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第十三章 異変? 災厄?

13ー2 対策と準備

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 夕食後、俺の家族全員が集まった。
 その上で人払いをする。

 契約魔法で従者たちには秘密保持が義務付けられているから、秘密が漏れる心配はない。
 それでも余計な心配はさせない方が良いだろう。

 俺の嫁sの9人と、その子供たち27人が揃っている。
 上の子は15歳になり、末っ子の十一女ディアナで12歳になる。

 兄姉たちに鍛えられているからうちの子たちは精神年齢も知能も高いんだ。
 地球の年齢に換算するとディアナでも14歳か15歳、中学三年生か高校一年生ぐらいになる。

 年長の子たちはホブランドではもう成人扱いなんだ
 貴族の子で許嫁なんぞを決めている者もいるし、既に結婚している者もいる。

 まぁ、うちの子は焦る必要もない。
 アグネスやらビアンカには盛んにその手の話が来ているが、丁重に断っているところだ。

 ウチでは本人の意向を大事にする。
 従って、見ず知らずの貴族の下へ嫁がせるような真似はしない。

 実際に、来た縁談全てを断っているのが、実はウチの子たちだ。
 まぁ、仕方がないだろうな。

 世間知らずのボンボンだと娘たちの伴侶には相応しくないと俺でもそう思う。
 嫁s達も表向き多少の心配をしている素振りは見せているが、その実、本心では全く放任だ。

 自分たちで自分の伴侶は見つければ良いと鷹揚に構えている。
 焦っているのは、むしろそれぞれのジジとババだな。

 ホブランドの慣例と違うことをしていれば、やっぱり気にはなるのだろう。
 俺としては、「心配すんな」と大声で言いたいところだが、まぁ、苦笑して終わりだな。

 今日の会合のお題は、隕石メテオのお話だ。
 そんな表題の映画がかなり昔にあったよな。

 俺も地球に居た頃にビデオで見た記憶があるんだが、ストーリーは覚えていないな。
 取り敢えずは、事実関係だけを全員に知らせる。

 その上で、放置すればこのホブランド世界は消滅するとも伝えた。
 流石にそれを聞いて嫁s達も青くなった。
 
 それでもコレットが言った。

「旦那様なら何とか出来るのではないのですか?」

「何とかしようとは思っているのだが、多分、私一人では時間も力も不足する気がしている。
 ただ、逃げようと思えば逃げられるぞ。
 但し、人数は限定されるな。
 単純に言って領内の領民全てを救うこともできないだろうし、ジェスタ国全ての者は絶対に無理だ。
 それに避難した先で食料も確保できない状況では避難しても先が無い。」

 重々しい雰囲気の中で、フェルディナンドが発言した。

「父上は異世界への避難を考えておられますか?」

「最悪の場合、そうなるかも知れないが、そうした場合、避難した先での摩擦が大きくなるだろう。
 ホブランドのことで余り他の世界をわずらわせたくは無いというのが本音だ。」

 次はアグネスが言った。

「でも、先日ご報告したアルブレシオ世界ならば、人は居ませんのであるいは大規模移民も可能かもしれません。」

「確かにそうなのだが、一方でアルブレシオ世界の独自の進化に干渉することになるぞ。
 それに、ホブランドから避難させられない者たちはどうする?
 見捨てるのか?」

 サムエルが発言した。

「全てを助けられない場合は、救えるものを救うべしというのが父上の教えだったと思います。」

「確かに、災害その他で重症者や病人が多い場合、トリアージにより最大の利益を生むよう選別することも教えたな。」

 俺は、間をおいて話した。

「単純な能力から言えば、明日から二か月の間、子供達も含めて全員で頑張れば、ファンデンダルク領に住む住人の半分程度は救えるかもしれないが、全員は無理だろうと思っている。
 そうして非常に大きな賭けになるかも知れないが、今一つの方法もある。
 明日から全精力を傾けて、飛来する隕石を迎え撃つための準備を行うことだ。
 残念ながらウチの領内に居る魔法師や錬金術師は能力が低すぎて使えないだろう。
 また、これまで行ったこともない宇宙では、いかなる騎士も役には立たないこともわかっている。
 この作戦で使えるのは、私と子供たちがメインになる。
 総力を挙げて立ち向かえば、あるいはホブランド世界を救えるかもしれないが、同時に失敗すれば、家族とほんの少しの人々を別世界に避難させることができるだけになるだろう。
 つまりは、ホブランド世界全部か。ほんの一握りかの選択になる。
 一方で最初から避難に専従すれば、十万人規模での避難はできるだろうと思う。
 その程度ならば避難先での取り敢えずの生活も何とかなるかも知れない。
 然しながら、例えば避難民が一気に百万人単位にでもなれば、避難した先での生活がおぼつかなくなる。
 私の知っている世界でも人の住む世界は、百万人規模の避難民を受け入れてくれる余裕は無いと言えるだろう。
 数があまりに多すぎるのだ。」

 一番若いディアナが言った。

「お父様、私は、全部か一握りかの方法が良いと思います。
 避難を選んでもごく一部、対策を選んで失敗しても、ごく一部は助かるんです。
 ならば最大利益が得られるかもしれないホブランドを救う方法を選びたいと私は思います。」

 このディアナの発言が場を決めた。
 次いで、高速で迫る巨大隕石をいかにして排除又はらすかを相談した。

 子供たちは確かに成長していた。
 俺が頼れるほどの存在になっていたのが、親父としてはとても嬉しかった。

 三つの班に分かれて議論をし、それを持ち寄り、再度全員で検討をした。
 しかしながら、このままでは、通常の就寝の時間を大幅に過ぎてしまうことになりかねない。

 あまり長時間になってもいけないが、私が時空魔法を使ってその場の時間を早めた。
 家族集会の場は、ホブランド世界の四倍の速さで過ぎていった。

 本来の時間であれば真夜中が経過した頃の時点で散会とし、翌日再度会議を開くことにした。
 今度は、最初から地下の避難所に入り、寝泊まりもすることにしている。

 ホブランド時間では数時間になるだろうが、避難所内の時間は十倍に増速して、皆が寝泊まりすることにしたのである。
 その中で三日間検討を進めた。

 最終的に選択したのは、宇宙船を使って飛来するメテオの至近距離に到達すること。
 宇宙船は全部で8隻を建造し、それぞれに4人から5人が乗る。

 人数が合わないよな。
 俺と子供だけなら全部で28人の筈で、7隻に4人ずつ間に合うはずだったんだが・・・・。

 嫁s達が強硬に主張したんだ。
 何もできないとわかっていても、戦う亭主や子供たちの傍に居たいと望んだのだ。

 ウーン、確かに彼女らには今回の作戦では期待できることはない。
 嫁s達も多少の魔法を使えるし、特にフレデリカとリサは抜きんでている。

 だが、その二人でも、俺の子供が5歳の頃に比べると引けを取るんだ。
 従って、役立たずであろう。

 宇宙船には、長時間の作戦となった場合に備えて、アンドロイド二体を配置する予定だ。
 俺や子供たちも普通に飯を食うからな。

 長時間になれば食事を造ったり、掃除をしてくれたりと身の回りを世話する者が必要なのでアンドロイドを連れて行くんだ。
 一方で、嫁sなんだが、この料理やら掃除という方面では、全くと言って良いほど役に立たないだろう。

 生まれた時からメイド多数が付いていて、姫様やお嬢様とおだてられて育った者が、洗濯やら料理なんぞの家事がそうそうできるわけもない。
 下手に動いて宇宙船を壊されても困る。

 だから本当は断りたかったが、俺の弱さが露呈した。
 嫁の連合軍には勝てなかった。

 頼みとする我が子達にも、夫婦喧嘩は犬も食わないとばかりに無視された。
 そんなこんなで嫁s達も宇宙へ連れて行くことになったわけだ。

 8隻の宇宙船はローテーションで作業をする予定だ。
 4隻は穴掘り作業、4隻は重力魔法による進路変更作業だ。

 子供たちの魔法で適性が大きい方を選んでもらった。
 ウチの子たちは全ての魔法に適性があるが、その大きさに多少の大小はあるんだ。

 穴堀り作業は、土属性と空間魔法だし、重力魔法は時空魔法の中のユニーク魔法だな。
 穴掘り作業に4人、進路変更作業に3人を当てて四交代制で作業を行うことにしている。

 因みに穴掘り作業については、俺と子供達の亜空間でどれだけの収容量があるかにかかっているところはある。
 仮に一杯になれば、メテオの進行方向でホブランドから離れた所へ移動し、そこで放出する計画だ。

 子供たちにも遠距離転移ができるかどうかは今の段階ではわからないが、ぶっつけ本番でやるしかない。
 何せワープ航法は開発していないからな。

 大人だけなら三交代制にするところだが、能力者であることは分かっていても一応子供だからな。
 一日3時間の作業が2回の四交代制ならば大丈夫だろう。

 それと合間に貯まったごみの投棄作業が多少加わるかもしれん。
 取り敢えず、俺は年長組5人とともに地球世界を訪れた。

 そこで反重力装置を造るためだ。
 宇宙船の元となる飛空艇は、元々大気圏内での使用することを考えて作られていたから、反重力装置は推進用として使っているだけで、船内重力の制御ができてはいないんだ。

 子供達だけなら重力が多少かかっても彼らなりに制御できるだろうけれど、さすがに俺も子供達も嫁sにかかる重力の中和までは難しい。
 重力を加える方は簡単なんだけれどな。

 他者や物の重力を減らすというのがやってみるとなかなか制御がうまく行かないんだ。
 もう一つ大きな問題があった。

 実はメテオまでの距離は宇宙船ごとに遷移できると予測しているんだが、そこから加速してメテオの速度に合わせるのが難しいんだ。
 因みに1Gの加速度で宇宙を飛んだ場合、毎秒10万㎞の速度を得るためにはどのぐらいの時間が要ると思う?
 
 他の天体の干渉なども考えると物凄く面倒な計算になるんだが、簡易的な計算では、一か月かかっても秒速2万5千㎞しか出ないんだ。

 残り二か月を切っているのにそれじゃぁ間に合わないよな。
 ならば、宇宙船の加速度をもっと上げなければならない。

 計算上は、5Gで24日だから、準備を含めて作業時間が足りなすぎる。
 9Gだと、約14日なので、準備と作業時間を考えるとギリギリだろうな。

 さらに加速度を上げて20Gだと、6日で秒速約10万㎞に達することが分かった。
 この辺が妥協点だろう。

 いずれにせよ、20Gの加速度に耐える宇宙船と、嫁sを乗せるために船内重力を1G前後に調整する装置が必要なんだ。
 そのために、ホブランドではなくって製作時間を稼ぐために地球世界を訪問したわけだ。

 異界には俺の根拠地となる基地がありそこには工房もある。
 そこで3か月近くもかかって半重力調整装置を造り上げた。

 次に宇宙船の建造を行った。
 前回造った宇宙船よりは居住性を高めているのでかなり大きなものだ。

 素材については手分けして子供たちに集めてもらい、錬金術が得意な子たちに手伝ってもらいながら錬成する。
 宇宙船が一隻出来上がると、それを複製するのは俺の仕事だ。

 8隻の宇宙船ができたのは、アルノス幼女神様から連絡を受けてから一月近くが経っていた。
 人数が多くなると時間の流れを左右する能力も低下(理由は不明)するようで、結局ホブランドの実時間では1か月程を要することになった。
 この時点でメテオの位置は、ホブランドから2000億キロ強だ。

 5000億キロで20光日程度の距離だったので、今のメテオまでは8~9光日程度の距離がある。
 ホブランド到達までは24~27日前後ということになるが、この速力と質量では近傍を突き抜けただけでホブランドに与える影響は大きいだろう。

 できれば早いうちに作業にとっかかった方が望ましい。
 ベルム歴740年中春(月)の10日、ファンデンダルク1号から8号までの宇宙船が、ホブランドの衛星軌道上に出現、それから1隻ずつ試行転移を開始した。

 結果として4光日程度の転移は8隻とも可能だった。
 その上でホブランドに向け加速を開始し、メテオが後方から追いつくまでの増速を行う。

 20G(196m/sの二乗)の加速度で秒速10万キロに達するまでに、およそ6日ほどであり、その間に移動する距離は260億㎞強だ。
 思いがけなく家族そろっての旅行になったな。

 因みに同じ針路と速度で航行する宇宙船の行き来が空間転移でできるかどうかを試してみたら可能だった。
 但し、しっかりと速度を同期しないとできないから、空間転移にも慣性力等の物理法則は働くらしい。

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 8月14日より、
 「浮世離れの探偵さん ~ しがない男の人助けストーリー」
  https://www.alphapolis.co.jp/novel/792488792/836789252
を、また、
 8月15日より、
 「仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか」
  https://www.alphapolis.co.jp/novel/792488792/812730078
を投稿しております。
 よろしければ是非ご一読ください。

  2023年8月19日 By サクラ近衛将監


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