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第二章 幼少期編
2ー3 襲撃 その二
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危害が加えられるとわかっていておとなしくしているほどヴィオラ(私)も呑気ではありません。
ヴィオラ(私)は、即座に索敵で敵味方を識別し、無詠唱で魔法を放ちました。
一瞬にして、聖堂に侵入してきた男たちがにやついた表情のまま、その場で凍り付き、崩れ落ちました。
聖堂の中だけではなく、外も同様です。
教会の敷地に入り込んでいた者達全部で82名全員を凍り付かせたのです。
氷結魔法を使いましたけれど、命までは奪っていません。
どちらかというと急激な体温低下により、彼らは凍死の一歩手前の状況に陥っているはずで、その状態では戦闘などできようはずもありません。
これで襲撃者の中に動ける者は居ないはずです。
そうして修道女も含めて結構な数の負傷者が居るようなので、聖属性魔法の治癒魔法を範囲と対象者を指定して放ちました。
敵以外の負傷者は、ある程度治癒がなされたと思いますが、敢えて左程の強さにはしなかったので完全に治癒するほどではないはずです。
動ける騎士たちがすぐさま全員を捕縛し始めました。
私はそれを察知してほっとしたわけなのですが、生憎と魔法の発動を知られてしまったようです。
無詠唱の魔法発動なので誰にも知られていないと思っていたのですが、ルテナが教えてくれました。
お母様の専属メイドのカテリナさんは特殊なスキルを持っていて、目の前で魔法の発動が為されるとそれに気づいてしまうのだとか。
で、そのカテリナさん、何の魔法であるかは分からないまま、お母様に私が強力な魔法を発動したようだとご注進しちゃったのです。
どうやらカテリナさんは、魔素の動きで魔法の発動を察知できるようですね。
大規模魔法と言うかどうか、範囲を指定してその範囲の敵全てに発動した氷結魔法ですし、味方と思われる負傷者全員に発動した治癒魔法ですので、大規模魔法と誤解しても不思議はありません。
でもヴィオラ(私)自身は、大した魔力は使っていないのですよ。
お母様が、ヴィオラ(私)をじろっと睨んでから、ぼそっと言いました。
「ヴィオラ、あとで話があります。」
表情の読めないようなお顔の時は、お母様が怒っていらっしゃる時なのです。
お父様がお母様に説教される時にたまに見かける顔なんです。
いつもお父様は、お母様がこの顔付きの時はとても怖がっていらっしゃいますけれど、私も何となく背筋が冷たい感じがしますね。
これはもう、叱られることは確実なようです。
緊急避難なのでやむを得ないことと思いますけれど、・・・。
やっぱり、幼子が勝手に魔法を使ってはいけないのでしょうか?
その後、教会は内外で大騒ぎになりましたが、中断された儀式は、取り敢えず表面だけ取り繕って何とか終了、予定通りに軽食を頂くことになりました。
但し、本当は聖堂の裏手に在る食堂で頂くはずだったのですけれど、そこでは血が飛び散っているような状態になってしまったので、ここでの会食はまずいと判断され、聖堂右手に在るお庭で野外のお茶会のように机と椅子を並べて簡素な食事を頂くことになりました。
本来であれば、式典が終わってからオルト・ゴートに行く予定でしたけれど、護衛の騎士の方で負傷した者が三分の一も出たことから、予定を変更して領都へ戻ることになりました。
重傷者も少なからず出たようなのです。
もう少し治癒魔法を使おうかと思いましたが止めました。
小動物を使って訓練はしていますけれど、そもそも人に使うのは初めてですので力加減がよく解からないのです。
例えば切断された腕が再生するなどしてやり過ぎると説明に困りますから、さっきはかなり手加減したのですが、お母様に睨まれているから、少なくともカテリナさんが見ているところでは発動できません。
幸いにして教会の修道女が追加の治癒魔法をかけてくれたようです。
帰りの馬車に乗る時に、お母様が特別の指示をされました。
行きは、お母様、お姉さま、それにヴィオラ(私)の三人とそれぞれの専属メイドが同じ馬車に乗って来たのですが、カテリナさん以外のメイドは別の馬車に乗るように命じたのです。
これはいわゆるお人払いというやつですね。
内緒の話をする際に良く使われる方法です。
お母様の判断では、お姉さまも秘密を知っても良い範疇に入れたみたいですね。
四人が乗って扉が締められ、馬車が動き出すとお母様が言いました。
「グロリア、これから聞く話は、決して他人に漏らしてはなりません。
その意味で、聞いていても一切知らぬふりをなさい。」
そうお姉さまに言ってから、改めて私を見据えます。
「さて、ヴィオラ、貴方は聖堂で魔法を放ちましたね。
何故、魔法を使ったのですか?」
「あの、あの、・・・。
あのまま放置しては、騎士や私達の周囲に死人が出ると思いました。
そうして彼らが狙っていたのは、お母様やお姉様それに私だと思いました。
ですから彼らが好き勝手に動く前に彼らの動きを封じました。」
「使ったのは何の魔法ですか?」
「えーっと、あの、こっ、こ、氷属性の氷結魔法です。」
「氷結魔法・・・。
確か範囲指定の魔法の筈ですけれど、襲撃者だけで周囲に居たものに被害が及ばなかったのは何故なのかな?」
「えーっと、最初に索敵をして、襲撃者と味方を判別しました。
その上で、教会の敷地内に居る全ての襲撃者に氷結魔法を掛けました。」
「うーん、・・・。
普通の氷結魔法は、範囲内にある者すべてを凍り付かせるもので、非常に使い勝手の悪いものなのですよ。
それを、個別に限定してなんて・・・。
それも敷地内全て?
かなり広いのですけれど・・・。
敷地内には何人の襲撃者が居たのかヴィオラは知っていますか?」
「全部で82名でした。」
「82名?
その数を確認するのにどれほど時間がかかりましたか?
「索敵を使いましたら、一瞬で把握できました。
悪意を持つ者とそうでない者に仕分けしたからです。」
「その82名に対して放った魔法は82回なの?」
「いいえ、対象を絞って一度だけの発動です。」
お母様は首を横に振りながら、眉間のしわがいよいよ深くなっているようです。
お母様、段々と怖い顔になっていますわよ。
「それに、ヴィオラは無詠唱で魔法を放ちましたね?
魔法など教えていないのに、何故に無詠唱で、しかも上級魔法が使えるのですか?」
「あの、あの、・・・。
お父様の書斎に在る魔法書を読みましたし、その本を理解して自分で練習もしてみました。
ですから、魔法も使えます。
無詠唱は、最初から無詠唱で魔法を発動できるように練習しました。」
「魔法の練習はどこで?」
「えっと、えっと・・・。
自分の部屋です。
でも魔法の規模や威力が大きくなると部屋の中では使えないので、空間属性で練習場を作り、その中で練習しました。」
「まぁ、別の空間で?
何だか信じられないような話ですね。
でも、今日の襲撃もその撃退劇も事実でしたから、信じざるを得ませんね。
ヴィオラ、今後あなたは勝手に魔法を使ってはいけません。
自分の身に危険が迫った時だけは特別に許しますけれど、その場合でも限度をわきまえて使いなさい。
それ以外の場合は、魔法を使う前に私やお父様に確認しなければなりません。」
「はい、使いません。
今回も、お母様やお姉さまに危害が及ばないことが解かっていれば使いませんでした。
でも修道女の人が切られて、あのままでは多くの人の命が危険と思ったのです。」
そこでカテリナさんが口を挟みました。
「ヴィオラお嬢様が魔法を放ったのは、僅かの間ですが三回と覚えております。
分けて発動したのではないのですか?」
カテリナさんが記憶しているのは、短い間の三回だけのようですから常時発動していたセンサーの方はどうやら気づかれていないようですね。
「あの、多分、索敵で一回、氷結魔法で二回、それに治癒魔法で三回だと思います。」
「ヴィオラ、貴方、治癒魔法も使ったの?
なぜ?」
「目の前で修道女の方が切られていましたよね。
彼女の傷は深手でしたから、処置が遅ければ死ぬかもしれなかったからです。
他にも裏門を警護していた騎士で重症の方もいましたので、取り敢えず命だけは助かるように簡易な治癒魔法を使いました。」
「うーん、要するに貴方が見えない場所にいる人の怪我も治癒したということなの?」
「はい、そうです。」
「それだと敵である襲撃者も治癒してしまうのではなくって?」
「いいえ、それも範囲指定の上に、対象者を指定しましたので、襲撃者を治癒するような魔法ではありません。」
「うーん、・・・。
つくづく、とんでもない魔法だわね。
そんな魔法が行使できるなんて、聞いたこともないわ。
いずれにせよ、この件はお父様にも正確に申し上げなければなりません。
お父様からお叱りを受けるのは覚悟なさい。」
お母様からの詰問は一応終了しましたが、馬車の中は随分と気まずい雰囲気が続きました。
中でも、お姉様は私の顔をまじまじと見つめていますので、居心地が凄く悪いです。
それでも馬車は順調に進み、やがて我が家に辿り着きました。
馬車の扉が外から開かれ、執事長のデンゼルが手を貸してくれたので、馬車から降りようとして足を踏み出した途端に、私は何故かブラックアウトしてしまったのです。
◇◇◇◇
次に目が覚めた時、私は自分の部屋のベッドに寝かされていました。
ベッドの傍らには、お母様とローナが椅子に腰かけたまま、転寝をしています。
多分、疲れたのでしょう。
ルテナに聞いてみると、私が馬車を降りる時に急激なレベルアップで意識が持っていかれたようです。
たまたま執事長が私の手を握っていたので転落を免れたのですが、そうでなければあるいは大怪我をした可能性もあったとのことです。
馬車って結構段差があるものね。
普通ならば、四歳児の私では乗るのも降りるのも一苦労なんです。
で、私の部屋に運び込まれて以来、夕食も食べずにお母様とローナがずっと付き添ってくれていたみたいです。
御免なさい、お母様、それにローナ。
でも、なんでだろう。
魔力はそんなに使っていないから魔力切れは無いはずなのに・・・。
でも続くルテナの説明で原因が分かりました。
ある程度の年齢になるとかなり和らぐのですが、極々稀に偶然にでも幼児期に獣を倒したりすると、一気にレベルが上昇するために身体的に急激なステータス改変が起こって、失神したり動けなくなったりすることがあるそうなんです。
特に、骨や筋肉が未発達の幼児は、激しい全身の痛みにも襲われるそうで、場合によっては死亡する場合もあるんだとか。
私の場合は、普段から幼児としては想定外なほど筋肉を鍛えていましたので筋肉痛などは免れたわけですが、レベルアップによる異常な進化がブラックアウトを引き起こしたようです。
因みに、襲撃者82名に対する氷結魔法がそのまま攻撃と見做され、その成果として全員が凍てついたので一挙にレベルが七つも上がってしまったのです。
また、治癒魔法も対象者が多かったことからレベルアップの対象になり、更に上乗せがあったことので、全部併せて10もレベルが上がってしまったようです。
因みにお母様はその件で随分と責任を感じていらっしゃるとか。
お母様は、エルグンド家へ嫁ぐ前の実家に居た頃に、領民の樵の幼子が偶然にも魔物を倒してしまい、急激なレベルアップの所為でそのまま動けなくなって死亡した事例をたまたま良く承知していたのだそうです。
そのことを知っていながら、強力な魔法を使って襲撃者を倒したヴィオラが、レベルアップするであろうことに気づかなかった自分を責めているようです。
枕元で何度も何度も御免なさいと呼びかけていたそうです。
お母様、本当にご心配をかけて申し訳ありません。
ヴィオラ(私)は大丈夫ですから、ご自分を責めないでください。
お母様の横顔を見ながらそんなことを考えていました。
でも、おなかがすいたね。
何か食べるものは無いのかなぁ。
そんなことを考えているとローナと目が合いました。
ローナが転寝から目覚めたようです
ローナが飛び撥ねるように立ち上がり、ベッドに近寄って言いました。
「お嬢様、大丈夫ですか?
どこか痛いところはありませんか?」
その声でお母さまも身じろぎして目覚めたようです。
「大丈夫です。
何処も痛くありません。
ローナも、お母様もありがとう。
随分と心配をかけたみたいですね。
痛くはありませんが・・・・。
おなかが少しすきました。」
すると二人は顔を見合わせて苦笑いをしていました。
それから私の部屋でかなり遅い食事を三人でいただきました。
因みにもう夜中ですので、お父様へのご報告は明日になるとのことでした。
私は半日近く寝ていたようですね。
ヴィオラ(私)は、即座に索敵で敵味方を識別し、無詠唱で魔法を放ちました。
一瞬にして、聖堂に侵入してきた男たちがにやついた表情のまま、その場で凍り付き、崩れ落ちました。
聖堂の中だけではなく、外も同様です。
教会の敷地に入り込んでいた者達全部で82名全員を凍り付かせたのです。
氷結魔法を使いましたけれど、命までは奪っていません。
どちらかというと急激な体温低下により、彼らは凍死の一歩手前の状況に陥っているはずで、その状態では戦闘などできようはずもありません。
これで襲撃者の中に動ける者は居ないはずです。
そうして修道女も含めて結構な数の負傷者が居るようなので、聖属性魔法の治癒魔法を範囲と対象者を指定して放ちました。
敵以外の負傷者は、ある程度治癒がなされたと思いますが、敢えて左程の強さにはしなかったので完全に治癒するほどではないはずです。
動ける騎士たちがすぐさま全員を捕縛し始めました。
私はそれを察知してほっとしたわけなのですが、生憎と魔法の発動を知られてしまったようです。
無詠唱の魔法発動なので誰にも知られていないと思っていたのですが、ルテナが教えてくれました。
お母様の専属メイドのカテリナさんは特殊なスキルを持っていて、目の前で魔法の発動が為されるとそれに気づいてしまうのだとか。
で、そのカテリナさん、何の魔法であるかは分からないまま、お母様に私が強力な魔法を発動したようだとご注進しちゃったのです。
どうやらカテリナさんは、魔素の動きで魔法の発動を察知できるようですね。
大規模魔法と言うかどうか、範囲を指定してその範囲の敵全てに発動した氷結魔法ですし、味方と思われる負傷者全員に発動した治癒魔法ですので、大規模魔法と誤解しても不思議はありません。
でもヴィオラ(私)自身は、大した魔力は使っていないのですよ。
お母様が、ヴィオラ(私)をじろっと睨んでから、ぼそっと言いました。
「ヴィオラ、あとで話があります。」
表情の読めないようなお顔の時は、お母様が怒っていらっしゃる時なのです。
お父様がお母様に説教される時にたまに見かける顔なんです。
いつもお父様は、お母様がこの顔付きの時はとても怖がっていらっしゃいますけれど、私も何となく背筋が冷たい感じがしますね。
これはもう、叱られることは確実なようです。
緊急避難なのでやむを得ないことと思いますけれど、・・・。
やっぱり、幼子が勝手に魔法を使ってはいけないのでしょうか?
その後、教会は内外で大騒ぎになりましたが、中断された儀式は、取り敢えず表面だけ取り繕って何とか終了、予定通りに軽食を頂くことになりました。
但し、本当は聖堂の裏手に在る食堂で頂くはずだったのですけれど、そこでは血が飛び散っているような状態になってしまったので、ここでの会食はまずいと判断され、聖堂右手に在るお庭で野外のお茶会のように机と椅子を並べて簡素な食事を頂くことになりました。
本来であれば、式典が終わってからオルト・ゴートに行く予定でしたけれど、護衛の騎士の方で負傷した者が三分の一も出たことから、予定を変更して領都へ戻ることになりました。
重傷者も少なからず出たようなのです。
もう少し治癒魔法を使おうかと思いましたが止めました。
小動物を使って訓練はしていますけれど、そもそも人に使うのは初めてですので力加減がよく解からないのです。
例えば切断された腕が再生するなどしてやり過ぎると説明に困りますから、さっきはかなり手加減したのですが、お母様に睨まれているから、少なくともカテリナさんが見ているところでは発動できません。
幸いにして教会の修道女が追加の治癒魔法をかけてくれたようです。
帰りの馬車に乗る時に、お母様が特別の指示をされました。
行きは、お母様、お姉さま、それにヴィオラ(私)の三人とそれぞれの専属メイドが同じ馬車に乗って来たのですが、カテリナさん以外のメイドは別の馬車に乗るように命じたのです。
これはいわゆるお人払いというやつですね。
内緒の話をする際に良く使われる方法です。
お母様の判断では、お姉さまも秘密を知っても良い範疇に入れたみたいですね。
四人が乗って扉が締められ、馬車が動き出すとお母様が言いました。
「グロリア、これから聞く話は、決して他人に漏らしてはなりません。
その意味で、聞いていても一切知らぬふりをなさい。」
そうお姉さまに言ってから、改めて私を見据えます。
「さて、ヴィオラ、貴方は聖堂で魔法を放ちましたね。
何故、魔法を使ったのですか?」
「あの、あの、・・・。
あのまま放置しては、騎士や私達の周囲に死人が出ると思いました。
そうして彼らが狙っていたのは、お母様やお姉様それに私だと思いました。
ですから彼らが好き勝手に動く前に彼らの動きを封じました。」
「使ったのは何の魔法ですか?」
「えーっと、あの、こっ、こ、氷属性の氷結魔法です。」
「氷結魔法・・・。
確か範囲指定の魔法の筈ですけれど、襲撃者だけで周囲に居たものに被害が及ばなかったのは何故なのかな?」
「えーっと、最初に索敵をして、襲撃者と味方を判別しました。
その上で、教会の敷地内に居る全ての襲撃者に氷結魔法を掛けました。」
「うーん、・・・。
普通の氷結魔法は、範囲内にある者すべてを凍り付かせるもので、非常に使い勝手の悪いものなのですよ。
それを、個別に限定してなんて・・・。
それも敷地内全て?
かなり広いのですけれど・・・。
敷地内には何人の襲撃者が居たのかヴィオラは知っていますか?」
「全部で82名でした。」
「82名?
その数を確認するのにどれほど時間がかかりましたか?
「索敵を使いましたら、一瞬で把握できました。
悪意を持つ者とそうでない者に仕分けしたからです。」
「その82名に対して放った魔法は82回なの?」
「いいえ、対象を絞って一度だけの発動です。」
お母様は首を横に振りながら、眉間のしわがいよいよ深くなっているようです。
お母様、段々と怖い顔になっていますわよ。
「それに、ヴィオラは無詠唱で魔法を放ちましたね?
魔法など教えていないのに、何故に無詠唱で、しかも上級魔法が使えるのですか?」
「あの、あの、・・・。
お父様の書斎に在る魔法書を読みましたし、その本を理解して自分で練習もしてみました。
ですから、魔法も使えます。
無詠唱は、最初から無詠唱で魔法を発動できるように練習しました。」
「魔法の練習はどこで?」
「えっと、えっと・・・。
自分の部屋です。
でも魔法の規模や威力が大きくなると部屋の中では使えないので、空間属性で練習場を作り、その中で練習しました。」
「まぁ、別の空間で?
何だか信じられないような話ですね。
でも、今日の襲撃もその撃退劇も事実でしたから、信じざるを得ませんね。
ヴィオラ、今後あなたは勝手に魔法を使ってはいけません。
自分の身に危険が迫った時だけは特別に許しますけれど、その場合でも限度をわきまえて使いなさい。
それ以外の場合は、魔法を使う前に私やお父様に確認しなければなりません。」
「はい、使いません。
今回も、お母様やお姉さまに危害が及ばないことが解かっていれば使いませんでした。
でも修道女の人が切られて、あのままでは多くの人の命が危険と思ったのです。」
そこでカテリナさんが口を挟みました。
「ヴィオラお嬢様が魔法を放ったのは、僅かの間ですが三回と覚えております。
分けて発動したのではないのですか?」
カテリナさんが記憶しているのは、短い間の三回だけのようですから常時発動していたセンサーの方はどうやら気づかれていないようですね。
「あの、多分、索敵で一回、氷結魔法で二回、それに治癒魔法で三回だと思います。」
「ヴィオラ、貴方、治癒魔法も使ったの?
なぜ?」
「目の前で修道女の方が切られていましたよね。
彼女の傷は深手でしたから、処置が遅ければ死ぬかもしれなかったからです。
他にも裏門を警護していた騎士で重症の方もいましたので、取り敢えず命だけは助かるように簡易な治癒魔法を使いました。」
「うーん、要するに貴方が見えない場所にいる人の怪我も治癒したということなの?」
「はい、そうです。」
「それだと敵である襲撃者も治癒してしまうのではなくって?」
「いいえ、それも範囲指定の上に、対象者を指定しましたので、襲撃者を治癒するような魔法ではありません。」
「うーん、・・・。
つくづく、とんでもない魔法だわね。
そんな魔法が行使できるなんて、聞いたこともないわ。
いずれにせよ、この件はお父様にも正確に申し上げなければなりません。
お父様からお叱りを受けるのは覚悟なさい。」
お母様からの詰問は一応終了しましたが、馬車の中は随分と気まずい雰囲気が続きました。
中でも、お姉様は私の顔をまじまじと見つめていますので、居心地が凄く悪いです。
それでも馬車は順調に進み、やがて我が家に辿り着きました。
馬車の扉が外から開かれ、執事長のデンゼルが手を貸してくれたので、馬車から降りようとして足を踏み出した途端に、私は何故かブラックアウトしてしまったのです。
◇◇◇◇
次に目が覚めた時、私は自分の部屋のベッドに寝かされていました。
ベッドの傍らには、お母様とローナが椅子に腰かけたまま、転寝をしています。
多分、疲れたのでしょう。
ルテナに聞いてみると、私が馬車を降りる時に急激なレベルアップで意識が持っていかれたようです。
たまたま執事長が私の手を握っていたので転落を免れたのですが、そうでなければあるいは大怪我をした可能性もあったとのことです。
馬車って結構段差があるものね。
普通ならば、四歳児の私では乗るのも降りるのも一苦労なんです。
で、私の部屋に運び込まれて以来、夕食も食べずにお母様とローナがずっと付き添ってくれていたみたいです。
御免なさい、お母様、それにローナ。
でも、なんでだろう。
魔力はそんなに使っていないから魔力切れは無いはずなのに・・・。
でも続くルテナの説明で原因が分かりました。
ある程度の年齢になるとかなり和らぐのですが、極々稀に偶然にでも幼児期に獣を倒したりすると、一気にレベルが上昇するために身体的に急激なステータス改変が起こって、失神したり動けなくなったりすることがあるそうなんです。
特に、骨や筋肉が未発達の幼児は、激しい全身の痛みにも襲われるそうで、場合によっては死亡する場合もあるんだとか。
私の場合は、普段から幼児としては想定外なほど筋肉を鍛えていましたので筋肉痛などは免れたわけですが、レベルアップによる異常な進化がブラックアウトを引き起こしたようです。
因みに、襲撃者82名に対する氷結魔法がそのまま攻撃と見做され、その成果として全員が凍てついたので一挙にレベルが七つも上がってしまったのです。
また、治癒魔法も対象者が多かったことからレベルアップの対象になり、更に上乗せがあったことので、全部併せて10もレベルが上がってしまったようです。
因みにお母様はその件で随分と責任を感じていらっしゃるとか。
お母様は、エルグンド家へ嫁ぐ前の実家に居た頃に、領民の樵の幼子が偶然にも魔物を倒してしまい、急激なレベルアップの所為でそのまま動けなくなって死亡した事例をたまたま良く承知していたのだそうです。
そのことを知っていながら、強力な魔法を使って襲撃者を倒したヴィオラが、レベルアップするであろうことに気づかなかった自分を責めているようです。
枕元で何度も何度も御免なさいと呼びかけていたそうです。
お母様、本当にご心配をかけて申し訳ありません。
ヴィオラ(私)は大丈夫ですから、ご自分を責めないでください。
お母様の横顔を見ながらそんなことを考えていました。
でも、おなかがすいたね。
何か食べるものは無いのかなぁ。
そんなことを考えているとローナと目が合いました。
ローナが転寝から目覚めたようです
ローナが飛び撥ねるように立ち上がり、ベッドに近寄って言いました。
「お嬢様、大丈夫ですか?
どこか痛いところはありませんか?」
その声でお母さまも身じろぎして目覚めたようです。
「大丈夫です。
何処も痛くありません。
ローナも、お母様もありがとう。
随分と心配をかけたみたいですね。
痛くはありませんが・・・・。
おなかが少しすきました。」
すると二人は顔を見合わせて苦笑いをしていました。
それから私の部屋でかなり遅い食事を三人でいただきました。
因みにもう夜中ですので、お父様へのご報告は明日になるとのことでした。
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