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サクラ近衛将監

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第二章 幼少期編

2ー8 化粧品騒動

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 お母様の誕生日の夕食会の席で、お父様からは花束と宝玉のネックレスがプレゼントされました。
 そうして私からは、化粧台と化粧品の贈り物です。

 実は、ヴィオラ(私)からお母様に贈り物をするのは今回が初めてなのです。
 お小遣いは左程に沢山はもらっていませんから、プレゼントを購入するのは難しいのです。

 ヴィオラ(私)が造った刺繡物なんかを贈ることも考えましたけれど、お母様にとって切実なのは、娘からのプレゼントの有無よりもお肌ですよね。
 ですから、今回は化粧台と化粧品にしました。

 ほとんど素材から自前で作ったものですから、労力は色々とかかっていますけれど、お金は余りかかっていません。
 購入した素材だけで言えば銀貨二枚程度のものです。

 他の人が造ろうとしたなら白金貨百枚でも足りるかどうかとは、ルテナの言葉です。
 ヴィオラ(私)がローナに合図すると、侍従三人で鏡台とスツールを、そうしてメイド長のカリンが恭しくピンク色の化粧箱コスメボックスを持ってきてくれました。

 化粧台にはスツールが付いていますので座ってお化粧ができるタイプです。
 化粧台には薄布がかけられていましたけれど、ローナがその薄布をうやうやしく取ってくれました。

 鏡は三面鏡になっていますので、そのままでは鏡が見えないのですけれど、ローナが手筈通りに三面鏡を開いてくれました。
 途端にお母様が飛びつくように鏡台に取り付きました。

 鏡面仕上げの鏡が綺麗にお母様の顔を映しています。
 お母様が首を左右に振りながら鏡に映る自分の姿を確認しています。

 そうして、「ふぅー」とため息を漏らして言いました。

「ヴィオラ、これはとても高い物じゃないのですか?
 お金はどうしました?」

「お母様、この鏡台にはほとんどお金がかかっておりません。
 素材として購入したのは、スツールの腰掛部分を覆っている布だけです。
 鏡台の木工部分は、我が家の納屋にあった木材を頂きましたし、鏡面の部分は土から抽出したものを使っています。
 ですので、ヴィオラ(私)の労力と魔力以外は、ごくごく些細な費用なんです。
 それよりもお金がかかったのは、その化粧台の引き出しに入っている化粧品とカリンが持っている化粧箱に入っている化粧品なのです。
 但し、この化粧品も素材の購入費用だけで言えば銀貨1枚半ぐらいでしょうか。
 お母様のために作った化粧品を見ていただけますか?」

 最初に鏡台の中に収めていた化粧品を披露しました。
 綺麗なガラス瓶に収められた数々の化粧品には、シールを張って、飾り文字で名前と用途を手書きで綺麗に記載しておきました。

 そうして、カリンが持っていた綺麗な化粧箱も開いて、中のパレット群やスティック、マスカラなどの説明もします。
 化粧箱はミスリルとオリハルコンの合金からできている金属製の箱で、開くと三段に分かれて開き、上蓋には小さな鏡も付いています。

 この鏡も勿論鏡面仕上げのミスリルなんですよ
 但し、この化粧箱の中身のコスメには説明書きがありません。

 基本的に外に持ち出すものですから、手書きの名前や用途は余計なものと考えたのです。
 お母様はとても綺麗な色合いのコスメの数々を見てうっとりとされています。

 そうしてもう一つあったのですが、こちらは、お母様だけへのプレゼントではないので最後にしました。
 ボディシャンプーとリンス付きヘアーシャンプーです。

 ガラスの器に入ってプッシュタイプのポンプで内溶液が噴射できるようにした代物です。
 こうした手押しポンプ自体は、この世界にはまだ発明されていない代物のようです。

 貴族の屋敷である我が家には立派な浴室があり、大理石でできたお風呂があるんです。
 但し、お風呂に入るのは原則として二日に一度ぐらいですね。

 薪代まきだいが結構高くつくのです。
 貴族は魔力を持っていますけれど、平民と呼ばれる人は往々にして保有魔力は小さいのです。

 そうしてまた、我が家の浴槽は大きいのでそこの湯を沸かそうとするとかなりの魔力を必要として、ハーフエルフのカリンでさえお風呂を沸かすには魔力を半分以上も持って行かれるようです。
 従って、浴槽のお湯を沸かすのには魔力は使わないことになっているのです。

 この辺も改良の余地がありますよね。
 そのうち温泉を探し当てようと思っているヴィオラ(私)でした。

 その夜は、お母様につきっきりで化粧品の使い方を教える羽目になりました。
 その翌日も朝からお母様の寝室で実地練習です。

 化粧をするとお母様がとてもきれいになりました。
 お父様曰く、5歳以上も若返ったのじゃないかと言っていましたね。

 その言葉を聞いてとっても晴れやかな笑顔を見せてくれたお母様を見ると、ヴィオラ(私)も苦労した甲斐があったというものですね。
 ただし、このことが後に大きな反響を呼ぶことになりました。

 お母様の化粧品は消耗品ですから、一月ひとつきから二月ふたつきに一度ぐらいは補充の必要があります。
 そのために複製品を一年分ほど既に用意してありますので当座の心配はないのですけれど、隣の侯爵領で開催されたお茶会にお母様が出席した際に、お母様の化粧が話題になってしまったのです。
 
 お母様は、まさか娘が作ってくれたものとは言えずに、領内の秘蔵職人が作る特別な化粧品で生産量がとても少ない希少なものと説明したのですけれど、それではお金に糸目はつけないので何とか入手してくださいなと必死の形相でお願いされてしまったらしいのです。
 単なるお茶会での話とはいえ、貴族の夫人が集まる茶会であり、侯爵夫人はもちろん、公爵夫人までが参加していたために、これをお母様が無下にお断りすることは流石に難しかったようです。

 家に持ち帰り、秘蔵職人と相談しますと言ってお茶を濁したようですけれど、実はお母様に渡した化粧品と同じものを作れば良いというものではないんです。
 人によって肌質は違います。

 お母様の娘である私とお姉さまでも微妙に違いますから、ましてや血のつながりのない他の貴族の夫人など一人一人が全く肌質は違うと思っても良いのだろうと思うのです。
 私が造った化粧品は、お母様の肌を注意深く鑑定・分析して得た情報から作り上げた逸品いっぴんなのです。

 仮にこの化粧品を他の人が使った場合に、お母様の肌と同じ効果が出るとは必ずしも保証できません。
 場合によっては、肌に合わずかえって肌荒れを起こす原因になる恐れさえもあるのです。

 肌に悪いものは使っていませんけれど、何事にも相性というものがあるのです。
 さてさて、どうしましょうか・・・。

 結局、私がお肌の検査用パッチシートを作り、お母様にお願いして、ご要望のあった御夫人に洗顔した後(これ大事)の額、両頬、鼻の四か所にパッチシートを貼って、ゆっくりと数を30数えてから剝がしてもらったものを、特別の容器に容れて送り返してもらうことにしました。
 少なくとも対象者の肌の性質がわからないと、幾らヴィオラ(私)が神々の加護を頂いているとしてもどうにもなりません。

 その調査を行った上で、場合により補足分は、ヴィオラ(私)が秘密裏に出向いて、じかに見分し、鑑定を掛けることにします。
 勿論、人に見られないようにしなければなりませんから、昔の忍者のようにこっそりとしなければなりません。

 どんなに注意深くやっても肌に合わない危険性はあるのですけれど、その辺はその可能性があると再三注意しておくしかありません。
 そうして全てのやり取りが終わって二か月後に、それぞれの御婦人方に合わせた化粧品が出来上がりました。

 余り広まっても困りますので、最初から吹っ掛けた値段をつけさせてもらいました。
 でも、貴族の御婦人方にとっては、お高い化粧品代も何の苦にもならないようですね。

 それから半年後、お母様の元へ王都からたくさんの注文が舞い込んだのです。
 吹っ掛けた値段ですから、化粧品のワンセットが大金貨5枚ほどかかるんですよ。

 それも概ね一月分前後の量ですから、年間(16か月分)では白金貨6枚から8枚近くになるんですが、王都でも金に糸目をつけない御婦人が沢山おられるようです。
 で、困ってしまうのは、今のところ作れるのが私一人ということなんです。

 流石に沢山のご要望があっても、右から左に生産するというわけには参りません。
 法外な値段のお金もそんなに沢山は要りませんので、お母様のところで交通整理をしていただくことにしました。

 有象無象うぞうむぞうの貴族については、先ずねてしまいます。

 お母様の知り合いで、しかも断り切れないところだけにしてもらいました。
 お母様が最初に嘘をついた「領内の秘蔵職人が作る特別な化粧品で生産量がとても少ない希少なもの」というのが効きました。

 購入できる方は、伯爵、辺境伯、侯爵の正室のみ、それに公爵の正室及び側室、王家の血筋に限定したのです。
 これでも伯爵、辺境伯、侯爵だけで21名、公爵の正室と側室で4人、王家の血筋の成人または成人間近の女性が6名なんです。

 合わせて31名分、お母様の分を容れると32名分になりますけれど、全員が微妙に肌質は違いますので、それぞれに異なる製品を作らざるを得ません。
 後は1年に一度肌質の変化を見るためにパッチを使った調査にも付き合ってもらいます。

 年齢によっては徐々に老化が増えるはずですので、化粧品もそれに対応させる必要があるからです。
 前世では寝たっきりで化粧っ気の全くない私でしたし、現世でも未だに幼い私が化粧をするわけにも行かないわけですが、なぜかヴァニスヒル秘蔵の謎の化粧職人になってしまいました。

 この身分については、外部には絶対に明かすわけには参りません。
 またまたヴィオラ(私)の秘密が増えちゃいましたけれど、従者やメイドはしっかりと秘密を守ってくれています。

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