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第四章 新たなる展開

4-14 カモフラージュと記者会見

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 必要な時に読めればいいと思ったのだ。
 五人揃って席についているとき、ウェイトレスの女性のオーラに少し暗い部分があるのに気づいた。

 メリンダに尋ねると、すぐに返事がきた。

『この女性は、乳がんになっているの。
 私達が治すこともできないわけではないけれど、そうすることで私達の力を知られてはいけない。
 だから、放置しています。
 乳がんは治らない病気ではないの。
 適切な治療を病院でしてもらえば彼女は治るわ。
 だから、私達は手を貸さない。
 貴方が手を翳さないでそれが分かるということはそれだけ貴方の治癒させる能力が上がったということよ。
 お祖母様の病気を治せるかどうかは分からないけれど、仮に今はできなくてもいずれできるようになります。
 但し、それにも限界がある。
 死んだ人を生き返らせることはできないし、私達でもどうにもならない病気はあるわ。
 仮に貴方がたくさんの人の病気を治し始めた時、どうにもならない病気の患者に貴方の病気は治りませんと告げたらその人はどう思うか考えてみて。
 お医者様が今の医学では治りませんというのは納得するかもしれないけれど、自分以外の人の病気を治しているのに、自分の病気を治してくれないと僻む人がほとんどなの。
 何故ならそうした力にも限界があるというのは貴方だけの言葉でそれが真実かどうかは分からないからよ。
 でも、お医者様はたくさんいらっしゃるから、10人のお医者様にかかって10人とも貴方の病気は治せないと言えば本人は納得せざるを得ない。
 残酷な話ではあるけれど、それが元で私達の存在そのものが脅かされるような危険は冒せない。
 極端な話で言えば、治すこともできるけれど、逆に悪くもできるはずなの。
 貴方が一生懸命に治そうとして頑張っても結局その人が治らなかった時、手抜きをしたとか、身びいきをしているとか揶揄されて挙句の果てには貴方が殺したと言いかねないの。
 だから、酷な様ではあるけれど私達は手を出しません。
 でもそれを貴方に強制するつもりはありません。
 ただ、そういったことはあなた自身だけではなく、貴方の家族にまで降りかかる可能性があるから注意をしてね。
 過去に魔女裁判があったのは事実であり、多くの関係ない人が単なる恨みだけで殺されているの。
 多くの場合、人が大勢集まると非常に残酷になるわ。
 一人一人がとてもいい人であっても集団の中ではできるだけ集団の動きに迎合しようとする。
 そのために正論が正論で無くなり、誤った考えがまかり通ってしまう。
 人間社会って難しいわね。』

 ミアラはそこまで考えたことは無かった。
 でもどうしたらいいのか真剣に考えねばならない問題だと思った。

 9時に再度ヘリコプターがやってきて、10時頃五人を乗せて飛び上がった。
 行く先は昨日とは全く違う場所であった。

 そうして、その日はテントを張って、訓練をした。
 五人でリンクをし、突然に膨大な情報が入ってきて頭がくらくらした。

 マイケルとメリンダが与えてくれた情報だった。
 二人の知識は膨大なものであったがそれでも全てを自分に教えてくれたわけではないとミアラには分かっていた。

 彼らの能力ははるかに高いのだ。
 私から見て幼い弟や妹に難しい話をしても彼らに受け入れられるはずがない。

 彼らには彼らの能力に見合った話し方ややり方がある。
 私はマイケルやメリンダから見れば導いてやらねばならない幼子に過ぎない。

 私はマイケルやメリンダの導きのままに成長しよう。
 ミアラはそう思っていた。

 それにしても何と素晴らしき人たちに出会ったのだろうと思った。
 そうしてグァハッシ族の信ずる神に感謝の祈りを捧げた。

 ◇◇◇◇

 翌日午前10時にヘリコプターはキャンプ地にやって来た。
 五人はヘリコプターでホテルに戻り、早速に記者会見の準備を始めた。

 メリンダの言う当てのある弁護士は中年から老齢期に差し掛かっている女性弁護士であり、法曹界でも名の知れたナタリー・ウッドと言う人だった。
 彼女はたまたま、リゾートホテルに宿泊していた人である。

 メリンダはその人に会って口説き落としたのである。
 ナタリー・ウッド女史はメリンダの要請に答えて記者会見に同席してくれた。

 記者会見は、午後二時から行われた。
 五人は探索行のままの姿で記者会見に臨んだ。

 フォーリーブスと言う名はここでも有効に機能した。
 報道各社にフォーリーブス他一名が先住民族の宝を発見したのでその内容を発表しますと言う内容のFAX及びメールを送りつけたのである。

 記者会見の場所はリゾートホテルの特設催場である。
 報道各社はこぞって参加し、実に100名を越す記者が集まった。

 最初に一行を代表してマイケルがスピーカーとなった。

「私どもはここにいらっしゃるミアラ嬢の属する先住民族グァハッシ族の伝承をお伺いする機会に接し、ネット情報を含めて調査した結果、黄金伝説は事実ではないかと思うに至りました。
 ミアラ嬢の協力によってグァハッシ族に伝わるわらべ歌の意味を解明し、足掛け三日の探索行を行った結果、終に二千五百年前、ラングリッシュのバリアスタンの蛮行により崩壊したディルカ帝国の皇帝一族が隠した財宝の在り処を発見するに至りました。
 本日ここに報道関係各社に謹んでお知らせするものです。
 今日ただいまは、その場所がどこにあるのかは申し上げられません。
 現在、その回収方法及び保管場所等を検討中であり、その進展状況によっては皆様にお知らせすることになろうかと存じます。
 証拠品としてここに5つの品物だけを持参いたしました。」

 ヘンリーが記者の目の前に並べてある机の上を覆っていた白布を剥ぎ取った。
 その瞬間、特設催場の照明に映える黄金色の品物が現れ、記者たちのオーッという歓声ともため息ともつかぬ声が場内に響いた。

「この品を調べていただければ、間違いなく古の先住民族の国家、ディルカ帝国の品であることが分かるはずでございます。
 この品の調査については、今後学識経験者による精査を待たねばならないところでございますが、一方で調査結果を待たずして、私どもフォーリーブスの四人は、これら財宝の第一発見者の特権を放棄するつもりであります。」

 記者席から驚きの歓声が上がる。

「従って、発見者の特権は、同行したこのミアラ嬢に全て帰することを改めて申し上げます。」

 再度、歓声が上がった。

「私共四人がそうする理由を申し上げます。
 まず、これら財宝の全ては、二千五百年ほど前にバリアスタンによって惨殺されたディルカ皇帝パラレアヌの遺児若しくはその意を受けた神官によって隠されたものであり、その所属は本来ディルカ帝国皇帝一族に帰依するものであると考えます。
 しかしながら、バリアスタンがディルカ帝国に持ち込んだものは銃器のみならず疫病をもこの大陸に持ち込みました。
 その疫病により当時人口二千万を誇ったディルカ帝国は、当該疫病に全くの免疫を持たないことから人口が二百万にまで減少したと推定されています。
 このとき既に帝国は瓦解し、先住民族は現在のカレック連邦各地域に離散することになりました。
 また当時の高度な文明も潰えたのです。
 皇帝一族もこの時点で滅亡したものと私共は考えております。
 従って、この財宝を受け継ぐべきは誰なのかを慎重に検討した結果、私達はこの財宝を生むため、実際に血と汗を流したディルカ帝国の国民に帰すべきと考えるに至りました。
 それは、とりもなおさず、我が連邦各地域に散在する先住民族の手に戻す事を意味いたします。
 たまたまその一派に属するミアラ嬢を同行したことを奇禍として、私共は発見者としての特権を彼女一人に託すべく放棄したものです。
 因みに、今回我々が発見した財宝は、その量から推測するに、単なる純金として換算した場合でも、軽く1000億ドレルを超える数量であり、その骨董的価値はその価格をはるかに上回ると考えております。
 記者諸君も是非計算してみてください。
 直径およそ6フォルの円形を底面とし、およそ1.7フォルまでこれら財宝を積み上げた形を想像願いたい。
 私共、いや、ミアラ嬢が発見した宝物は、その小山が全部で32基になります。
 そうしてその中には紅白金を用いた宝物の小山が最低でも2つございます。
 この宝物群を見る限り、ディルカ帝国において、暴虐の限りを尽くしてラングリッシュに凱旋したバリアスタンに関する歴史記述は正しく真実であり、ディルカ帝国国民は、人質となったパラレアヌ皇帝の命を救わんがためにその皇帝の部屋一杯の黄金を一昼夜にして積み上げたことが伺われるのであります。
 しかしながら、目的を達するやバリアスタンは約束を反故にし、パラレアヌ皇帝を惨殺し、皇帝守護の兵士を銃によって虐殺したのです。
 当時のディルカ帝国の都は、このガレセット高原、現在の月の神殿遺跡周辺にありました。
 バリアスタン率いる数百名の兵士は荷車に財宝を積み5隻の船が待つ東海岸へと逃走しました。
 途中での戦闘で半数以上の兵士を失いつつもラングリッシュに凱旋したバリアスタンは果たして英雄なのでしょうか。
 私には、彼らを友人として迎えてくれた善良なる一家の主人を騙し、惨殺して金品を奪った単なる強盗としか思えないのであります。
 そうして、バリアスタンの血は、或いはこの地に移住してきた我々の先祖の中にも流れているやも知れません。
 先祖が悪いことをしたからと言って、その末裔にまでその悪行非道を呪うつもりはありません。
 しかしながら、再び同じ事をするならば私は断固として抗議をいたします。
 連邦政府はその成立過程に置いて、移民の権利を優先するために先住民族に対して非道な行為を繰り返して参りました。
 先住民族を居留地という名ばかりの荒野に追いやって、彼らを蔑視し、差別する政策をしてまいりました。
 その結果、悪夢のような疫病で残った僅かに二百万の先住民族が、現在では僅かに10万前後にまで衰退しているのです。
 無論、この間に双方の言い分が異なる可能性は否定しません。
 しかしながら、客観的にみて、このカレック連邦の領域全ては本来先住民族の土地であり、移民はそこに無断で立ち入り侵奪した者に過ぎないのです。
 いま3億にもなんなんとするこのカレック連邦の善良なる国民に対して彼らの土地を戻せと要求することは不可能であります。
 しかしながら、考えていただきたい。
 蔑視差別政策は、500年前に大いに反省されて廃止され、既に過去のものとはなっておりますが、何らの保証も受けられなかった先住民族の多くは、依然として貧しい生活に喘ぎ、病院すら満足にかかれない状況に陥っているのです。
 私は連邦の国民として政府批判をするつもりは毛頭ございませんが、それら過去の大罪を清算する為にも、この財宝を正当なる後継者である先住民族の所有物若しくは相続財産としてお認め頂きたいと切に希望するものです。
 かく言う理由は、財宝が所謂連邦政府が所有する土地に存するからであり、所有者が判明しない場合は、その所有者の所有物とみなすとの通則が存在するからであります。
 連邦政府がこの主張をするならば、おそらくは10年以上の歳月を賭した裁判となるでありましょう。
 その間に幾多の先住民族が、貧しいが故に進学を諦め、或いは病に倒れるなど大いなる悲哀に遭遇するであろうことが予想され、私としては慙愧に耐えないものであります。
 本件宝物の所有権論議については、ここに居られますナタリー・ウッド弁護士に委ねまして、私の説明を終わります。
 なお各報道機関よりの質問については、ナタリー弁護士の説明が終わってから受け付けたいと存じます。」

 続いて、ナタリー弁護士がマイクの前に立った。
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