島まで頼まれたんだけど、何しに行くのかしらねぇ。
 あの人方が泊まれるようなホテルなんか無い島なんだけど。」

「へぇ、サボ島ねぇ。
 行った事無いけど、どんな感じの島なの?」

「私も行った事無いから良くは知らないけど、うちの亭主が言うには、さんご礁で囲まれた小さな綺麗な島だって。
 住人も精々500人ぐらいしかいないだろうって言っていたわ。
 300フォルぐらいの長さの滑走路を除いたら、めぼしいものは漁港しかない島らしいからねぇ。」

「じゃぁ、今日は日帰りなんだ。」

「いいえぇ、旦那は帰ってくるけど、四人は戻って来ないみたい。
 明日はまた迎えに行かなければいけないらしいけど。」

「ほう、それはまた大変だけど、いい儲けになるじゃない。
 旦那さんは何時に戻ってくるんだい。」

「サボ島はちょっと遠いからねぇ。
 早くて夕方4時、遅ければ5時かなぁ。」

「ああ、そろそろ行かなくちゃいけない。
 色々話を聞かせてもらってありがとう。」

 一体、四人は何をしにサボ島へ行くんだとビルは思った。
 空港で張っても仕方が無いので戻ろうと出口の方へ向きを変えるとニールが傍にいた。

 話は聞いていたらしい。
 はしこい奴だ。

 ニールがにやっと笑った。
 ビルが歩き出すとニールが横について歩き出した。

「どうも今日は空振りになったようだな。
 他のチャーター便でも探すかい?」

「いや、俺はやめておく。
 ケチがついたときはやめておくに限る。
 小さな島らしいから余所者は目立ちすぎる。」

「そうかい。
 ビルが引っ込むなら一応俺が出張ってみるか。
 尤も、そんな便があればだがな。」

「まぁ、がんばれや。」

 二人は空港で分かれた。
 翌朝、ビルは安ホテルで拡げた新聞を見て驚いた。

 トランスバル航空の小型旅客機が消息不明とあり、そこに乗客名でニック・ベンショーとマーラー・オライアンの名があったからだ。
 ニックとマーラーはニール達のよく使う偽名であったからだ。

 新聞によると、午前11時にマーメラ空港を飛び立ったトランスバル航空の双発機は、予定の午後二時になってもサボ島に到着せず、現在海軍によって捜索をしているが7時間分の燃料しか積んでいないことから、小型旅客機は何らかの事故に遭遇した可能性が強いと推測されている。
 ビルの勘は当たってしまった。

 ああした所帯の小さい航空会社は整備不良や古い機体を使っている場合が多い。
 余程固定客を持っていれば別だが、おそらく経営はぎりぎりであろう。

 だから、ビルは小さな航空会社の飛行機には乗らないようにしている。
 命あってのもの種だからである。

 ゲーリーに続いてニールまでもが不運にあったとなれば、残るはビルのチームだけになってしまったようだ。
 ビルは、今回見送るかどうか迷った。

 ここ1年半の追っかけで資金繰りもかなりやばくなっている。
 仮に今回見送った場合、次は国内での立ち回りしかできないだろうから、当面、フォーリーブスを完全に諦めて、別の標的を追っかけて少し金を稼ぐしかないだろう。

 だが、この手の仕事は闇雲に動いてもいい仕事はできない。
 別の仕事にとりかかるにしても、三ヶ月ほどの準備期間が必要だし、それからものにするまで早くて1ヶ月か二ヶ月、場合によっては半年かかるかもしれない。

 11月末には引退が決まっているのだから、時間との勝負になるし、10月に海外でのバカンスが無ければ先ず無理であろう。
 ビルは今回が最後の機会と踏んで、続行することにした。

 今回モノにできなければ、フォーリーブスは残念だが諦めざるを得ない。
 その日の夕方近く、警察が警護する車列がホテルの窓から見えた。

 フォーリーブスが帰って来たのである。
 フォーリーブスの滞在は残すところ後三日。

 帰路の便は午前10時の便だろうから四日目の早朝までしかチャンスはない。
 ビルはチャーリーと相談して賭けにでることにした。

 ホテルへの潜入を図ってみるのだ。
 警備はかなり厳重である。

 だが、だからこそ、穴もある。
 厳重過ぎて、返って警備の者に油断が生ずるからである。

 少人数の警備ならば警備陣が疲れてきたところを狙うし、大勢の警備陣ならばむしろ堂々と入って行けば返って目立たないものである。
 何重ものバリアーを抜けてきた者ならば、往々にして既に問題はないはずと考えがちだからである。

 色々思案の上、ビルとチャーリーは、以前使った単純な方法を使うことにした。
 最終日にはなってしまうが、明後日には、そのお膳立ての立役者がフォーリーブスの宿泊先に大挙してやってくる。

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