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第十二章 異世界探訪

12ー20 嫁sへの処置

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 今、俺はホブランドにいる。
 あちらこちらと異界を渡っているものだから、たまにどこにいるのかわからなくなることも・・・・、いや、それは無いな。

 そこまで歳を取ってはいない。
 おそらくは嫁sよりも倍から三倍近くも過ごす時間は長い筈なんだが、相も変わらず20歳前後の顔つきのままだな。

 体型もほとんど変化なしでベスト体重を保っているから、健康そのものだろう。
 俺の子供たちの年長組が間もなく10歳になる。
 
 つまりは嫁sも結婚してからほぼ10年は立ったということだ。
 俺に嫁いだ順で言えば、コレットが26歳、シレーヌが30歳、マリアが25歳、ケリーが25歳になる。

 エリーゼ、カメリア、ケイトそれにリサは、まだ24歳以下と若いのだが、それでも間もなく25歳にはなる。
 ホブランドは1年が12か月じゃなく16か月あるからな。

 数え年なので誤差はあるけれど、実年齢的には、地球の1.3倍になるということだ。
 俺の作った化粧品があるから若々しくは装うことはできるんだが、シレーヌなんかは大分歳を気にしている。

 まぁ、単純に言って地球年齢で言えば四十路だからね。
 絶対に肌の衰えなんかが気になるはずだ。

 そうは言いながらも昔は騎士だったから、健康面ではしっかりしている。
 但し、ハイ・ヒューマンになった俺と長く連れ添うことができる嫁は、エルフであるフレデリカを除いては、間違いなく居ないだろう。
 
 俺のできることであれば何とかしてやりたいと思って、色々と密かに動いていたわけだが、さてさて、その成果について嫁sの反応や如何にだな。
 その日、俺の部屋に嫁s全員を集めた。

 人払いをしてから俺が見つけた若返り方法について要点のみを説明して切り出したわけだ。
 話を聞いて全員が押し黙った。

 そうしてこんな話に一番敏感なシレーヌが真っ先に尋ねた。

「旦那様、その若返りの方法は間違いのない方法なのでしょうか?
 例えば方法を誤ると死が早まるとか、急速に老けるとかはないのでしょうか?」

「フム、実は誰にも内緒で死刑囚20名について実験を行った。
 方法は詳しくは話せないが、食生活の改善だけで最初の四人は寿命が1.5倍ほどに増えた。
 次の四人については、より踏み込んで細胞の遺伝子操作を行ったが、選んだ遺伝子の箇所が間違っていたのだろうな、普通に老化して長寿化はできなかった。」

 この段階で、「遺伝子操作とは何か」、「食生活の改善とは何か」をかなりしつこく聞かれ、できるだけわかりやすく話したつもりだが、質問が次々に出て来てかなりの時間を要することになった。

「話を元に戻すが、死刑囚の四人グループは三組目もダメで、試行錯誤の結果、四組目は一人だけ寿命が二倍に伸びた。
 そうして五組目の四人に対して、四組目の一人だけ寿命が延びた手法で同じ処置を施し、なおかつ食生活の改善も行ったところ、寿命は全員が概ね三倍に伸びることが分かったんだ。
 従って、遺伝子操作と食生活の一部改善で、ここにいる全員の寿命を三倍程度に伸ばすことができるものと考えている。」

「あの、何故寿命が延びたとわかるのでしょうか?
 それに死刑囚ではなく普通の人では試してはいないのですか?」

「寿命が延びたことを確認できるスキルがあるのだけれど、その説明は済まないが今のところはできない。
 いずれ説明することがあるかも知れないがかなり先の話になるだろう。
 死刑囚を使ったのは、成否のわからない手法を試すのに普通の者を被験者にするのはリスクが高かったからだな。
 死刑囚ならば万が一実験が失敗しても不都合はないからな。
 そうして、未だ、普通の人には試していない。
 因みに、最後の5組目は女性の死刑囚三人を残しておいたから、四人の内三人は女性だ。
 だから、男女ともに寿命は伸ばせることがわかっている。
 但し、この方法は秘密にしなければならない。
 フレデリカのようなエルフは長命族だから当然に知っているだろうが、長生きをするということは、それだけ食料も必要とする。
 長生きをするものが増えれば人口が増えることになり、しかもそれが今までの三倍も必要となれば食糧の供給が保たない可能性がある。
 だから、仮に処置をするにしてもこの場にいる者だけになる。
 これを一部でもほかの人に広げてしまえば、タガが外れて制御できなくなるからな。
 もしそうなれば、将来的にこの世界は食糧の確保のために争い、住民の多くが滅ぶことになるだろう。」

 皆にその考えが浸透するのを待ってから言った。

「さて、そこで質問なのだが、みんなは長寿を望むかね?」

 コレットが言った。

「ここにいる者以外には広げないということですけれど、・・・。
 先に逝くべき私たちの親はやむを得ないとしても、子供たちはどうなるのですか?
 子供たちよりも私が長生きしてしまうのは辛いです。」

「その件も新たに理解しておいてもらわねばならないのだが、子供たちは私の子供である限り長生きするだろう。
 どうも私はハイ・ヒューマンという新たな種族になっているらしい。
 寿命は今のところよくわからないが、エルフと同等若しくはそれ以上になるかも知れない。
 だから私の血を受け継いだ子供たちは全員が長生きをすることになる。
 少なくとも、君たちが少々長生きしても、その間は間違いなく元気な筈だから。コレットの心配は多分いらないと思うよ。
 それよりも僕としては、今のコレットと同じ不安を抱いているんだ。
 いずれは起きることとは言え、君たちが、私のそばから消えて行くのを見ていかねばならないのが正直辛い。
 だから、わがままな話だけれど、君たちにはできるだけ長生きをしてもらいたい。」

 その言葉で皆の決意が固まったようだ。
 話し合いの結果、取り敢えずフレデリカを除いて、年長順に処置をすることになった。

 フレデリカについては、百年ほども過ぎてから新たに考えるとのことだった。
 最初はシレーヌで、三月置いてコレット、それから三か月ごと嫁入り順にマリア、ケリー、エリーゼ、カメリア、ケイト、リサの順番で処置を受けることになった。

 最初にシレーヌに処置したところ、思わぬ余禄があった。
 俺としては処置を施しても若さの保持だけかと思っていたのだ。

 実は被検体にした死刑囚はいずれも健康な若い奴を選んでいた。
 年齢にして17歳から22歳までだった。

 そのために若さの保持だけではなく若返り効果があることを俺も知らなかったのだ。
 徐々にではあるが、シレーヌが間違いなく若返ったのだ。

 肌艶が良くなり、肌の一部にできていた極薄いシミが消えたのだった。
 三か月経過後に見たところ、シレーヌは俺と出会ったころの20歳の顔に戻ったように思えるのだ。

 この10年で少し面長になった顔が、少しだけ丸顔に戻ったような気がする。
 次いでコレットだが、コレットも同様に少し若返ったようには思うけれど、10年前ではなく20歳前後の時の顔だな。

 おそらく遺伝子の復元作用で、当該個体の一番輝かしい状態の身体に戻したのだろう。
 その後、順次残りの嫁sに処置を行っていったが、一番若いリサについては、ほとんど姿が変わらなかった。

 やはり、この処置を施すと20歳前後に年齢がほぼ固定されるのだろう。
 クィンテスではこの状態がほぼ200年も続くのだが、四人の死刑囚に施した処置では、概ねホブランドの年齢で140年から160年ほども継続することが分かっている。

 問題はいつまでも歳を取らない美魔女が居るといずれ世間に騒がれることになる。
 限度はおおむねホブランドの時間で20年から30年ぐらいだろう。

 化粧でわざと老け顔を作るかどうかだが、それでも限度はあると思われる。
 ホブランドで長寿の人は90歳を超えるが、腰は曲がり、しわくちゃの顔になるのはどこの世界でも一緒だ。

 そうしてそこまで芝居を続ける意味合いは少ないと思われるんだ。
 まぁ、簡単な解決法としては、俺も含めて隠居して別天地に全員が転居することだな。

 あと十年もすれば、子供たちが俺の後を受け継げる年齢になる。
 二十年あれば間違いなく引継ぎができるだろう。

 誰が跡継ぎになるかは今後の様子を見てからだが、うちの子らは他所の家で起きているような家督争いにはなりそうにもない。
 今の内から、誰が面倒ごとを引き受けるかで互いに牽制し合っている状態だ。

 まぁね、ホブランド以外の世界を直接訪問することは禁じられてはいるものの、ほかの世界を間接的に見聞することはできているんだ。
 ホブランド以外に魅力的な世界があってもおかしくはない。

 まぁ、次代のことは後回しにして、俺と嫁sの素性が知られなければホブランドでも構わないし、適当な異界ならいくらでもつじつま合わせも可能だろう。
 クィンテスはその意味で戦乱もあるけれど、長寿になった嫁たちには過ごしやすい世界になると考えている。

 言葉の問題や知識の問題などいろいろクリアしなければならないことはまだあるんだが、総じてウチの嫁sは賢いから、どこに行っても適応できるんじゃないかと思っているよ。
 異界の中では地球も一応の候補地にはなるんだが、文明度が離れすぎていて嫁sが対応するのはちょっと難しいだろうし、地球の場合ではどのみち20年かそこらで移動しないと、絶対に魔女扱いされるよね。

 まぁ、隠居先については他の異界も色々探してみよう。
 そうして10歳になる子供たちの修学のための異世界訪問についても、クィンテス世界ならばアンドロイドやゴーレム同伴を条件にすれば、ある程度は安全が確保されるだろう。

 今少し時間があるので他の世界も色々と確認しておこうと思っているところだ。

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