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第二章 覚醒・死者と生者の想い

2-5 航空機の試作

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ー 吉崎視点 ー
 航空機の製造が結構面倒なものであることは重々承知しているが、工作精度と材料の吟味だけで10年や20年程度先行した機体を作り上げることは十分に可能だった。
 材料工学の研究家というものは、なけなしの研究費でやりくりするために自前で道具などを作り上げていたりもすることから機械工学にもかなり詳しく、依田の記憶は先進のノウハウを色々持っているのである。

 吉崎航空機製造所で最初に作り上げたのは旋盤やフライス盤等の工作機械であった。
 機械を作るにしても、その部品の加工の精密度で出来上がりが全く違う。

 当節、ドイツ製の旋盤などが最も優秀とされているのだが、私が作り上げた工作機械は50年後でも通用するハイテク機械である。
 内燃機関の燃焼室を作るにしても、百分の一ミリ或いは千分の一ミリの誤差を容認するか否かで出力性能が段違いになるのである。

 また、JIS(日本工業規格)などの標準値が決まっていないために現状の国内製品にばらつきがあることも重々承知しており、他所よそから部品を調達するのではなく、自前で全てを作り上げることを念頭に、精度を上げて規格を統一することから始めなければならない。
 本来は他社も同じ規格を使うべきだが、それは実績を上げてから徐々に浸透させるようにしても構わないだろう。

 我が社の中で規格を作って精密機械を作り上げ、その結果を見せつけることで、いずれ他社も追随してくるはずである。
 まぁ、内務省や商工省辺りへの働き掛けもいずれしなければならないんだが・・・。

 吉崎航空機製作所の従業員は、私があちらこちらと走り回って集めた所為で、1936年(昭和11年)年末までに、100名を超えたが、現状は訓練・研修と技量向上のための試験的生産体制をとっているだけだから製作所としての事業収益は無い。
 例えば試験生産を行っている双発旅客機などは市場に出せばすぐにでも売れるのはわかっているが、今のところは戦略上の理由から市場に出さず、秘匿しているのだ。

 1938年(昭和13年)3月の段階では、従業員が300名を超え、吉崎航空機製作所で試験的に作り上げた航空機は、全部で六部門、十六機種に及んでいる。

<練習機>
 単発練習用航空機  ラー1
 双発練習用航空機  ラー2

<戦闘機>
 艦上戦闘機 ルー101
 局地戦闘機 ルー102

<攻撃機・爆撃機>
 攻撃機 リー201
 双発軽爆撃機 ハー401
 双発重爆撃機 ハー402

<VTOL機又はSTOL機>
 輸送ヘリ ユー301
 民生用輸送ヘリ Y―311
 攻撃ヘリ コー302
 STOL双発型輸送機 ユー302
 STOL双発型民生輸送機 Y―312

<輸送機>
 双発型軍用輸送機 ユー303
 双発型民生輸送機 Y―313

<偵察機>
 偵察機 テー01
 無人偵察機 テー02

 地下工場から地上の滑走路へ航空機を移動させるには、数基の貨物エレベーターを使うようにしているが、そのうちの最大のものは、奥行き74m、長さ87mの床が油圧により上下に動くタイプで超大型爆撃機でも載せられるようにしている。
 その出入口は掩体壕ハンガーになっていて、外表面は表土と草木で覆い隠しているから、外部からはその場所が簡単に見えないようになっている。

 いずれにしろ、工場から地表へとつながる貨物エレベーターを使う際は、緊急事態以外は夜間と決めている。
 因みに、幻の超重爆「富嶽」で全長46 m、全幅63 m、全高8.8 m程度、後に生まれるソ連の高速爆撃機TU-95で、全長49.5m、全幅:51.3m、全高12.1m程度、更に、米国が産んだB52では全長47.6m、全幅56.4m、全高12.4m程度なので、このエレベーターがあればいずれの大型爆撃機でも地表までの移動が余裕で可能だ。

 実際に工場が大量生産に向けてフル稼働し始めたなら、地表には多数の掩体壕ハンガーや格納庫を造らねばならないと思っているが、今は目立つので手控えている状況である。
 取り敢えず、海軍(若しくは陸軍)への売り込みが成功するまでは忍の一字である。

 私の航空機製作所設立の目的から言うと、どうしても軍用機主体にならざるを得ないのだが、一応民間機用の生産もできるようにはしている。
 但し、軍用に比べると民間機の場合は、工作精度も使用素材も数段劣るものを使用することにしている。

 例えば、双発型民生輸送機「Y―313」は、軍用の「ユー304」とは異なって、防弾仕様にはしておらず、また、1400馬力のエンジンには過給機をつけていないのだけれど、その分、内装には手間をかけている。
 この機体は、300mの長さの滑走路があれば離発着が可能であり、乗客20名を載せて、毎時500キロ程度の速度で、最大2000海里(3700キロ)の距離を飛行できるから、台湾や北マリアナ諸島などの外地へも悠々飛べるはずだ。

 この輸送機なら燃料補給なしに東京~ハルビン間を6時間強で往復できるだろう。
 しかしながら、この機体については、我が社の知名度が上がってから売り込みを掛ける予定であり、当座は秘匿しておくつもりなのだ。

 今の時点でこの機を民間に売り出せば、すぐにも欧米列強の手によって調査・分析され、1年後には同等に近い航空機を欧米列強が生み出してくる恐れもある。
 従って、民間に普及させるのはできるだけ後が望ましく、同時に技術レベルをかなり下げたもので生産することにしているのだ。

 このために民生用の双発型民生輸送機「Y―313」は甲型、乙型、丙型の三種類がある。
 甲型はお召機や政府専用機などに使用するための特別仕様で防弾設備も相応に施してある。

 乙型は国内内地向けに販売する型であり、外国への転売を禁止することにしている。
 丙型は外国向けにも販売予定のものであり、乙型よりも更に加工精度や飛行性能を落としている代物である。

 同様に、しばらくは表に出さないモノとして、VTOL機又はSTOL機のほか無人偵察機「テー02」がある。
 局地戦闘機「ルー102」については、基本的に本土や基地の迎撃専用機であり、今のところは出番が無いと思っているし、ルー101の性能が高いので或いはジェット戦闘機が出てくるまで出番が全く無いかもしれない。

 ルー102は一応要撃機として造り上げた代物で、最高速力は800キロを超える筈だし、1万5千mまでの上昇能力を有することになっている。
 六銃身の新型20ミリバルカン砲を搭載しているが、メインの兵装は空対空ミサイルを考えている。

 今のところは、機体のみでミサイルは製造していないが、既に地下二階の製造ラインは確保しているので、必要であれば48時間で、日産20機程度の生産量を確保できるようになるだろう。
 因みにルー102のミサイル搭載数は6基を予定しているが、いずれにしろ試験飛行すらも行っていない代物ではある。

 攻撃機及び爆撃機についても要請が無い限りは、表に出さないつもりでいる。
 陸軍において爆撃機が必要な場合でも、当面はルー101(若しくは改)の爆装だけで十分対応できるはずである。

 海軍において雷撃機の必要性が生じた際には、より重量物が搭載できる複座攻撃機の出番となるだろう。
 但し、現状の海軍が保有する空母の中で、軽空母に類する鳳翔や龍驤などでは、うちで造る攻撃機の運用が非常に難しくなるだろう。

 少なくとも改装後の赤城及び加賀クラス以上の飛行甲板を有しなければウチが制作する新型攻撃機の搭載は無理だろうと思っている。
 現状で海軍が計画している新型の正規空母(翔鶴、瑞鶴)は飛行甲板が長くなりそうなので、攻撃機の運用は新型空母ならばなんとかできるだろうと考えているところだ。
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