仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監

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第三章 新たなる展開?

3ー14 母島の基地防衛対策等

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 私は吉崎博司、昨今、巷では新興の吉崎財閥を率いる総帥と呼ばれているそうだ。
 当初の計画通り、1941年(昭和16年)7月21日までに第一機動部隊の護衛を担う軽巡と潜水艦合わせて12隻が竣工した。

 その為に要員が集まり次第、4隻の軽巡と8隻の潜水艦の完熟訓練が行われる予定だ。
 竣工後は、一応海軍に引き渡している艦艇ながら、完熟訓練が終わるまでは造船所の技師などが現場で色々指導してやらなければならない。

 これまでの戦闘艦や潜水艦に慣れた者であっても、吉崎重工中道造船所が作り上げた新型の軽巡と潜水艦を操作するのには相当な戸惑いを覚えるだろう。
 性能の違いもあるが、艦の操作方法、主機や補機の取り扱い、照明の使い方すら違うのだから、慣れないうちは何もできない。

 ましてや兵器の操作ではこれまで扱ったどんな兵器とも違っており、軽巡搭載の5インチ砲ですら人力で動かす部分はほとんどないのだから、そもそも発砲手順がわからないだろう。
 母島の地下基地には多数のシミュレーターを備えており、一応ゲーム感覚で訓練はできるけれど、実際に実動訓練も行って、艦及び兵器の操作に慣れてもらわねばならないのだ。

 日米関係があまり宜しくない昨今は、海軍も色々とせわしい最中さなかなのだろうが、最終的に軽巡要員552名、潜水艦要員320名、基地の維持要員120名余りを8月中旬までに母島に送り出してくれた。
 基地長は、今のところ大佐クラスだが、新型空母が竣工したなら少将クラス以上にすると聞いている。

 正規空母だと艦長は大佐クラス、機動部隊の司令官は最低でも少将クラスだろうから、基地長もそれに見合った将官でなければならないのだろうね。
 母島の秘密基地の管理体制については、当面年間100万円の賃貸契約を締結し、海軍に基地を貸し与えている状況で、当座5年間のメンテナンスは吉崎重工の方で面倒を見ることにしている。

 単純に言って、基地機能を維持するには海軍の技術者では荷が重いから肩代わりしているだけなのだけれどね。
 でも5年を超えたら容赦なく要員を引きはがすつもりでいる。

 50歳を超えた我が社のロートル従業員が、単身赴任をしながら南の島で頑張っているんだぜ。
 海軍では、軽巡と潜水艦の乗員を手配するのに合わせて、横須賀に在った料亭など民間業者の中で身元の確かな者、口の堅い者を選んで母島への事業移転を依頼したようだ。

 この辺は南洋諸島にあるトラック諸島の基地化を進めていた関係で、同じ流れで民間を巻き込んだようだ。
 そのために海軍は補正予算を組んで、新たに新型輸送機四機を吉崎航空機製作所に発注して来ていた。

 但し、人の輸送は輸送機でもできるけれど、大量の資材となるとやはり海上輸送だよね。
 まぁ、300トン程度の貨物を運ぶ輸送機のプランは、将来的にはあるけれど、今のところは対外的(陸海軍も含む)に秘密だ。

 海軍さんは、輸送船まで用意して母島への民間移転にテコ入れしたようだ。
 余り目立った動きをすると、どうしても機密漏洩につながるんだけどね。

 今のところ、国内では何の噂も出ていないから、情報統制が上手く行っているようだ。
 吉崎航空機製作所は、スタッフ20名を母島に派遣し、母島飛行場に駐機する航空機の整備を請け負っている。

 無論、永続的なものではなく、最長で二年という年限がついているが、その間に海軍の航空機整備士を育成できるようにしなければならない。
 母島周辺では海軍の軍用機が結構飛び回っているのだが、島民以外の部外者に見られることはない。

 実は海軍にも秘密にして小笠原近海での潜水艦対策を実施している。
 小笠原初頭から百海里内の海域に入ると、潜水艦の計器が異常を起こすような機器を周辺に設置している。

 潜水艦の洋上航行対策では、潜水艦の浮上航行は隠密のため夜間に制限されているから、コンパス等の異常だけでなく夜間に天測等ができないよう色々な障害を設けている。
 米軍などの潜水艦ではバーミューダ・トライアングルのような不思議な現象により自艦の位置がわからなくさせる装置だ。

 日本船にも影響は生じるが、海軍水路部を通じて小笠原諸島の概ね200海里内では計器異常等が発生する恐れがあるので、小笠原近海での航行はできるだけ避けるようにとの注意喚起をしている。
 いずれ、米軍にも水路部の注意喚起は伝わるだろうけれど、航行禁止海域ではないので米軍もそのまま注意喚起として受け取るだろう。

 現実に航行すれば、理由不明の異常が発生するのだから不思議にも思わないはずだ。
 そのためにロートル組からなる特殊戦隊を母島の管理センターに置いており、小型トラック程度の潜航艇を使って、小笠原に接近を試みる米軍潜水艦に対して、四隻に一隻程度は、エンジン故障を引き起こさせている。

 ディーゼルエンジンのガバナーが不調になり、エンジン駆動が難しくなるのだ。
 この為に無理をするとエンジンが焼き付いて全く動けなくなる。

 こうなると潜水艦はただの鉄の箱だ。
 浮上して救助を待つしかないことになるのだが、帝国海軍の旧式駆逐艦あたりが接近すると、彼らは恐怖におびえることになる。

 戦時下ではないので事情を話せば、許容はして狂るだろうが、米海軍にとっては仮想敵国の軍艦である。
 いつ何時無茶を言われて拿捕されるかわからないのである。

 因みに周辺で救援のための船を出せるのはフィリピンかグアムぐらいしか無く、その救援船が到着するまでの間は、ひたすら洋上を漂流することになる。
 帝国海軍とうに救助要請を行うのは最後の手段である。

 日本の港にでも持って行かれれば何を去れるかわからないし、潜水艦の機密が漏れることにもなりかねないからだ。
 三ヶ月の間に、10隻の潜水艦が小笠原近海に向かって出港し、そのいずれもが自艦の位置を見失って当初の目的を果たせず、そのうち二隻の潜水艦はエンジン故障で漂流をしてしまってから、小笠原海域は米海軍潜水艦にとって禁断の海域になった。

 なにしろ救援船ですら自船の位置を見失い、漂流中の潜水艦を捜索するために一週間も洋上をさ迷ったのである。
 かろうじて洋上で会合はしたものの、潜水艦の乗組員も救援船の乗組員も相当にへばっていた。

 体力的な疲労よりも精神的なストレスが非常に大きかったようだ。
 いずれにしろ米軍の哨戒活動は小笠原近海に限り激減したのである。

 因みに母島は、一般の商用航路からは外れているけれど、豪州方面への通行船が全く無いわけではなく、たまに母島のはるか沖合を航行する場合もあるのだ。
 従って、母島から離陸する航空機及び母島に着陸する航空機は、母島にある管制塔から細かな指示を与えられ、人の居ない空域を狙って飛行し、或いは、訓練を行っている。

 最近では、海軍部内でも秘密裏に新型機の搭乗訓練をするには、母島周辺が最も望ましいということになっている。
 海軍航空機のパイロットは、最初に金谷でシミュレーション訓練をみっちりと行い、次いで母島で実機操縦訓練を行うことが一連の流れになった。

 当然のことながら整備士の卵も、その大部分が母島に派遣されて整備の研修訓練を受けてから現場に配置されるようになった。
 このため、軽巡及び護衛潜水艦の要員だけならば千名に満たない数なのだが、次第に増大するパイロットや整備兵を含めると二千名を超える大所帯となり、基地で消費する糧食だけでも相当量になっている。

 その全ての調達と輸送を吉崎食料運輸が引き受けるようになったのは、1941年(昭和16年)の9月頃からだ。
 北海道の日本海側増毛近傍の払い下げ用地に大規模な農場を建設し、吉崎農園という名で米や野菜の生産と畜産を始めたのは、同じく1941年(昭和16年)4月末のことだ。

 その年の9月からは米2万トンのほか、野菜や穀類を出荷し始めたが、寒い北海道で冬の時期に米や野菜が育つ訳がないという常識を覆して、それ以後も毎月米や野菜を継続的に出荷している。
 やがてマシケ米と名付けられた北海道産の米が美味いと世間でも評判になり、僅かながら市場に流したマシケ米が本州の家庭の食卓にも一部上るようになった。

 人が一年で食べるコメは一石(二俵半=150キロ)と言われるが、マシケ米は年間で24万トン(約160万人分)の米を出荷している。
 母島に供給される食料のほとんどは、この増毛近郊にある吉崎農場で生産されたもので、増毛の南にある雄冬新港から内航船によって内地等にも運ばれているのだが、重要な出荷先は、樺太油田の関連施設と母島、それに吉崎重工中道造船所や金谷の航空機製作所等吉崎財閥傘下の企業群なのだ。

 将来を見据えた計画に従い、年間の米の出荷量は、毎年6万トンほど増加させることにしているが、増毛の農場の実態はその生産能力を含めて外部には一切秘密にされている。
 実のところ、増毛農場は地下に造られた巨大な階層農園であり、同じく地下に巨大な貯蔵庫を備えており、一年の出荷量の2~3倍ほどの量が秘密裏に貯蔵されている。

 この貯蔵庫は、錬金術の奥義を駆使して製造したものであり、時間経過を千倍程度に遅延させているために、貯蔵されたものは非常に長持ちする。
 例えば、葉物の野菜は五年経っても瑞々しいままだから、増毛農園での生産物の保管には最適の場所なわけだ。

 あくまで緊急時のための備えだから、使うことが無ければそれに越したことは無いよね。
 この増毛農園の働き手も女性と40歳以上の男性を主力にした従業員約1200名ほどだが、農園自体はかなりの部分が機械化されており、この当時の一般の農作業と比べると随分と集約化され、効率的であり、また半自動化されているので、重労働ではなくなった。

 いずれはこの農園方式を国内各地に広めるつもりでいるが、時期としてはもう少し後になる予定だ。

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