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第四章 日米戦争

4ー5 日米の緒戦 その二

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 四発機のB17は、動きが鈍重どんじゅうだからな。
 俺らからすれば、狙い易いんだ。

 こいつの欠点は、機銃は多いんだが、どの銃座でも射手は一人だからな。
 そいつへ向かって、囮の機体が上から下へと至近距離を通過するだけで、その銃座がそちらを向いてしまう。

 その直後を狙えば間違いなく銃座を潰せるんだ。
 基本はキャノピー上部の銃座をまず潰す。

 一つ潰れれば後はその穴をねらって侵入すればいい。
 その戦法で隊長機が囮になり、残り二機が時間差で攻撃するのが俺たちの戦法なんだが、99式13ミリ機銃はマ弾装備だからな。

 二番機の俺が一連射しただけで、当たり所が良かったのか、悪かったのか、B―17の機首がバラバラになって即墜落した。
 三番機の佐々木が無線で文句を言ってきた。

 俺にも撃たせてくださいよってな。
 緒戦ではあったが、俺たちは敵戦爆連合110機を全機撃墜という離れ業を演じたのだった。

 無論、友軍機に被害は皆無だ。

 ◇◇◇◇

 ターラント少佐の思惑では、最高速度が350ノットを超えるP―38ライトニングは、双胴の悪魔とも呼ばれている高速戦闘機であり、武装も強力だから日本機なんぞすぐに制圧するだろうと思っていた。
 しかしながら、10分も経たないうちに、上空から煙を吐いて落ちてくるのはP―38ばかりなのに気づいた。

 しかもかなり酷い有様で撃墜されている。
 主翼をもぎ取られていたり、胴体を半ばでへし折られているのも見えるのだ。

 口径のでかい対空砲でもあんな被害に遭うかどうか・・・。
 その未知の日本機が間近に姿を現した。

 一瞬の間に目の前を上から下へと飛び去って行ったが、それはもう凄まじい速度だった。
 私の見たところ350ノットを間違いなく超えていたのじゃないかと思う。

 ウチの20ミリ機関砲がそいつを狙って火を噴いていたようだが、あれほど近距離でしかも早いと狙いもつけにくいと思う。
 その直後、別の日本軍機から攻撃を受けた途端、キャノピーの天井が吹き飛び、右エンジンが火を吹いていた。

 防弾に優れている筈のB―17が一連射受けただけで、右の第一エンジンと右翼の基部が半分ほどやられ、なおかつキャノピーの上の銃座がやられて、キャノピー天井部の半分ほどが無くなっていたことがとても信じられなかった。
 こいつは銃弾というより炸裂弾さくれつだんだ。

 防弾に優れているはずの右主翼面の被弾部が大きくまくれあがっているし、構造材まで破損を受けているらしく、右翼の振動が大きすぎる。
 こいつはたないかもしれないと思った瞬間、右主翼がちぎれ飛んだ。

 右主翼がちぎれ飛んできりもみ状態になるとまず助からない。
 キャノピー天井部が吹き飛んではいるものの、生憎と配線を含めた残骸が多く、このままでは機外に脱出もできない。

 機内で振り回されながらもターラント少佐の意識はそこでプッツリと途絶えた。

 ◇◇◇◇

 フィリピンから飛び立った110機の攻撃隊は接敵してから僅かに30分ほどの間に全滅していた。
 早朝に飛び立った110機もの攻撃隊が、「ワレ、ニホンキノコウゲキヲウケテイル」との通信を最後に、連絡を絶ったのであった。

 開戦劈頭の攻撃で日本軍に痛烈な打撃を与えられると考えていた極東陸軍司令部にとってまさかの結果である。
 まさかそんな馬鹿なと思いつつ夕刻まで出撃部隊の帰還を待ったが、一機たりともフィリピンに戻ってこなかった。

 マッカーサーの司令部では慌てていた。
 ダグラス・マッカーサーは、1937年以来予備役であったのだが、軍事顧問としてマニラに滞在していた。

 そうして日米開戦を予期していたかのようにこの半月前に中将として現役復帰、三日後には大将にランクアップして極東陸軍司令官に返り咲いていたのである。
 そのマッカーサーも、まさか戦闘機を含む110機もの大部隊が一挙に殲滅されるとは思ってもいなかったのである。

 欧州戦線でも爆撃に向かった攻撃部隊がドイツ空軍の迎撃により大きな被害を受ける場合はあったと聞いているのだが、その場合でも概ね半数ほどは被害を受けながらも何とか帰還するのである。
 だから全滅という報告が全く信じられなかったマッカーサーであるが、更なる災厄は翌日から始まった。

 開戦日当日の午後にはフィリピン上空を偵察する未確認航空機の姿が有った。
 高度1万五千メートルを高速で飛行する双発の機体には米軍の迎撃機が追いつけず、また、その飛行高度に到達できなかった。

 偵察機は、フィリピン各地に散らばる米軍基地上空を周回して夕刻には引き上げていった。
 翌9月11日、フィリピン各地にある米軍基地は熾烈しれつな航空攻撃を受けた。

 最初に空軍基地が潰された。
 8000mを超える高々度から落とされた爆弾が僅か三発だけで、飛行場と周辺の施設が文字通り吹き飛んだ。

 単発機5機程度の少数編隊であること、高々度を飛行していることからいずれの基地でも危機感が薄かった所為も有って、米軍側の迎撃態勢が不備であった。
 爆撃跡には直径100m深さ15mに及ぶクレーターのような大穴がのこされていた。

 この爆撃により着弾点の周辺300m以内の施設はほぼ壊滅していたので、後に米軍内では新型の二千ポンド爆弾が使用されていたのではないかと噂された。
 この日、ルソン島を含むフィリピン各地に散らばる飛行場6か所がほぼ同時に壊滅していた。

 此処で駐機していた機体は当然に破壊されたわけであるが、実は迎撃に飛び上がった戦闘機全ても撃墜されていたのである。
 米軍の被害が次々と届く中で、日本軍機撃墜の報が全く無いのは異常だったのだが、当初は誰もそのことには気づかなかった。

 次いで狙われたのが陸軍司令部であり、スービック海軍基地であった。
 厚いベトンに覆われた極東陸軍司令部の地下シェルターだったが、投下された特殊爆弾の一撃で崩壊した。

 シェルター兼指揮所の中に居て、防空戦闘指揮を執っていたダグラス・マッカーサー大将は、多くの側近幕僚たちと共に爆死していた。
 悲惨だったのはスービック海軍基地であった。

 停泊中の艦船は軒並み攻撃された。
 全長20m足らずの交通艇でさえも例外とはされず、非常に大きな爆発力を有する爆弾で破壊されていた。

 桟橋、軍用倉庫、簡易造船所を含め軍用施設と思われるものは全て壊滅していた。
 陸軍の駐屯基地も例外ではなく、フィリピン各地の24か所の基地全てが爆撃され、基地機能は完全に喪失した上に、人的被害も駐留兵力の6割に及んでいた。

 貯蔵していた武器弾薬と食料を失い、その兵力の半数以上を一日で失ったフィリピン駐留米軍の試練は始まったばかりであった。
 現地からの急報を知らせる無線によりフィリピンの惨状を知った米国政府は、直ちに救援の手を伸ばそうとして太平洋司令部に下命したが、生憎と海軍の方はそんなに簡単には動けない。

 太平洋艦隊の出撃準備だけでも相当の日数が本来は必要なのだ。
 非常時に動けるだけの最低限度の体制は整っているが、侵攻となると話は違う。

 一応のプランはあったが、それを実行に移そうとすれば、実は人も食料も武器弾薬さえも万全の戦時体制まで動かさねばならないのだ。
 それでも9月13日には、第一陣として食料・弾薬を満載した輸送船三隻にタンカー二隻を出港させ、護衛として軽空母二隻、戦艦二隻、巡洋艦二隻、駆逐艦12隻をつけたのだった。

 三日後には更なる追加の支援部隊と救援物資を送り込む予定であった。

 ◇◇◇◇

 大日本帝国に宣戦布告したのは米国であるが、ある意味、米国の勝手な事情で日本に対して戦争を吹っ掛けたわけなので半同盟状態の英国やその取り巻きの英連邦加盟国群は様子見に入っていた。
 特に、英国はシンガポールやインドの権益を日本軍に侵されると、経済的に欧州戦線での戦闘継続そのものが怪しくなるのである。

 第一次大戦における戦訓や大西洋での実績があるだけに、英国はUボートの跳梁跋扈ちょうりょうばっこを何より恐れていた。
 日本は潜水艦の開発にも手を伸ばしていたという未確認情報があるから、もしそれが実在してインド洋で商船破壊などに従事しはじめると、遠く離れた英国では十分な対応ができなくなるのは火を見るより明らかだったのだ。

 チャーチルが言うようにインドは間違いなくイギリスの生命線であったのだが、実のところ英国からインドは遠い。
 仮に日本海軍が動いてインド洋で暴れ回られると、それだけで大変な事態に陥る恐れが多分にあるのだ。

 英国政府は、最終的に太平洋での開戦については素知らぬ顔をして、中立を決め込んだのだった。
 米国政府としては当然に英国等も対日参戦に動くと思っていたのに、遺憾な結果となったのだが、ある意味でやむを得ない部分もある。

 英国から見て太平洋は遠すぎるのだ。
 だから、近場に居る英連邦のオーストラリア、ニュージーランド、カナダ、それに亡命政府になっている蘭印にもそれとなく対日同盟を呼び掛けてみたが、色よい返事はもらえなかった。

 いずれの国も軍事力においては大日本帝国に劣る兵力しか持っていないのである。
 表立って日本と対峙たいじするにはそれなりの見返りが無いととてもできないのである。

 特に戦争ともなれば戦費もかさむし、人命も失われる可能性が高い。
 日本が何らかの侵略行為をしたというならばともかく、最近の日本軍は中国大陸からも撤退しているのであり、オセアニアに対して何ら敵対行動をとっているわけではないので、自分たちが動く理由に非常に乏しいのだ。

 為政者いせいしゃとしては国民が納得できる理由で参戦しなければならないが、米国の潜水艦が相手国主張の領海内に入って沈められたというだけでは、参戦の理由になるはずもない。
 ましてや、米国が身を挺して自分たちの国や国民を守ってくれるとは到底信じられなかったのである。

 何となれば、つい二か月ほど前まではモンロー主義により、南北アメリカ大陸以外への政治的不干渉を貫いていた国であり、政府なのだ。
 これまで何らかの同盟なりで実績があるのならばともかく、誰しもが矢面に立つのは嫌がったのだ。

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