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第八章 対独参戦

8-2 ドイツの降伏

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 それらの輸送機と航空機は一気にスウェーデン上空を経て、バルト海三国に達すると、エストニア・ソ連の旧国境線付近に降り立った。
 途中いくつかのドイツ軍駐屯地からの発砲や迎撃戦闘機が行く手を阻んだが、地上砲火は何らダメージを与えず、迎撃戦闘機は高性能の護衛戦闘機に忽ち撃墜された。

 レシプロ戦闘機では到底捉えきれない速度と機動性に優れたジェット戦闘機は、紅部隊の「紅竜」戦闘機であった。
 着地した大型輸送機からは、大柄な兵士が多数降りてきた。

 遠めに見ると人型をしているが、近づくにつれどこか違う事に気付く。
 その兵士は大きいのである。

 身長が2m半ほどもある。
 それがバズーカ砲ほどもある機関銃を片手に高速で動き回っている。

 エストニアに駐留していたドイツ機甲師団の一部が応戦に当たったが、20分もしないうちに戦車30両が撃破されていた。
 動きの早いこの兵士に戦車の砲弾を当てることなどは至難の業であり、急速接近してきた兵士は素手で戦車を破壊し始めたのである。

 これには幾らなんでもドイツ軍は驚き、雪崩を打って退却を始めたのである。
 異形の兵士たちは降下地点に橋頭堡を築くと、南に向かって進軍を開始した。

 至る所敵なしの状態で進軍する新たな部隊はドイツ軍を恐慌に陥れた。
 それまでの常識が一切通用しない相手である。

 戦車を素手で壊し、トーチカを体当たりで破壊してゆく。
 ドイツ軍は精一杯の反撃を試みたが全ての攻撃が無駄に終わった。

 まるで鋼鉄の鎧に覆われているように全ての攻撃を跳ね返し、時速百キロ近い速度で動き回る不死身の兵士には対抗策が無かったのである。
 4日経った時には、エストニア、ラトビア、ベラルーシとソ連の国境がいずれも占拠されていた。

 一方でルーマニアの黒海沿岸地域でも同じ頃に異変が起きていた。
 ルーマニアの海岸に巨大な航空機が降り立ったのである。

 これらの航空機は巨大な機体とともに翼に向きを変えられるエンジン4基を搭載し、海岸付近に垂直に降り立ったのである。
 実は、この航空機は日本を飛び立ち、マレーシア、インドを経由してルーマニアまで達していたのである。

 この特殊な輸送機にも同様の兵士が搭乗しており、着地すると直ぐに、ソ連国境沿いにハンガリー、チェコスロバキアを北上してきていた。
 エストニアとルーマニアに降り立った部隊はそれぞれ1万人規模と判断されたが、当たるを幸い、ドイツ軍をなぎ倒して進軍する。

 この新たな敵の実態は不明であった。
 また、旧ポーランド領内にあるアウシュビッツ収容所等数箇所には、25日深夜、特殊ガス弾が投下され、収容所の職員が一瞬にして気を失ったところへ、大型輸送機が舞い降り、輸送機から降機した異形兵士12体で収容所全体を占拠、収容所を管理していたドイツ軍人を捕虜として収監した。

 同時に、所内にあった書類一切を押収するとともに、ユダヤ人達を解放した。
 収容所にいた全てのユダヤ人は、輸送機で一時的に英国本土のフジヤマ飛行場へ搬送された。

 ソ連に侵攻中のドイツ軍は、7月29日の時点でポーランドとウクライナのみがかろうじてその補給路を保っていたが、30日にはそれも異形兵士の侵攻により旧ポーランド・ソ連国境線で絶たれてしまったのである。
 こうした急激な情勢変化に勢いたったソ連は、直ちに反攻作戦に転じ始めたが、袋小路に入り込んだドイツ軍は手強く容易には撃破出来なかった。

 7月30日、フランスのカレー海岸に日本の機動艦隊が現れ、正確な砲撃で地上軍をほぼ壊滅状態にさせた後で、強襲揚陸艦40隻などが機甲師団20万人を上陸させた。
 上陸した機甲師団は強力で、ドイツの誇るパンツァー軍団を鎧袖一触で撃破した。

 敵の戦車には一切の被害を与えられず、味方の戦車ばかりが正確に撃破されてゆく。
 しかも、空母や強襲揚陸艦からは妙な形のジャイロも飛び出し、ロケット弾で機甲師団を次々に粉砕してゆく。

 ここでも全く対抗策の無いまま、ずるずるとドイツ軍は撤退を始めていた。
 しかも、空には千機からなる爆撃機と戦闘機が乱舞、ドイツ国内の軍事拠点が次々に破壊され、ベルリンから現地部隊との回線は全く不通になって、一切の指示も報告も途絶えていた。

 無線も強力な妨害電波により一切の交信ができなくなっていた。
 日本軍が上陸した数時間後に、全く抵抗の無くなったカレー海岸に米国の陸軍40万人が上陸、掃討戦を開始した。

 二日後には、ドイツとフランスの国境沿いから全てのドイツ軍が追い払われていた。
 一方で、強力な異形兵士の一群は、守りを固めてロシア国境から動かなくなった。

 カレーに上陸した総数20万人の日本軍部隊は全てが機甲師団であり、強力な防御力と攻撃力を有し、ドイツ軍の反撃は一切通じなかった。
 その間に、米英軍50万人はドイツ・フランス国境から南下、フランス各地の占領を開始していた。

 日本軍の要請により、可能な限りドイツ軍に対し、降伏勧告を行ってからの攻撃である。
 日本軍からは、攻撃ジャイロ300機が支援にあたり、要所、要所で頑強なドイツ軍の反撃を封じていた。

 イタリアに上陸した米軍20万人も独伊両国の制空権がほとんど無いことからさしたる抵抗を受けずに、ローマに迫っていた。
 8月3日、ドイツ・イタリア両国に対して無条件降伏の勧告がなされていた。

 北方に布陣する特異な部隊が動かないのを見て、残っていた全軍をフランス・ドイツ国境線に集めたドイツ軍であったが、強力な敵を前にして急速に戦意は失われつつあり、ドイツ軍陣営は混乱の極みにあった。
 8月4日に一旦フランス国境線で進軍を止めた日本軍は、翌5日にドイツ領域内に進軍を始めた。

 抵抗するもの全てをなぎ倒す機甲師団の群れは、その日の夕刻にベルリンまで10キロに迫っていた。
 ドイツ軍司令部では、落ち着きのない歩き方でヒトラーが喚いていたが、これまでのカリスマ性はすっかり影を潜めていた。

 既に砲声も間断なく聞こえる距離にあって、司令部の幹部は一様に沈んでいた。
 ドイツ北部に一時的に避難は可能であるが、それも無駄であろう。

 アルプス山中にヒトラーが建設した要塞もあるが、そこまでの道筋も既に危うくなっており、避難は難しかった。
ゲーリングが総統に向かって言った。

「総統閣下、これ以上の抵抗は無駄かと存じます。
 既に最前線部隊との連絡も絶たれ、一切の交信ができなくなっておりますことから、一旦、領内北部への司令部移動も可能ではありますが、残存勢力では日本軍への反撃は期待できません。
 彼我の戦力差は非常に大きく、一切の反撃に効果がないばかりではなく、反撃した部隊は全て熾烈な攻撃に晒され、生存も覚束ない状況と聞き及んでおります。
 この上は、連合軍に降伏する道しかございません。」

 それまで歩き回っていたヒトラーの動きが止まった。
 ゆっくりと振り返って、言った。

「わかった。
 無条件降伏の勧告を受け入れると伝えろ。
 わしは、地下室のエバのところに行く。」

 そういって肩を落としながら総統は会議室を出て行った。
 1時間後に地下にある総統の居室から数発の銃声が轟いた。

 驚いた衛士が部屋をノックしても応答がない。
 衛兵がドアを開けて室内を改めると、奥の寝室で裸のエバが心臓を打ち抜かれ、半裸のヒトラーが頭を打ち抜いて倒れていた。

 ヒトラーの右手にはワルサーP38軍用拳銃が握られていた。
 覚悟の上の心中自殺である。

 1942年(昭和17年)8月5日午後12時30分、白旗を掲げた将兵の一団が日本軍に向かって歩いていた。
 ドイツ軍が降伏した瞬間である。

 直ちにベルリンへの進駐が開始され、午後三時にはベルリン全ての地区で占拠が終了していた。
 いまだに散発的に銃声が響く中で、ゲーリング以下ナチスドイツ幹部が拘留された。

 午後4時に妨害電波が止められ、全ての無線交信が可能となった。
 ゲッペルス広報相がマイクの前に立って、ラジオ放送を始めたのは、午後5時半のことである。

 ドイツ領内はもとより、国外の最前線将兵に降伏を呼びかける放送であった。

「ヒトラー総統ご自身の意思により、ドイツ第三帝国はここに連合軍に対して無条件降伏の受諾を決定した。
 既にベルリンは陥落し、ヒトラー総統も司令部において自決された。
 国内外で未だ戦闘に従事しているドイツ軍将兵に告ぐ。
 直ちに戦闘を停止し、連合軍に降伏せよ。
 この放送は、敵の欺瞞放送ではない証に、私、広報相のゲッペルスが自らの肉声で放送しているものである。
 繰り返すが、既にドイツ第三帝国は降伏を受諾した。
 部隊及び将兵各位は直ちに戦闘を停止し、降伏せよ。
 無駄に死ぬより、新たなるドイツの再興のために生き残れ。」

 放送と同時に司令部内にあった無線で各地に点在する部隊に降伏の指示が打電された。
 電話回線の生きている場所には電話を通じて、降伏が伝えられたのである。

 ドイツの降伏と相前後するように、イタリアのムッソリーニ政権も市民の蜂起によって倒され、ムッソリーニは市民のリンチにより縛り首となっていた。 
 イタリアも連合軍に進んで降伏の意思を示したのである。

 その後一週間は、欧州各地で小規模な戦闘もあったが、独軍現地司令官の判断により概ねスムーズな降伏がなされた。
 こうしてドイツのポーランド侵攻から始まった欧州大戦は日本軍の本格的参戦からわずかに10日で決着を見たのである。
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