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第六章 日米の戦いと紅兵団の役割
6-8 日米講和会議 その三
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艦長は一行を引き連れ、艦長公室へ案内した。
艦長公室で、コーヒーを飲みながら暫しの談笑をしながら今後のスケジュールを艦長が確認した。
「海王はこの打ち合わせが終わったならば、航行を開始し、速度調整を行いながら航行し、オアフ島沖には17日夕刻に到着する予定である。
海王はどう足掻いてもホノルル港や真珠湾には入れないから、オアフ島ハレクラニホテルの沖合5海里で漂泊することになる。
そこから先は、搭載艇又は輸送ヘリで上陸する事になるが、相手国の領域内であることから、ホノルル港のポートサービスまたは真珠湾の海軍司令部と連絡を取った上で、米国の了解を得ることになる。
第一希望は、海王の艦載輸送ヘリでハレクラニホテル中庭への直接輸送であり、その場合必要ならば米側の指示された場所に降りることになる。
ヘリの輸送が許可されない場合は、搭載艇によりホノルル港へ入港し、代表団と報道関係者を降ろした上で搭載艇は海王へ戻る事になる。
河合サキ君ら三名の携帯電話番号を飛鳥総帥から知らされているので、彼女らからの連絡を待って迎えのヘリ又は搭載艇を出す事になる。
緊急事態の場合は、彼女らがその対処法を知っているから、全権大使他の方は彼女たちの指示に従っていただきたい。
彼女達はこう見えてもれっきとした軍人です。
男性に負けない力量を発揮するものと期待して宜しい。」
部外の男性、しかも海軍軍人幹部からこれほどまでの期待をかけられたことは無い。
サキは敢えて尋ねた。
「失礼ですが、我々紅兵団の内容は殆ど知られていないはずですが、艦長はどうして知っておられるのでしょうか。」
艦長は笑って答えた。
「実は、講和会議の話があってすぐに、海王は沼津の造船所に入って改修工事を行った。
さほど大きな工事ではない。
君たち女性を乗せるようにはできていなかったのでそのための改修だ。
悪いが、君たち三人の部屋は一続きの部屋だ。
個別に鍵も掛けられるが、出入り口は一つだけ。
出入り口にはインターホンが設置されているから、男どもが用事のある場合はインターホンで連絡をしてからの話になる。
万一に備えて、各部屋及び共有の部屋には非常ボタンが設置されている。
間違っても本番以外では押さないで欲しい。
艦内全部の男が集まる可能性があるからな。
但し、今現在は、各個室は鍵が掛けられているが共有の部屋の鍵が開いている。
君達の荷物を運び入れるためにな。
宏禎王殿下直々の指示で改装しているから、大概の設備は整っているはずだが、何か問題があれば主計長又は航海長に申し出て欲しい。
できる範囲で希望に添えるようにしたいと考えている。
君達の話を聞いたのは宏禎王殿下からだ。
極秘事項であると言いながら、海王の全乗組員を集めて、紅兵団の役割とその戦果をとうとうと演説していった。
それに加えて、君達に何かあったら俺が許さんと厳命して言った。
あれでは、箱入り娘についている頑固親父だ。
よほど度胸のある奴でなけりゃ、君らには近づかないと思う。
だが、君達はいいオヤジさんを持ったな。」
「そうですか・・・。
総帥が先に手を回されて・・・。
本当にありがたいことだと思っています。
ですから私達も総帥の命令には素直に従えるんです。」
脇から吉田茂全権大使が口を挟んだ。
「そういえば、わしも宏禎王殿下から君達の簡単な話だけは聞いておる。
君ら三人はいずれも英語をネイティブのように話せるということだったが、間違いないかね。」
「正直申し上げて、ネイティブスピーカーと話したことはございませんが、米軍関係の無線電話を傍受したときに特に支障を感じませんでしたし、彼らの発音でしたら十分に真似が出来ると思います。
一応、英語については20ほどの方言でも会話が可能だと思っています。
他の二人も同様です。」
「なるほど、他にも色々と外国語を知っていると聞いているが、ドイツ語とフランス語はどうかな。」
「はい、英語と同じで実践では試した事はありませんが、十分に会話は出来ると思います。」
「うむ、事前の情報では米側の全権大使は、エルンシュタインというドイツ系アメリカ人だ。
彼自身は二世で、ナチスドイツとは縁もゆかりも無い人物だが、出自の縁でドイツの歴史及び文学に詳しいと聞いている。
また、ハーバードを優秀な成績で卒業した男だから、欧米知識人の常として社交用のフランス語も相応に話せるようだ。
そういう意味で彼らにコーヒーブレイクで対等に話をするには、西欧史と西欧文学にもある程度精通していると非常に有利な交渉が出来る可能性がある。
君達はそのような勉強はしているのだろうか。」
「学者のように詳しいかどうかは別として、一応の知識はあると思っています。
帝大の院生程度の知識と思っていただければ宜しいかと存じます。」
「ほう、そいつは頼もしい。
ついでに聞くが、政治学の方はどうだね。」
「はい、政治学といっても、体系的なものはないと理解していますが・・・。
米国政治史、欧州政治事情、英国政治史、地政学、経済政策論、軍事政治論などの著書については原書を含めて40~50冊分の知識はあると思います。」
「ほうほう、それはそれは、・・・。
君達わしの弟子にならんかい。
それほどの知識がありながら、軍人などもったいない。」
「失礼ながら、大使。
大使を含めての3人以外、ここにいるのは全員軍人なのですがなぁ。」
「あ、いや。
これは失礼をした。
別に軍人を蔑む意味で言ったわけではないが、何せ、近頃の若い者は勉強嫌いが多くてなぁ。
これほどの人材がまだおったかと思うと、わしゃあ嬉しくてな。」
ひとしきりの話が終わるとそれぞれの部屋に下士官が案内した。
サキ達三人は一緒に案内された。
聖獣型潜水空母に比べると二回り、三回りほども狭い部屋ではあるが、一人で生活するには十分なスペースが確保されている。
各個室にバストイレが付いており、ロッカーも十分なスペースが確保されていた。
共用の部屋には四人掛けのソファとテーブルも置かれ、壁には花柄模様の壁紙やタイルなど非常に綺麗な作りとなっている。
もしかすると皇族のやんごとなき方々が来られても大丈夫なような改装をしたのかもしれない。
全権大使の部屋も似たような作りで、四つの部屋が連なり、次官と事務官が居間らしき部屋のドアを隔てた隣室である。
おそらくは天皇陛下、妃殿下のご家族などが海王に乗艦される場合を想定しての造りかもしれない。
総帥からは3日ほど前に伝送画像電話により3人揃っての多元中継で講和会議での対応方針についてレクチャを受けたばかりである。
全権大使もそれなりのレクチャを受けているはずであるが、必ずしも総帥の意向を十分に汲んでいるとは限らない。
サキたちはその目付け役であり、米側交渉団の懐柔役をも担っている。
だからあくまで身分は内務事務官兼外務事務官となっている。
もう一つ報道関係者を束ねる役目を負っている。
外国人報道関係者についてはサキと洋子が報道官を担当、日本人報道員の本国との連絡橋渡しには美保が担当する事になっている。
無論、全権大使は吉田茂であり、彼の意向は尊重しなければならない。
彼の意向が仮に本国の方針に逆らうものであれば、場合によっては身を挺しても止めねばならないと釘を刺されている。
方法手段はサキ達に任されていた。
事務次官の長崎一郎は中々の曲者でありそうだ。
総帥も長崎の力量はわからないという。
先ほどの会合でも黙ったまま会話を聞いていた。
事務官の本郷は、つい先ごろまで英国駐在大使館の一等書記官を勤め、それ以前の海外勤務がフランス大使館勤務をしていた男であり、欧州事情には詳しそうだが、北米一課の補佐官勤務が一年あるだけで米国は必ずしも専門分野ではなさそうである。
ハワイ到着前日の16日、それまで会食しても雑談ばかりしていた吉田茂が代表団全員に夕食後自分の部屋に集まるように指示した。
果たして、講和会議の作戦会議であった。
集まった皆に吉田茂がおもむろに言った。
艦長公室で、コーヒーを飲みながら暫しの談笑をしながら今後のスケジュールを艦長が確認した。
「海王はこの打ち合わせが終わったならば、航行を開始し、速度調整を行いながら航行し、オアフ島沖には17日夕刻に到着する予定である。
海王はどう足掻いてもホノルル港や真珠湾には入れないから、オアフ島ハレクラニホテルの沖合5海里で漂泊することになる。
そこから先は、搭載艇又は輸送ヘリで上陸する事になるが、相手国の領域内であることから、ホノルル港のポートサービスまたは真珠湾の海軍司令部と連絡を取った上で、米国の了解を得ることになる。
第一希望は、海王の艦載輸送ヘリでハレクラニホテル中庭への直接輸送であり、その場合必要ならば米側の指示された場所に降りることになる。
ヘリの輸送が許可されない場合は、搭載艇によりホノルル港へ入港し、代表団と報道関係者を降ろした上で搭載艇は海王へ戻る事になる。
河合サキ君ら三名の携帯電話番号を飛鳥総帥から知らされているので、彼女らからの連絡を待って迎えのヘリ又は搭載艇を出す事になる。
緊急事態の場合は、彼女らがその対処法を知っているから、全権大使他の方は彼女たちの指示に従っていただきたい。
彼女達はこう見えてもれっきとした軍人です。
男性に負けない力量を発揮するものと期待して宜しい。」
部外の男性、しかも海軍軍人幹部からこれほどまでの期待をかけられたことは無い。
サキは敢えて尋ねた。
「失礼ですが、我々紅兵団の内容は殆ど知られていないはずですが、艦長はどうして知っておられるのでしょうか。」
艦長は笑って答えた。
「実は、講和会議の話があってすぐに、海王は沼津の造船所に入って改修工事を行った。
さほど大きな工事ではない。
君たち女性を乗せるようにはできていなかったのでそのための改修だ。
悪いが、君たち三人の部屋は一続きの部屋だ。
個別に鍵も掛けられるが、出入り口は一つだけ。
出入り口にはインターホンが設置されているから、男どもが用事のある場合はインターホンで連絡をしてからの話になる。
万一に備えて、各部屋及び共有の部屋には非常ボタンが設置されている。
間違っても本番以外では押さないで欲しい。
艦内全部の男が集まる可能性があるからな。
但し、今現在は、各個室は鍵が掛けられているが共有の部屋の鍵が開いている。
君達の荷物を運び入れるためにな。
宏禎王殿下直々の指示で改装しているから、大概の設備は整っているはずだが、何か問題があれば主計長又は航海長に申し出て欲しい。
できる範囲で希望に添えるようにしたいと考えている。
君達の話を聞いたのは宏禎王殿下からだ。
極秘事項であると言いながら、海王の全乗組員を集めて、紅兵団の役割とその戦果をとうとうと演説していった。
それに加えて、君達に何かあったら俺が許さんと厳命して言った。
あれでは、箱入り娘についている頑固親父だ。
よほど度胸のある奴でなけりゃ、君らには近づかないと思う。
だが、君達はいいオヤジさんを持ったな。」
「そうですか・・・。
総帥が先に手を回されて・・・。
本当にありがたいことだと思っています。
ですから私達も総帥の命令には素直に従えるんです。」
脇から吉田茂全権大使が口を挟んだ。
「そういえば、わしも宏禎王殿下から君達の簡単な話だけは聞いておる。
君ら三人はいずれも英語をネイティブのように話せるということだったが、間違いないかね。」
「正直申し上げて、ネイティブスピーカーと話したことはございませんが、米軍関係の無線電話を傍受したときに特に支障を感じませんでしたし、彼らの発音でしたら十分に真似が出来ると思います。
一応、英語については20ほどの方言でも会話が可能だと思っています。
他の二人も同様です。」
「なるほど、他にも色々と外国語を知っていると聞いているが、ドイツ語とフランス語はどうかな。」
「はい、英語と同じで実践では試した事はありませんが、十分に会話は出来ると思います。」
「うむ、事前の情報では米側の全権大使は、エルンシュタインというドイツ系アメリカ人だ。
彼自身は二世で、ナチスドイツとは縁もゆかりも無い人物だが、出自の縁でドイツの歴史及び文学に詳しいと聞いている。
また、ハーバードを優秀な成績で卒業した男だから、欧米知識人の常として社交用のフランス語も相応に話せるようだ。
そういう意味で彼らにコーヒーブレイクで対等に話をするには、西欧史と西欧文学にもある程度精通していると非常に有利な交渉が出来る可能性がある。
君達はそのような勉強はしているのだろうか。」
「学者のように詳しいかどうかは別として、一応の知識はあると思っています。
帝大の院生程度の知識と思っていただければ宜しいかと存じます。」
「ほう、そいつは頼もしい。
ついでに聞くが、政治学の方はどうだね。」
「はい、政治学といっても、体系的なものはないと理解していますが・・・。
米国政治史、欧州政治事情、英国政治史、地政学、経済政策論、軍事政治論などの著書については原書を含めて40~50冊分の知識はあると思います。」
「ほうほう、それはそれは、・・・。
君達わしの弟子にならんかい。
それほどの知識がありながら、軍人などもったいない。」
「失礼ながら、大使。
大使を含めての3人以外、ここにいるのは全員軍人なのですがなぁ。」
「あ、いや。
これは失礼をした。
別に軍人を蔑む意味で言ったわけではないが、何せ、近頃の若い者は勉強嫌いが多くてなぁ。
これほどの人材がまだおったかと思うと、わしゃあ嬉しくてな。」
ひとしきりの話が終わるとそれぞれの部屋に下士官が案内した。
サキ達三人は一緒に案内された。
聖獣型潜水空母に比べると二回り、三回りほども狭い部屋ではあるが、一人で生活するには十分なスペースが確保されている。
各個室にバストイレが付いており、ロッカーも十分なスペースが確保されていた。
共用の部屋には四人掛けのソファとテーブルも置かれ、壁には花柄模様の壁紙やタイルなど非常に綺麗な作りとなっている。
もしかすると皇族のやんごとなき方々が来られても大丈夫なような改装をしたのかもしれない。
全権大使の部屋も似たような作りで、四つの部屋が連なり、次官と事務官が居間らしき部屋のドアを隔てた隣室である。
おそらくは天皇陛下、妃殿下のご家族などが海王に乗艦される場合を想定しての造りかもしれない。
総帥からは3日ほど前に伝送画像電話により3人揃っての多元中継で講和会議での対応方針についてレクチャを受けたばかりである。
全権大使もそれなりのレクチャを受けているはずであるが、必ずしも総帥の意向を十分に汲んでいるとは限らない。
サキたちはその目付け役であり、米側交渉団の懐柔役をも担っている。
だからあくまで身分は内務事務官兼外務事務官となっている。
もう一つ報道関係者を束ねる役目を負っている。
外国人報道関係者についてはサキと洋子が報道官を担当、日本人報道員の本国との連絡橋渡しには美保が担当する事になっている。
無論、全権大使は吉田茂であり、彼の意向は尊重しなければならない。
彼の意向が仮に本国の方針に逆らうものであれば、場合によっては身を挺しても止めねばならないと釘を刺されている。
方法手段はサキ達に任されていた。
事務次官の長崎一郎は中々の曲者でありそうだ。
総帥も長崎の力量はわからないという。
先ほどの会合でも黙ったまま会話を聞いていた。
事務官の本郷は、つい先ごろまで英国駐在大使館の一等書記官を勤め、それ以前の海外勤務がフランス大使館勤務をしていた男であり、欧州事情には詳しそうだが、北米一課の補佐官勤務が一年あるだけで米国は必ずしも専門分野ではなさそうである。
ハワイ到着前日の16日、それまで会食しても雑談ばかりしていた吉田茂が代表団全員に夕食後自分の部屋に集まるように指示した。
果たして、講和会議の作戦会議であった。
集まった皆に吉田茂がおもむろに言った。
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