親王様は元大魔法師~明治の宮様に転生した男の物語~戦は避けられるのか?

サクラ近衛将監

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第二章 富士野宮(ふじのみや)宏禎(ひろよし)王

2-16 新造船と公試運転

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 明治44年6月に飛鳥重工西浦造船所で建造中の長月ながつき型駆逐艦二隻が竣工し、秘密の公試運転が実施されました。
 どうやら公試運転に乗艦した海軍省と艦政本部からやってきたお偉方の度肝をしっかりと抜いたようです。
 あ、私は建前上学業が忙しいので公試運転には立ち会っていませんが、各種モニターやゴーレムからの報告で現場の状況は手に取るように把握しています。

 沼津町南方の西浦村にある西浦造船所を出港した長月型の新造駆逐艦二隻は速力12ノットで西進し、大瀬崎をかわして駿河湾を南下、12ノットの速力のまま約10時間航走して八丈島西方100海里付近に到達、そこで各種搭載機器及び設備の作動試験を開始しました。
 概ね所期の試験データを取り終えた時点で、一気に第三戦闘速度まで上げてそこから南下、最高速度は46.8ノットに達し、およそ8時間ほどで小笠原西方120海里付近の海域に到達しました。

 折から南方海上に発生していた台風が台湾方面に接近しており、その余波で海象は結構な時化模様ではあったのですが、新開発の加速度感知式フィン・スタビライザーが良く効いていたことから少なくとも舷側方向の揺れはかなり抑えられていたようです。
 そんな中での120ミリ速射砲の射撃訓練は、予め艦内に用意していた浮体式標的を用いて最大波高7mの時化の中で行われ、二隻とも五千mの距離で百発百中の射撃を見せました。

 射撃を行う砲員及びその指揮要員は、いずれもドックの兵器部門の工員であり、戦闘員等の所謂プロではないのですが、武器の性能が全ての練度を凌ぐ成果を見せました。
 レーダーと赤外線による自動照準が可能で、素人にも操作可能なうえに、毎分90発の速射ができる性能は、明治の軍人たちをして腰が抜けるほど驚かせたようです。

 先の日露戦争では至近距離で日露海軍が大砲を撃ち合いましたが、意外と大砲と言うのは当たらないモノなのです。
 日本海軍の勝利は偏に軍艦の性能と艦隊操船の練度、更に新開発の下瀬火薬の採用がロシア艦船の武力を上回ったからなのです。

 でもこの長月型駆逐艦の単装砲だけで戦艦三笠等の主砲を上回る破壊力と精度を備えています。
 さらに艦橋前後部に配置された30ミリバルカン砲もレーダー連動した自動照準で、二千m先の標的に自艦が激しく動揺する中でも確実に命中させ、後に毎分三千発の発射速度を有すると聞いて見学者たちは更に驚愕していたようですね。

 また、前部セル及び後方セルからの対艦ミサイルの発射は圧巻の様でした。
 何しろ視界に捕らえられない50キロも離れた標的に、二隻から発射されたミサイル二基ずつが命中するのをドローンで映し出された映像で確認できたからです。

 空中を飛ぶ誘導弾(ミサイル)や無人機(ドローン)の性能に驚き、遥か彼方の標的を映し出す脅威の映像に驚くのは致し方ないでしょう。
 ジュールベルヌの「海底二万マイル」で描かれた誘導弾が実用化されるなど思っても見なかったでしょうし、そもそもが白黒の無声映画でさえほとんど見たことのない軍人たちなのですから。

 おまけにソナーによる潜水艦等(潜水艦は未だ作っていませんでしたので試験海域周辺に居たザトウクジラや大型魚類)の発見や、艦船(長月型駆逐艦同士や浮体式標的)・航空機(レーダーレフレクター搭載のドローン)のレーダー索敵などの能力も確認して、お偉方は至極上機嫌で東京に帰って行ったようです。

 勿論、秘密兵器となるものですから特定の将官以外への機密漏洩について念入りに注意してもらいました。
 事は今後30年乃至40年の帝国の軍備に関わることなので、当然のことながら宮家の威光をしっかりと利用させてもらいました。

 あ、ソナーについては低周波の音響信号だとイルカやクジラ等の海生哺乳動物に対する影響が大きいので全く別の形式の空間振動波を用いています。
 この方式は空間を占める仮想スカラー場の微細な空間振動によるもので、通常の構造体若しくは生物に何の影響も与えません。

 但し、スカラー場の変異点を三次元的に示してくれることから、3Dホログラムがあれば疑似映像で周囲の空間把握が可能になるのです。
 勿論、高度な軍事機密なので対外的には仮に帝国軍人であろうとその詳細は教えません。

 後に出現する予定の亜空間ソナーは、これをより強化したもので、三次元解析だけでなく多次元構造の解析をも可能とする可能性を秘めています。
 まぁ、まだまだ先の話になりますけれどね。

 西浦造船所の出港時から足掛け三日かけて行った長月型駆逐艦の公試運転は、凄まじく快適な居住環境も確認出来て、居心地がとてもよかったと公試運転に立ち会った諸住大佐から感想を貰いました。
 諸住大佐の話によれば、正式な受注契約はまだなのですが、海軍省内部ではお買い上げが決定事項の様です。

 当然に秘密兵器扱いなのであくまでとして公称し、通常の航海においては14ノット以上の速力では走らないこと、スラスターなど特殊装備ははできるだけ使わないこと、更に射撃訓練は対外的に秘密にすることを約束してもらいました。
 勿論、有事の場合は、一切の制限解除ですが、普段は当然に一般人を近づけたり載せたりしないようお願いしてあります。

 長月型駆逐艦の乗員が50名足らずと言うのも海防艦としては似つかわしい定員です。
 諸外国では7000トンもある戦闘艦であるならば、少なくとも200~300名の将兵を載せているのが普通だからです。

 諸住大佐からは来年以降も継続生産が可能か否かとの打診を受けましたので、毎年二隻ずつなら建造できますよと請け負っておきました。

 そのほか諸住大佐からの中間報告では、長月型駆逐艦の仕上がりを確認したことで、新型潜水艦の方も、飛鳥造船所に発注する方向で検討中との報告がありました。
 但し、今回の新鋭駆逐艦と同様に1号艦については竣工後の性能を確認してからの契約にしたいと要望がありました。

「潜水艦も非常にお安い価格なのですけれど、それでも契約は後回しなんですか?」

 私がそう尋ねると、諸住大佐曰く、頭をかきながら恥ずかしそうに答えた。
 実は海軍本省の経理部門からは、余りに安すぎるので眉唾物で見られているとのこと。
 但し、今回の新鋭駆逐艦の件で技術面での確認ができたので、ほとんど疑念は払拭されたけれど、再度の確認のため事後契約としたいらしい。

 このような方法はある意味で業者の資金繰りを圧迫する行為になるので、今回限りと言うことで新型潜水艦の採用が決定された場合は、以後の新造艦等には適用しないことが確認されているようです。
 確かに一般の造船所で高額な軍艦発注に竣工確認後の契約を優先されてしまえば造船所は破産する可能性がありますからね。

 海軍が受け取らないと言えば、造船所がすべての建造費用を背負うことになってしまうからです。
 長月型駆逐艦は左程高くないのでいいのですが、通常であれば国家予算の数%にも達するような戦闘艦の高額建造費を一介の造船所が負担できる筈もありませんよね。

 今後海軍の建艦構想については諸住大佐などを通じて私からも大いに意見を挟むことになるでしょうね。
 当面は他国の目を誤魔化すために、横須賀、呉などの工廠で旧態然とした軍艦を建造してもらいますが、実際の主力は、航空母艦と長月型駆逐艦、それに潜水艦に絞らせます。

 航空母艦1隻に対して、長月型駆逐艦8隻、潜水艦8隻の体制で、機動部隊を構築し、少なくとも12機動部隊を擁すれば1970年代まで海軍力は十分でしょう。
 航空母艦の搭載機は勿論ステルス型の垂直離着陸ジェット機になりますけれどね。

 さらには空軍の整備が必要になるでしょうね。
 制空のための要撃機と地上制圧のための攻撃機、それに戦略爆撃機、対空、対潜哨戒機を揃えておけば少なくとも当面の戦争で帝国が負けることはないものと思います。

 敵対国を完全に屈服させるには陸軍の強化も図らねばなりませんが、これは追々で良いでしょう。
 当面は4年程度で航空母艦なしの1機動部隊を構築し、状況を見て生産効率を上げることにします。

 一方で私が使う予定で造った貨客船明日香丸も完工しました。
 こちらの方は、日本海事協会の臨時検査を受けたうえで、造船所職員だけで公試運転が終了しています。

 この貨客船明日香丸は、いずれ私が英国か米国へ留学する際の足に使うつもりなのです。
 内装は豪華客船並みにきれいに仕上がっている筈です。
 
 ゴーレム技師が手作業で仕上げた作品ですからアブサルロアの宮殿並みに綺麗にできている筈ですし、乗員は船長から末端のコック、メイドに至るまで全てゴーレム船員の予定です。
 必要に応じて皇室御用にも対応できるようにロイヤルルームも準備してあります。

 全長182m、幅23.4m、深さ13.5m、総トン数2万トン余のセンターブリッジ型船体で、最大旅客定員数は130名、最大乗組員数は88名と大きさの割に定員が少ないのは居住性能を上げているからで、最大貨物搭載量は、12,000トンになります。
 ブリッジ前部に大型電動起重機二基を搭載し、前部船倉のハッチは電動による遠隔開閉操作が可能です。

 形状としては20世紀後半から21世紀にかけて活躍していた小笠*汽船の三代目おがさ*ら丸の船橋区画をより後部に配置(前部甲板を伸ばした?)、上甲板以上の甲板を七層としてより大型化した形状を思い浮かべると良いと思います。
 地脈発電機を搭載しており、本来排煙を出さない船であることから、必要はないのですが大きな化粧煙突を配置するとともに予備の重油炊きボイラーで煙を出すこともできるようにしてありますが、主として煙突部分には兵装などを隠し持っています。

 そのほかにも色々ハイテクな航海機器の装備もあるのですが、他人目ひとめがあるような場合のために表面上ローテクな航海計器と機器を使えるようにします。
 例えば船内通信網は完備していますが、人目がある場合は伝声管若しくはメッセンジャーボーイを使うほか、光若しくは音によるモールスも使えるようにはしています。

 タイタニックが明治45年(1912年)4月に氷山と衝突し沈没することになりますが、船の操船技術もさりながら、あの会社自体に多少問題があるんですよね。
 ですから事後の教訓とさせるためにも、冷たいようですがあの船の事故はそのままにします。

 その上で、この船には余り必要ではないのですが、救命に必要な安全設備は現行法定以上の規格で搭載することにしています。
 この時期、そうした安全装備の検査をする機関でさえまともにはないのですから、搭載していても検査官に不審がられるかもしれませんけれどね。

 見かけ上の武装はないのですが、レーザー砲と電磁砲を搭載しています。
 そのほか、投射式爆雷装置二基、二回戦分を搭載しているので、戦う旅客船にもなります。

 仮装巡洋艦のつもりはないのですが、それ以上の兵装を隠し持っている船でもあるのです。
 乗組員は全員ゴーレムであるので掃除係のおばちゃんに見えても戦闘力は優に兵士百人分以上に匹敵します。

 従って、この船だけでも大国と戦争ができる仕様なのです。
 もちろん、こちらから喧嘩するつもりは毛頭なくあくまで専守防衛に努めるだけなのですけれどね。

 まぁ、傍目には薄っぺらな鋼板で覆われた見栄えの良いただの貨客船なのですが、現状でド級戦艦と言われる各国戦艦の主砲弾を浴びても被害を受けないだけの特殊合金鋼による重装甲にはなっていますね。
 さて、これで船籍登録をした上で必要な検査を受ければ、航海に出る準備は一応できたのですけれど、どちらに留学しましょうかね。

 今のところは、英国、米国が有力で、現状ではどちらも友好的なので少々悩むところではあります。
 米国ならばハーバード大学かマサチューセッツ工科大学。

 英国ならばオックスフォードで決まりでしょうね。
 ドイツは後々支障もありそうなので止めておきましょう。

 フランスもどちらかと言うと文化に自ら溺れ過ぎてている国ですからやめるつもりです。
 そうしていずれの国も、当代はアジア人に対する差別意識はすごく強いですからね、ロイヤルファミリーに対するお仕着せの笑顔だけを見ているときっと騙されますから要注意ですね。

 それと、どこまで私の能力を知らしめるかも問題です。
 まぁ、明確に力や能力の差を見せつけて恐れを抱かせることもできますが、おそれを抱くと彼らはすぐに暗殺に走ります。

 やってきた刺客なんぞ適当にやっつけてしまえますけれど、一々それに対応するのが面倒なんですよ。
 まぁ、自然体で出たとこ勝負でしょうかねぇ。

 海軍兵学校に進んでいれば、あるいは米英の海兵学校に行けたかもしれませんが、別に軍人さんに興味があるわけじゃないですから未練はありません。
 向こうのお偉いさんに勧められたり、招待があれば見学には参りましょうか。
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