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第十二章 異世界探訪
12ー19 クィンテス その五
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俺が見るところ、ドルザック原理主義共和国の現状として、周辺国への迷惑度、国民の耐乏生活、総主教と呼ばれる男やその側近たちの贅沢な暮らし振りを見る限り、このまま存続させて良い政体とはとても思われなかった。
δ型ゴーレムの情報についても間違いのない事実かどうか随分と精査したけれど、人の迷惑顧みず好き勝手なことする奴ってどこにでもいるけれど、これもその類だと感じたな。
それについて行く国民性もどうかとは思うが、ある意味で狂気に走ると周囲が見えなくなる集団パニックのようなものだ。
レミングは死ぬとわかっているはずなのに、団体さんで海に入って行く。
ドルザック軍の将兵たちは勝利を信じて突き進んではいるけれど、決して高邁な宗教観から発している聖戦じゃないことは彼らも薄々承知しているようだ。
その上で自らの利益のために戦いを望んでいる様だ。
末端の兵卒まで同罪とは言えないけれど、俺の異世界で培われた倫理観では、助けられる者は助けるが、異常者に関してはできるだけ排除する方向で動くべきだと思っている。
だから、侵攻してきたドルザック軍を殲滅させることにした。
但し、驕り高ぶっているロバーナ連邦にもお灸を据えるつもりだ。
安寧・安全とは不断の努力無くしては成しえないということを今一度気づいてもらいたいと思う。
だから、気の毒ではあるがマリドール諸島に駐留していた第二艦隊については生贄になってもらったし、本国艦隊も全滅もやむなしと思えるほど放置した。
但し、その後に実行されるだろうハフリードに向けての艦砲射撃はさせてはならなかった。
従って、俺の介入時期はその直前と決めていた。
その上で密かに準備を始めた。
ジャコダルはイラゴラス大陸の西南西に位置するが、その東側に比較的高い山地が控えている。
ロバーナ連邦ではローザンヌ山地と呼ばれている標高3000m級の山が連なっているけれど、左程峻嶮ではない山地だ。
その一部に人の入り込まない瓦礫だらけの盆地があって、その地下に秘密基地を作った。
その秘密基地で俺が作ったのは飛行船型の航空機だ。
魔導装置で空中に浮かび亜音速で飛行できる代物だ。
飛行船型と言いながら、中身は気球のように空洞じゃなく、兵器がたくさん収納されている空中戦艦と言っても差し支えないものだ。
色々な武器を搭載しているが、今回使うのは下向きのレールガンの予定だな。
一応真下から10度前後までは向きを変えられるけれど、基本は真下に撃つ代物だ。
さもなければ重力により多少の放物線を描くことになり、狙いがそれやすい。
砲弾は、長さ3m、最大径30センチほどで、横から見ると尖った二等辺三角形に似ている。
これをレールガンで発射すると初速で亜音速、次いで重力により3千メートル以上の高度からだと海面付近では音速以上の速度に達する。
最初から超音速発射にすることも可能だが、今回はそこまでの威力は必要が無い。
この砲弾の体積は約0.07立方メートルで、こいつは被覆が重金属でできているので、内蔵火薬も込みで1トン超の重量がある。
こいつが超音速で直上から落ちてきて軍艦の甲板にぶち当たれば、多少の装甲など何の役にも立たず一気に艦内に侵入し、信管により0.01秒後に500キログラムの高性能爆薬が炸裂する。
概ね甲板から4m~5mほど内部に入って爆発。
その破壊力は地球での2トン爆弾に匹敵するから、それだけで軍艦は轟沈することになる。
但し、俺はジャコダルのルバーシュ医療・薬剤所で留守番をしており、現場での実行役はアンドロイドに委ねた。
ジャコダルからハフリードまでおよそ2000キロ余りあるので亜音速で飛んでも、2時間ほど要するから、ドルザック艦隊の侵攻に合わせて調整したが、偏西風の影響か介入時期が少し早かったかもしれないな。
介入時点でロバーナ連邦艦隊は全滅には至っていなかった。
アンドロイドからその旨の報告は受けていたが、飛行船型空中戦艦は現場に到着していてすでに姿も見られているので、そのままドルザック艦隊の殲滅作戦を実行させた。
予想通り一発の砲弾で大型戦艦は轟沈していた。
残り31隻のドルザック軍艦隊はそれから10分後には姿を消していた。
ドルザック艦隊の乗員で生き残った者はごくわずかだった。
またまた、俺の指示でたくさんの命が失われたんだが、以前にも言ったかもしれないが、俺の中では人の命が左程重いものではなくなっている。
ある意味で怖い話ではあるんだが、「慣れ」というのは良くないな。
ドルザック艦隊殲滅後に飛行船型空中戦艦はさっさと現場を離れ、秘密基地へと戻った。
途中色々な場所で目撃者が居たようだが、あまり気にはしていない。
地下の秘密基地に収容する際にだけ認識疎外を掛けておけば、山地に入り込んだものが居ても基地への出入りを見られることもない。
どちらかというと人跡未踏の山奥で瓦礫しか見えない荒地だし、その地下に巨大な格納庫を含めた基地があるなんて誰も思わないだろう。
少なくとも10年や20年は大丈夫なはずだ。
その後一月近くはロバーナ連邦内でハフリード沖海戦の噂が溢れかえり、同時にジャコダル近辺でロバーナ連邦軍や政府の捜索活動が続いた。
無論、彼らが秘密基地を発見できる可能性は無い。
ところで俺の錬金術の腕も相当に上がっている様だ。
今回使用した飛行船型空中戦艦は、直径60m長さが120mほどの飛行船形状だが、船体外板はミスリルと軽量セラミックの複合装甲で出来ており、推進装置は重力制御の魔導推進だ。
武装も将来的な対処も含めて色々な種類を沢山作ったんだが、おそらくは21世紀初頭のイージス艦以上の戦闘力があるはずだ。
ミサイルの保有数は300基を超えるし、レールガンも前後左右上下に各6基ずつ配置している。
居住設備は左程よくはないかもしれないが、まぁ、上等なビジネスホテル並みの施設はあるぜ。
これだけの装備や艦体を造り上げるのに要した時間はわずかに十日程だ。
その間、日中はルバーシュ医療・薬剤所で仕事をしているので、作業はもっぱら夜間に限られていた。
それでもこれだけのものを作れるんだから、自分でも凄いなと思うよ。
まぁ、このクィンテス世界の人々には錬金術の存在そのものが知られてはならないけどな。
◇◇◇◇
ところで不老の研究の方だが、いろいろと試行錯誤しているうちに、この世界の人のデオキシリボ核酸と食べ物にヒントを見つけたよ。
DNAはご存じのように、ヒトの細胞では、細胞核の中の染色体にあり、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4種類の部品からなっている。
それとは別に、ヒトの細胞は常時壊されながら新たに生み出すという再生作業を繰り返している。
代表的なものが皮膚や骨だな。
皮膚は、絶えず更新され古いものは所謂アカとなって剥がれて行く。
骨の場合は、古い骨が破壊されて吸収され、新たな骨が作られて新陳代謝を行っている。
ところが宇宙空間の無重力状態では、この新陳代謝がうまく機能せずに、骨の破壊のみが進んで骨粗しょう症が発生するのが知られている。
単純に言えば、例外もあるんだが細胞の多くは、破壊されて新たな細胞が入れ替わっているんだ。
その際に役立つのがDNAに組み込まれた遺伝子情報だな。
これが正常に機能して正常な細胞を生み出してくれるから健康を保てるわけなんだが、万が一これが異常をきたすと本来あるべき姿にならないので異常細胞ができる。
この異常細胞の一部を称してがん細胞と言う訳なんだが、がん細胞じゃなくても顔にできるシミや皺という現象も再生がうまくいっていない証拠だな。
これらを総称して「老化」と言っているわけなんだが、クィンテス世界の人々の老化が異常に遅いのはDNAの組み合わせの問題と、食生活にありそうだ。
ゲノム解析を行ってホブランド世界の人達との違いを追求した。
元々の人種が違うっちゃ違うんだけれど、そのゲノムの一部を入れ替えるだけで長寿が可能かもしれない。
なおかつ、いまだ確定ではないが、細胞の再生機能を永続させるための原因となるものがこの世界独特の酵母にあるとみている。
日本の醤油や味噌のような発酵食品が、このクィンテス世界にもあるんだ。
チーズなんかの動物性食品もあるんだが、やはり植物由来の発酵食品が細胞生成に役立つようだ。
因みに、ホブランドで入手したモルモットを使った実験では、クィンテス世界でレモファと呼ばれる発酵食品を餌に混ぜると、寿命が5割ほど伸びた。
モルモットの居住空間だけ時間を早めているんで短時間でその結果がわかるから便利だよね。
次いでDNAの方なんだが、モルモットとヒトではDNAの構造が違うからな。
どこをいじればよいのかかなり試行錯誤したんだが、何とかそれらしき箇所を見い出すことができた。
そうしてホブランド産のモルモットのDNAの一部を組み替えて、やると寿命が二倍に増えた。
そのモルモットにレモファを餌として与えると概ね三倍に寿命が延びたんだ。
従って、俺の推測でほぼ間違いが無いと思われるんだが、こいつを人に適用するには更なる実験が必要だな。
散々迷った挙句、俺はホブランドの死刑囚を利用することにした。
ホブランド世界のあちらこちらで死刑が確定している囚人の失踪が相次いだ。
まぁ、外見上は脱獄になるんだろうな。
現地では大騒ぎになったが、とりあえずは無視だな。
全部で二十人の死刑囚の被験者を使って実験することにした。
最初の四人はレモファを与えて、監禁しまたままの生活を送らせた。
それだけで概ね5割の寿命が延びた。
概ねというのは、そのうちの一人が致命的な病(すい臓がん)を発症していたので、統計から外れた所為だ。
次いで別の4人についてはDNAの一部変換を試みた。
これはと思うところのDNAを組み替えたんだがいずれも失敗した。
異常細胞の発生や、再生を阻害する症状があらわれては使えない。
3組目の四人もうまく行かなかった。
四組目で一人が当たりを引いたみたいだ。
寿命がおよそ二倍近くになった。
そうして残り5組目の四人には、全員に対して同じ処置を施した。
男が一人、女が三人だ。
女の割合が多いのは、敢えて女を残した所為だ。
そうして全員が二倍の寿命を得ることに成功した。
そのうち女二人には、レモファを与え続け、約三倍に寿命が延びることを確認した。
女二人の内一人は291歳で死亡したが、もう一人は324歳まで生存していた。
ホブランドの一般的な平均寿命は60歳前後の筈だから、驚異的な長寿である。
しかも250歳を超えるまで彼女たちに所謂老化はほとんど認められなかった。
因みにモルモット代わりにした死刑囚は、全員が俺の牢獄の中で平穏なまま寿命を終えた。
彼らが幸せだったかどうかはわからない。
だが、少なくとも俺の利己的な目標であった成果を上げるのに役立ってくれたので大いに感謝をしている。
δ型ゴーレムの情報についても間違いのない事実かどうか随分と精査したけれど、人の迷惑顧みず好き勝手なことする奴ってどこにでもいるけれど、これもその類だと感じたな。
それについて行く国民性もどうかとは思うが、ある意味で狂気に走ると周囲が見えなくなる集団パニックのようなものだ。
レミングは死ぬとわかっているはずなのに、団体さんで海に入って行く。
ドルザック軍の将兵たちは勝利を信じて突き進んではいるけれど、決して高邁な宗教観から発している聖戦じゃないことは彼らも薄々承知しているようだ。
その上で自らの利益のために戦いを望んでいる様だ。
末端の兵卒まで同罪とは言えないけれど、俺の異世界で培われた倫理観では、助けられる者は助けるが、異常者に関してはできるだけ排除する方向で動くべきだと思っている。
だから、侵攻してきたドルザック軍を殲滅させることにした。
但し、驕り高ぶっているロバーナ連邦にもお灸を据えるつもりだ。
安寧・安全とは不断の努力無くしては成しえないということを今一度気づいてもらいたいと思う。
だから、気の毒ではあるがマリドール諸島に駐留していた第二艦隊については生贄になってもらったし、本国艦隊も全滅もやむなしと思えるほど放置した。
但し、その後に実行されるだろうハフリードに向けての艦砲射撃はさせてはならなかった。
従って、俺の介入時期はその直前と決めていた。
その上で密かに準備を始めた。
ジャコダルはイラゴラス大陸の西南西に位置するが、その東側に比較的高い山地が控えている。
ロバーナ連邦ではローザンヌ山地と呼ばれている標高3000m級の山が連なっているけれど、左程峻嶮ではない山地だ。
その一部に人の入り込まない瓦礫だらけの盆地があって、その地下に秘密基地を作った。
その秘密基地で俺が作ったのは飛行船型の航空機だ。
魔導装置で空中に浮かび亜音速で飛行できる代物だ。
飛行船型と言いながら、中身は気球のように空洞じゃなく、兵器がたくさん収納されている空中戦艦と言っても差し支えないものだ。
色々な武器を搭載しているが、今回使うのは下向きのレールガンの予定だな。
一応真下から10度前後までは向きを変えられるけれど、基本は真下に撃つ代物だ。
さもなければ重力により多少の放物線を描くことになり、狙いがそれやすい。
砲弾は、長さ3m、最大径30センチほどで、横から見ると尖った二等辺三角形に似ている。
これをレールガンで発射すると初速で亜音速、次いで重力により3千メートル以上の高度からだと海面付近では音速以上の速度に達する。
最初から超音速発射にすることも可能だが、今回はそこまでの威力は必要が無い。
この砲弾の体積は約0.07立方メートルで、こいつは被覆が重金属でできているので、内蔵火薬も込みで1トン超の重量がある。
こいつが超音速で直上から落ちてきて軍艦の甲板にぶち当たれば、多少の装甲など何の役にも立たず一気に艦内に侵入し、信管により0.01秒後に500キログラムの高性能爆薬が炸裂する。
概ね甲板から4m~5mほど内部に入って爆発。
その破壊力は地球での2トン爆弾に匹敵するから、それだけで軍艦は轟沈することになる。
但し、俺はジャコダルのルバーシュ医療・薬剤所で留守番をしており、現場での実行役はアンドロイドに委ねた。
ジャコダルからハフリードまでおよそ2000キロ余りあるので亜音速で飛んでも、2時間ほど要するから、ドルザック艦隊の侵攻に合わせて調整したが、偏西風の影響か介入時期が少し早かったかもしれないな。
介入時点でロバーナ連邦艦隊は全滅には至っていなかった。
アンドロイドからその旨の報告は受けていたが、飛行船型空中戦艦は現場に到着していてすでに姿も見られているので、そのままドルザック艦隊の殲滅作戦を実行させた。
予想通り一発の砲弾で大型戦艦は轟沈していた。
残り31隻のドルザック軍艦隊はそれから10分後には姿を消していた。
ドルザック艦隊の乗員で生き残った者はごくわずかだった。
またまた、俺の指示でたくさんの命が失われたんだが、以前にも言ったかもしれないが、俺の中では人の命が左程重いものではなくなっている。
ある意味で怖い話ではあるんだが、「慣れ」というのは良くないな。
ドルザック艦隊殲滅後に飛行船型空中戦艦はさっさと現場を離れ、秘密基地へと戻った。
途中色々な場所で目撃者が居たようだが、あまり気にはしていない。
地下の秘密基地に収容する際にだけ認識疎外を掛けておけば、山地に入り込んだものが居ても基地への出入りを見られることもない。
どちらかというと人跡未踏の山奥で瓦礫しか見えない荒地だし、その地下に巨大な格納庫を含めた基地があるなんて誰も思わないだろう。
少なくとも10年や20年は大丈夫なはずだ。
その後一月近くはロバーナ連邦内でハフリード沖海戦の噂が溢れかえり、同時にジャコダル近辺でロバーナ連邦軍や政府の捜索活動が続いた。
無論、彼らが秘密基地を発見できる可能性は無い。
ところで俺の錬金術の腕も相当に上がっている様だ。
今回使用した飛行船型空中戦艦は、直径60m長さが120mほどの飛行船形状だが、船体外板はミスリルと軽量セラミックの複合装甲で出来ており、推進装置は重力制御の魔導推進だ。
武装も将来的な対処も含めて色々な種類を沢山作ったんだが、おそらくは21世紀初頭のイージス艦以上の戦闘力があるはずだ。
ミサイルの保有数は300基を超えるし、レールガンも前後左右上下に各6基ずつ配置している。
居住設備は左程よくはないかもしれないが、まぁ、上等なビジネスホテル並みの施設はあるぜ。
これだけの装備や艦体を造り上げるのに要した時間はわずかに十日程だ。
その間、日中はルバーシュ医療・薬剤所で仕事をしているので、作業はもっぱら夜間に限られていた。
それでもこれだけのものを作れるんだから、自分でも凄いなと思うよ。
まぁ、このクィンテス世界の人々には錬金術の存在そのものが知られてはならないけどな。
◇◇◇◇
ところで不老の研究の方だが、いろいろと試行錯誤しているうちに、この世界の人のデオキシリボ核酸と食べ物にヒントを見つけたよ。
DNAはご存じのように、ヒトの細胞では、細胞核の中の染色体にあり、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4種類の部品からなっている。
それとは別に、ヒトの細胞は常時壊されながら新たに生み出すという再生作業を繰り返している。
代表的なものが皮膚や骨だな。
皮膚は、絶えず更新され古いものは所謂アカとなって剥がれて行く。
骨の場合は、古い骨が破壊されて吸収され、新たな骨が作られて新陳代謝を行っている。
ところが宇宙空間の無重力状態では、この新陳代謝がうまく機能せずに、骨の破壊のみが進んで骨粗しょう症が発生するのが知られている。
単純に言えば、例外もあるんだが細胞の多くは、破壊されて新たな細胞が入れ替わっているんだ。
その際に役立つのがDNAに組み込まれた遺伝子情報だな。
これが正常に機能して正常な細胞を生み出してくれるから健康を保てるわけなんだが、万が一これが異常をきたすと本来あるべき姿にならないので異常細胞ができる。
この異常細胞の一部を称してがん細胞と言う訳なんだが、がん細胞じゃなくても顔にできるシミや皺という現象も再生がうまくいっていない証拠だな。
これらを総称して「老化」と言っているわけなんだが、クィンテス世界の人々の老化が異常に遅いのはDNAの組み合わせの問題と、食生活にありそうだ。
ゲノム解析を行ってホブランド世界の人達との違いを追求した。
元々の人種が違うっちゃ違うんだけれど、そのゲノムの一部を入れ替えるだけで長寿が可能かもしれない。
なおかつ、いまだ確定ではないが、細胞の再生機能を永続させるための原因となるものがこの世界独特の酵母にあるとみている。
日本の醤油や味噌のような発酵食品が、このクィンテス世界にもあるんだ。
チーズなんかの動物性食品もあるんだが、やはり植物由来の発酵食品が細胞生成に役立つようだ。
因みに、ホブランドで入手したモルモットを使った実験では、クィンテス世界でレモファと呼ばれる発酵食品を餌に混ぜると、寿命が5割ほど伸びた。
モルモットの居住空間だけ時間を早めているんで短時間でその結果がわかるから便利だよね。
次いでDNAの方なんだが、モルモットとヒトではDNAの構造が違うからな。
どこをいじればよいのかかなり試行錯誤したんだが、何とかそれらしき箇所を見い出すことができた。
そうしてホブランド産のモルモットのDNAの一部を組み替えて、やると寿命が二倍に増えた。
そのモルモットにレモファを餌として与えると概ね三倍に寿命が延びたんだ。
従って、俺の推測でほぼ間違いが無いと思われるんだが、こいつを人に適用するには更なる実験が必要だな。
散々迷った挙句、俺はホブランドの死刑囚を利用することにした。
ホブランド世界のあちらこちらで死刑が確定している囚人の失踪が相次いだ。
まぁ、外見上は脱獄になるんだろうな。
現地では大騒ぎになったが、とりあえずは無視だな。
全部で二十人の死刑囚の被験者を使って実験することにした。
最初の四人はレモファを与えて、監禁しまたままの生活を送らせた。
それだけで概ね5割の寿命が延びた。
概ねというのは、そのうちの一人が致命的な病(すい臓がん)を発症していたので、統計から外れた所為だ。
次いで別の4人についてはDNAの一部変換を試みた。
これはと思うところのDNAを組み替えたんだがいずれも失敗した。
異常細胞の発生や、再生を阻害する症状があらわれては使えない。
3組目の四人もうまく行かなかった。
四組目で一人が当たりを引いたみたいだ。
寿命がおよそ二倍近くになった。
そうして残り5組目の四人には、全員に対して同じ処置を施した。
男が一人、女が三人だ。
女の割合が多いのは、敢えて女を残した所為だ。
そうして全員が二倍の寿命を得ることに成功した。
そのうち女二人には、レモファを与え続け、約三倍に寿命が延びることを確認した。
女二人の内一人は291歳で死亡したが、もう一人は324歳まで生存していた。
ホブランドの一般的な平均寿命は60歳前後の筈だから、驚異的な長寿である。
しかも250歳を超えるまで彼女たちに所謂老化はほとんど認められなかった。
因みにモルモット代わりにした死刑囚は、全員が俺の牢獄の中で平穏なまま寿命を終えた。
彼らが幸せだったかどうかはわからない。
だが、少なくとも俺の利己的な目標であった成果を上げるのに役立ってくれたので大いに感謝をしている。
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