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第四章 新たなる展開

4-5 悪党退治?

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 サラがわけも分からず黒尽くめの衣装を受け取って着ると、さらに頭からすっぽり被るマスクを遣した。
 目の部分だけが半透明になっているが、多分、暗いところでは全身黒尽くめだろう。

「何、これ、・・・。
 今から泥棒でもするの?」

「まぁ、それに近いかもね。
 今のところはマスクはいらないわ。
 でも、これを履いてね。」

 メリンダが渡してくれたのは底の部分と爪先が硬くなったバレーのトゥーシューズにふくらはぎまで覆ってしまうストッキングを組み合わせたような履物だ。
 準備を終えると時間を待った。

 部屋には既に内側から鍵をかけている。
 11時少し前に、メリンダが部屋の明かりを消した。

 11時丁度、二人で覆面を手にマイケルとヘンリーの部屋に跳んだ。
 着いた先も暗闇である。

 マイケルから思念が届く。

『四人でリンクする。』

 すぐにリンクが形成される。
 お馴染みの間隔だが今日は少なくともステージで演奏する雰囲気ではない。

『ヘンリー、サラ、今からちょっと冒険の旅に出かける。
 目的はマーベルのお掃除。
 ここは三大マフィアの根城がある。
 たまたま、今日はその一つであるロッジ一家の麻薬取引がある。
 重量にして2ケレンスを超えるぐらいだ。
 麻薬の末端価格では、0.1モレンス当たり12ドレルほどするようだから、2400万ドレル相当かな。
 そいつを摘発するつもりだ。
 ついでに麻薬組織の親玉格が居るからちょっとお仕置きもね。
 でも、危険だから、君達は来なくてもいいんだけれど、・・・。
 どうする?」

『本当に危険なの?』

『油断をすれば命の危険もあるよ。
 なにせ、向こうは拳銃や機関銃で武装している相手だから。』

『それなら、行くわ。
 マイケルを一人でそんなところに行かせられないもの。』

『同じく、メリンダを放っておくわけにはいかない。』

『そう、・・・。
 だが、場合によっては相手を殺すことになりかねないが、それでも構わない?』

『マイケル・・・。
 殺人は重罪で、神の教えにも反するわ。
 それでもマイケルは人を殺すの?』

『僕とメリンダは、クライン教やそのほかの宗教の教義を知っているけれど、神を信じているわけではない。
 神とは結局のところ人間が造った想像の産物だ。
 だからといって、それを信じる人たちの心を無視したりはしない。
 宗教が、人々が生活するうえでの倫理規範となっているのは事実であり、僕達もそれを尊重する。
 だが、人が殺されても相手を殺してはならないという教えには従えない。
 悪いことをした者は処罰されるべきだ。
 サラ、今日君は6人の不逞の輩が襲ってきた時に腕の骨を折ったよね。
 4人は僕で、2人は君がやった。
 何故だい?』

『何故って・・・。
 警告したのにナイフで襲い掛かってくるから・・・。』

『だが、君の腕なら、左程の怪我をさせずに撃退もできたはずだ。
 僕は君を責めているわけじゃあないよ。』

『だって、懲らしめのためにもそうしておかなければ、別の人が襲われることになるわ。』

『だが、クライン教の教えではどうなっている?』

『え、・・・・。
 左の頬を叩かれれば右の頬を差し出せ・・・。
 汝の敵を愛せよ・・・かな。』

『君は教義に反することをしたわけだ。
 だがそれが本来当たり前なんだ。
 女性が犯されようとしているときに、汝姦淫するなかれと言ったところでどうにもならないし、泥棒に向かって汝他人のものを盗むなかれと言ったところでどうにもならない。
 そうした悪人を撃退するしかないんだ。
 だが、単に撃退しただけでは駄目だ。
 二度とさせないようにしないと解決にはならない。
 アンのお父さんがいい例だろう。』

 アンの件では確かにうまくいった。
 でも最悪の場合はアンのお父さんの男性機能を奪うとまでメリンダは言っていた。

 被害を受ける人のことを考えれば確かに神の教えなどどうにもならないのかもしれない。

『一方で、麻薬は習慣性を持つ人体に有害な薬物だ。
 それを知っていながら人に売りつけ、縛り、利益を上げる組織は社会にとって百害あって一利無しだ。
 だが、国家というものは法によってがんじがらめにされて、自らの手足を縛っている部分もある。
 証人が居ても、その証人が法廷で証言しなければ証拠として採用されないばかりでなく、証人の保護すら満足にできない状況にある。
 だからこそ巨悪がのさばっている。
 女を麻薬漬けにして売春させている組織すらある。
 麻薬を常用する者はいずれ廃人になる。
 サラ、君の歳から麻薬を使い続ければ、君は30歳まで生きるのは難しいだろう。
 健康であれば、70歳以上までも生き続けられる人生を奪うことになるんだ。
 緩慢な毒を飲ませられていると思えばいい。
 これは本来殺人に当たるはずだ。
 だが、法では殺人よりもはるかに軽い刑罰を与えているに過ぎない。
 一人の男が麻薬で100人を中毒患者にし、その命を緩慢に奪ったとしても、法では10年以上の刑は与えられない。
 まぁ、これはいたしかたの無い部分もあるんだけれどね。
 国によっては麻薬を一定量持っているだけで死刑になるところもある。
 見て見ぬ振りはできるけれど大勢の命がかかっているなら放置はできない。
 僕らの力が人に知れないように何とかするしかない。』

『警察に情報を流して捕まえさせるのは?』

『マフィアの手先は警察にも伸びている。
 下手に通報でもすれば、その情報はたちどころにマフィアに伝わって空振りに終わる。
 警察官の全てが悪徳警官ではないけれど、警察組織の中には必ずそういう人間がいると思っていた方が間違いない。
 誰が悪で誰がいい人かは僕らなら区別はつく。
 でもそのいい人が必ずしも動けるとは限らない。
 組織として何が何でも動かざるを得ない状況までお膳立てするのが今日の仕事なんだ。』

『マイケル、私は、あなたについてゆくことにしたの。
 今日も、明日も、そして私が生きている限り。
 あなたを信じるわ。
 神は神、でも貴方は貴方よ。』

『じゃ、そろそろ行きますか。
 覆面をしてくれ。』

 四人は覆面を被り、暗闇に溶け込んだ。

『リンクはしたままがいいよ。
 場所はここ。』

 マイケルから明確な位置が示され、四人は跳んだ。
 倉庫の中に船から荷揚げされたばかりの品を前に8人ほどの男が居た。

 荷揚げされた袋を一部開いて確認をしているところだった。
 男達は、何も気づかぬうちに一瞬のうちに打ち倒されていた。

 外で待機しているものが数名、銃を抱えていたがこれも瞬時に打ち倒された。
 そして、警察無線の指示で現場に向かったパトカーが、大量の麻薬と十数名の意識不明の男を発見し、大騒ぎになった。

 2人の警察官が聞いたという無線は、警察では発信していなかった。
 しかしながら、騒ぎのすぐ後で、警察に匿名のメールが入っているのが発見された。

 メールには、ジャスティスという名で、麻薬取引の現場の位置、関係する男達の名前、年齢など、多くの情報が含まれており、その全てが正確なものであった。
 その日、三大マフィアの根城全てが襲撃されていた。

 三つのビルに巣食っていたマフィアの手先は何者かによって全員が打ち倒され、そのうちの幾人かは頭蓋骨骨折などの重症を負っていた。
 また、全ての金庫が開け放され、巧妙に隠されていた隠し金庫まで開け放たれていたのである。

 麻薬現場と同様に、警察無線で指示を受けた警官が内部に踏み込んで発覚し、マーベル始まって以来の大捕り物になったのである。
 隠し金庫の中には大量の麻薬のほか、銃器、隠し台帳など犯罪に関わる様々な証拠があったのである。

 特に、問題視されたのは、その仲にかなりの数の警官が絡む情報があり、警察部内で調査が始まっていた。
 この一件についてもジャスティスから詳細な情報と共にメールが届いていた。

 また、三大マフィアのマーベル地区を束ねるボスの口座と組織の口座が全くの空にされていた。
 カレック連邦南西部に広がるナメリア海の一部にワイマン島という小国家の銀行に預けていたものであるが、銀行のデーター上は、正規の手続きで全てが送金されていたのである。

 但し、送金先のデーターは消去されて行く先不明であった。
 マーベル地区の三大マフィアは壊滅的な打撃を受けていたのである。

 これら一連の事件は何者かが悪事を暴露したものと推測されたが、いずれもほぼ同時刻に襲撃を受けたものと推測され、ジャスティスなる者の仕業であれば、少なくとも数十人規模の団体ではないかと警察は推測していた。
 警察はジャスティスの名を伏せて、事件の摘発のみを広報したのである。

 四人は12時までには無事に部屋に戻っていた。
 翌朝、何処のテレビ局でもこの報道で持ちきりであったが、四人は特に関心を寄せなかった。

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