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第二章 契約と要員確保

2-5 クライベルト一族 その二

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 マイケルに詰められようと、モーリスは一族の秘密を明かすわけには行かなかった。

「何も証拠が無いわね。
 貴方の言っていることには根拠が無い。
 私が手を引いたのは多分静電気だと思うわ。」

 だが即座に反論された。

「根拠はあります。
 僕達も、そうした能力を隠そうとしていますから、ここであなた方にお話しするつもりは無かったんですが、貴方が疑問を抱いてしまった以上は仕方が無いですね。
 昔々、能力者は魔女と呼ばれてクライン教団に迫害を受けました。
 極普通の人もそのために多くの犠牲を出しています。
 魔女裁判という名で歴史の中に出てくる史実です。
 能力者はその時から可能な限りひっそりと生きるようになり、能力を知られないようにしたんです。
 貴方の血筋から見ると多分お父さんが能力者ですね。
 ノートンさんとサキさんの兄妹も能力はお父さんから受け継いだ。
 そうしてその秘密は一族の秘密として誰にも明かさないようにしてきた。」

 推測だろうが、マイケルは的確にモーリスの秘密を解き明かしてしまった。
 その上で尚も追い討ちをかけるような話がなされた。

「それはそれで結構だと思います。
 でも、もう一つ大事な事があります。
 そうした能力は管理しながら秘密にすべきなんです。
 実のところあなた方が気づいているかどうかはわかりませんが、他にもあなた方は特殊な能力を持っている可能性があります。
 そうしてその能力はいつ開花するかわからない状態にあります。
 例えばサキさんが、明日の朝目覚めたら別の能力に目覚めていたと言うことにもなりかねません。
 一番怖いのは無意識の状態で能力が開花してしまうことです。
 魔女と炎はつき物ですが、サキさんが寝ている間に大量の炎を出現させたら、多分サキさんは無事でしょうが、周囲にいる者は焼け死ぬような事態も起こりかねません。
 だから、管理し、万全な環境の中で開花させてやらなければなりません。
 子供達も一緒です。
 ここにいる四人はいずれ結婚します。
 そうして生まれる子は必ずあなた方の血を受け継いでいるんです。
 往々にして血は薄まり、能力が無くなってゆくものですが、場合によっては先祖がえりか突然変異で非常に能力の強い子が生まれます。
 その親が管理する方法を知らなければその子は早死にするかもしれませんし、或いは他の子供達から疎まれるかもしれません。
 モーリスさん、秘密は守るためにありますがそれを知られた場合にどうするかお父さんから聞いていますか?」

 痛いところを突かれてしまった。
 ここはとぼけるしか手がない。

 モーリスはそう寒くもないのに鳥肌を立てながら答えた。

「さっきも言いました。
 貴方の言っていることには根拠が無い。
 貴方は自分が能力を持っているといいながら、私達にそれを見せることもできない。
 そんな口からでまかせを言わないで下さい。」

「そうですか。
 かたくなに秘密を守れと言われたのですね。
 では仕方がない。
 少しだけお見せしましょう。
 ここは窓の傍、外から見える場所にある。
 ノートンさん、エリスさん、サキさん、申し訳ないが、三人で窓を背に立って頂けませんか。
 スクリーンを降ろせば済むのですけれど、それこそ疑われかねません。
 さっきから、向かいのビルから双眼鏡で覗いているのがいるんです。
 メリンダ、多分君が目当てだから、窓に向かって立って、顔を見せてやってくれ。
 その間は、多分注意がそれる。」

 メリンダは黙って立って、窓に向かって立ち、外の風景を眺める振りをした。
 マイケルは少なくともソファに腰を降ろしてから一度も窓の方を見ていない。

 しかも対面するビルは鏡面仕上げとなっており、内部からは見えるが外からは見えないか、あるいは、著しく見えにくくなっているはずである。
 現に、モーリスが対面するビルをさっと眺めてもそれらしき姿は判別できない。

「あなた、どうしてそんなことがわかるの?」

「それも、能力のひとつです。
 モーリスさん、僕の後ろに棚があって置物が二つありますね。
 置時計と大きな飾り皿です。
 それを見ていてください。」

 モーリスの目の前で瞬時に置時計と飾り皿が入れ替わった。
 モーリスは思わず我が目を疑ってしまった。

「それと、御自分の足元に注意してください。
 炎が出ますが、決して火傷をしませんから、そのままの姿勢でいてください。
 宜しいですか。」

 モーリスが頷いて目を下に向けた途端。
 足元に青い炎が出現した。

 足に触れそうなのに熱くはなかった
 叫び声をあげそうになって、慌てて飲み込んだ。

「消します。」

 マイケルの声と同時に消えた。

「他にもありますが、ここでは止めておきましょう。
 人目があります。
 お断りしておきますが、貴方が見たのは幻覚かもしれません。
 貴方が言うように何の証拠もないんです。
 天井の防犯カメラはさっき止めておきました。
 画像は途中から切れて、今の場面は映っていません。
 僕らはこれで失礼します。
 もし、モーリスさんに秘密を話す勇気と、仕事の依頼を受ける覇気があれば、今日、仕事が終わってからでもこちらへお出でください。
 お待ちしています。」

 マイケルはテーブルに住所と電話番号を記載した紙片をおいて立ち上がった。

「メリンダ失礼しよう。」

 二人は、クライベルト・タレント企画の事務所を去っていった。
 窓際に立っていた三人がソファに次々に腰を降ろした。

 エリスが訊いた。

『姉さん、どうする?』

『わからない。
 彼がいみじくも言ったように、父は何も教えてくれなかった。
 秘密が知られたときにどうすべきかは・・・。
 皆で夜逃げでもする?』

 弟も従兄弟達もこれほど弱気のモーリスを見るのは初めてである。
 サキが言った。

『私は、マイケルとメリンダを信用すべきだと思うわ。』

 その言葉に応じるようにノーマンも頷きながら言った。

『僕もサキの意見に賛成だ。
 彼らは決して悪い人間じゃないと思う。
 それにできるかどうかはわからないけれど、仕事としてはやりがいがあるよ。
 このままじゃジリ貧だしね。』

 確かにそうだった。
 大口の固定客であったSDプロダクションが倒産してからは、食うのがやっとの仕事しか入っては来なかった。

 この業界で新規の取引相手を探すには余程のコネが必要である。
 その意味では、SDプロダクションの担当部長が唯一のコネであった。

 エリスも言った。

『秘密の話はともかく、仕事は受けるべきだと僕も思うよ。
 例え一回限りにせよ。
 かなり大きな収入になるはずだ。』

『そうね、仕事は受けたいわね。
 でもね、彼らは私達の能力に気がついて近づいてきたんじゃないかと思うの。
 どうして気づいたんだろう。
 何もしていないのに。
 精々が握手をして相手の意識を読み取り、こちらの都合のいいように仕事を運ぶだけの力よ。
 それだって、決してあくどいことなんかしていないわ。
 だから、絶対に気づかれるはずなんかないのに。
 第一、能力の事なんか一度もあなた方とも話したことなんかないでしょう。
 必要な時は近くで、思念で会話していたんだから。』

『そんなこと言っても、仕方が無いと思うわ。
 それよりも今後どう動くかよ。
 彼は、こちらから申し入れしない限り動かないと思うわ。
 私達の秘密も守るはず。
 だって、彼も周囲に隠しているって言っていたもの。
 それに、特別な能力は管理しなければ危ないとも・・・・。
 彼は、私達を仲間に引き入れたいのだと思う。
 仲間に引き入れて、そうして共同して秘密を守る。
 あるいはその能力で何かを成し遂げるために利用するのかなぁ。
 でも、私は彼を信じるわ。
 音楽を志す人に悪い人はいないのよ。
 彼は少なくとも昨年の所得番付で一位になった人。
 きちんと納税を納めたから番付に乗った。
 それも半端な額じゃなかったわ。
 少なくとも百億単位の額を手に入れた人がこの業界で悪いことを企むとは思えないもの。』

『そうね。
 マイケルもメリンダも目が綺麗だった。
 透き通るような青緑の瞳。
 湖のようで吸い込まれそうに思えた。
 だから私も彼が悪い人じゃないと思うわ。
 仕方が無いね。
 雁首揃えて行ってみるか。
 その上で、向こうで判断してもいい。
 秘密を打ち明けるかどうかは年寄りに任せてくれるかい?』

『姉さんはまだ年寄りじゃないよ。
 早くいい人でも見つけてごらんよ。
 4、5歳ぐらいすぐに若返るから。』
 未だにいい人に巡りあっていないモーリスは苦笑した。
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