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第五章 戦争への序曲
5-8 大日本帝国の決断 その五
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いずれのヘリコプターも原則無線操縦であるが、中型輸送ヘリコプターのみ例外的にパイロットが実際に操縦できる構造になっている。
艦載潜航艇は、対艦高速魚雷4基を搭載しているほか、ソナーブイ2基を搭載、敵艦船の隠密監視に最適である。
潜水限界深度は四千mであり、航続距離は千海里、海面速力20ノット、海中速力50ノットの能力を有する。
なお、この潜航艇も操縦者等は青龍艦内の潜航艇戦闘指揮所にいて操縦することになる。
そのほか、陸軍に供与した機甲師団用の車両200両を搭載、必要に応じて海上及び陸上を走ることのできるホバークラフトに搭載して揚陸作戦が可能である。
この場合も、地上戦闘指揮所で遠隔操縦を行うことになる。
圧巻は、地上戦闘用人型機械である。
身長2メートル50センチ、体重500キログラムの人形機械が大口径銃砲を手に、山岳、ジャングル、降雪地帯、砂漠、湿地帯などで人間の数倍の速力、数十倍の力で戦闘を行えるものである。
無論これも実際に人は乗っておらず、地上戦闘指揮所で遠隔操縦を行うものである。
操縦者は大きなポッド内に入り、自分の身体のように機械を動かす事になる。
馴れないとバランスが取れず一歩も動けないが、熟練者は五千メートルを150秒で移動できるようになる。
100mをわずか3秒で走破することになり、時速100キロと自動車並みの速力が出せる。
また、足場さえしっかりしていれば、重さ2トンの岩塊を10mほど投げる事さえできる。
地上戦に投入した場合、100ミリ砲弾以下の砲弾では損傷する事がなく、素手で通常戦車を破壊する事が可能であるという。
説明は主として大きなスクリーンに映し出された映像により行われたが、中には訓練風景を撮影した映画もあり、話だけではなく実際に機能するものであることを証明するものであった。
概ね1時間の説明で終了し、後は陛下の質問を受ける事になった。
陛下は質問というより感想を先ず仰られた。
「正直言って驚いた。
陸海軍に供与したという兵器ですら恐るべきものと思っていたが、・・・。
ここで見せられた兵器は、朕が想像さえを超えているものだ。
しかもこれを扱う者が14歳から24歳、いや人によっては26歳になっているかもしれないが、いずれにしろ、婦女子であるということ、・・・。
男であれ女であれ、適切な装備を持たせれば同等の働きが出来るという、宏禎王の言を見事に実証している。
これらの兵器を開発したのは、紅兵団ではなく他に居るものと思うが、その者達の労苦に先ず感謝したい。
そうして、それら恐るべき兵器を手足の如く使うまでに訓練を重ねた紅兵団の隊員たち、更にはその育成に携わった者達に最大限の謝辞を申し述べよう。
今、正に、宏禎王が予言した国家の存亡を賭けた戦いが始まるやも知れぬ分岐点にある。
朕は、国家及び臣民を護るためにこの部隊を創設し、育成してくれた宏禎王に詫びねばならん。
朕はそちの言葉を疑った。
だが、ここでそれも全て氷解した。
済まぬ。
この通りだ。」
陛下は突然立って、宏禎王に向かって頭を垂れた。
同室した全員が慌てて起立する。
陛下が立っているのに座っているわけには行かないのだ。
「陛下、それはなりませぬ。
いかなる事由があろうと、陛下が臣下に頭を垂れてはなりません。」
驚いた宏禎王殿下が慌てて言うと、陛下が更に申された。
「いや、過ちは誰にでもある。
朕とて過ちを犯す。
過ちを犯した場合に、素直に謝れねば人の上に立つことはできぬ。
だからこそ朕がここで謝らねばならんのだ。」
「わかりました、陛下。
判りましたゆえに、どうか頭を上げてくださりませ。
どうか、席にお腰を降ろしてください。」
ようやく、陛下が座ると、ほっとした全員が着席する。
「しかしながら、宏禎王。
これほどの戦力をどう使うかが問題となる。
朕は世界を征服しようなどとは望まぬが、これほどの力があれば諸外国の軍隊全てを打ち破れるのではないのか?
そちは、紅兵団を如何様に使うつもりでおるのか、教えて欲しい。」
「恐れながら申し上げます。
陛下の申されるとおり、この部隊は最強の部隊といっても過言はございません。
だからこそ、陸海軍にこの武装を託す事はできませんでした。
彼らは軍を、その装備を私物化しております。
軍という集団の力を自分の力と誤解して誤った方向に使います。
国家の命運を預かる者が、国家のためと口では言いながら実は自己の権力を強化しようとするのは政治家に限りません。
軍人も同じなのです。
組織は一旦出来上がると自己防衛もあって肥大化を始めます。
その肥大化は次第に自己制御が効かなくなる性質のものです。
政府や大本営の意思に反して、戦争地域を拡大した陸軍が正しくその実例です。
力を持った陸軍に楯突くことは次第に難しくなります。
帝国の場合、単なる計画に終わった若手将校による2.14事件がその顕著な転換点になりました。
一部軍人が集団で事を起こした場合、宰相と言えども殺される可能性を見せ付けられては、声高に批判もできなくなってしまうのです。
ですから、私は、国家や国民を護るために、陸海軍とは別の武装集団を作り上げようと考えたのです。支那事変拡大の正に最中にあっては、男子を集める事すら難しいでしょう。
一方、婦女子は、父親に縛られ、嫁しては夫に縛られ、いつも男社会の犠牲になって生きておりました。
男であれ、女であれ、能力あるものは相応の待遇を受けるべきであるにもかかわらず、我が国では、出自、学歴、性別、貧富の別、或いは民族による差別が厳然と存在します。
私はそうした差別社会を良いとは思いません。
努力をしたものが報われる世が望ましいと思っております。
ですから婦女子を選び、必要な教育・訓練を行って部隊を作ろうとしたのです。
彼女達は軍人社会にも政治社会にも無垢の存在です。
教育に際しては、余分な思想は一切省くように努めました。
彼女達は自分の判断で種々の批判が出来るようになっているはずです。
このことは為政者にとっては恐ろしい事のはずです。
彼らには奢りがありました。
男社会にどっぷりと浸かった彼らは、婦女子に何が出来るかと高をくくっています。
そうした彼らには教訓を与えるべきでしょう。
男も努力を怠れば婦女子に負けるということを。
女は体力では男に劣ります。
ですが、知力、判断力などは男と同等であり、ある意味女性の方が優れている場合も多いのです。
例えば、真面目さという点では女性の方に分がありますし、感受性も女性の方が勝っている場合が多いのです。
彼女達のそうした部分をより伸ばしてやることこそ、大事な事であるのに、実際には枠に嵌め、型に嵌めて男の思い通りの女性を作ろうとするのは大きな間違いです。
彼女達は私の予想以上に成長してくれました。
正直なところ、後は、全てを彼女達に任せても良いと思っているくらいです。
陛下のご質問の答えを、ここにいる河合君に代弁させたいと存じますが宜しいでしょうか。」
「そちの良きように。」
「では、河合サキ君、陛下の先ほどの質問だが、内容はわかっているね?」
「はい、ですが・・・。」
「心配しなくて宜しい。
君が思った通りを答えて貰ってかまわない。」
「はい、総帥の仰せならば、・・。
恐れながら、お答え申し上げます。
私には、総帥のお考えが全てわかるわけではありません。
ですが、この件については、おそらく私の考え方と総帥の考え方には共鳴点がかなり多いと思いますので、非礼を承知で申し上げます。
仮に、戦となった場合。
第一に、局地的な戦闘においては敵味方を問わず無駄な損害を極力避ける事が大事です。
第二に、戦争に必ずしも全面的勝利を得る必要はありません。
相手に戦いは無駄であるという認識をさせれば十分と考えています。
そのためには、敵に恐れを抱かせる事が必要です。
第三に、攻撃すべきときは仮借なく攻撃すべきです。
敵に情けをかければ、味方に負担が生じる場合もあります。
第四に、講和は多くを望むべきではありません。多くを望めば相手に恨みが残ります。
その恨みは次の戦の火種となります。
第五に、戦は必ずしも勝つ必要はなく、負けないようにする事が大事です。
第六に、将兵を大事にすることこそ、国家百年の礎を磐石にするものと思っています。
従って、紅兵団が出撃する場合は、相手にこちらの戦力を十分に見せ付けて、戦闘を出来るだけ避けようと考えています。
具体的には、敵に対して攻撃の予告を行い、確実にこちらの火力を見せ付けます。
その場合、相手に与える損害の大小は必要ありません。
こちらの攻撃の正確さ、火力の大きさ、防御力の大きさを見せれば相手は戦いを避けるようになるはずです。
それでも無理やり突撃してくる相手は殲滅させます。
細かな部分は別として、今申し上げたような概念で紅兵団の行動を律したいと考えております。
念のため申し上げますと、この概念から外れる命令については納得できる理由がない限り紅兵団は命令に従わないこともございます。
以上ですが、・・・。」
河合サキは、宏禎王を見る。
宏禎王が頷く、一方で、陛下が唸る。
「まるで禅問答のような答えであったが、・・・。
戦わずして相手に畏怖を与えれば、自ずと戦は止まると言っているように思えたが、・・・。
また、紅兵団が独自の意思決定能力を持っていて、帝国の戦に必ずしも全面的な参加はしないと言う。
これは、単なる侵略行為のような戦闘には手を出さないという意味なのか。」
宏禎王が少し首を傾げながらもにこりとした。
「そのように見ていただいて宜しいかと思います。
場合によっては、侵略行為を行う帝国の陸海軍をけん制する動きさえ起こすかもしれません。」
「何と、味方を撃つと申すか。」
「実際に撃つわけではないですが、軍を物理的に止める事はできると考えています。
陛下は軍に何をお望みでしょうか?
帝国の拡大でしょうか?
それとも、帝国の安寧でしょうか?」
「無論、帝国の安寧であり、国民の保護である。」
「軍が帝国の安寧のために邪魔になる国を撃つと言えば、お認めになりますか?」
「四囲の状況が止むを得ざるものであれば認めることもあり得る。」
「紅兵団は地球の裏側にある国でも攻撃が可能です。
今は、紅兵団にしか存在しない兵器だとは思いますが、20年後あるいは30年後には他の国もそうした兵器を持つ可能性がございます。
そうした場合、我が国に与える脅威を取り除くために軍が遠方の地を攻撃すると申し上げた場合、陛下はお認めになりますか?」
「そのような仮定の問題には答えるのが難しいが、・・・。
敵国と呼ばれる国に明確な敵意があって、放置すれば我が国が先制攻撃を受ける可能性があるならば、あるいは認めるやも知れぬ。」
「人間の考える事は、現在も、将来もさほど変わらぬと思います。
満州国が独立は帝国の軍人が関わらぬものとなりましたが、そもそもは関東軍の幹部も将来構想として持っていたもので、その目的はソ連に対する防壁の意味合いが多分に存在したと思われます。
幸いにして東ロシア共和国と満州帝国の存在がソ連の東進を阻んでいます。
先ほどの兵器のお話と似ているとは思われないでしょうか?
ソ連の脅威を声高に唱え、先制攻撃の代わりに相手に先んじて他国の領土を奪い、以て、敵侵攻の歯止めとしているわけです。
その点、脅威があるだけで先制攻撃を行うこととは、紙一重の違いだけでありましょう。
逆に、我が帝国は、諸外国への脅威となる軍事力を持ったわけですから、諸外国から隙あらば狙われる立場になったということです。
従って、諸外国への脅威となる恐れのあるものは、可能な限り最小限度に抑える方が宜しいと思われます。
帝国が寛容な姿勢を貫けば、相手も安心し、敵愾心を薄れさせると思われます。
紅兵団の役割は正しくそれなのです。
必要最小限度の介入をし、最大限の安寧を図る事です。
紅兵団は決して帝国の領土拡大には役立ちません。
何となれば、他国への侵略を潔しとしないからであります。
また、外交交渉においても、紅兵団の戦力を嵩に着て、有利に運ぶ手伝いもいたしません。
場合によっては、そうした外交交渉に自ら赴き、帝国の外交使節を監視することも吝かではないと考えております。
紅兵団は、常に国民と国家を護るために何をなすべきかを考え、最善と思われる手法で行動する事になりましょう。」
艦載潜航艇は、対艦高速魚雷4基を搭載しているほか、ソナーブイ2基を搭載、敵艦船の隠密監視に最適である。
潜水限界深度は四千mであり、航続距離は千海里、海面速力20ノット、海中速力50ノットの能力を有する。
なお、この潜航艇も操縦者等は青龍艦内の潜航艇戦闘指揮所にいて操縦することになる。
そのほか、陸軍に供与した機甲師団用の車両200両を搭載、必要に応じて海上及び陸上を走ることのできるホバークラフトに搭載して揚陸作戦が可能である。
この場合も、地上戦闘指揮所で遠隔操縦を行うことになる。
圧巻は、地上戦闘用人型機械である。
身長2メートル50センチ、体重500キログラムの人形機械が大口径銃砲を手に、山岳、ジャングル、降雪地帯、砂漠、湿地帯などで人間の数倍の速力、数十倍の力で戦闘を行えるものである。
無論これも実際に人は乗っておらず、地上戦闘指揮所で遠隔操縦を行うものである。
操縦者は大きなポッド内に入り、自分の身体のように機械を動かす事になる。
馴れないとバランスが取れず一歩も動けないが、熟練者は五千メートルを150秒で移動できるようになる。
100mをわずか3秒で走破することになり、時速100キロと自動車並みの速力が出せる。
また、足場さえしっかりしていれば、重さ2トンの岩塊を10mほど投げる事さえできる。
地上戦に投入した場合、100ミリ砲弾以下の砲弾では損傷する事がなく、素手で通常戦車を破壊する事が可能であるという。
説明は主として大きなスクリーンに映し出された映像により行われたが、中には訓練風景を撮影した映画もあり、話だけではなく実際に機能するものであることを証明するものであった。
概ね1時間の説明で終了し、後は陛下の質問を受ける事になった。
陛下は質問というより感想を先ず仰られた。
「正直言って驚いた。
陸海軍に供与したという兵器ですら恐るべきものと思っていたが、・・・。
ここで見せられた兵器は、朕が想像さえを超えているものだ。
しかもこれを扱う者が14歳から24歳、いや人によっては26歳になっているかもしれないが、いずれにしろ、婦女子であるということ、・・・。
男であれ女であれ、適切な装備を持たせれば同等の働きが出来るという、宏禎王の言を見事に実証している。
これらの兵器を開発したのは、紅兵団ではなく他に居るものと思うが、その者達の労苦に先ず感謝したい。
そうして、それら恐るべき兵器を手足の如く使うまでに訓練を重ねた紅兵団の隊員たち、更にはその育成に携わった者達に最大限の謝辞を申し述べよう。
今、正に、宏禎王が予言した国家の存亡を賭けた戦いが始まるやも知れぬ分岐点にある。
朕は、国家及び臣民を護るためにこの部隊を創設し、育成してくれた宏禎王に詫びねばならん。
朕はそちの言葉を疑った。
だが、ここでそれも全て氷解した。
済まぬ。
この通りだ。」
陛下は突然立って、宏禎王に向かって頭を垂れた。
同室した全員が慌てて起立する。
陛下が立っているのに座っているわけには行かないのだ。
「陛下、それはなりませぬ。
いかなる事由があろうと、陛下が臣下に頭を垂れてはなりません。」
驚いた宏禎王殿下が慌てて言うと、陛下が更に申された。
「いや、過ちは誰にでもある。
朕とて過ちを犯す。
過ちを犯した場合に、素直に謝れねば人の上に立つことはできぬ。
だからこそ朕がここで謝らねばならんのだ。」
「わかりました、陛下。
判りましたゆえに、どうか頭を上げてくださりませ。
どうか、席にお腰を降ろしてください。」
ようやく、陛下が座ると、ほっとした全員が着席する。
「しかしながら、宏禎王。
これほどの戦力をどう使うかが問題となる。
朕は世界を征服しようなどとは望まぬが、これほどの力があれば諸外国の軍隊全てを打ち破れるのではないのか?
そちは、紅兵団を如何様に使うつもりでおるのか、教えて欲しい。」
「恐れながら申し上げます。
陛下の申されるとおり、この部隊は最強の部隊といっても過言はございません。
だからこそ、陸海軍にこの武装を託す事はできませんでした。
彼らは軍を、その装備を私物化しております。
軍という集団の力を自分の力と誤解して誤った方向に使います。
国家の命運を預かる者が、国家のためと口では言いながら実は自己の権力を強化しようとするのは政治家に限りません。
軍人も同じなのです。
組織は一旦出来上がると自己防衛もあって肥大化を始めます。
その肥大化は次第に自己制御が効かなくなる性質のものです。
政府や大本営の意思に反して、戦争地域を拡大した陸軍が正しくその実例です。
力を持った陸軍に楯突くことは次第に難しくなります。
帝国の場合、単なる計画に終わった若手将校による2.14事件がその顕著な転換点になりました。
一部軍人が集団で事を起こした場合、宰相と言えども殺される可能性を見せ付けられては、声高に批判もできなくなってしまうのです。
ですから、私は、国家や国民を護るために、陸海軍とは別の武装集団を作り上げようと考えたのです。支那事変拡大の正に最中にあっては、男子を集める事すら難しいでしょう。
一方、婦女子は、父親に縛られ、嫁しては夫に縛られ、いつも男社会の犠牲になって生きておりました。
男であれ、女であれ、能力あるものは相応の待遇を受けるべきであるにもかかわらず、我が国では、出自、学歴、性別、貧富の別、或いは民族による差別が厳然と存在します。
私はそうした差別社会を良いとは思いません。
努力をしたものが報われる世が望ましいと思っております。
ですから婦女子を選び、必要な教育・訓練を行って部隊を作ろうとしたのです。
彼女達は軍人社会にも政治社会にも無垢の存在です。
教育に際しては、余分な思想は一切省くように努めました。
彼女達は自分の判断で種々の批判が出来るようになっているはずです。
このことは為政者にとっては恐ろしい事のはずです。
彼らには奢りがありました。
男社会にどっぷりと浸かった彼らは、婦女子に何が出来るかと高をくくっています。
そうした彼らには教訓を与えるべきでしょう。
男も努力を怠れば婦女子に負けるということを。
女は体力では男に劣ります。
ですが、知力、判断力などは男と同等であり、ある意味女性の方が優れている場合も多いのです。
例えば、真面目さという点では女性の方に分がありますし、感受性も女性の方が勝っている場合が多いのです。
彼女達のそうした部分をより伸ばしてやることこそ、大事な事であるのに、実際には枠に嵌め、型に嵌めて男の思い通りの女性を作ろうとするのは大きな間違いです。
彼女達は私の予想以上に成長してくれました。
正直なところ、後は、全てを彼女達に任せても良いと思っているくらいです。
陛下のご質問の答えを、ここにいる河合君に代弁させたいと存じますが宜しいでしょうか。」
「そちの良きように。」
「では、河合サキ君、陛下の先ほどの質問だが、内容はわかっているね?」
「はい、ですが・・・。」
「心配しなくて宜しい。
君が思った通りを答えて貰ってかまわない。」
「はい、総帥の仰せならば、・・。
恐れながら、お答え申し上げます。
私には、総帥のお考えが全てわかるわけではありません。
ですが、この件については、おそらく私の考え方と総帥の考え方には共鳴点がかなり多いと思いますので、非礼を承知で申し上げます。
仮に、戦となった場合。
第一に、局地的な戦闘においては敵味方を問わず無駄な損害を極力避ける事が大事です。
第二に、戦争に必ずしも全面的勝利を得る必要はありません。
相手に戦いは無駄であるという認識をさせれば十分と考えています。
そのためには、敵に恐れを抱かせる事が必要です。
第三に、攻撃すべきときは仮借なく攻撃すべきです。
敵に情けをかければ、味方に負担が生じる場合もあります。
第四に、講和は多くを望むべきではありません。多くを望めば相手に恨みが残ります。
その恨みは次の戦の火種となります。
第五に、戦は必ずしも勝つ必要はなく、負けないようにする事が大事です。
第六に、将兵を大事にすることこそ、国家百年の礎を磐石にするものと思っています。
従って、紅兵団が出撃する場合は、相手にこちらの戦力を十分に見せ付けて、戦闘を出来るだけ避けようと考えています。
具体的には、敵に対して攻撃の予告を行い、確実にこちらの火力を見せ付けます。
その場合、相手に与える損害の大小は必要ありません。
こちらの攻撃の正確さ、火力の大きさ、防御力の大きさを見せれば相手は戦いを避けるようになるはずです。
それでも無理やり突撃してくる相手は殲滅させます。
細かな部分は別として、今申し上げたような概念で紅兵団の行動を律したいと考えております。
念のため申し上げますと、この概念から外れる命令については納得できる理由がない限り紅兵団は命令に従わないこともございます。
以上ですが、・・・。」
河合サキは、宏禎王を見る。
宏禎王が頷く、一方で、陛下が唸る。
「まるで禅問答のような答えであったが、・・・。
戦わずして相手に畏怖を与えれば、自ずと戦は止まると言っているように思えたが、・・・。
また、紅兵団が独自の意思決定能力を持っていて、帝国の戦に必ずしも全面的な参加はしないと言う。
これは、単なる侵略行為のような戦闘には手を出さないという意味なのか。」
宏禎王が少し首を傾げながらもにこりとした。
「そのように見ていただいて宜しいかと思います。
場合によっては、侵略行為を行う帝国の陸海軍をけん制する動きさえ起こすかもしれません。」
「何と、味方を撃つと申すか。」
「実際に撃つわけではないですが、軍を物理的に止める事はできると考えています。
陛下は軍に何をお望みでしょうか?
帝国の拡大でしょうか?
それとも、帝国の安寧でしょうか?」
「無論、帝国の安寧であり、国民の保護である。」
「軍が帝国の安寧のために邪魔になる国を撃つと言えば、お認めになりますか?」
「四囲の状況が止むを得ざるものであれば認めることもあり得る。」
「紅兵団は地球の裏側にある国でも攻撃が可能です。
今は、紅兵団にしか存在しない兵器だとは思いますが、20年後あるいは30年後には他の国もそうした兵器を持つ可能性がございます。
そうした場合、我が国に与える脅威を取り除くために軍が遠方の地を攻撃すると申し上げた場合、陛下はお認めになりますか?」
「そのような仮定の問題には答えるのが難しいが、・・・。
敵国と呼ばれる国に明確な敵意があって、放置すれば我が国が先制攻撃を受ける可能性があるならば、あるいは認めるやも知れぬ。」
「人間の考える事は、現在も、将来もさほど変わらぬと思います。
満州国が独立は帝国の軍人が関わらぬものとなりましたが、そもそもは関東軍の幹部も将来構想として持っていたもので、その目的はソ連に対する防壁の意味合いが多分に存在したと思われます。
幸いにして東ロシア共和国と満州帝国の存在がソ連の東進を阻んでいます。
先ほどの兵器のお話と似ているとは思われないでしょうか?
ソ連の脅威を声高に唱え、先制攻撃の代わりに相手に先んじて他国の領土を奪い、以て、敵侵攻の歯止めとしているわけです。
その点、脅威があるだけで先制攻撃を行うこととは、紙一重の違いだけでありましょう。
逆に、我が帝国は、諸外国への脅威となる軍事力を持ったわけですから、諸外国から隙あらば狙われる立場になったということです。
従って、諸外国への脅威となる恐れのあるものは、可能な限り最小限度に抑える方が宜しいと思われます。
帝国が寛容な姿勢を貫けば、相手も安心し、敵愾心を薄れさせると思われます。
紅兵団の役割は正しくそれなのです。
必要最小限度の介入をし、最大限の安寧を図る事です。
紅兵団は決して帝国の領土拡大には役立ちません。
何となれば、他国への侵略を潔しとしないからであります。
また、外交交渉においても、紅兵団の戦力を嵩に着て、有利に運ぶ手伝いもいたしません。
場合によっては、そうした外交交渉に自ら赴き、帝国の外交使節を監視することも吝かではないと考えております。
紅兵団は、常に国民と国家を護るために何をなすべきかを考え、最善と思われる手法で行動する事になりましょう。」
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弟のその言葉は、晴天の霹靂。
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しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
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