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第十二章 異世界探訪

12ー25 十歳の子供たち その四

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 僕は、サムエル・ファンデンダルク。
 ファンデンダルク家の次男なんだけれど、できるだけ目立たないように活動している陰キャだよ。

 ファンデンダルク家は、栄えある侯爵家だからね。
 上級貴族ともなれば跡継ぎというのが問題になるんだ。

 僕は、貴族の子として生まれてきたけれど別に貴族になりたいとは思わない。
 僕としては、お父様から教えてもらった錬金術を生かして生産者になりたいと思っているんだ。

 もちろん他の兄弟姉妹と同様に魔法も使えるけれどね。
 魔法をアレンジして錬金術に生かす方が僕としては好きなんだ。

 貴族になれば領地のこととかいろいろな面で仕事が忙しそうなんだ。
 もちろん領民の暮らしを守るための治世というのが大事だけれど、そっちは長男のフェルディナンドにい様に任せておけばいいと思っている。

 できないわけじゃないけれど、貴族社会の社交儀礼という奴が面倒だって思ってる時点で、僕は貴族に向いてはいないと思うんだよね。
 そういったものはフェルディナンド兄様とアグネスねえ様に任せておけば大丈夫なんだよ。

 だから僕は生産者になりたいと思ったのが6歳の頃なんだ。
 農林水産物の育成・採取、家財の加工・生産、食品や化粧品などの生活用品の製造など、生産活動の職業はいろいろあるけれど、モノづくりの一つである錬金術が一番僕にあっているみたいなんだな。

 だから僕は錬金術師になるつもりなんだ。
 特にファンデンダルク家の領内に住む錬金術師は、他の地域と比べるとかなり待遇面で差があるので腕の良い錬金術師が集まってはいるんだけれど、10歳の僕から見てもまだまだレベルが低いんだよね。

 モノづくりに欠かせない錬成や抽出がうまく行かなければ出来上がった製品の質も良くはならないんだ。
 僕には兄弟姉妹の中でも一番と自負できるのが錬金術なんだ。

 そうして10歳になって初めて連れて行かれた異界でその思いを新たにしたんだ。
 お父様の故郷であった地球世界は科学文明がとても進んだ世界だった。

 但し、使う者がいびつな考えを持っていると非常に危険なことになるというのも地球世界で垣間見た戦争でわかってしまった。
 生産者は結果もある程度見越していなければいけないということが分かっただけでも大きな収穫だと思う。

 地球世界には僕たちの世界でも取り入れたいなと思うものが沢山あったけれど、お父様はものすごく限定して取り入れているみたい。
 特に民生品として普及させる品については厳選している。

 そうしてもう一つ、お父様なら生産できるけれど他の錬金術師などの生産者が作れないものは永続性が無いから広めないという方針を守っている。
 だから、その意味では錬金術師の腕が良くないということは、せっかく良いものがあっても普及できないというジレンマがあるんだ。

 今回わずかな時間ではあったけれど地球世界に行って科学文明の神髄と思えるような様々なものに出会ったから、僕もホブランドでその再現若しくは劣化版を造ってみたいと思った。
 そうして、クィンテスには、ホブランド世界と地球世界の中間になるぐらいの科学文明があり、僕が目指そうとするものに何となく合っているような気がするんだ。

 問題はクィンテスが地球と同じく物質文明であり、魔法が知られていない世界であることなんだよね。
 クィンテス世界の人々に魔力が全く無いという訳ではないけれど、魔法を行使できるだけの魔力を持っている人は非常に少ないし、それを導ける指導者も存在しないので、この世界では魔法は普及しないだろう。

 単純に言って、ホブランド世界にある魔導具を持ってきてもそれを作動できる人はほとんどいない。
 父《とう》様に聞いたところでは、ホブランド世界では誰でも使う照明の魔導具でさえ、起動できる人はほとんどいないという。

 今、僕達年長組が連れて来てもらった、ロバーナ連邦には一憶五千万人程の人々が住んでいるけれど、その中で照明の魔導具を灯すことのできる潜在能力を持っている者は精々一人か二人であり、それも魔力の込め方を教えてやらないとできないという。
 まるで幼児だよね。

 僕達ファンデンダルク家の子供たちならば生後三月程度で魔導具なしにできることが、魔導具を使ってもできないなんて信じられない話だよね。
 まぁ、僕たちがちょっと規格外なのは認めるけれど、ホブランドでは生活魔法を使って十歳以上の子供なら魔力の放出が可能だから間違いなく照明の魔導具を使えるはずなんだけれど・・・。

 やっぱり、世界が違うというのはそういうことなんだね。
 ホブランドの当たり前が、地球世界やクィンテスでは違うんだもの。

 まぁね、地球世界での照明装置は魔力を全く必要としないスイッチ一つで点灯するからその必要性が無いんだけれど。
 その点、クィンテスは過渡期だね。

 便利なものが徐々に生み出されているのだけれど、地球世界程進んではいないし、洗練されてもいない。
 でも、そうしたものがほとんどないホブランド世界に住む僕達から見ると、どこを見ても珍しい宝物で一杯なんだ。

 僕たちは父様が用意してくれたジャコダル市内の別邸で、クィンテス世界の修学旅行を行った。
 勿論いつでも僕の傍には、保護者役のアンドロイド(ここではクレリア・ソーガスと呼ぶことにしている仮の母)がいる。

 僕は、ここではサムエル・ソーガスという名で、父様であるバスティアーノ・ルバーシュの甥ということになっている。
 アンドロイドで母役の「クレリア」が、バスティアーノ(父様)の妻役のアンドロイドである「マリ」の妹という役柄になっている。

 父様が案内してくれるという四日の最終日まで、僕はクレリアを連れて市内見学を楽しんだ。
 僕の興味を引いたのは何といってもだ。
 
 電気による電動機は地球世界の予習でも知っていたし、電磁波を使った通信機の存在も知っている。
 このクィンテスではその黎明期に当たるから、未だ左程の進歩はしていないけれど、その考え方や進化の度合いはちょうど僕にもよくわかるんだ。

 クィンテスではかろうじて電気照明が生み出され、電熱器が間もなく実用化する段階。
 高電圧回路のショートで発生する電波の利用方法を研究している人も居るし、電動機のプロトタイプを模索している人も居る。

 そんなの彼らが見せてくれるのかって?
 いやぁ、こういうのは時代の最先端技術や知識だからね。

 それらに携わっている開発者や研究者はひたすら秘密にしているよ。
 だから僕はそれらを盗み見ているだけなんだ。

 その知識を知っても、このクィンテスで公表したりはしないから安心して。
 ホブランドで利用が可能かどうかを研究するだけだから・・・。

 そういえばすぐ下の弟であるマクシミリアンとの話がそろそろ現実味を帯びてきたかもしれないな。
 僕達、兄弟姉妹は自慢じゃないけれど能力が高すぎて、普通の子供たちとはなかなか話が合わないんだ。

 だから、6歳の時から学校に通っているけれど、周囲の同級生に話を合わせるのが結構大変なんだ。
 こちらが芝居をして合わせるしかないんだよね。

 そんな中で僕たちが伴侶となるべきつがいの異性を見つけるのはかなり難しいと思うようになっているんだ。
 将来は分からないけれど、少なくとも僕をファンデンダルク侯爵家の子息と知って寄って来る女の子とは、余り付き合いたくないと思っている。

 彼女らは誰か大人にそそのかされているのかもしれないけれど、盛んに親しくなろうとすり寄って来る。
 年齢的にはまだ早い筈だけれど、あわよくば玉の輿に乗りたいと思っていることが透けて見えるから嫌なんだ。

 ウーン、マクシミリアンの言うように、こりゃぁ異世界で嫁さん探しをしなければいけないかもしれないな。
 少なくとも、周囲に限って言えば、能力的に僕らに似合う女の子は姉妹以外では居ないんだよね。

 因みに、このクィンテス世界でもかなり高い知性を持っている人は存在する。
 尤も年齢が200歳を超えている人だから、子ども扱いされてこっちが相手にされないだろうし、僕もそんなに歳が離れているのは嫌だなぁ。

 まぁ、取り敢えずロバーナ連邦の一部だけの探索だし、ほかにも範囲を広げれば一人ぐらいいるかもしれないね。
 先は長いんだから十歳の僕が女の子探しに焦る必要もないよね。

 ホブランドにも、このクィンテスにも表面的に可愛い子はいるんだよ。
 地球世界でもフライイングボードに乗って遊んでいた金髪の女の子は特に可愛かったなぁ。

 でもね、可愛いだけじゃいけないと思うんだ。
 愛玩動物ペットじゃないんだから、やっぱり人として互いに敬えるところが無ければいけないよね。

 特にその中でも知性は大事だと思うんだ。
 後は、感性の問題だろうか・・・。

 必ずしも同じ感性を共有する必要はないけれど、少なくとも相手と分かち合える何かの余裕は欲しいな。
 僕の基準が高いのかもしれないけれど、何とか僕の琴線に触れる女の子が居てほしいな。

 そのためには異界を探し回ることも考えなければね。
 異界の探索ならば意外と簡単なんだけれど、ホブランドでは、ある程度近くに寄って鑑定を掛けなければ、その為人ひととなりがわからないんだ。

 時空魔法で覗ける異界については、立ち位置の異なる亜空間からの接近という方法を取って、鑑定が比較的簡単なんだ。
 まぁね、未だ十歳にしか過ぎない僕が、ホブランド世界のすべてを知っているわけじゃない。

 精々がジェスタ国の三分の一から半分程度を訪ねたことがあるだけなんで、そのうちきっと良いがどこかであるのじゃないかと思っている。
 ひょっとして、今の年齢でそんなことを考えている僕ってかなりマセているのかな?

 マクシミリアンも同じようなことを考えているみたいだから、別に僕だけおかしいわけじゃないよね。
 今度機会があれば、フェルディナンド兄様にも意見を聞いてみよう。

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