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第四章 日米戦争

4ー3 遠距離通信手段~島々の戦い

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 明治41年 5月,逓信省が銚子に開設した局とサンフランシスコ航路の丹後丸船内に設置された無線局との聞で公衆通信を試みて以来、1900年代は遠距離通信が可能となっていたが、ある意味で無線は拡散するために秘匿するのが非常に難しいのが特徴であった。
 また、一方で電離層の状況によっては、受信できるところと、できないところがあるのがデメリットでもあった。

 依田隆弘の記憶情報では、ミッドウェイ海戦前の1942年5月30日に米軍潜水艦がミッドウェイに発信した緊急電を帝国の連合艦隊が傍受しており、空母部隊と離れていた輸送部隊の護衛艦隊がそれに気づいたものの、その一方で、主力の空母部隊はその無線を傍受していなかった。
 その内容の詳細については、日本海軍も知らなかったのだろうけれど、少なくとも宛名がミッドウェイであることは符丁から知っていたはずである。

 いずれにしろ距離の問題か、或いはアンテナの問題か、空母艦隊が当該情報を知らなかったこともミッドウェイ海戦での敗因の一つであったと依田隆弘は歴史資料から認識していたようだ。
 いずれにせよ、敵側通信の傍受もることながら、味方通信の秘匿性を高めるための工夫を色々としなければならなかった。

 私(吉崎)は、流星バースト通信の利用を思いついていた。
 流星バースト通信の発端ともなる流星の大気圏突入時に発生する電離気体柱の存在については、1930年に日本人研究者永岡半太郎氏の論文で明らかにされていた。
 
 流星バーストは思いのほか数が多く、1日に付き10の12乗ほどの数のバーストが発生しているのである。
 但し、利用できる時間は非常に短く0.25ミリ秒ほどの時間である。

 しかしながら、単純計算では100キロ四方の地表面上空で流星バーストが起こる確率は毎秒千回程度にもなるので、頻度はかなり高いと言える。
 問題は、送信が確実に届いたかどうかが不明ではまずいので、受信側が応答して初めて交信が成立するという点だろう。

 短い時間での確認ではあるのだが、これが成立するまでは何度も送信をする必要があるために発信地点を探られる恐れがある。
 電鍵を手で叩いてモールスを送っていたのでは千分の一秒にも満たない短い時間なので、一字も届かないことになるのだが、半導体の塊である電子計算機を用いれば、1万分の2.5秒にしか過ぎない時間でもデータの送信若しくは受信は可能なのだ。

 40MHz~50MHz帯の100ワット程度の無線機システムとモデム、それに電子計算機は必要だが、左程の大規模設備を要しない。
 少なくとも電報形式の文字を送るだけならば信号をデジタル化することによって、1メガバイト程度の送受信は十分可能なのである。

 21世紀では、数ギガbpsデータ受信も可能だったから、2バイトの文字ならば1秒間に最大10億字分ほども遅れることになる。
 尤も、平均で通信可能時間が0.25ミリ秒だから、いいところ10万字前後と考えていた方が無難ではある。

 千字未満の電文ならば余裕で送受信できるはずだ。
 しかもデジタル化された通信内容を読み取るには同じ機器や設備が無ければ解析もできない。

 立派な暗号になるはずだった。
 また、どこにいるか予めわかっている相手に対しては、収束タイプのビーム通信をするのが安全なのである。

 駆逐艦以上の海軍艦艇、早期警戒機、偵察用飛行船、通信用飛行船はいずれも流星バースト通信機、ビーム型収束通信機及び中継装置を搭載している。
 潜水艦については、500m以上の深度にまで潜ることから、耐圧性の問題もあってシュノーケルに流星バースト通信のアンテナを設置するだけに留めている。

 ビーム型収束通信機は、パラボラアンテナが必要なことと、浮上して自艦の位置測定に時間を要することになるので、秘匿性を重視する潜水艦には搭載していない。
 むしろ流星バースト通信を行うために10分ほどもシュノーケルを海上に出しておけば、送受信が可能なので、必要が無いともいえる。

 一方で、流星バースト通信は、流星バーストが発生する場所が高度100km前後であるために、通信はおよそ2000㎞の範囲に限られる。
 従って、遠距離通信を可能にするには、どうしても中継装置の存在が必要だった。

 無論、通信衛星を24個ほども打ち上げれば、地球のどこに居ても通信は可能なんだが、打ち上げ経費と維持経費が掛かり過ぎるんで、開戦するまでは取り敢えずは見送りとしていた。
 それまでのつなぎとして流星バースト通信を利用する通信専用飛行船を製作して利用することにした。

 飛行船の滞空高度はおよそ35kmを想定しているので、二機の飛行船間の見通し線距離はおよそで1400km以内になる。
 この間は指向性のデジタル方式のビーム通信を使うことにより、飛行船を二機配置するだけでバースト通信の到達距離は少なくとも3000km以上に伸びることになる。

 横須賀に地上設備を置いた場合、東経150度線上及び165度線上に飛行船を配置すれば、最低でも日付変更線ぐらいまでバースト無線が届くことになる。
 更に、日付変更線上、西経165度、西経150度、西経135度上に配置すれば米国西岸の通信もほぼ傍受できることになる。

 このためにこの通信専用飛行船はステルス性が必須であった。
 できるだけ小型にすると同時に、新素材「セラカーボン」を多用して、塗装をせずにレーダー反射を極小化している。

 最終的に作り上げたのは、レーダーにほとんど映らない(1940年代半ばのレーダー能力ではほぼ点にしか映らず、ノイズと判断される。)直径2m、全長5mの大きさであり、ソーラーパネルからの電力を使い艦尾にある駆動モーターで動く飛行船になった。
 この飛行船の特徴は、天頂部の3割ほどがソーラーパネルで覆われていることだ。

 ソーラーパネルの反射光が地上や航空機に見られる恐れはかなり低いのだが、それでもゼロではない。
 一方で飛行高度が3万5千mを超えることから、日中においてはソーラーパネルが雲に遮られることのない利便性を持っている。

 陽が斜めになると発電力は落ちるけれど、搭載している高性能電池がカバーするので飛行船の動力に問題は無い。
 海軍及び陸軍とも相談の上で、この飛行船を、東経150度線上に3機、東経165度、180度、西経165度、西経150度、西経135度線上に各二機、さらには西経120度線上に一機を配置し、サンフランシスコ、ニュー・メキシコ州ロス・アラモス、ワシントン州リッチランド、テネシー州オーク・リッジ近傍上空にも配置した。

 これらのうち米国本土上空に配備した飛行船は、ある意味で見つかることを覚悟した飛行船であり、何らかの形で発見された場合には、撃墜される前に自爆する機能をつけている。
 こいつはソーラーパネルを動力源としており、移動は可能だが精々毎時100km程度の速度しか出せない。

 このために、一番遠いオーク・リッジ近郊上空へ配備の飛行船は、吉崎航空機製作所金谷工場から離陸して、3か月半もかかって配備に付いた。
 耐用年数はおよそ2年と見ているが、通信専用飛行船18機が配備されたことで、太平洋のかなりの範囲が通信圏内に入ることになったのである。

 その運用状況をみて陸軍からも要望が出て、日本海中央部、北海道、満州上空にも各一機の配備が為されたのは、それから半年後のことである。
 暗号電報は、これまで通りそのまま残すけれど、作戦に関わる命令や敵軍の動向に関する情報等の通信は、その全てが流星バースト通信で行われることに決まったのが、日米の開戦直前であった。

 このため関連機器を輸送機で外地にも運ぶ必要が生じ、実際に運用が開始されたのは、1942年(昭和17年)10月下旬のことだった。

◇◇◇◇

 日米開戦当初の戦況として、フィリピン国内に残存していた米兵は、10月中にはその全てが捕獲されるか殲滅されていた。
 これとは別に、米軍が築いていたフィリピン内のスパイ網の摘発も順次進めているところだ。

 海軍の輸送船にコンテナ一杯の虫型ゴーレムを運んで貰い、マニラその他の港湾から順次拡散させている。
 当該虫型ゴーレムで入手した情報は、必要に応じてフィリピンを軍政下に置いている陸軍さんに教えることにしている。

 1942年10月中旬には米国信託領のグアム島が陥落し、10月24日には米国領土のウェーク島も占領された。
 その頃、米太平洋艦隊は、帝国海軍の動きが余り掴めていなかった。

 グアム島には、正規空母である翔鶴と瑞鶴の二隻と第一戦隊が動き、ウェーク島方面には、第三航空戦隊の軽空母二隻(鳳翔、瑞鳳)が、第二戦隊(伊勢・日向・扶桑・山城)及び第三水雷戦隊(吹雪・白雪・初雪・叢雲・東雲・白雲)とともに動いていたのだが、そのいずれの動きも米軍は予想はしていても察知できていないままであったのだ。
 特に、ウェーク島攻撃に際しては、中道造船所で建造された若狭型航空母艦を中心とする二個機動部隊が出動し、遠距離からウェーク島周辺の潜水艦と哨戒機全てを事前に殲滅していたために、ウェーク島は左程の抵抗もなく陥落したのである。

 米軍の反攻は今のところ始まっていない。
 太平洋各方面で日本軍による潜水艦狩りが横行しているために、太平洋艦隊が情報不足で動けないでいるというのが実情なのだ。

 例えば、ウェーク島の防衛に当たっては、米軍は周辺海域に17隻の潜水艦を配置し、28機ものPBYカタリナ飛行艇を配置して警戒に当たったのだが、北西方向を中心に180度の範囲に索敵を掛けた哨戒機のいずれもが消息を絶ってしまい、敵が近づいているのは分かっていても全く対応が取れなかったというのが実情だ。
 おまけに厳戒態勢中ながらも夜襲で爆弾三発を食らっただけで、航空基地の機能がほぼ壊滅し、ほそぼそと復旧中の翌朝に敵襲があって息の根を止められたのである。

 ウェーク島は、ハワイからは比較的に近いのだが、それでもパールハーバーまで3700キロほどあり、至近のミッドウェイまでは1900キロ、ジョンストン島までは2500キロ余りあるので航空機でさえ簡単には支援ができない場所だった。
 偵察機や潜水艦が情報を得られないままに消息を絶ってから出撃したのでは間に合わないことから、最終的にハワイからの艦隊派遣は為されなかったのだ。

 その後何度か、動静監視のための偵察機を送り出し、潜水艦も派遣したのだが、いずれもウェーク島の100キロも手前で消息を絶っており、米軍はウェークの現状を知ることができなかったのだ。
 一方で帝国海軍の第三航空戦隊と第一戦隊等は、ウェーク島の上陸作戦が終わるとすぐに引き上げたのだった。

 帝国海軍は、ウェーク島の飛行場を整備し、蒼電60機を派遣していたほか、イ500型潜水艦「碧鯱(そうこ)」8隻を常駐させて、米軍艦艇の接近を阻(はば)んでいた。
 ウェーク島には早期警戒機連梟(れんきょう)を6機駐在させ、周辺海域の警戒を怠らないようにしている。

 蒼電60機と連梟6機は、いずれも若狭型航空母艦によって滑走路が整備された後にウェーク島へ運搬されてきたものであった。
 ウェーク島への補給については、中道造船所で建造された1万トン型高速補給艦が担っている。

 本土若しくは中継港から武器、弾薬、食料、燃料の一切合切を輸送することになっており、定型コンテナに収められた貨物を毎時25ノットで輸送することができる。
 生憎と対空装備は無いが、ソナーも装備していて、対潜弾二回戦分を装備していることから対潜行動もとれる優れものだ。

 航路については、早期警戒機と碧鯱(そうこ)部隊が中心となって、安全を保っている。
 ウェーク島については、1943年5月にはほぼ要塞化が完了していた。

 滑走路脇には大規模な掩体壕(えんたいごう)があり、百機前後の航空機が壕の中に格納できる。
 また、西側水路と礁湖の一部を浚渫(しゅんせつ)し、礁湖内にコンクリート製の桟橋を作って補給船が着桟できるようにしているほか、地下に宿舎が整備され、亜熱帯にもかかわらず駐在部隊は、小笠原の母島の基地と同様に快適な生活を送れている。

 ウェーク島守備隊は、海軍陸戦隊が30名、パイロットが72名、整備士その他の者が130名程になる。
何時でも放棄できるように陸軍の将兵はいない。

 全員が逃げ出せるように20機の輸送機とパイロットも準備されている。
 しかるべき時期にここが長距離爆撃機の拠点となる可能性はあるが、その為には滑走路をより長大化(4千メートル滑走路への拡張)し、関連設備の整備も行わねばならないだろう。

 吉崎航空機製作所では鋭意その準備作業も始めているが、今は基地を準備するまでの段階ではない。
 吉崎としては、長距離爆撃機については戦略上の扱いになるので、海軍や陸軍ではなく戦略空軍とでもいうべき新たな「軍」を立ち上げたいと考えていた。

 仮に、戦略爆撃機を海軍や陸軍に委ねてしまうと局所的な判断だけでやり過ぎてしまう可能性もあるからだ。
 通信兼偵察衛星については、1942年12月から順次打ち上げを始めた。

 ロケット推進ではなく、魔導推進による打ち上げで、2週間に1基ずつ打ち上げて48週かけて24個の軌道衛星を打ち上げた。
 偵察と通信中継を兼務する衛星は、低軌道を周回させるために寿命が短いので、1年後には再度打ち上げを実施しなければならない。

 それとは別に、赤道上35,786キロメートルの静止軌道に通信専用衛星を配置し、概ね60度刻みで5個を配置させた。
 これにより概ね西経70度線から、太平洋全域とインド洋、西経40度線付近までの地表面から発する通信を中継できることになったのである。

 電波状態さえよければ、米国のラジオ局であるNBC、CBS、英国のBBCなどが東京に居ながらにして聞けるようになった。
 この打ち上げが完了して運用試験を繰り返し、ほぼ問題なしと分かった時点で、陸海軍に概略を説明し、後の戦略空軍設立のための伏線とした。

 通信衛星と陸上基地施設との中継は、本土上空に浮べた飛行船型通信中継器に集約され、そこからビーム通信を使って各基地に配分できるようにした。
 このビーム通信のデメリットは、間に航空機や鳥などが飛ぶと場合により通信が遮断される恐れがあることであったが、デジタル化、TCP/IPプロトコル、バッファ処理等を採用して確実性を増すことにした。
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