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第十二章 異世界探訪

12ー2② フロバリオンにて その二

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 商業ギルドの出張所は木造平屋建てだが内部は結構広く。
 入って正面に受付嬢が6人ほど並んで座っていた。

 その少し前にベンチのような椅子がいくつか置かれ、そこに座っているのは順番待ちの客のようだ。
 俺の順番は、15人ほどもいる待ち客の最後になる。

 俺の服装はベニスの商人に出て来そうな扮装をしている。
 ぴちっとしたタイツに短めの女物ワンピースのような袖なし上着、派手なビラビラが付いたブラウス、足元はちょっととんがった皮のブーツ、それに肩にかかるぐらいの長さの長髪をポニーテール風に背後でリボンでまとめ、ちょこんとベレー帽を斜めに髪留めでつけるのが今どきの商人風体らしい。

 目立つのは多分旅人風のきざな赤っぽいマントだろうな。
 新品じゃなく結構年代物を使っているから、それなりに風格がある。

 俺もこんな衣装を着るのは初めてなんだが、郷に入っては郷に従えで、こちらの世界に合わせざるをえないよな。
 商人はそんな感じだが、筋肉労働者は往々にして短髪にしているし、公務員というのか官憲というのかお役人はモーツァルトのように髪をカールしているな。

 女性はほぼみんな長髪なんだが裕福な女性は結い上げているようだ。
 日本風のおかっぱや三つ編みの髪型は見かけないので、どうも無いようだ。

 商業ギルドでは、1時間近く待って、ようやく俺の順番がやって来た。
 左から2番目の受付嬢が、取り敢えずの俺の相手をしてくれるようだ。

 うん、並んでいる6人の中では一番若く、可愛さでは一番、美人度は二番目ぐらいかな。

「私は、受付のヒルデベルデと申します。
 本日はどのようなご用件でしょうか?」

「私はブレオンの船商人でモルデンと申します。
 本日私の船がフロバリオンに入港しまして着いたばかりでございます。
 つきましてはフロバリオンの交易市場にて店を開きたいので届けに参りました。
 併せて店の場所を指定していただきたくお願い申します。」

「これはご丁寧にどうも。
 交易市場にて店を開くには、保証金として五日につき金貨2枚が必要です。
 また、場所についてはこちらの指定する場所が与えられ、必ずしもお宅様からの希望通りにはならないのですがそれでも宜しいでしょうか?」

「はい、承知しておりますので、それで結構です。」

「モルデン様は、以前このフロバリオンの交易市場に参加されたことがおありでしょうか?」

「いいえ、フロバリオンに来たのは今回が初めてでございますが、仕事仲間から色々と情報を聞いておりますので、交易市場の様子は概ね知っております。」

「左様ですか、では念のため利用にあたっての注意事項を申し上げておきます。」

 既にδ型ゴーレムが把握している情報ではあるのだが、ヒルデベルデ嬢は交易市場で守らねばならない注意事項を簡潔に説明してくれた。
 念のための情報開示であり、俺としては拒否する場面でもないのでおとなしく聞いている。

 その上で、ヒルデベルデ嬢は契約書面を提示して必要事項を記載するよう促して来た。
 所属、氏名、年齢、取り扱い商品、交易市場での店舗開設の予定期間の記載が要求されていた。

 それら必要事項の全てを記載し、金貨四枚を用意してヒルデベルデ嬢に返した。

「はい、確かに十日分の予定で保証金金貨四枚をお預かりしました。
 市場での店の場所は、3の21番になります。
 この鑑札を持参して、店を開くときには必ずよく見える場所に掲示しておいてください。
 なお、夜間等店を閉める際には必ずお持ち帰りしてください。
 保証金の内1割はギルドの手数料として、更に1割はフロバリオンの税として徴収されます。
 またご承知かと存じますが、交易市場で不祥事を起こしますと、この保証金が没収される恐れがございますので、先ほど申し上げた注意事項を遵守されるようお願い申し上げます。
 今一つ、港に停泊しているであろう船の方ですが、最近はとみに海賊の横行が盛んですので港内と雖も襲撃される恐れがございますので十分ご注意ください。
 一月前にはアブダラルから来られた船商人の方が港内で襲われて船員諸共殺され、船が燃やされた事件がございました。
 フロバリオンの警備当局も手を尽くしてはいますけれど、中々に尻尾を掴めないようでございます。」

「わかりました、情報をありがとうございます。
 私も十分気を付けるようにいたします。
 それでは明日から交易市場に店舗を構えるということでよろしゅうございますね?」

「はい、この機会に良き交易が為されますようにお祈り申しております。」

 そう言ってにっこりと笑うヒルデベルデちゃんはとても可愛いかったぜ。
 その日は少し遅くなったものの、昼前の時刻だったので一応指定された場所だけは確認しに行った。

 実際の商売は明日からだ。

 ◇◇◇◇

 翌朝、陽が昇り始めると同時に、カゼルを船の留守番にして、マリオとサレマンを連れ、荷車二台を曳いて広場に向かう。
 荷車はそのまま屋台に使えるように工夫されているものだ。

 昨日市場の場所を確認して、広さに合わせた荷車を造り上げておいたのだ。
 δ型ゴーレムが集めた情報から、今回の市場での商品は化粧品に決めている。

 こちらの世界での化粧品は、種類も少なくお世辞にも良い品とは言えないものを使っている。
 その意味では俺がカラミガランダで化粧品を作り始めた時と同じだな、

 化粧品をただ並べただけじゃそうそう売れるものではないが、陶器やガラスの小瓶に入った品は、結構見栄えが良く、それだけで耳目を引き付けるだろう。
 俺の場合はそれに加えてサクラ的なモデルを使う。

 δ型ゴーレムの情報から、この町で比較的裕福で、なおかつ美女と呼べそうなご婦人を七名程勝手に選抜しているんだ。
 別に当人たちには何も知らせてはいないんだが、ちょっとした軽めの闇魔法で市場に来るよう仕向けている。

 彼女たちに化粧品の被検体になってもらうのが目的だ。
 化粧品は、カラミガランダで造られているように、錬金術で造り上げた女性の肌に良いものを用意しているから使えば絶対にその価値がわかるものなのだ。

 用意してあるのは、肌荒れ防止用のハンドクリーム、乳液、日焼け止めクリーム、ファンデーション、白粉おしろい、タルカムパウダー、口紅、頬紅、アイクリーム、アイシャドー、アイラィナー、マスカラ、眉墨、マニュキュア、香水、洗顔クリーム、洗顔フォーム、化粧紙、タオル、歯磨きセット、シャンプー、リンス、石鹸等と雑多だが、いずれも女性の化粧や肌の維持には必要なものだ。
 この町でも一応の化粧品らしきものはあるんだが、どれも粗悪品とまでは言わずとも、かなり水準が低い代物なんだ。

 需要に応えられるよう数は揃えているから10日間ぐらいは十分持つだろうと考えているし、必要ならば船内で作るつもりでもいる。
 そうして店には客を座らせるための立派な椅子も用意してある。

 店先が美容院に早変わりする予定なのだ。
 実演を見せれば、客寄せになるからだ。

 売り子は、ちょっとイケメンで無口なマリオとサレマンに任せることにして、俺は実演を担当する。
 店舗区画は、3m幅ほどの通りに面している横4m、奥行き2.5mほどの小区画だが、組み立て式の屋台を広げるには十分な広さがある。

 商品を並べ終わるて直ぐに色とりどりの化粧品類が目に付いたのか、目ざとい女性がちらほらと集まって来た。
 まぁ、取り敢えずは冷やかしというかウィンドウショッピングの客が多いのだが、30分もすると本命のサクラの一人がやって来た。

 この町の大手商人のお内儀だ。
 本人は気まぐれに市場にやって来たつもりでいる。

 そうして俺の店にぶつかり、そのまま吸い込まれるように俺の話し相手になった。

「こんにちわ。
 チョット教えて下さる?
 珍しい化粧品を置いているけれど、どうやって使うのかしら。
 アイシャドウや白粉なんかは名前からわかるけれど、乳液やファンデーションというのが良くわからないわねぇ。」

「ようこそいらっしゃいました。
 それぞれの商品には取り扱いの説明書が付いておりますので初めてお使いの場合でもすぐにお分かり頂けると存じます。
 本日は顔見世ということもありまして、お試しをサービスしておりますが、宜しければ奥様にこちらで化粧の実演をさせていただけましょうか?
 そうすれば使い方もわかりますし、何より奥様ほどの美形なれば、私どもの化粧品も十分にお役に立てると存じます。」

 おべんちゃらを使いながら、大手商人のお内儀サヴェラスさんを椅子に座らせることができた。
 これからが地球世界の美容師の知識・技術を駆使した俺の見せ場なんだ。

 家でも時折、嫁sに化粧をしてやったりしてるんだぜ。
 だから女性の肌の扱いは十分過ぎるほど心得ている。

 お内儀サヴェラスさんがして来た化粧を洗顔液で剥ぎ取り、乳液を使って栄養分を吸い込ませる。
 肌に馴染ませている間に髪型を解いて、洗髪をし、リンスを使って髪質の改善をする。

 本来ならば洗面器や水道が居るところだろうけれど、魔法が全てを代行する。
 実は、こんな魔法でも使える奴はこの世界にはそうそう居ないんだが、その辺は無視だな。

 魔法のドライヤーで髪を乾かしてから、再度結い上げて、髪形をきちっと決めてからお肌の手入れとコスメの始まりだ。
 お内儀の手肌も荒れているから、爪を磨き、ハンドクリームを塗って、爪の保護のために薄い色のマニュキュアを施す。

 椅子に座って概ね1時間後には見事に化けた美女の出来上がりだ。
 少なくとも見た目で五つや六つほども若返ったはずだ。

 その実感は、化粧品を継続して使うとよりわかるはずなんだ。
 予め用意していた大きな鏡でその姿を見せると、サヴェラス夫人は本当にびっくりしていたね。

 また、鏡は綺麗な姿がしっかり映るとても良い奴だから、鏡まで欲しがったけれど、こいつは商売道具なので流石に譲れません。
 その代わり、手鏡ならば売っていると教えると、実演で使った化粧品類全てと手鏡一枚をお買い上げいただきました。

 商品のお持ち帰りには、連れて来たメイド嬢が結構苦労していたかもね。
 このサヴェラス夫人のお相手をしている間に、次のサクラ夫人たちもやってきて被検体として順番待ちに入りました。

 この日俺は日没寸前まで美容師を続け、売り上げに貢献したんだぜ。

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