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第四章 戦に負けないために

4-6 班分け

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 代わって、大佐相当の一佐の階級章をつけた別の男性が演壇に立った。
 高木あずさが起立の号令を掛けると、その男性が制した。
 
「着席しなさい。」
 
 その指示を聴いて、あずさの号令で全員が着席する。
 それを見届けて一佐が発言した。

「私は、当基地総務部長の木谷雄一である。
 これからの当面の予定を諸君に伝える。
 諸君らにはこの後散会してもらい、6階補給課に赴き、支給物資を受け取ってもらう。
 支給物資は衣服類、訓練装備類である。
 量的には大きなプラスティック製コンテナに4個ほどになる。
 それを各自受領したら、台車に乗せて携帯荷物とともに候補生寮の自室まで運んでもらう事になる。
 諸君らに割り当てられる部屋は、寮の2階コンコースホール掲示板に班編成と共に張り出してある。
 部屋では同じ班員8人での共同生活となる。
 諸君らは先に到着している網走採用の候補生104名と共に、原則64名からなる1班から5班までのいずれかに属してもらう。
 第5班のみ人数が少ないが、3日後には室蘭並びに樺太の敷香及び真岡での採用者が到着する事から、その補充を受ける事になる。
 また、博多と門司からの採用者も本日午後には到着する予定だ。
 何れにしろ、各班の班長及び副班長、それに部屋長もそれぞれ指名されている。
 班長は、所属する班の指揮をとることし、小隊長としての任務を負うこと。
 副班長は、班長を補佐する事。
 部屋長は、部屋の室員を統括管理することとし、分隊長としての任務を負うこと。
 いずれ候補生640名ごとに中隊を組織し、中隊長もその際に指名する。
 また候補生6400名ごとに大隊を組織し、大隊長もその際に指名する。
 最終的に、候補生の数は2万人を超えるとみられているが、第一次適性試験の結果如何ではその数も変わる可能性がある。
 当基地内の全ての施設では、諸君が現在所持している時計が必要とされる。
 時計が此処の訓練生の認証番号であり、鍵となる。
 移動に際しては必ず携帯する事。
 さもなくば、一切の出入り口は開閉できないし、各種装置は作動しないことになる。
 その時計は、諸君ら個々の生体に感応しており、本人が身につけている状態では活性化しているが、それを外した状態では不活性の状態となり、他の者が手にしても活性化はしない。
 特殊な措置を講ぜずに、24時間以上身につけていない状態が続けば、時計はそれ自身が崩壊する事になるので注意しなさい。
 従って、基地内において、時計は君達自身の分身と思っていただきたい。
 健康状態もその時計が常時チェックしているし、必要な場合、管理部では諸君らの位置が特定できるようになっている。
 時計は完全防水となっており、100気圧及び真空状態にも耐えうる構造となっている上、高さ200mの高所からコンクリート床面に落としても壊れない耐衝撃能力を持っているから、通常の生活範囲や訓練の過程で壊れる心配は無い。
 その他、時計の各種能力については更なる催眠学習で知識が得られるだろう。
 さて、各人が寮に入ってからの予定を伝えておく。
 部屋では、それぞれ身辺整理を行うこと、各自は室外では常時名札着用の事。
 なお、支給衣類等には全て氏名、採用地、生年月日が記入されているので他の者と混同する事はないだろう。
 衣類は各人のサイズに合わせて作られているが、今後の身体の成長により、また消耗度合いにより、適宜、交換する事になる。
 その通知は、通常管理部から行われる予定だが、万が一毀損などして使用に耐えなくなった場合は、管理部補給課にその都度申請する事。
 多少の繕い物は裁縫用具を各部屋に用意してあるから自分で繕うことも出来るだろう。
 但し、礼式用の第1種、第2種制服類は個人での繕いは許されていないので注意するように。
 本日は1400から候補生寮3階にある食堂で室蘭採用者とともに昼食、服装は今のままで宜しい。
 1500から1800までの間は、訓練棟前の広場において濱口一尉の指導の下で基本動作訓練を行う。
 各人5分前には訓練棟前の広場に集合しているように。
 諸君らに与えた基礎知識の中に、必要な要領は全て入っているから、後は身体がついていくように訓練すればいいだけのはず。
 夕食は1900から候補生全員が同じく3階食堂でとることになる。
 食事後は自由時間となり、就寝は2200となっている。
 念のため申し添えておくが、3日後の1月7日には新たな採用者が到着するので、諸君らには先輩として後輩を指導する役割が新たに与えられる。
 それまでには必要な事を身につけておいて欲しい。
 明日以降の予定については各居室の電子端末に入っているので今日中に目を通して確認しておく事。
 本日の日課は特別であり、明日以降は通常日課に戻る事になるので注意する事。
 なお、注意事項をいくつか。
 既に承知していると思うが、この基地の存在自体が機密事項である。
 諸君らはこの基地から外へ出る事は当面許されないし、外部と通信する事も許されない。
 誠に申し訳ないが訓練中は親族の死に目にも会えない事になるので覚悟して欲しい。
 君達の俸給については月額50円である。
 基地内で生活する限り、現金はさほど必要ないはずであるが、個人で必要な物資は、管理部地階にある物資部で購入する事ができる。
 例えば、下着、入浴剤、洗剤、化粧品の類である。
 下着については、入隊時に5組を支給するが、補充はしない。
 以後は自分で購入する事。
 化粧は禁止しないが、華美に過ぎないようにするため、推奨する化粧品に限り使用を認める。
 その化粧品も物資部に置いてある。
 いずれにしろ、節度を弁えること。
 ここは娑婆ではないし、化粧して綺麗になったところで、その顔を見せるべき若い男性は皆無である。
 諸君らの銀行口座は既に作ってあり、時計には物資部での支払い機能も備わっている。
 俸給の一部20円は既に個人口座に振り込まれており、今日からでも使える。
 ほとんど心配はないだろうが、使いすぎて口座に余裕が無くならないよう注意する事。
 俸給支給日は、原則として毎月20日の零時であるが、入隊月に限り、入隊と同時に20円が振り込まれ、その月の20日に残り30円が振り込まれることになっている。
 諸君の実家に仕送りする等の必要がある者は所要の手続を行えば、毎月申請者の名義で所定の住所に送金する事ができる。
 但し、送金は月に30円までを限度とする。
 最後に、候補生同士の敬礼は必要ないが、基地内職員への礼は失することのないようにしなさい。
 候補生以外の職員は全て君達の上官になる。
 候補生は、年齢、出自に関係なく全て平等に扱う。
 取り敢えずの説明は以上であるが、何か質問はあるかな?」

 暫く待ったが特に質問は出なかった。

「では、臨時班長、解散させて、直ちに補給課に向かわせなさい。」
 
 すかさず、高木あずさが立ち上がり、前列の前に立つ。
 
「候補生全員起立。」
 
 続けて、あずさが言う。
 
「以後の予定、木谷総務部長達しのとおり、分かれ。」

 全員が敬礼して分かれた。

 ◇◇◇◇

 補給課では、受検番号順に支給物資を受け取った。
 一つのコンテナで約10キロ前後、それが4個だから間違いなく40キロ前後の重さになっている。

 全てを台車に乗せて運ぶのだが、それでも動かすのに相当な力が必要なほど重量がある。
 順次、補給課のある6階から2階のエントランスホールまで、エレベーターを使用して運び出す。

 2階エントランスホールから空中歩道が候補生寮まで続いており、500mほどの距離がある。
 其処を181名の娘たちが台車を押しながら続く。

 候補生寮のコンコースホールには大きな掲示板があり、班編成と部屋割りがなされていた。
 驚いたことにサキは第2班の班長に指名されており、部屋は3201号室である。

 網走採用者が3人、釧路採用者がサキを入れて5人である。
 部屋長は、網走採用の赤峯裕子という娘だ。

 エレベーターは、3階から14階までの低層階用のエレベーターが20基、15階から26階までの低中層階用が20基、27階から38階までの高中層階用が20基、39階から50階までの高層階用が20基ある。
 1階と2回は各エレベーター共用である。

 エレベーターで3階に上がった。
 エレベーターホール中央に3階各部屋の案内図があり、それを頼りに通路に出る。

 高さ3mほど、幅5mほどの通路はゆったりとしており、明るい照明で隅々まで見える。
 クリーム色をした天井と壁面、床は淡い緑色の絨毯が敷き詰めてある。

 靴底に伝わる感触はふわふわとしており、靴音が殆どしない。
 3201号を探しだし、ドアをノックした。

「はい。」

 返事があり、横滑りのドアが開いて、中からサキよりも年長者らしき娘が顔を出す。

「いらっしゃい。
 第2班21分隊にようこそ。
 私は、部屋長兼分隊長の赤峯裕子です。」

 どぎまぎしながら、サキも答える。

「初めまして。
 第2班班長に指名された河合サキです。
 皆さんとご一緒になります。
 不束者ですがどうぞよろしく。」

「あら、班長さん?
 こちらこそどうぞよろしく。
 境さん、吉見さん、班長さんがいらっしゃったわよ。」
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