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サクラ近衛将監

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第四章 学院生活(中等部編)

4ー15 編入生 その三

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 ヴィオラです。(キリッ。)
 夜中に襲ってきた不審者二人ですが、私が雷魔法で昏倒させた後、アレサさんの通報で宿の中は大騒ぎです。

 少なくとも生徒に付いていた従者やメイドたちは全員起きて来ました。
 深夜にもかかわらず、複数の者が廊下をどたばたと走れば普通に敏感な人は気づいてしまいますよね。

 あ、エミリア王女付きのアレサさんは、できる人ですからそんなに音は立てていませんよ。
 騒がしいのは、人の迷惑を顧みない近衛騎士団の人達です。

 どちらかと言うと武に疎いローナでさえ起きてしまいましたから。
 でもそんな喧騒の中でもエミリア王女は良く寝ていましたね。

 程なく、近衛騎士4人が不審者2人を捕縛して階下に連れて行きましたし、宿の周囲の警護体制が強化されました。
 そうして他の10名の不審者は、宿の動きを察知したようで、それ以上に接近する動きを止め、なおかつ左程の時間を置かずして、リーダーらしきものが頭上で大きく手を振りまわすと一斉に後退を始め、すぐにかなりの速度で逃げ出しました。

 夜間にも拘らず、私(ヴィオラ)の式神は、その動きを上空から個別に追尾して監視しています。
 式神にはそもそも隠蔽の術がかけられていますから、彼らに気づかれるようなことはありません。

 何らかの方法で宿の内部へ移動してきた二人の不審者は、近衛騎士の手で捕縛されていますけれど、念の為に彼ら二人を見失った式神二体を一旦廃し、新たに式神二体を付けています。
 最初に配置していた式神は上空で見張っていたために追尾を振り切られたみたいですので、捕らえた不審者二名のの衣服で二重になった部分の内側に張り付けてあります。

 こうすることにより、彼らがもう一度転移に似た術を使っても式神は追尾できるはずなんです。
 これは不審者二人が気づいて逃走を図った時に役立ちます。

 そうして、近衛騎士から代官所にも知らせが行ったのでしょうね。
 代官所からも二十名近くの手勢がやって来て、宿の周囲で警備を増強しています。

 これで万全、・・・・とは、言い難いですよねぇ。
 何しろ不審者の存在を知って警戒していた私でさえ出し抜かれてしまったんですから。

 仮に空間転移であるならば、どんなに周囲を固めても危険なことに変わりはないのです。
 問題は、アントニオ君が狙いだったにしろ、どうして彼の泊まる部屋を特定できたかです。

 誰か他にもスパイらしきものが周辺にいる可能性も捨てきれませんね。
 念のため、宿の上空に式神を飛ばして宿を俯瞰させたら、アントニオ君とカイン君の部屋の窓の下に小さな白布が垂れているのが分かりました。

 部屋は二階ですから、地上から人に見られずに貼り付けるのはかなり難しいでしょう。
 取り敢えず、怪しいのはアントニオ君とカイン君の部屋に出入りできた人間ですね。

 そうしておそらくは、私達中等部一年のAとBクラスが、この日ここに泊まるという事前情報を得ていなければ、そうした事前工作もできないのでしょうね。
 従って、ライヒベルゼン王国の王都、なかんずく学院の中にもその手先が入り込んでいることを疑わなければなりません。

 もっとも、空間転移の魔法にも似た移動方法を持っている術者がいるのなら、あるいは簡単に王都各所に忍び込んで重量書類などものぞき見ているのかも知れません。
 あれ、でもそれなら何で王都に居る間に狙ってこなかったのでしょうね?

 ルテナがその疑問に答えてくれました。
 王都には王都全体を覆うような結界があり、例えば空中からの侵入などができないようになっているのだとか。

 その派生で、特殊な転移なども制限されるというのです。 
 でも、でも、私(ヴィオラ)はこれまでなんでも転移魔法で王都内外で移動していますけれど?

『ヴィオラ様は、そもそも規格外なんですよ。
 ヴィオラ様の場合、王都を守護する結界の隙間を縫って移動していますから、その網に引っかからないだけですが、普通の魔法師にはそもそも空間魔法が使えませんし、結界の隙間を縫うような器用な真似はできません。』

 あれまぁ、そうでしたか。
 あ、ついでにルテナに聞いておきましょうか。

『ルテナ、あの不審者二人が私の式神を振り切って移動した方法が分かる?』

『推測の域を出ませんけれど、多分闇属性魔法の一種であるじゃないかと思います。
 転移魔法に比べると、移動の為の時間がかかっていそうですので、おそらく影の中の亜空間を走って移動している可能性がありますね。
 そうしてその移動速度は実空間を走るよりも格段に速いという事でしょう。
 今回の場合、三百尋から四百尋の距離を30数えるかどうかぐらいの時間で移動してきたようですので、普通に走るよりも二倍から三倍近い速度で移動できていそうです。
 しかも街中にも拘らず、障害物を無視して移動できるので色々と使い勝手が良いのではないでしょうか?
 まぁ、ヴィオラ様の空間転移に比べると比較にならないほど格下の能力ですけれど、周囲に知られずに移動できるというのはかなり便利でしょうね。」

『フーン、影魔法か・・・・。
 私にも使えるかなぁ。』

『はい、陰陽術の中に、影を操ったり、影の中に溶け込む術がありますけれど、これの応用で影から影への移動ができそうですね。』

 捕らえている二人がその術者だとすれば、捕縛していても術が発動できればすぐに逃げ出しそうですね。
 であれば、早目に私(ヴィオラ)にも使えるかどうか試しておきましょう。

 部屋に戻って色々と試してみましたけれど、意外と簡単にできちゃいました。
 そうして、そのまた応用で影魔法で侵入しようとする者を阻む結界も作れましたよ。

 これを宿の周囲百尋にわたって仕掛けておけば、外から影魔法による侵入ができません。
 ついでに罠も仕掛けておきました。

 捕らえた不審者が結界内部から影魔法で逃げようとしたら、途端に影空間で拘束されるようにしたんです。
 結界内で影空間に入ることはできても、彼らはそこから移動できなくなります。

 一旦この拘束を受けると、私が拘束を解除するまでは、彼らは一切の身動きができなくなるでしょうね。
 そんなこんなで一応の守りを固めてもう一度就寝です。

 逃げた10名の不審者に何か危険な動きが有れば式神が知らせてくれますので、取り敢えずは早めに寝ましょう。
 子供が育つためには、良く寝なければならないのです。

 それから明け方までは何事もなく推移、・・・。
 いえ、襲撃はありませんでしたけれど、やっぱり捕まった二人が逃走を図りました。

 で、またまた大騒ぎになりましたけれど、それは警護の人たちのお話です。
 私(ヴィオラ)達生徒は一時中断された眠りをしっかりと全うさせて頂きました。

 朝起きましたら、騒ぎになっていましたけれど、事情を知った私(ヴィオラ)が、不審者を捕らえていた一階の部屋まで行って確認をし、影空間に拘束されている二人を現実空間に引きずり出しました。
 拘束者二人は、後ろ手に縛られてはいましたけれど、足の方は動かせる状態だったんですね。

 だから、彼らとしては影空間を使って逃走できると判断したのでしょう。
 残念ながら彼らの目論見もくろみは外れ、影空間の中で全く身動きできない状態に置かれたのです。

 ところでこの忍者風のお二人さん、粗相をしていましたね。
 股間が濡れていますし、少々匂います。

 まぁ、そんな惨めな状況はさておいて、当然に周囲の人たちには不審者が逃げていた状況の説明が要りますよね。
 近衛騎士の隊長さんには、影魔法の使い手の恐れがあったので、逃走防止のために影空間に入り込んだなら、そこで拘束されるように罠を仕掛けておいたことを説明しました。

 これは二人の衣服に仕掛けてある式神に付与していますので、彼らが影空間に逃げ込めば何度でも拘束されるようになっていますが、そこまで説明はしません。
 従って、彼らに影空間を使って逃亡できる可能性はないのです。

 それと影空間で拘束を受けていたと云うことは、彼らが影魔法を使える術者という事が確定したことも教えておきました。
 余り私の能力を吹聴ふいちょうするのは避けたいところなのですけれど、この際は止むを得ません。

 少なくとも、ネグリジェ姿の無手のままで、毒刃を携えた不審者二人を瞬時に倒した時点で、関わり合いが避けられない状況になっています。
 後はできるだけ、関係者の方々に私の能力については秘匿するようにお願いするしかありません。

 それとエステバン君からの伝聞ですけれど、この不審者はレインバルク帝国の陰の組織の可能性もあるとの情報も伝えておきました。
 途端に近衛騎士の隊長さんの顔が強張りましたねぇ。

 事の重大性に今更ながら気づいたという事でしょう。

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