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第二章 覚醒・死者と生者の想い
2-9 とあるパイロットの思い
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俺は、霞ケ浦海軍航空隊に属する教導隊の中西孝也一飛曹である。
俺の仕事は霞ケ浦に集まる飛行訓練生の指導に当たることだ。
これまで主流だった九六式艦上戦闘機に代わって、噂でしかなかった十二試艦戦につながる新鋭機がついに霞ケ浦に配分された。
但し、配分された新型機は千葉県君津郡金谷村にできたばかりの吉崎航空機製作所が製造した機体の2機だけであり、しかも艦上戦闘機ではない。
艦載機の配分も将来的に予定はあるらしいのだが、取り敢えず配分されたのは基地用戦闘機の「蒼電」が1機と高速練習機ラー1が1機だけだ。
練習機の正式呼称は「海軍九九式高速複座練習機」だが、長いので俺たちは「ライチ」と呼ぶことにしている。
艦上戦闘機については、四菱製のモノが飛行試験に入っているらしいし、吉崎航空機製作所の蒼電を艦上戦闘機用に性能を落とした劣化版が間もなく試験飛行に入ると航空本部に務める先輩から聞いている。
この調子では今年(昭和14年)の年末頃には配分されるかもしれないと聞いているが今のところは不明だ。
この二機を運んできたのは五十に近い爺さんだったのには驚いたぜ。
但し、いずれも操縦の腕はピカイチだった。
霞ケ浦に飛んできたのは、九九式基地用戦闘機「蒼電」と、九九式高速複座練習機(ライチ)、それに見たことのない輸送機だった。
その三機がきっちりと編隊飛行のままで霞ケ浦の滑走路に着陸したのには驚いたぜ。
輸送機にはウチから研修に行っていたベテラン整備兵の川本一等整備兵も乗っていた。
蒼電もライチもウチには全く新しい機体だから、ウチに残った整備兵では扱えないかも知れんのだ。
為に川本一等整備兵が半年近くも金谷に派遣されていたのだが、輸送機からは何やかやと整備工具が詰まった大きな箱が10箱ほども下ろされて、格納庫に運び込まれた。
取り敢えず、ライチを操縦して来た民間人(吉崎航空機製作所のパイロット)の崎山さんが四日ほど居残って、仮の教員を務めてくれるらしい。
訓練されるのは俺達教導隊の教官なんだが・・・。
海軍航空隊を舐めるなよ。
俺たちの実力を見せつけてやると意気込んでいたのだが、その自信はあえなく潰された。
九六艦戦は、いい機体だしこれまで最強だと思っていたんだが、翌日の練習機との格闘戦でいきなりその自信を潰された。
九六の最高速度は219ノットなんだが、ライチは練習機のくせに300ノットも出せるんだ。
速度差はおよそ80ノット(約150キロ)もある。
これでは如何に小回りが利く九六でも背後を取るのは不可能だ。
こっちが旋回している間にライチが一気に遠ざかってしまい、こっちが相手を見失うと背後につかれているという具合だ。
仮に空戦をやれば間違いなく九六はズタボロだ。
速度差がこれほど違うと全く勝負にもなりゃしない。
中国戦線では随分活躍した機体だし、昭和11年に出て来たばかりの新鋭機だというのに、僅かに三年でお払い箱になりそうだぜ。
ライチは空中機動も凄まじい。
旋回半径は当然大きいんだが速度が速いから大きく回っても九六の背後に出られるんだ。
当然のことながら九六で急降下してみてもライチを振り切れなかった。
三機の九六が束になって掛かっても一度たりとも相手を銃眼の前に置けなかった。
ほんの一瞬だけなら捕らえられたかもしれないが0.1秒も続けられないうちに射程圏外に逃げられた。
ベテランパイロットが操縦する三機でかかってこれだから、一対一では勝負にならないのは当然だ。
模擬格闘戦が終わって、次はライチの前の座席に載せられた。
俺の背後には何となくのんびりとした雰囲気の崎山さんが座っているんだが、その指導により離陸を始めた。
何というかエンジンのフケが良い。
九六では低速中にも感じられるノッキングが全く感じられないんだが、余程エンジンがいいのか?
一応事前に配られた仕様書では、エンジンは過給機付きの1800馬力星形エンジンとされてている。
九六の中島製「寿二型改一 空冷星型9気筒」の460馬力に比べると三倍以上の馬力だもんな。
敵わねぇはずだよ。
離陸を始めて気づいたのは離陸距離が少し長めになることかな。
二人も載ってるし、重量も九六の二割増し程になる。
そうは言いながらこいつに武装は無い。
だから軽いんだが、それでも離陸距離は80mほどになる。
まぁ、海軍の飛行基地なら最低でも300mの滑走路はあるから大丈夫な筈だ。
九六と異なり、ライチは着陸脚が収納できる仕様になっている。
今までは固定脚だったから関係が無かったが、収容を忘れてると性能が落ちる原因になる。
背後の崎山さんがそう教えてくれた。
今後配分される新鋭機体は、基本的に着陸脚は全て収納できるタイプになるそうだ。
「ライチ」もそうだが、基地用戦闘機の「蒼電」も、これから配分予定の艦戦である艦戦試作機も同じ仕様だそうだ。
四菱と吉崎航空機製作所では、操縦席の仕様が当然に異なるが、着陸脚の収納用スイッチを必ず確認し、その出し入れをパイロットランプで確認しろと言われたよ。
まぁな、これまでの九六のつもりでそのまま着陸したら下手すると胴体着陸になっちまうかもしれん。
離陸してすぐに気付いたのは操縦桿に伝わる感覚が凄く鋭敏だということだ。
これまでどんな機体にも感じた事の無い感覚だから表現に困るんだが、風に抗する機体、風に流され震える機体、次第にスロットルを上げて速度を上げる際の風切りと機体振動が手に取るようにわかるんだ。
そうして旋回する際の機体の動きが物凄くスムーズだ。
九六では高速機動では操縦桿が物凄く重くなる感じがするんだが、それが全くない。
こいつは俺の思い通りに動いてくれる。
そう思わせるに十分だったが、生憎と実際には自由に動かせるほど俺の技量が追い付いていなかった。
背後の崎山さんから散々っぱらダメ出しを食らったぜ。
予科練の訓練生時代を思い出してしまったぐらいだ。
幸いに背後から精神棒で頭を物理的に叩かれないだけましだったが、毛の生えている筈の俺の心臓が言葉でザクザク突き刺されたぜ。
特に空戦機動時の方向舵の使い方を何度も指摘された。
回頭時のタイミングを誤ると狙う進路への復帰が遅くなるんだそうだ。
言われてみて気づいたが、高速機では回頭しすぎて進路が逸れてしまうような変な癖がついていた。
多分この辺が九六と新型高速機との違いなんだろうな。
崎山さんは続けて言ったもんだ。
これが九九式基地用戦闘機の「蒼電」になると更に100キロほども高速になるから、このままだと、狙ったコースに乗れないぞと言われてしまったよ。
戦闘機は空中機動ができてナンボのところがあるからな。
自分の手足のように動かせないと確かにまずいよな。
凄く動かしやすいんだが、精緻に使おうとすればかなりの熟練が必要な機体なんだと分かったぜ。
こいつは確かに九六で満足していたんじゃ絶対に歯が立たない。
三日目には、崎山さんがライチに乗り、俺たちがかわるがわる蒼電に乗って訓練を行った。
確かに蒼電は凄い機体だと感じたよ。
こいつを乗りこなすには相当訓練を重ねなきゃならん。
無線で、散々ぱら、崎山さんのダメ出しを食らったな。
崎山さんは、教員格の俺達五人を扱きまくって、迎えに来た小型輸送機で金谷に戻って行った。
崎山さんが帰った後で川本一等整備兵に改めて教えられたが、蒼電の性能は流石に凄まじいものだった。
最高速度が422ノット、25番を二発搭載して1700海里を飛べるってのは、もう戦闘機じゃなくって爆撃機じゃないのかよ。
しかも、積んでいる新型機銃の性能がとんでもない代物だ。
川本さんが実際に金谷の工場で見て来たそうだが、新型12.7ミリ機銃で35ミリの鋼板をぶち抜けるんだそうだ。
陸さんの最新型戦車が多分撃ち抜けるってことじゃないのかな。
しかもマ弾だと言うんだから驚きだよ。
マ弾は炸薬が入っていて当たればかなりの被害を及ぼすらしいんだが扱いが難しくって実用化は困難とされていた奴だ。
川本さんの話では空気信管を使った新機軸のマ弾を使っているらしく、12.7ミリ、7.7ミリ機銃共に相当な破壊力があるらしい。
現状で、蒼電以外の既存の航空機なら7.7ミリ機銃だけで撃ち落とせるらしい。
そりゃあそうだよな。
12.7ミリなら戦車も撃ち抜けるぐらいなんだから。
もう一つの驚きは、蒼電の防弾性能と気密仕様だ。
蒼電は超高空での戦闘も可能なように気密のコックピットとなっており、特段の装備なしで1万2千mの高空に上がって戦闘が可能らしい。
エンジンに使われている過給機から空気を取ってコックピット内でもある程度の酸素が確保できるんだ。
高く上がれば上がるほど気圧が下って、気温が下がるというのは常識だが、1万mも上がれば夏場でもマイナス30度以下になるはずだが、エンジンからの給電でコックピット内は20度前後に温められる。
流石に冷房までは付いていないらしいが、低空では普通に外気からの送風は可能なんだ。
防弾性能はと言えば、機体は特殊な素材でジュラルミンの12倍もの強度がある素材なんだそうだ。
機体は厚さが5ミリ厚の新素材でできているが、こいつの頑丈さは90ミリ厚の鋼板と同じなんだそうだ。
ついでにコックピットの風防は、全面球形ガラスのような素材で九六のような枠が無いから、全方位の見晴らしが物凄く良いものなんだが、こいつがとんでもない防弾ガラスらしい。
厚さがわずかに7ミリなのに、60ミリ厚さの鋼板に匹敵するっていうから、戦艦までは行かなくっても軽巡クラスの防弾仕様に匹敵すると思うぜ。
こいつも川本さんが金谷の工場で実際に見たらしいが、37ミリの対戦車砲を50mの至近距離でぶっぱなして、防弾ガラスにはひびも入らなかったらしい。
つまりは俺らが乗るだろうこの蒼電は、少々の弾を食らっても無事に戻って来られる代物だということらしいぜ。
この蒼電が落ちるとしたら余程の不運で10センチ高角砲をまともに食らうか、整備不良か、さもなくば、パイロットの腕が悪い所為だと、川本さんは吉崎航空で言われたそうだぜ。
まぁな、パイロットの腕が悪けりゃ山にぶつかったり、墜落したりする可能性もあるだろうからな。
但し、こいつが頑丈なら墜落してパイロットは死ぬけれど、機体は大丈夫ってこともありうるかもしれんということだ。
しかしながら、そいつだけはあってほしくねぇな。
海軍の最高機密が敵性国に渡るのだけは勘弁だ。
後、今のところは航空本部のお偉方も知らない極秘情報があった。
蒼電にはある種の方位探知機が付いていて、基地になる場所に母機を置いておくと、基地の方角がわかる仕組みがあるらしい。
こいつは残念ながら霞ケ浦に母機となる装置を導入しないと作動しないらしい。
まぁ、そんなのがあると便利だよな。
もう一つビックリなのはこいつにはレーダーが搭載されているらしい。
但し、搭載してあるだけで現状では作動しない。
レーダーっていうのはつまり、こっちから策敵の電波を発射して、遠くの敵機を早く見つけるための道具なんだ。
操縦席にある用途不明のガラス面がそれに使うものらしい。
現状で使えないのは海軍空技廠でテストしていて、その有効性を検証中だかららしい。
戦闘機から電波を発信すること自体がこちらの動きをばらす羽目になる恐れもあるらしく、使いどころが難しいようだ。
但し、夜間には間違いなく有利になる装置らしい。
距離と方位がわかればおよその位置はつかめるわな。
霧の中、雲の中でも使えそうだ。
俺の仕事は霞ケ浦に集まる飛行訓練生の指導に当たることだ。
これまで主流だった九六式艦上戦闘機に代わって、噂でしかなかった十二試艦戦につながる新鋭機がついに霞ケ浦に配分された。
但し、配分された新型機は千葉県君津郡金谷村にできたばかりの吉崎航空機製作所が製造した機体の2機だけであり、しかも艦上戦闘機ではない。
艦載機の配分も将来的に予定はあるらしいのだが、取り敢えず配分されたのは基地用戦闘機の「蒼電」が1機と高速練習機ラー1が1機だけだ。
練習機の正式呼称は「海軍九九式高速複座練習機」だが、長いので俺たちは「ライチ」と呼ぶことにしている。
艦上戦闘機については、四菱製のモノが飛行試験に入っているらしいし、吉崎航空機製作所の蒼電を艦上戦闘機用に性能を落とした劣化版が間もなく試験飛行に入ると航空本部に務める先輩から聞いている。
この調子では今年(昭和14年)の年末頃には配分されるかもしれないと聞いているが今のところは不明だ。
この二機を運んできたのは五十に近い爺さんだったのには驚いたぜ。
但し、いずれも操縦の腕はピカイチだった。
霞ケ浦に飛んできたのは、九九式基地用戦闘機「蒼電」と、九九式高速複座練習機(ライチ)、それに見たことのない輸送機だった。
その三機がきっちりと編隊飛行のままで霞ケ浦の滑走路に着陸したのには驚いたぜ。
輸送機にはウチから研修に行っていたベテラン整備兵の川本一等整備兵も乗っていた。
蒼電もライチもウチには全く新しい機体だから、ウチに残った整備兵では扱えないかも知れんのだ。
為に川本一等整備兵が半年近くも金谷に派遣されていたのだが、輸送機からは何やかやと整備工具が詰まった大きな箱が10箱ほども下ろされて、格納庫に運び込まれた。
取り敢えず、ライチを操縦して来た民間人(吉崎航空機製作所のパイロット)の崎山さんが四日ほど居残って、仮の教員を務めてくれるらしい。
訓練されるのは俺達教導隊の教官なんだが・・・。
海軍航空隊を舐めるなよ。
俺たちの実力を見せつけてやると意気込んでいたのだが、その自信はあえなく潰された。
九六艦戦は、いい機体だしこれまで最強だと思っていたんだが、翌日の練習機との格闘戦でいきなりその自信を潰された。
九六の最高速度は219ノットなんだが、ライチは練習機のくせに300ノットも出せるんだ。
速度差はおよそ80ノット(約150キロ)もある。
これでは如何に小回りが利く九六でも背後を取るのは不可能だ。
こっちが旋回している間にライチが一気に遠ざかってしまい、こっちが相手を見失うと背後につかれているという具合だ。
仮に空戦をやれば間違いなく九六はズタボロだ。
速度差がこれほど違うと全く勝負にもなりゃしない。
中国戦線では随分活躍した機体だし、昭和11年に出て来たばかりの新鋭機だというのに、僅かに三年でお払い箱になりそうだぜ。
ライチは空中機動も凄まじい。
旋回半径は当然大きいんだが速度が速いから大きく回っても九六の背後に出られるんだ。
当然のことながら九六で急降下してみてもライチを振り切れなかった。
三機の九六が束になって掛かっても一度たりとも相手を銃眼の前に置けなかった。
ほんの一瞬だけなら捕らえられたかもしれないが0.1秒も続けられないうちに射程圏外に逃げられた。
ベテランパイロットが操縦する三機でかかってこれだから、一対一では勝負にならないのは当然だ。
模擬格闘戦が終わって、次はライチの前の座席に載せられた。
俺の背後には何となくのんびりとした雰囲気の崎山さんが座っているんだが、その指導により離陸を始めた。
何というかエンジンのフケが良い。
九六では低速中にも感じられるノッキングが全く感じられないんだが、余程エンジンがいいのか?
一応事前に配られた仕様書では、エンジンは過給機付きの1800馬力星形エンジンとされてている。
九六の中島製「寿二型改一 空冷星型9気筒」の460馬力に比べると三倍以上の馬力だもんな。
敵わねぇはずだよ。
離陸を始めて気づいたのは離陸距離が少し長めになることかな。
二人も載ってるし、重量も九六の二割増し程になる。
そうは言いながらこいつに武装は無い。
だから軽いんだが、それでも離陸距離は80mほどになる。
まぁ、海軍の飛行基地なら最低でも300mの滑走路はあるから大丈夫な筈だ。
九六と異なり、ライチは着陸脚が収納できる仕様になっている。
今までは固定脚だったから関係が無かったが、収容を忘れてると性能が落ちる原因になる。
背後の崎山さんがそう教えてくれた。
今後配分される新鋭機体は、基本的に着陸脚は全て収納できるタイプになるそうだ。
「ライチ」もそうだが、基地用戦闘機の「蒼電」も、これから配分予定の艦戦である艦戦試作機も同じ仕様だそうだ。
四菱と吉崎航空機製作所では、操縦席の仕様が当然に異なるが、着陸脚の収納用スイッチを必ず確認し、その出し入れをパイロットランプで確認しろと言われたよ。
まぁな、これまでの九六のつもりでそのまま着陸したら下手すると胴体着陸になっちまうかもしれん。
離陸してすぐに気付いたのは操縦桿に伝わる感覚が凄く鋭敏だということだ。
これまでどんな機体にも感じた事の無い感覚だから表現に困るんだが、風に抗する機体、風に流され震える機体、次第にスロットルを上げて速度を上げる際の風切りと機体振動が手に取るようにわかるんだ。
そうして旋回する際の機体の動きが物凄くスムーズだ。
九六では高速機動では操縦桿が物凄く重くなる感じがするんだが、それが全くない。
こいつは俺の思い通りに動いてくれる。
そう思わせるに十分だったが、生憎と実際には自由に動かせるほど俺の技量が追い付いていなかった。
背後の崎山さんから散々っぱらダメ出しを食らったぜ。
予科練の訓練生時代を思い出してしまったぐらいだ。
幸いに背後から精神棒で頭を物理的に叩かれないだけましだったが、毛の生えている筈の俺の心臓が言葉でザクザク突き刺されたぜ。
特に空戦機動時の方向舵の使い方を何度も指摘された。
回頭時のタイミングを誤ると狙う進路への復帰が遅くなるんだそうだ。
言われてみて気づいたが、高速機では回頭しすぎて進路が逸れてしまうような変な癖がついていた。
多分この辺が九六と新型高速機との違いなんだろうな。
崎山さんは続けて言ったもんだ。
これが九九式基地用戦闘機の「蒼電」になると更に100キロほども高速になるから、このままだと、狙ったコースに乗れないぞと言われてしまったよ。
戦闘機は空中機動ができてナンボのところがあるからな。
自分の手足のように動かせないと確かにまずいよな。
凄く動かしやすいんだが、精緻に使おうとすればかなりの熟練が必要な機体なんだと分かったぜ。
こいつは確かに九六で満足していたんじゃ絶対に歯が立たない。
三日目には、崎山さんがライチに乗り、俺たちがかわるがわる蒼電に乗って訓練を行った。
確かに蒼電は凄い機体だと感じたよ。
こいつを乗りこなすには相当訓練を重ねなきゃならん。
無線で、散々ぱら、崎山さんのダメ出しを食らったな。
崎山さんは、教員格の俺達五人を扱きまくって、迎えに来た小型輸送機で金谷に戻って行った。
崎山さんが帰った後で川本一等整備兵に改めて教えられたが、蒼電の性能は流石に凄まじいものだった。
最高速度が422ノット、25番を二発搭載して1700海里を飛べるってのは、もう戦闘機じゃなくって爆撃機じゃないのかよ。
しかも、積んでいる新型機銃の性能がとんでもない代物だ。
川本さんが実際に金谷の工場で見て来たそうだが、新型12.7ミリ機銃で35ミリの鋼板をぶち抜けるんだそうだ。
陸さんの最新型戦車が多分撃ち抜けるってことじゃないのかな。
しかもマ弾だと言うんだから驚きだよ。
マ弾は炸薬が入っていて当たればかなりの被害を及ぼすらしいんだが扱いが難しくって実用化は困難とされていた奴だ。
川本さんの話では空気信管を使った新機軸のマ弾を使っているらしく、12.7ミリ、7.7ミリ機銃共に相当な破壊力があるらしい。
現状で、蒼電以外の既存の航空機なら7.7ミリ機銃だけで撃ち落とせるらしい。
そりゃあそうだよな。
12.7ミリなら戦車も撃ち抜けるぐらいなんだから。
もう一つの驚きは、蒼電の防弾性能と気密仕様だ。
蒼電は超高空での戦闘も可能なように気密のコックピットとなっており、特段の装備なしで1万2千mの高空に上がって戦闘が可能らしい。
エンジンに使われている過給機から空気を取ってコックピット内でもある程度の酸素が確保できるんだ。
高く上がれば上がるほど気圧が下って、気温が下がるというのは常識だが、1万mも上がれば夏場でもマイナス30度以下になるはずだが、エンジンからの給電でコックピット内は20度前後に温められる。
流石に冷房までは付いていないらしいが、低空では普通に外気からの送風は可能なんだ。
防弾性能はと言えば、機体は特殊な素材でジュラルミンの12倍もの強度がある素材なんだそうだ。
機体は厚さが5ミリ厚の新素材でできているが、こいつの頑丈さは90ミリ厚の鋼板と同じなんだそうだ。
ついでにコックピットの風防は、全面球形ガラスのような素材で九六のような枠が無いから、全方位の見晴らしが物凄く良いものなんだが、こいつがとんでもない防弾ガラスらしい。
厚さがわずかに7ミリなのに、60ミリ厚さの鋼板に匹敵するっていうから、戦艦までは行かなくっても軽巡クラスの防弾仕様に匹敵すると思うぜ。
こいつも川本さんが金谷の工場で実際に見たらしいが、37ミリの対戦車砲を50mの至近距離でぶっぱなして、防弾ガラスにはひびも入らなかったらしい。
つまりは俺らが乗るだろうこの蒼電は、少々の弾を食らっても無事に戻って来られる代物だということらしいぜ。
この蒼電が落ちるとしたら余程の不運で10センチ高角砲をまともに食らうか、整備不良か、さもなくば、パイロットの腕が悪い所為だと、川本さんは吉崎航空で言われたそうだぜ。
まぁな、パイロットの腕が悪けりゃ山にぶつかったり、墜落したりする可能性もあるだろうからな。
但し、こいつが頑丈なら墜落してパイロットは死ぬけれど、機体は大丈夫ってこともありうるかもしれんということだ。
しかしながら、そいつだけはあってほしくねぇな。
海軍の最高機密が敵性国に渡るのだけは勘弁だ。
後、今のところは航空本部のお偉方も知らない極秘情報があった。
蒼電にはある種の方位探知機が付いていて、基地になる場所に母機を置いておくと、基地の方角がわかる仕組みがあるらしい。
こいつは残念ながら霞ケ浦に母機となる装置を導入しないと作動しないらしい。
まぁ、そんなのがあると便利だよな。
もう一つビックリなのはこいつにはレーダーが搭載されているらしい。
但し、搭載してあるだけで現状では作動しない。
レーダーっていうのはつまり、こっちから策敵の電波を発射して、遠くの敵機を早く見つけるための道具なんだ。
操縦席にある用途不明のガラス面がそれに使うものらしい。
現状で使えないのは海軍空技廠でテストしていて、その有効性を検証中だかららしい。
戦闘機から電波を発信すること自体がこちらの動きをばらす羽目になる恐れもあるらしく、使いどころが難しいようだ。
但し、夜間には間違いなく有利になる装置らしい。
距離と方位がわかればおよその位置はつかめるわな。
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