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第三章 新たなる展開?

3-3 燃料は?

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「仮にお主が造るとすれば、造船所はどこに作るつもりかな?
 その辺も海軍が根回しすると色々と支障が無くなると思うが・・・」

「お言葉に甘えて宜しゅうございますか?」

「おう、かまわん。
 菅野中佐、お主が吉崎社長の担当な。
 上手いこと関係先の根回しをしてやってくれ。
 必要ならお主の良いように儂も口を出してやろう。
 但し、吉崎さん。
 ウチが口を出すからには、見返りもくれよ。
 航空母艦に限らず、余裕があれば他の艦も作ってくれい。
 単純な話、その機動艦隊に随伴させるという潜水艦だけでも、同じ金額で別枠で作ってくれれば、海軍としては大助かりじゃ。
 どうせ武装もするんじゃろう?」

「はい、おそらく魚雷は40本ほど搭載することになるだろうと思います。」

「ほう、40本とは豪勢だな。
 もしかして短いのかな?」

「はい、長さは4mぐらい、直径は42センチぐらいになるでしょう。」

「そんな細いので大丈夫なのか?」

「破壊力が従来の三倍近いモノが350キロ入っていますので1トン爆弾と同等と思っていただければよいかと。」

「そいつはもう出来上がっているのかい?」

「いいえ、これから作り上げます。」

「夢の話だけで終わるんなら海軍の仮認定はすぐ取り消すぞ。」

「三年あれば大丈夫です。
 因みに、造船所の候補地はいくつかありますが、千葉県の夷隅いすみ郡大原町の中道海岸が最も人気ひとけが無くて適しているものと考えています。」

「おいおい、人気が無いということは道路も無い場所か?」

「はい、道が無い分、人も寄り付きません。
 秘密管理には適しています。
 尤も、一般道路まではトンネルを作って、人の出入りを監視するようにいたします。
 物資は必要があれば海から運び込みます。」

「ふむ、あとな・・・。
 建艦材料の鋼材だが、国内で不足していて海軍でも集めるのが大変なんだが、当てはあるのか?」

「鉄ですか?
 私のところでは鉄は要りません。
 航空機もそうですが、他所よそから輸入してくるような資源に頼っていたら、それがストップするだけで生産ができなくなりますから・・・。
 従って、我が社ではすべての原材料は自分で賄えるものに限っています。
 因みに、「蒼電」及び「蒼電改」の機体に使っている主要素材は、炭素と窒素とケイ素からできている新素材です。
 造船所でも同じか若しくは同様の新素材を使いますので、原材料の心配は不要かと存じます。
 問題があるとすれば用地買収に伴う地権者との折衝でしょうか。」

「ふむ、そいつは、面倒なら強権発動だな。
 地権者と折衝して相手がごねそうなら海軍が収用法に基づいて一旦強制収容する。
 その上でお前さんのところに払い下げればいいだろう。
 吉崎さん、あんたも「海軍御用達」というのぼりを盛大に掲げて行けばいい。
 名刺に海軍認可造船所って文字を入れとけよ。
 海軍中将の俺が許す。
 そうすれば、交渉なんぞ意外に早く進むぞ。
 昨今は、大陸も一応は落ち着いたんだが、北の方が何となく怪しいし、対米関係も何かと面倒になってきている。
 できるだけ早く、動かせるところは動かしておかないと、機能不全に陥るかもしれん。
 あと、もう一つ、航空本部とは航空燃料売買の契約をしている様だが、海軍の重油は何とかならんのかね。
 今でもそうなのだが、重油を止められると、海軍の船がただの鉄の箱になっちまう。
 航空燃料ができるんなら、海軍の重油もできるんじゃないのか?」

 私は苦笑した。
 できないわけじゃないのだが、軍艦と航空機燃料では必要量の桁が違う。

 航空燃料は今のところ一けた台の万キロリットル単位、だが、艦艇の重油は普通に年間消費だけで数十万キロリットルだ。
 戦闘が始まればどちらも一気に消費量は倍増するだろうけれど、さてさてどうするかだ。

 九州と北海道辺りに石炭とそのボタ山を原料とする重油製造装置でも作るか?
 植物など可燃物廃材を原料にする燃料製造装置は、どうしても限度がある。

 現状で広い敷地を持っている金谷工場ですら8万から10万キロリットルの航空燃料製造がぎりぎりだ。
 100万トン単位にまで増やしたら日本中がはげ山になるかもしれない。

 まぁ、炭素、水素、酸素の合成物には違いないので、空気から合成するのは錬金術でできないわけじゃないのだが、物凄く効率が悪いのだ。
 炭素と酸素を二酸化炭素から分離するとその際にエネルギーが奪われる。

 そうして再度化合させるとエネルギーが発生する。
 これがアンバランスなのでエネルギー量の整合性を取るのが難しいのだ。

 そのバランスをとるために魔石が必要なのだが、実はこの反応に使うと無茶苦茶に効率が悪く、5日ぐらいで中程度の大きさの魔石の含有魔力が空になる。
 これを補充するには私が結構頑張らなくてはならない。

 仮に大気から燃料を製造する魔道具10基を稼働させたら、おそらく私の自由時間が全くなくなるだろう。
 それでいて、CHOの合成重油は一日当たり10基で10キロリットル程度にしかならないのだ。

 これでは効率が悪すぎるので、結局は炭素を有機物で補填する方法にしたのが現状の航空機燃料精製装置なのだ。
 重油も同じ方式にするならば、大量の可燃性廃材、若しくは、大量の石炭かボタ山が要る。

 従って、九州か北海道の炭鉱がある場所に重油互換燃料精製装置を作るかどうかである。
 もう一つはサハリンの海底油田狙いか?

 今のところ領海は別として、公海部分での探査活動を規制するものは何も無い。
 そもそもが海底資源の活用を真面目に考えている人自体が少ないのだ。

 いずれにしろ艦政本部長の質問には答えなければならない。

「お答えに非常に困るところなのですけれど、できないわけではありません。
 但し、色々と付帯条件がございます。
 航空燃料の場合は、今のところ数万キロリットルの需要なので何とか対応できています。
 しかしながら海軍艦艇の燃料ともなると、平常時でも年間二十万キロリットル以上が必要でしょうか?
 非常時ともなると一気に倍増することになるのでしょうけれど、我が社が持っている方式の装置ではその量を製造するのは非常に難しく、対応できません。
 仮に重油互換の燃料を精製するとしたならば、九州か北海道の炭田地帯に別枠の装置を造り上げて稼働しなければならないでしょう。
 石炭から液体燃料への変換率はおよそ20%から35%程度、特に日本産の石炭は質が悪いので20%に近い方になります。
 つまりは100万トンの石炭から20万トンから25万トン程度の燃料が精製できるにすぎません。
 経費も掛かります。
 なにせ、石炭を掘り出さねばなりませんからその分の経費が上積みされます。
 米国からの輸入原油に比べて同等かそれ以上の値段になるでしょうけれど、問題は粘度等の違いで当該燃料に合わせた燃焼炉方式に切り替える必要が生じますので、その分余分に海軍さんの経費がかさみます。
 それを承知の上でしたら製造はできます。
 但し、仮に割高でも購入するというお約束が無ければとてもじゃないですけれど商売人としては動けません。」

「そうか、航空燃料が十分の一程度の価格になると聞いて重油もそう出きればと思ったのだが・・・。
 やはり商売としては無理か?」

「もう一つ別の方法があるかもしれません。
 艦政本部長は、オハ油田をご存じですか?」

「あぁ、確か北樺太にあった油田だな。
 採掘権は帝国にあるんだが、ソ連がなんだかんだと難癖をつけて原油生産ができんという奴だろう。
 元々低質油だし、生産自体も厳しい自然環境の中でやらねばならないから大変だと聞いている。
 何だ?
 そこをソ連から分捕るか?」

「いいえ、まぁ、分捕ると言えば分捕る形になるかもしれませんが、樺太の東部の海底にはその地形から判断して油田がある可能性が高いんです。
 それがオハ油田とつながっているかどうかまではわかりませんが、南樺太で試掘して東側の海底油田に到達する可能性は大いにございます。
 仮に試掘を始めるにしても、造船所で試掘用の特殊な櫓を組み、現地に運んでからでないと確認できませんし、ある意味で大きな博打になります。」

「待て、待て、とんでもないことを言う奴だな。
 海底に油田?
 それを掘り出すというのか?
 どれぐらいの埋蔵量があるんだ?」

「さぁ、それは掘ってみないと分かりません。
 全くの空振りもあり得ますが、もし当たれば今後日本が必要とする百年分くらいの油は大丈夫かもしれません。」

「手がけるとしたら最速で何時いつ頃になる?」

「夷隅郡中原町の用地取得ができてから、多分、半年かからずに油田採掘用のやぐらができます。
 それを南樺太に運んで、場所としては多来加タライカ湾に面した野頃ノッコロ辺りでしょうか。
 海浜で試掘を行って、先端を東部の海底に向けることで試掘ができます。
 試掘期間としては順調に行けば半年程度でしょうか。
 仮に、来年の三月までに用地取得が成って、造船所の施設等の建設を急げば、来年秋までには櫓が造れます。
 天候が良い時期に南樺太へ運び、それから試掘開始、どんなに遅くても再来年の夏までには結果が判るのじゃないかと思います。
 仮に油田が見つかったなら、海軍さんに周囲の海域を警戒していただくことが必要になりますが、同時に北樺太のソ連軍の動向にも注意が必要です。
 経済的利益が大きいとみればソ連が動く可能性があります。
 試掘が始まる前には陸軍さんにも声をかけておく必要があります。
 一方でソ連の領土とは無関係の海底油田の話ですので、ソ連には何も通報する必要は無いと思います。
 もし、この原油の試掘を優先するとなれば、空母の建艦は少し遅れますが、どちらを優先すべきですか?」

「そりゃぁ、決まっとる。
 油だ。
 油が無ければ海軍は動けんのだ。
 米国も今のところ最終的な禁輸政策は発動しておらんが、外交関係が上手く行かなければ間違いなく禁輸で油を制限してくる。
 他にも鉄とか種々の輸入資源が対象になるだろうな。
 じわじわと締め付けられれば、軍は身動きが取れなくなるだろう。
 今の話では、新素材で新たな軍艦が造れるということのようだから、残る問題は油しかない。
 取り敢えず油を確保しておけば、残りはゆっくりでもええ。」

「わかりました。
 では、油田確保のために可及的速やかに造船所を建造し、しかる後にサハリンでの試掘に入りたいと存じます。
 その際には、場合によって櫓を含めた関係船舶を海軍所属の船として登録することになるかもしれませんのでその際にはよろしくご了承ください。
 また原油の試掘に当たっても、海軍さんのお力添えが必要になるかもしれません。
 内務省、樺太開発庁などの役所を説得しないと事業もうまく行きませんので。」

「ああ、その辺は海軍に任せとけ。
 少々のことなら力で押し通す。」

「いえ、あの、後々のこともございますので、できるだけ穏便な方がよろしいかと存じます。」

「ふっ、お主は、海軍にたかる業者とは少し毛色が違うようだな。
 菅野中佐を窓口に艦政本部とも以後よろしく頼む。」

 そんなことで昭和14年11月の会議は終了しました。
 この一件で、艦政本部では菅野中佐が、航空本部でも同じく竹野洋二郎中佐を連絡役として指名し、小和田大尉はその補佐役となりました。

 これで新たに、油田開発と造船所と云う仕事が増えそうです。
 原油を扱う会社は、流石に吉崎航空機製作所の定款から読み込むには無理がありますので、当然別建てにする必要がありそうです。

 造船所の方も、軽巡やら潜水艦の建造がある以上、吉崎造船所若しくは房総造船所とでも名付けて新会社を設立させる必要があるでしょうね。
 余り、造船所に力を入れ過ぎると大和型以上の戦艦を造れとか言われる恐れもありますが、大艦巨砲主義は、この先流行りませんからそちらの方は極力回避することにします。

 航空機優先であれば、戦艦は間違いなく無用の長物なんです。
 最初の仕事は、造船所用地の入手と漁業者の説得でしょうね。

 交渉事で中道海岸のある大原の方へは度々行かねばならなくなりそうです。
 列車にしろ、車にしろ、金谷からだと結構遠いんですよね。

 造船所の周囲に滑走路を造って金谷工場との交通の便宜を図る必要があるかもしれません。

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