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第二章 覚醒・死者と生者の想い

2ー3 航空機を造るための準備 その一

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ー 吉崎視点 ー
 1936年(昭和11年)の年末までに一応の準備作業を終えたが、実のところ、社員にさせる仕事が今のところ無い。
 雇っている以上、遊ばせておくわけには行かないから、キラセの寮の近くに研修所兼工房を造り、皆を集めてお勉強だな。

 魔道具を併用しつつ、航空機に関する知識をこれでもかというほど詰め込んでやった。
 依田の専門は材料工学なんだが、彼の性格として余計な分野にも首を突っ込むのが玉にきずで、航空機についてもその材料から入り込んで、航空力学を含め、どこやらの重工の航空部門からお誘いが来るほどの博学振りだったから、社員の先生になるのに左程の問題は無かったと言える。

 その上で工程別に動かす機器類の仕組みや操作方法なども並行して教え込む。
 一か月程度の詰め込み授業なんだが、教え方が上手いのか、皆が優秀なのか、全員がちゃんと予定のコースを修了できた。

 多分、錬金術師なら大方の者が使える付与魔法の知識習得強化、技量習得強化の魔法陣を刻印した魔道具が間違いなく効いたんだろうと思う。

 ◇◇◇◇

 そうして1937年(昭和12年)の年明けには一気に、用地の整地作業に入り、キラセから小鋸山このこぎりやま西部に至る長さが約5キロ、幅が約500mの平地を出現させた。
 間にあった小山、丘陵、谷、小川などは全て均しているが、渓流や小川などは地下隧道を作って湖沼などの水溜まりができないようにしている。

 平地の高さは海抜約80mにしており、いずれも付与魔法の固化を使って表面と基礎部分を強化しているから、よほどのことが無い限り土地が崩壊したりはしない。
 同時並行でこの平地の地下に工場を造り、地表には工場の管理事務所を作った。

 それらが終わってから滑走路の整備である。
 幅が150m、長さが4千mの滑走路を二本、100mの間隔をあけて作り上げた。

 滑走路面はコンクリートで舗装し、夜間の離発着も可能なように照明装置も路面に組み込んである。
 この滑走路は360トンの重量機体の離着陸にも耐えられるようにできているが、現状は表面に人工芝を並べてあるために、幅が50m長さが500mの滑走路二本が伸びているだけのとっても広い野っ原の飛行場だな。

 敷地の周囲は動物が入り込まないように金属製の柵を設けてあり、弱い電流を流しているから、小動物を含めて敷地内に入り込むことはほとんどない。
 但し、飛行生物は柵では阻止できないので、鳥が嫌がる周波数の音波と蚊を含む害虫の嫌がる超音波を組み合わせて、柵に一定間隔で取り付けてバリアーにしている。

 これまでは、広大な敷地の片隅に、二棟の寮、それに教育訓練用の研修所兼作業工房だけしか無かったわけだが、地下工場と事務所が設営されたことで従業員たちの働く場所をようやく確保できたことになる。
 例によって、工場建設と滑走路の建設を含め、一切合切が私の錬金術によるものだ。

 従って、地域の業者には、全くメリットが無かったことになるな。
 こんなところでも「官許の事業らしき雰囲気」は役に立つ。

 村役場の人間等が多少不審に思っても、内務省、商工省、陸軍省、海軍省の許可・認可を盾にするとそんなものなんだろうと無駄な詮索も入らないのだ。
 取り敢えずは、工場で生産活動が始められるので、簡単なレシプロ機の製作から始めてみよう。

 従業員を、設計部12名、機関部24名、機体部24名、制御部12名、通信部10名、事務部12名、守衛8名、その他舎監等6名に仕分けした。
 金谷工場で108名、東京事務所で7名、それに私を入れて合計116名でのスタートだ。

 優秀な航空機を多数造るには従業員の数が全然足りないので、暇な時を見つけると私は東京及びその周辺で人材集めに走り回っている。
 別に東京だけに限定せずに全国から集めるつもりでおり、予定人員は、少なくとも600名以上、できれば千名以上は確保したいと考えている。

 その為には、一月に一度は山梨の金鉱山に赴いて偽装工作をしながら純金のインゴットを売り払って来る必要があった。
 主として航空機製作所の維持経費捻出のためだ。

 取り敢えず、一回の納品量は、1㎏の純金インゴットが、100枚と決めている。
 代価は多少の変動はあるものの、1グラム当たり2円前後だ。

 従って、毎回20万円前後の現金が手に入ることになる。
 この時期の賃金相場は、月に40円から80円の間ぐらいである。

 平均60円として100名で6千円、千名で6万円になるか?
 他にもなんだかんだと事務経費やら維持費がかかるけれど、月に20万円の収入があれば、鉱山収入に伴う税金を払いつつ、自己資産の取り崩しで航空機製作所の運営は取り敢えず赤字経営ではあるけれど、当座は大丈夫のはずだ。

 因みに水道は地下水を汲み上げて、ろ過(外見上はろ過器だが、魔法陣を組み込んだ魔道具であり、殺菌、異物除去をした浄水に若干の鉱泉水を混入)して使っているし、電気は自家発電(燃料も有機化合物から錬成した自作品だよ。)で、寮にも供給している。
 煮炊き用には天然ガスを利用している。

 このガスは南関東ガス田のはずれになるだろう事業地の地下で見つけたものだ。
 南関東ガス田の東京湾沿いの南限は概ね木更津の中島地区辺りになるが、浜金谷が含まれる南房総地区で全く無いかというとそうでもない。

 浜金谷が含まれる地区は三浦層群と呼ばれる地層であり、ここには天然ガスの含まれるかん水層が無いとされている。
 但し、全くないわけではなくって、ガスの発生量が非常に少ないので利用しにくいと言うだけなのだ。

 ここで、私の魔道具の出番なのだ。
 深く硬い岩盤の中に埋もれた分散するかん水層を見つけ出し、これを統合することでガス田に変えたのだ。

 勿論、茂原や東金などの上総層群のガス田には及びもつかないけれど、千戸程度の住民を賄う量は確保できている。
 未使用の余分なガスは液化して地下大深度のタンクに保管しているところだから、将来的にはそこからの補給も当てにできるだろう。

 この時期、ガス田の存在は知られていたし、利用も相応に始まっていたが、事業規制以外の個人的な利用についての規制はまだ始まっていない。
 安全面に配慮している限りはガスの利用に特段の問題は無いということだ。

 まぁ、いずれは地域の行政に絡めとられ、何らかの規制を受けることになるだろうけれど、その場合は魔道具を停止させてガスの発生を止めても差し支えないと考えている。
 インフラさえ整っていれば、いずれ東京ガスなり地元のガス会社がガスの配給を始めるだろうと思っているからだ。

 社会インフラが整うまでの応急的措置と最初から考えている。
 千葉県は昔からメタンガスが地中から出ている場所が結構あるんだ。

 従って、多少その地域から外れるけれど、キラセやその周辺でガスが少々出たところで誰も不思議には思わない。
 本当は錬金術に属する付与魔法で散在するガスを集めて利用しているわけなんだが、わざわざそれを正直に言う必要はないだろう。

 そんなわけで熱源があるから宿舎は風呂付だぞ。
 この時代、風呂がついている家はものすごく希少なんだ。

 東京にある私の借家にも実は風呂が無いから最寄りの銭湯に良く通っている。
 風呂を沸かすには当然に燃料が必要だ。

 ガスや油は高いし、石炭は街中ではなかなか使いにくい上に煤煙や燃え殻の処理が面倒だ、
 そうして薪を燃料とするにはそれなりの置き場が必要だ。

 従って、東京のような街中では銭湯が流行っている。
 まぁ、私の場合、亜空間の中に風呂場を作ってそこに入ることもできるんだが、銭湯や温泉のゆったりとした空間で風呂に入る気分は別格だ。

 従って、毎日では無いものの近所の銭湯には結構なお得意さんになっているわけだ。
 そんな私の日常生活は別として、ガスレンジや水道を備えている寮はものすごく便利だぞ。

 東京でも滅多にない高級住宅になるだろうと思うよ。
 当然のことだがトイレも水洗にしている。

 宿舎の敷地の一角に浄化槽を設けてきちんと魔法陣による下水処理もしているんだ。
 この一帯に付属する建物は、みたいなものだから住環境を整えてやるのが雇用主の務めと思っている。

 電気についてもこの時代は電力不足であり、東京電力に頼っていても中々安心できないので最初から自家発電による給電だ。
 他所よその事情によって工場設備が停められては、安心して生産活動なんぞできないからね。

 発電機は、地下水を使った水素反応路によるタービン方式を使っている。
 水素反応路というのは、依田隆弘が生前に何となく温めていたアイデアであり、水の中の遊離水素と酸素を反応させて水とエネルギーを得る方法である。

 反応によって生まれるのはまっさらな水だけであるから、公害になりそうなものは排出される温水ぐらいかな?
 まぁ、無茶な反応をさせると爆発する恐れもあるけれど、そこは錬金術の付与魔術により魔法陣でしっかりとコントロールできている。

 局所反応で生まれるエネルギーは大量の水を蒸気に変えるほどではないが、広範囲で反応が進むと外部に熱エネルギーを取り出せるようになる。
 当該熱エネルギーを使って特殊な媒体を蒸気化させ、その運動エネルギーをタービンで受け止め、回転エネルギーに変えてやるだけのシステムである。

 概ね毎分1トンの水量を流しながら反応を促進させると、毎時3000kWh程度の電力は得られる。
 1日に7.2万kWh、月に216万kWhの発電能力があれば工場と寮や宿舎の電力は十分に賄える。

 一般家庭の電気使用量は、家電製品の多い21世紀でも年間2000kWh~4000kWhと言われていた。
 工場はその大きさや仕様によっても異なるが、ウチの場合はその400倍~500倍ほどか?

 従って年間では200万kWh程度になるのかな?
 尤も、この方法は21世紀でも実現は難しいのだろうな。

 水の中の反応促進と、分散した熱エネルギーの凝集方法、更に低温で蒸気となる全く新たな熱媒体の製造は、錬金術師の能力と魔道具が無ければ不可能なはずだ。
 一方で、タービンは、21世紀でも通用する技術で製造された特殊合金製で耐久性が非常に高い代物だ。

 メンテナンスが水の管理だけで済むのが、非常に良い。
 逆にメカニカルな部分は余り手が入れられないようになっている。

 やるとすれば全面撤去の上で新たに造りなおした方が安いし、手間がかからない。
 一応その限度を、安全係数を見込んで20年と見ている。

 それまでには東京電力?千葉電力?も流石にインフラ整備も安定供給もできているだろうと思われるから、そちらからの給電に変えても良いだろうと思っている。

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